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第326話 類似のルキア

『──やっほー☆ アタイの可愛い秋クン! アタイが恋しくて会いたくなっちゃったのかにゃぁ? かにゃかにゃ☆』


 模倣のダンジョンの最奥に響くのは秋にとって聞き覚えのある声……遊戯の女神ルキアの声だった。

 ちなみに最奥に到着した瞬間にロキシーから秋へと変形して【早着替え】スキルで制服姿へと姿を変えていた。……人目がつかないところでは女装せずにいたかったのである。


「よぉ、久し振りだな」

『……アタイのボケは無視なの?』

「どうでもいいから早くそっちに行かせてくれ」

『ど、でうでもいいって……んもぅ、秋クンってば本当にアタイの扱い雑だよね~……ま、いいけどさっ☆』


 拗ねたように言う遊戯の女神はダンジョンの最奥にあった壁が崩れ、桃色や水色、黄色と言ったふわふわしたようなメルヘンな色合いの世界が顔を出した。

 そこにいるのは、そんなカラフルでメルヘンな世界と同色の髪色と、そんな世界に相応しくない黒い瞳の少女だ。


 肩が露出したワンピースの上に、片方からズレていて前が開いているブカブカのパーカーに、膝上まである黒いニーソックスと膝下までのブーツ。……そんな格好をしている遊戯の女神は言葉を発した。


「久し振りにようこそ秋クン☆ それでどうかなこのカッコ!? 秋クンが来るって分かったからおめかししてみたんだけど!」


 ワンピースの裾を少しだけ持ち上げてヒラヒラさせたり、クルクル回ったりする遊戯の女神。


「ヴァナヘイムとか言うらしいあの世界では珍しい格好だな。……そう、地球──アースガルズと言うらしいあの世界で見るような格好だ。やっぱりお前は転移か転生かしたのか?」


 ガックリと肩を落とす遊戯の女神は、項垂れてそうだと頷き、投げやりにこれまでの歴史を語る。


「そーそー。アタイは地球に生まれて異世界に転生して、そんでまた死んでアンデッドになって、それから魔王になって魔神になって、最終的に遊戯の女神になったんだよー……はぁ……彼女持ちのクセになんでアタイが求めてる事が理解できないかなー……まぁいいよ」

「彼女持ちだからこそ迂闊な事を言わないようにしてるんだろうが。バカかお前?」


 頬を膨らませて秋の一言に怒る遊戯の女神。話を逸らすために秋は口を開いた。


「そう言えば、お前の名前知らないんだけど、なんて言うんだ?」

「アースガルズにいた時は四型元(しかたはじめ)って名前で、ヴァナヘイムにいた時はルキアって名前だったよ。アタイに拘りなんかないからぁ……秋クンの好きな方で呼んでね☆」

「じゃあ遊戯の女神で」

「えー!? なんでなんでなんでー!? はじめかルキアって呼ぶ流れだったじゃーん!?!?」

「冗談だ。……そうだな……ジェシカを斎藤とか芽依って呼んでないからお前もそうするか。……じゃあ、改めてよろしくなルキア」

「わーい、やったねー、呼び捨てだー☆ でもなんか不満なんですけどー?」


 前に会った時のように、持ち前のあざとさとウザさで空気を支配できない事が不満なルキアは、再び頬を膨らませて秋を睨んでいる。


「それで、秋クンはアタイになんの用があるのカナ? カナカナ☆」

「お前はシュウや邪神とはどんな関係なんだ? ずっと気になってたんだよ。お前を見てると、シュウや邪神に感じる親しさ……親近感を感じるんだよ。だからお前があいつらとどんな関係で、どんな存在なのかを知りたいんだ」

「ふーん? ならアタイを喰っちゃえばいいんじゃなーい? だって秋クンの【強奪】はLv8じゃんか。Lv7で使えるようになる『記憶強奪』でアタイの記憶を奪っちゃえばいいんじゃないかにゃぁ?」


 後ろで手を組んで、悪戯っぽい微笑みを張り付け、秋の顔を覗き込むルキア。


「なんで知ってるのか、とは聞かない。……そうかそうか、なるほど。やっぱりお前はシュウや邪神に近い存在のようだ。……それで、お前は何者だ?」

「え、いや、だから喰っちゃえば良いじゃんって……?」

「お前があいつらと近しくて親しい存在なら、できるだけ話し合って、お前の口から聞きたい」

「……アタイを喰わないの?」

「どうせ、いやーんえっちー……とかって言うつもりなんだろ?」


 悪戯っぽい表情を消して尋ねるルキアに揶揄うように言う秋。


「秋クン……仕方ないにゃぁ。……まず、アタイは秋クンとシュウ、邪神とは別の存在だよ☆ 秋クン達に親近感は覚えてるけど、それは何にもなれない紛い物としての親近感だね。……秋クンがアタイに親近感を感じているのも、アタイがちょびっとだけ『久遠秋』と言う存在の因子を持っていて、秋クン達と存在が似ているからだろうねー。だからアタイは秋クン達そのものとは違うけど、遠い親戚のような……そんな感じの関係になるのカナ☆」

「そうか違うのか。……だが、全くの別物と言うわけではないんだよな?」

「そーだよー。類似しているだけで同一ではない……だけど、まぁ、類似してはいるんだよね。……邪神が1だとして、シュウが2だとしたら、似ているだけのアタイは1と2の間のどこかになるんだろうから、全くの無関係ってワケじゃないよ。……だから秋クンがアタイを喰っちゃえば、アタイは秋クンの精神世界で邪神とかシュウと一緒に暮らす事になっちゃうワケだね☆」


 因子を少しだけ含んでいるために、存在が似ているルキアは1や2には……3や4にもなれず、その間の中途半端な位置にしか存在できない。

 しかし1以上ではあるために、秋の精神世界に存在する資格は得られるわけである。


「そんで、こっからがチョー大事なんだよ! 1と2の間なんて中途半端な位置に存在しているアタイは、1と2そのものである邪神とシュウと違って、秋クンの力にもなれるワケよ! ……所謂、アニマって奴だね☆ しかもアタイはそのルーツのおかげでアニマとしての適性がすんごい高いし、秋クンの存在にも元から近いからさ、すんごいすんごい……本当にすんごい便利な(アニマ)になれるんだよ! どうさどうさ! アタイの凄さ思い知った!?」

「いや……そもそもアニマってなんだよ」


 興奮した様子でルキアは語るが、そもそもアニマが何かを知らない秋はイマイチ凄さが分かっていない様子だ。


「アニマってのはね、その人の理想の異性として在る存在の事だよ。そんでその理想の異性──アニマの力を借りて色々な事象を引き起こせんのね。例えば何もないところから剣とか槍を生み出したり、精神の深層に在るアニマにオドを操作させて普段より強い身体強化をしたり……とかね」

「じゃあ俺の理想でもないお前はアニマにはなれないんじゃないか?」

「ふっふっふっ、アタイは女神様だぜぃ? ちょちょいと力の作用を誤魔化して、擬似的なアニマとして存在する事なんか簡単なのだよ!」


 薄い胸を張って「どう? 凄いでしょ」と言ってうろちょろするルキアに再び秋が尋ねる。


「んじゃあ、お前みたいに誤魔化せれば誰でもアニマになれるって事か?」

「それは違うねぇ。アニマになるには資格がいるんさ。昔の偉人や大罪人……良くも悪くも何か大きな事を成し遂げていないとなれないんだよねぇ……あとそれから、伝説や神話として人々に創られちゃった架空の生き物とかは存在が強いからアニマになれちゃうね。……だから偉人である織田信長とかを理想としていて、織田信長の魂が興味を示した人……織田信長と両想いの人は織田信長のアニマを宿せちゃうんだ! ……ん? あぁいや……織田信長は男だった! つまり女が宿す事になるワケだからアニムスになるんだったよー☆」


 男が宿すのがアニマであり、女が宿すのがアニムスである。


「宿主が男か女かで呼び方が変わるんだな。……それで、なぜ偉人とか大罪人じゃないといけないんだ?」

「それぐらい存在が強くないと、そこら辺に一般人のアニマを宿した人が現れちゃうからだね。……アニマって言うのは謂わば他人の魂のようなものだから、一般人までもがアニマになっちゃったら魂の浄化が正常にできなくなって、魂が清浄にされなくなっちゃって、輪廻が廻らなくなっちゃうでしょ?」

「……じゃあつまり偉人や大罪人の魂は浄化されずにいる……と言う事か」

「うん、そうなるねぇ。 ……どの世界の神様にとっても、偉人や大罪人のような存在は邪魔みたいなんだー。偉人は人類を発展させて、大罪人は人類を衰退させて……そうやって大きく発展させられて自分達の手に負えなくなるのも嫌だし、衰退した人類からの弱い信仰もいらないから、発展と衰退を極端に与える偉人や大罪人は大体が早死にしちゃうし、魂もあの世に導かず浄化もさせずにそこらを彷徨わせてるんだよ。……まったく……ままならないねぇ、ほんとにさ☆」

「そうだな」


 飽きるほどそんな光景を見てきたのだろう。うんざりしたような声色でルキアは秋に言った。


「……ま、なんにせよ、存在の強さならアタイなら誤魔化せるけどね☆ 実際に魔王とか魔神とかにもなった偉人なんだしぃ……別にいいでしょ? ……まぁそんなワケだからフレイアちゃんはアニマにはなれないよ、残念だったね秋クン?」


 何かを考えている様子の秋に向かって、にまにまと笑みを浮かべるルキアに苛立ちを覚えない秋に、本当に変わってしまったんだなと感じるルキア。

 この世界にやってくる前、白の世界にやってきてテントラと名乗るシュウと接していた頃から秋を見てきたルキアにとって、秋のこの変化は子の成長を感じている親のような感覚を抱いていた。


「いや、別にそれでいいんだよ。完全蘇生させるまでどんな形であろうとフレイアに関わるつもりはなかったからな。……ただ、お前をアニマにする事でフレイアの魂が消失したりしないかが心配なだけだ」

「しないしない。フレイアちゃんの魂にはなんの影響もないよ。……あるとしたら、アタイが秋クンのアニマになった時に、魂だけのフレイアちゃんに嫉妬されちゃいそうなぐらいだよ!」

「邪神やシュウは分かるが、フレイアも何かを見て感じる事ができるのか?」

「うん? 当然じゃん! 邪神やシュウとは別の方向で大事な存在であるフレイアちゃんが、他の有象無象と同じように何も感じず埋もれてるわけがないよ。……多分、秋クンの視界はもちろん、秋クンが感じた感情や思考……秋クンの全部を感じているんじゃないかにゃぁ?」

「……マジか」

「うん、マジマジ。……と言う事で秋クンをまじまじ見ちゃおっと!」

「流石、年寄りだな。しょうもない事を言うのが上手だ」


 何千何万と生きてきたであろうルキアは間違いなく老人である。そこに目を付けた秋は戯けるルキアを揶揄った。


「な、なな、なんだってぇっ!? だ、誰が年寄りじゃい! アタイはぴっちぴちの……えっと……よ、幼女じゃい!」

「流石に幼女は無理があると思うぞ」

「……あーはいはい、そうですよー、アタイはお婆ちゃんですよーだ。……あーあ、酷いよね秋クン……結構生きてるけどさ、アタイだって乙女の心を持ってるし、今も今までも一度も穢れを知った事がない女の子なんだよ? ……はぁぁぁぁ……ほんと、こんなのが彼女持ちだなんて信じらんない。秋クン、フレイアちゃんと永遠を生きてもそれ言っちゃうの?」

「……ごめん。年齢の事をそこまで気にしてるとは思わなかった」


 怒りを露にするルキアに素直に謝る秋。少し接しただけだが、なんとなく謝られるような気がしていたルキアは深く溜め息を吐いた。


「赦して欲しいならアタイを喰って! そんでアタイを秋クンのアニマにして! そうじゃなきゃ絶対に赦してあげないもんねー!」


 腕を組んでそっぽ向くルキア。

 秋が来るまでは殺される事と喰らわれる事に、「やっと永遠から解放される」「愛しい秋クンに喰べて貰える」と喜び、「死とは無縁だった自分が再び死んでしまうのか」と怯えを抱いていたのだが、こうして少しの時間を秋と過ごして語り合ったところで、死への怯えはすっかりなくなり、秋に殺され喰われる喜びと、アニマになって秋と一つになる事への期待だけがルキアに残った。


 紛い物の思考は少し……いや、かなり異常だった。


「……流石にフレイアに嫉妬させてまで赦して欲しいとは思わないな」

「ふーん、いいの? アタイを殺さなくて。アタイを喰わなくて。……アタイ女神様なんだけど。……ふーん? ……秋クンは強くならなくていいの? 殺しても一つ二つはレベルアップできるだろうし、それから喰ってもステータスの足しにはなるし、アタイをアニマにしたらさらに強くなれるけど……あっそう……ふーん……いいんだ? あー本当にいいんだ?」

「なんでお前はそんなに殺されて喰われたがってるんだよ?」

「…………それで……殺すの? 殺さないの? ……喰うの? 喰わないの? ……強くなるの? 強くならないの? どっちなの?」


 疑問に答えず、選択だけを迫るルキアに思考する秋。


 確かに聞きたい事を聞き終えたら殺して喰ってやるつもりではいたのだが、こうして話し合っている途中で、殺すのを躊躇ってしまうほどに親しくなりすぎてしまったようで、秋はルキアを殺すに殺せない状態へとなってしまっていた。


 しかしまぁ、フレイアの時ほどの躊躇いはない。フレイアとルキアのどちらかを殺さねばならなくなったら迷いなく、そして間違いなくルキアを選ぶだろう。ならばここで殺して、フレイアを完全蘇生させるための養分としてしまうべきだろう。


 そして、ルキアの言う通り、他の神よりも頭一つか二つぐらい抜けているルキアを殺せば自分自身のレベルも一つか二つは上がる事だろうし、ステータスもかなりプラスされるし、様々な事象に干渉して現象として効果を現す事のできるらしいアニマとすれば最果ての大陸の魔物の鏖殺でかなり有利に動けるだろう。


 そこまで考えれば躊躇う必要はなかった。


「分かった。……俺はお前を殺して喰って強くなる……が、本当に良いのか?」

「もっちろーん☆ 秋クンに喰べてもらえるなら本望だよ!」

「そうか……それで、言い残す事はないか?」


 まるで敗北寸前の悪人のような言い方だ。

 ルキアは秋のその問いに暫く考え込んだ。遺言はもう決まっているのだが、最後の最後まで道化のように振る舞うか、素の自分を見せるべきかを迷っているのである。


 ……そして人間界の時間で数時間悩んだルキアが出した結論は、本音をいつもの調子で言ってやろう、というようなものだった。


「……お願い……秋クン……アタイを()()()?」


 潤んだ瞳をして、見た目にそぐわない妙な妖艶さ醸し出す。しかしそれが以外と様になっているのだから困る。


 流石に年寄りと言ったところか、と感想を抱いた秋は、蹴られるような感覚を不思議に思いながらルキアの胸を素手で貫き、ルキアの背中から生えた手首から先を傘のように変形させ、そのまま包み込むようにルキアを喰らった。


 有象無象のように変形させた口で殺して喰うのではなく、素手で殺してから変形させた口で喰らうのである。特に意味はないのだが、心情的な問題だった。


 素手で殺してその口で喰らうのはフレイアのように大切な存在──ニグレドやアルベド、クラエルにセレネ、アケファロスにソフィア、ジェシカにスヴェルグ……季弥や夏蓮、春暁に冬音……と言ったような親しい存在だけだ。


 素手で殺して変形させた口で喰らうのはマーガレット達やアデル達のような大切ではあるが一定の基準に満たない存在だけだ。……友人をフレイアのような手段で喰らっていたら心が死んでしまうと考えて、やむを得ずこの手段で喰らう事に決めているだけで、粗末な扱いをしているわけじゃない。


 腕を変形させた大きな口で喰らうのが親しくない一般人や盗賊、魔物などの類いだ。つまり最果ての大陸の魔物や神々を殺す手段はこれである。


 秋はそのようにして、存在ごとに喰らう手段を分けているのであった。

 ルキアの場合はそれなりに親しい存在であるから、素手で殺して変形させた口で喰らったのである。……残念ながら、ルキアの「喰って?」と言う一言はこちらの食事的な意味でもあったが、あちらの性的な意味でもあった。


 薄々それに気付いていながらも秋はそれを無視して殺して喰っていた。

 ……秋の反応を見る限り、レベルは上がったようだが、【強奪】のレベルは上がらなかったらしい。


 ルキアを喰らい尽くし、やがて残ったのは桃色や水色、黄色などのふわふわしたようなメルヘンな色合いの世界と、そこに佇む秋だった。

 ルキアがいたここはヴァナヘイムとアースガルズの狭間の世界だ。そこをルキアが改造してメルヘンな感じに装飾していたのだが、その装飾を維持する者が消えたからか、装飾は徐々に消滅していく。

 水に濡らしたわたあめのように、あっという間に小さくなってなくなってしまう。


 十秒と経たない内にルキアが生み出したメルヘン空間の色は消滅し、無色とも黒色とも白色とも言える世界が顔を出した。頭がおかしくなってしまいそうな無害で有害な空間から逃げるように、秋は模倣の通路の最奥へと【転移】した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 貫かれる感覚の後に感じた閉じられる感覚を最後に、意識を喪失していたルキアは再び心臓を鳴動させ、呼吸をしてから意識を得て思考を始め、目を開いた。

 視界に映るそこは、辺り一面が真っ白な世界だった。そこには建造物などが一切存在しておらず、それならば見えるはずの地平線……或いは水平線は、空と地面の区別ができないために見える事はなかった。

 そもそも今自分の足の裏で感じているこの感覚は本当に地面に足を付けている感覚なのかすら怪しい。


 異質な存在によって送られた場所はやはり異質だった。こんな殺風景な場所にいるぐらいならば、まだ胃袋に送られた方がマシだったかも知れない……胃袋ならば体内の色や胃液の臭いなどで少しは気が紛れただろうから。


 だが、そう思うのは一瞬だけで、ここが秋の精神世界なのだと理解すれば、不思議とそんな不満は湧いてこなくなった。


「やぁ、久し振りだね、紛い物の女神様」

「おー、シュウじゃーん、久し振りぃ☆」

「……」

「あはは、相変わらず君は口数が少ないねー! ……あ、そーだ。秋クンが首にかけてるあの()()()()()、あれをなんで秋クンが首にかけてんのさ?」

「形見のつもりらしいよ」

「ふーん……形見かぁ……」


 親しげに見えるそのやり取りは歪だった。


「……あのさぁ、シュウに聞きたかったんだけどぉ……人間だった君が転生の神にしてくれって、ブライダルにお願いしたのは秋クンをこっちに引き摺り込むため?」

「うん、もちろんそうだよ。僕が好き好んで死人の相手をするわけがないじゃないか」

「ふーん、そっかぁ……何が目的で無数に存在する命の中から、秋クンを選んでヴァナヘイムに連れてきたのかは知らないけど、取り敢えずはありがとね。シュウのおかげでアタイは素敵な人に出会えたんだもーん☆」


 シュウとルキアのやり取りを邪神は黙って眺める。そんな会話に混ざる程邪神は二人に興味を抱いていなかったし、なぜか自分を崇めている者達によって、無理やり復活させられようとしているのだから、秋に勘付かれないように精神世界を離れる準備をしなければいけないために忙しく、会話に混ざる余裕がなかった。


「どういたしまして」

「本当に君には感謝はしてるし、本当に君の目的がなんなのかは知らないけど……アタイの秋クンの邪魔をするって言うのなら、アタイが相手になるかんね」

「ははは、僕みたいに神様に誘われて神になったんじゃなくて、ただの魔王から自力で魔神に至っちゃうような化け物が敵になっちゃうのか……それは怖いなぁ。遊びで殺戮を繰り広げて他の神様に消されそうになっちゃうようなヤバい奴だし、何が魔神様の琴線に触れるか分からないから気を付けないと……」


 魔物の王として魔王に至ったルキアは、魔王より高位である魔の神──魔神へと至った事があった。現在は魔神ではないし、そもそも神かどうかさえ怪しい曖昧な存在だが、確かに魔神などと呼ばれるほどの力は持っている。

 そのはずだが、どこかシュウは余裕な様子だ。

 シュウが余裕そうな理由は、ここが秋の精神世界であるために、ここで戦いが発生して、この世界が傷付いてしまわないように……と、戦いに関して制限がかけられているからだ。だからどうしても危害を加えられる事はないと知り、余裕を持って接する事ができるのである。


「秋クンには悪いけど……アタイは君が大っ嫌い☆」

「僕は魔神も邪神も大好きだよ」

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