第32話 フレイア・アイドラーク 2
森を出てお母様を見つけた私は周りの目も憚らず、お母様に抱きつき、大泣きしてしまった。
周りにはクドウさんしかいなかったのがせめてもの救いだ。
馬車の中ではお母様とクドウさんが楽しそうに話し合っている。
私はクドウさんの向かいの席に座っていた。でも、恥ずかしくて私はずっと喋れず、クドウさんの顔すらまともに見れなかった。
クドウさんの顔を見れるタイミングと言えばクドウさんが、お母様と話している時ぐらいだった。
クドウさんはここがどこかが分からないようだった。
それどころか、ダンジョンも知らないし、冒険者も知らない。挙げ句の果てには身分証すら持っていないときた。
……流石に怪しい。恩人を疑うのは凄く失礼な事だけれど、凄く怪しい。馬車の中でお母様に見せていた、何かを隠すような作り笑いも怪しい。
一度抱いた疑念は晴れるどころかますます濃くなって行くばかりだった。
何故あのタイミングで現れ、私を助けられたのか。
何故あんなにも私の護衛になりたがるのか。
私が私なりに考えた結果でた想像が、クドウさんは盗賊の幹部か何かで、新人の盗賊三人の仕事を見張るためこっそり後をつけていた。
そして盗賊の一人が勝手な事を始めたから、始末した。
そこで、被害者である私を放ってここを去るのは不自然。
だからたまたま出会って助けた善人を装う。
そして失敗した誘拐計画を続行するために、私の最も近くに居れる護衛に志願した。
そして魔物討伐のクエストで街を離れ、再び私を誘拐する。
考えすぎの様な気もするけれど今の私達はこれぐらいの警戒心を抱いていないといけないんだ。
今回の誘拐事件で私はそれを自覚させられた。
それから私達は冒険者ギルドへ向かう。
私は何があっても大丈夫なように、警戒しているのがバレない程度に距離をあけて歩く。
冒険者登録を終えたクドウさんはクエストを受けるかどうか聞いてきた。
私が疲れたからと答えると、あっさりと引き下がった。意外と優しい?
いや! 惑わされてはいけない。これは私を油断させるための甘い優しさだ。私はそう思い込み警戒を続けた。
「お母様、クドウさんについてなのですが……」
「あら、クドウ様がどうかしたの?」
「どうかしたの? ではありませんよ! どうしてあんなあからさまに怪しい人を私の護衛にしたのですか!」
「フレイア……確かにクドウ様は何か隠し事をしているような変わった雰囲気の方ですが、私には悪い人には見えませんでしたよ。……フレイア、警戒心が強いのは良いことですがクドウ様は信用してもいいと思いますよ。……まぁ根拠はありませんけどね」
……駄目だお母様はクドウさんの味方だ。
私一人で何とかしないと。
そうは思っても結局私には何もできなかった。