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第317話 第三勢力と三番目

 秋がニグレド達を置いて最果ての大陸へと向かいだした夜、白い狼──スコールと黒い狼──ハティは、辻斬りの如く魔物を倒し、駆ける秋の目の前に降り立った。


 ミスラの森の浅い場所に現れるはずのない二匹の登場に足を止める秋だったが、その脳内では、いきなり現れた二匹を『少々危険な経験値』程度にしか思っておらず、スコールが話しかけるのが一瞬でも遅れれば攻撃を仕掛けていたことだろう。


「待て魔王。俺達は敵ではない」

「……?」


 言葉を発する事ができる事に少々驚きながらも、【思考読み】を使って本当に敵意がないのかを確かめ、その言葉に偽りがない事を理解した秋は殺気を抑える。だが、敵意がないのが本当と言うだけで不利益な存在になる可能性もあるので警戒は怠らない。

 この【思考読み】は相手が現在考えている事だけを読み取れるスキルなので、「頼むから話を聞いてくれ」と言うスコールの思考を読み取れたとしても、その話が有益か無益か、有害か無害か、までは分からないのである。


「お前の元に訪れたアビスから神と世界の事情は聞いていると思うので詳しい説明は省くが、俺達は世界に従う魔物だ」

「……あぁ、そう言えばそんなのもあったな。それで俺になんの用だ? 俺は今忙しいんだが」

「俺達に協力しろとは言わないが、せめて神との争いを邪魔するのだけはやめてくれ」


 秋の態度や目的を大体察しているスコールは、そう頼み込む。もちろん完全に諦めたわけではない。ただ、自分達だけでは説得が不可能だと悟ったから一旦諦めただけだ。


「無理だな。俺は強くならないといけないんだ。そのためには神も殺すし、お前達の仲間……例えばアビスなんかも殺す。だから無理だ」

「神でも世界でもない、第三勢力になると言うわけか? ……それも、どちらも敵とも見なさず経験値としか思っていないような明確な害意のない勢力」

「まぁそんな感じだな」


 戸惑うスコール。協力を願わず不干渉でいてくれと言う妥協すら受け入れてもらえない事に頭を悩ませる。

 父であるフェンリルに言われた通りにダンジョンに連れて行きたいのだが、こう言っている者を連れていくべきか、それともこいつを諦めて賢者か魔王かが分からない者を連れていくべきか。


「もういいか?」

「い、いや、ちょっと待ってくれ! えーっと……そうだ! 経験値だな? 経験値が必要なんだよな?」

「そうだ」

「なら良い場所を知っている。この大陸屈指の難易度を誇るダンジョンだ。まだ誰も踏破していない高難易度のダンジョンだ! そこに案内するからこちらの頼みも一つ聞いてくれないか?」


 この場を去ろうとする秋を引き止め、なんとか絞り出した考えをぶつけるスコール。

 そのダンジョンとはフェンリルが封印されているダンジョンだ。そこの魔物ならば、最果ての大陸の魔物よりは劣るが最果ての大陸の魔物であるスコールとハティが正面から突っ込めない程度には強いので秋求める経験値になり得ると考えたのだ。……ついでにそこを踏破させてフェンリルに会わせるだけでなく、秋によって魔物が殲滅されて、魔物に殺されダンジョンに取り込まれた冒険者の血肉を得られなくなり、飢餓に晒され凶暴になったフェンリルを解放する事もできる。


 咄嗟に思い付いた策にしては上出来だと満足するスコールと、思案する秋。黙って毛繕いをするハティ。


「……分かった。そのダンジョンに案内してくれ。……あぁそうだ。案内したってお前達の頼みは聞かないぞ」

「なに?」

「俺はそのダンジョンに行かなくたって、最果ての大陸の魔物や神を殺せばレベルを上げられるんだぞ? ……だが、お前らにとってはそれが不都合らしいからこうしてダンジョンの紹介で勘弁してやっているんだ。……分かるか? 寧ろこっちが聞いてもらいたいところだ」

「む……それもそうだな。分かった、ありがとう、こちらの頼みを聞き入れてくれて。……そう言う事ならこちらもお前の望みを聞こう」


 咄嗟に思い浮かんだ言葉を口にしたスコールは秋に言われて、こちらが頼んでいる側なのにそれを利用してさらに相手にこちらの頼みを聞かせるのはおかしいと気付き、秋の望みを聞く。


「今のところ何も思い浮かばないから保留って事にしておいてくれ。思い付いたら言う」

「分かった。……それでは今からダンジョンへ向かうが、良いな?」

「あぁ。案内してくれ」


 最果ての大陸……この大陸の外へ向かおうとしていた秋は、大陸の中心部に存在するダンジョンへと進路を変え、スコールとハティと共に進んだ。





 それから夜が明ける前にはダンジョンの入り口に到着し、そのまま躊躇いなくダンジョンへ足を踏み入れる秋。

 暗くジメジメしていて、茶色と黒が混ざったような暗褐色の色をした妙な地面とはねる水溜まり。深く沈んでしまう沼のような場所もある。


 そんな悪環境の中を突き進む秋は次々と現れる魔物を片っ端から大きな口へと変形させた腕で喰らい尽くす。


 あまりにも呆気なく殺されていく魔物達。

 最果ての大陸の魔物には及ばないまでも、勇者や賢者ともう一人の何かが苦戦するほどには強く、スコール達もできる限り戦闘を避けたいと思っているような魔物。それをまるで赤子の手を捻るように容易く殺していく魔王と言う存在。


 それび恐れと畏れを抱くスコールとハティは、無意識の内に自分達の父とどちらが強いかを比較していた。

 いずれ世界を呑み込むと言われるフェンリルと、容易く魔物を喰らっていく魔王。どちらの本気も見たことはないので正確に判断できないが、フェンリルとこの魔王がいれば神など簡単に屠れ、世界をも滅ぼせるだろう。そう思ってしまうぐらいにはフェンリルと魔王の実力を、スコールとハティは認めていた。


 ちなみに秋が変形できる大きさは、今までに喰った生物全ての量を足したものだ。

 例えば、熊の全身を喰らえばその熊の全身を自分が変形できる大きさとし、もう一匹熊を喰らえば二匹分の熊の大きさに変形できるようになると言うわけだ。


 変形しない限り太りはしないが、喰って消化された生物の脂肪は秋に蓄積されており、秋が変形してその脂肪を引き出せば、いつでもその分だけ太れるし反対に痩せる事もできるのである。


 なので[脳味噌の大樹]を喰った秋は、確実に[脳味噌の大樹]を一口で呑み込めるほどには大きく変形できると言うわけだ。


 つまり数千を越える生物を喰ってその生物の肉体を全て得た秋はそこらの魔物であれば一口で呑み込めてしまえるわけで、今までのように一々丁寧に戦わずとも、こうして丸呑みにしてしまえばそれで殺せるし喰えてしまうのである。

 しかもこれによって捕食されてしまえば魂ごと喰らわれてしまうために、如何に神であっても確実に簡単に一瞬で殺せて喰えて、経験値を得てレベルを上げる事ができ、【強奪】のおかげでステータスもそのまま奪えるのだ。


 この世界の理の一つであるステータスの差がいくらあろうとも、もはや適当に喰らっているだけで全てを滅ぼせてしまうだろう。流石、称号に『理殺し』などと言う物騒なものを存在させているだけある。



 そうして丁寧に魔物を丸呑みにしながら進んでいたからだろう。サクサクと進めてはいるのだが、外はとっくに朝を迎えていた。もっとも、暗くてジメジメしているこのダンジョンの中にいる秋には分からない事だが。


「なぁ、どこまで続いているんだこのダンジョン」

「もう少し……ここから10層ぐらい進んだところで終わりだ」

「そうか。……で、どうして俺をこのダンジョンに連れてきた? 地上でした説明以外にも何か理由があるんだろ?」


 スコールに見向きもせず、ひたすらに魔物を喰らいながら尋ねる秋。ここは魔物で犇めく部屋……所謂モンスターハウスと呼ばれる一室で、ダンジョンに仕掛けられた罠の一種なのだが、変形させられるのが腕だけではない秋は辛うじて人間の形を保ちながらも、全身から太い触手の先端に大きな口を付けただけのものを生やしてモンスターハウスの魔物を減らしていく。


 歩いていたら地面に設置されていた強制転移の罠によって、スコールとハティと共にモンスターハウスに飛ばされたため、部屋ごと喰らい尽くすと言う戦法が取れないのでこんな方法で無理やり突破しようとしている。


「実はこのダンジョンの最奥には俺達の父であるフェンリルが封印されているのだ。いずれ世界を呑み込むであろうと言われた魔狼であり、世界のために戦う勇敢な狼だ」

「危なそうな雰囲気だな」

「あぁ、俺達の父は危険だ。その強大さ故に勇者と賢者ですらも殺す事ができず封印するしかなかったような奴だからな。……神との戦いで消耗した父は封印の中で力を蓄え続け、不定期に生まれる魔王の実力を見定め、その魔王と共闘して神を討てるかを判断している」

「あぁそう言う事か」

「そうだ。お前が察する通り、今回お前を連れてきたのは父が封印を脱して、神を滅ぼそうと行動するに相応しい魔王かを見定めさせるためだ」


 フェンリルは封印の中で力を蓄えながら、スコールとハティに指示を出して今代の魔王を連れてこさせ、知性なき魔物が魔王ならば再び封印の中で次の魔王を待つ。例え知性があったとしても弱ければそれも見送る。

 フェンリルと魔王の出会いは、運命の女神ベールの介入によって敵対関係になるのを避けるために面識を持たせる以外にも、フェンリルが封印を突破して行動するに相応しい力量かを見定める意味もあるのだ。


「まぁ、そんな事されても俺はどっちの味方にもつかないけどな」

「分かっている。だがこれは父の指示なのだから俺達には逆らう事ができん。だからこうしてダンジョンで釣ってお前を連れてくる必要があった」

「親子なのに主従みたいな関係なんだな」


 つい最近ニグレドとアルベド、クラエルとアケファロスとの関係をより良好にするために主従関係を撤廃した秋が言う。


「魔物にとっては、例え親子であっても変わらずに弱肉強食だ。弱者は強者の餌となるか、それに従う従者となるしかない。だから親より弱い子は当然、強者である親に従うしかない。……俺達からすれば人間の親子は羨ましくもあり、理解できないものでもある。文明を築くための人手が必要だから全ての人間が平等な力を得られるようにしているのだろうが、俺達からすれば弱者を育てるのに強者の時間と労力を割くのが理解できない。全て強者が弱者を虐げ糧として働けばいいと思うのだがな」

「人間社会に疎い魔物の癖に色々と考えてるんだな。俺はそこら辺の魔物の親子関係とか考えた事もなかったのに」


 感心したように言う秋は、モンスターハウスの魔物を殲滅し、何もない部屋を突き進み始めた。スコールは人間? である秋ならばこの答えを知っているかと思って話を持ち出したのだが、知らないようだったので黙ってそれについていく。……秋の無知を嘲りたかったが、しかし目の前の魔王は、父フェンリルと並び立つ存在で、現状敵でも味方でもない存在だ。

 その嘲り一つで殺される可能性を生むとなれば嘲りたいと言う欲求はどうしても抑えなければならなかった。





 それから幾つかの階層を突破すれば、そこには開けた空間が口を開けて待っていた。


 真っ黒でその中心には異常に大きい剣がある。剣の先端と先端の側には白い牙のようなものが……と言うかそれは真っ黒な空間などではなく、とても大きな口だった。


 その口を閉じさせないようにつっかえ棒のように突き立てられた巨大な剣を咥えるようにするのは、無機質な灰色の毛並みをした大きな狼。……なるほどこれなら世界でも呑み込めそうだ、と理解するような感想を抱く秋を見下すように見下ろすのは、始まりを齎す朝日とは反対に、終わりを告げる夕日のような橙色の瞳。

 それが世界を呑み込む終焉の魔狼──フェンリル。


「父よ、魔王を連れて参りました」


 スコールとハティが巨大な空間……フェンリルの口内の手前でひれ伏す。


「ほう、発見するだけでなく連れてきたか。……口を利かぬと言った手前、話すのは躊躇われるが仕方あるまい。よくやった。スコール、ハティ。……それで……ふむ、お前が今代の魔王か……人間なのか魔物なのかよく分からぬが、一つ言える事は合格と言うことだ」

「合格にしてもらったところ悪いんだけど、俺はお前らの味方にも神の味方にもなるつもりはない」


 そんな返答を耳にしたフェンリルは、見下すような視線を険しくして秋を睨む。

 フェンリルにとって既に神殺しを成している秋の不干渉は見過ごせないものだった。神を殺していると言う事は確実にフェンリルと同格と言うわけで、それが味方につかないとなれば視線を険しくするのは当たり前だと言える。


「世界だとか神だとか、心底どうでも良いんだよ。他の世界から来た俺には関係のない話だし、いざとなれば大切な奴らだけ連れて俺が元いた世界に避難するつもりだしな。だからこの世界がどうなろうが知った事じゃない」

「貴様は異世界人とやらか。なるほど、それならばこの世界がどうなってもいいと思うのも仕方ないだろうな。……だが、だからと言ってやっと現れた理想の魔王をみすみす逃すわけにはいかぬのだ」


 元の世界に帰る手立てはある。だから秋はこの世界が宗教でまみれた世界になろうが、縋るものが存在しなくなった厳しい世界になろうがどうでもよかった。いざとなればフレイア達を連れて地球──いや、アースガルズに帰るつもりなので本当にどうでもよかったのだ。


 憧れのファンタジー世界に来たが、それに舞い上がっていたのはもう昔の話だ。この世界の環境に慣れて馴染んでしまい、非日常が日常と化してしまったために関心が薄れ、飽きや呆れに近い感覚になってしまっていた。

 だからどうでもいい。


 どうでもいいのなら……世界に勧誘されているのなら適当に協力して終わらせてしまえばいいだろうとも思うが、どちらが正しくてどちらが間違っているのかが分からないし、そもそも誰かに……親しくもない他人に従う機械のような生き方をしたくなかったので無理だ。……親しい者に従うならまだしも、親しくもない他人に従う気などありはしなかった。


 だから騎士団からの誘いを断り、比較的自由な冒険者を続け、そして旅人となって、魔王にもなった。

 自分の意思で自分の力で生きたいと考える秋は化けの皮が剥がれた瞬間からそう生きてきた。今さら、世界や神などと言うどうでも良いことのためにそれを覆そうと思うわけがない。


「じゃあどうするんだ?」

「力で捩じ伏せ、服従させる。言う事を聞かず、身の程を弁えぬ弱者は体に教えなければ分からぬ。……愚かにも我に挑む神や勇者と賢者。我の力の一端を見せてやれば、奴らは勝てぬと悟り封印などと言う手段に頼った。……そう、身の程を辨えぬ弱者には力を示せばよい」

「……そうか」


 そう言うフェンリルにフッと笑う秋は、そのフェンリルの思考に少し前までの自分を重ねていた。逆らうのなら力で従わせる、従わないのなら上下関係を理解させる。実際にそれは秋がニグレドとアルベド、クラエルとアケファロスに実行したものだった。

 しかしそれでは良好な関係が築けないからと、主従関係を撤廃した。親子の絆が存在しない魔物には分からないだろうから一生そのままなのだろうが、秋はそんなフェンリルの思考に自分を重ね、憐憫の目で見つめる。

 絆を感じられず信じられない、フェンリルと言う存在に……魔物全体に。


「もう少し出会うのが早ければ、俺はお前に親近感を感じて協力していただろうな。だが、生憎と俺は変わりやすいながらも変わりにくい性格をしているんだ。だからすまない、お前が何をしようと俺はお前に協力できない」


 優しげな憐憫の目を向けながらも、真っ直ぐにそう伝える秋。少し前までの自分と重ねてしまい変に情が湧いてしまったせいだろう。ハッキリと断り、過去の自分と決別するが如く真面目にそう告げる。


「ならば先ほども言った通り力で捩じ伏せ服従させるしかあるまい。……それで屈しないと言うのなら、先ほど貴様が言っていた『大切な奴ら』とやらを──」


 フェンリルの言葉を遮るのは無言。

 強制的にフェンリルを黙らせてしまうほどの……久しく感じていなかった同格かそれ以上の存在からの敵意と殺気。それを感じ取ったフェンリルは、しかしどうする事もできない。


「お前は俺に似ていながらも、確かに俺とは違う。……俺の大切なものに手を出すなら今ここで殺す」

「……ほう、我を殺してしまって良いのか? 世界の最高戦力である我を殺すとは即ち世界に仇なし、神に与するも同義。中立であり、第三勢力でもありたい貴様からすればそれは枷になり得るのではないか?」

「なに、俺は第三勢力として、俺に害意を向ける不穏分子を排除しようとしているだけだ。たとえそれが神々の利になるとしても、俺は不穏分子を排除しただけだと言い張る。実際にその通りだし何の問題もない。……それでも世界が喚き、神が騒ぐのならばレベル上げついでに、俺の満足いくまで世界に与する魔物も、神も殺せばいい」


 それっぽい事を言っているが、結局は自分のレベル上げのために神を殺したいだけの秋。

 本当は中立でも第三勢力でも在りたくなかった秋だが、こうして巻き込まれてしまった以上、どちらにも与しない中立の第三勢力として在ろうと考え、存分にその立場を利用するつもりのようだ。


 春を1とすれば夏は2だ。ならば秋は3になるわけで……意外と第三勢力と言う立場は俺にピッタリだな、と頭のどこかで考え、フェンリルの返答を秋は待つ。……ちなみにその理論でいくと冬は4だ。


 しかし返ってきた言葉はフェンリルのものでも、スコールでもハティでもなかった。

 それは秋にとって聞き覚えのある声でありながら、しかし聞き慣れない言葉遣い。


「世界に与する魔物は殺しても構わんが、私達神も一緒に殺されてしまうのは勘弁願いたい」


 秋が振り返ればそこにいたのは、首の付け根辺りまで伸びた黒い短髪に黒い瞳を持つ中性的な見た目の人間。以前に一度、秋に性別を男だと間違われて泣いてしまった事のある少女。


「お前はアデル……じゃないな。誰だお前……アデルの体を使って何をしている?」

「そう怖い顔をしないでくれ。私は勇気の女神パニエ、この少女に勇者の力と称号を与えた神だ。だから別にアデルに害意を持ってこの身を寄り代としているわけではない。……私はキミにいい話を持ってきただけだ」

「魔王を敵視している勇者の上司が、魔王である俺にいい話を持ってきた。……どう考えても信用できないな」

「ふむ……ならば、人間に勇者と言う役割を与えて魔王を討伐をさせようとしているこの私が、どうしてわざわざ勇者の体を寄り代として地上に降りていると言うんだ?」

「そう言われてみれば色々と不可解な点があるな。……分かった。とりあえずは信じよう。話を聞かせてくれ」


 秋が話を聞く様子を見せたのを認識したアデル……パニエは主神ブライダルが言っていた事から話すべき事を選んで話す。ゲヴァルティア帝国の近辺に魂の集合体が現れた事、そいつが神をも凌ぐ強さを持っているので共闘したいと言う事、殺して喰えば数億のステータスを得られる事などを伝える。


「そうか、それは良いことを聞いた」

「本当に信じたのか?」

「【思考読み】を使えば分かる。嘘を吐く奴はだいたい本当の事をチラリと考えてから嘘を口にする。もしそうでなくても、嘘を吐けば思考のどこかにノイズが走るからな、お前にはそれがなかった。だから信じてやる」


 【思考読み】で嘘の判別をしていたために、それが事実だと受け入れる秋。相手が思考操作されていてそれを嘘を真実だと思い込まされていれば、この方法での嘘の看破は意味をなさないのだが、それを言ってしまえば何もできなくなってしまうので、取り敢えず嘘ではないと知ったのだから半分くらい信じて行動するのだ。


「ありがたいのだが、良いのか? ここで共闘すると言ってしまえばそこのフェンリルが封印を破って襲い掛かってくるかも知れん。そうしなくてもスコールやハティを走らせ、お前が神に与したと言い触らすかも知れない」

「お前達と共闘なんかするわけないだろ。俺一人で殺す」

「不可能だ。お前のステータスは大体数千万と言ったところで、相手は少なく見積もっても数億だ。桁が違うのだぞ?」

「大丈夫だ一人で殺れる。……それに俺は中立でいたい第三勢力だ。だからお前達なんかと一緒に戦って経験値を掠め取られた挙げ句、共闘したから味方だ、などと言い回られても困るんだよ」


 桁が違うから無理だ、と勇気の女神らしくない事を言うが、パニエはあくまで勇気の女神であり、無謀や蛮勇の女神ではないのだ。だから目の前の脅威をしっかりと見定めて、その結果どう足掻いても秋一人では無理だと言ったのだ。


 しかしそれでも協力を断る秋。

 それも当然だ。なぜなら、全て一口で喰らってしまえばそれで終わりなのだから。どれだけステータスに差があろうとも、相手が魂の集合体と言う異常生物だろうと、全て喰らってしまえば終わりなのだ。

 口内に放り込まれ、入り口でもあり出口でもある場所が一度でも閉じられてしまえば終わりなのだ。


 何が相手だろうと殺して喰って奪い尽くし、力を得て、愛する人──フレイアを完全蘇生させる。


「……じゃあな、情報ありがとうパニエ。フェンリルもまたいつか会おうな」


 そんな目的を抱く秋はフェンリルとパニエにそう言ってから以前に一度行った事があるゲヴァルティア帝国へと【転移】を使って一瞬で移動する。


 ちょうど真上を照らす太陽の眩しい光を受けて、ダンジョンの暗さに慣れていた視界が眩むがそれも一瞬だ。すぐに馴染んだ視界で太陽を見上げ、昼飯時なのを悟った秋は、異常な気配が犇々伝わってくる方向を見る。


 ケミカルでサイケデリックな、視覚に異常をきたしてしまいそうな煙が遠く高い場所に薄く見えるが、それに臆する事なくそちらへと駆け出した。


 ダンジョンの魔物を多く喰ったせいで特に空腹なわけではないが、やはり現在は昼飯時だ。

 腹が減っていなくとも、極上の食物を見つければついつい喰いたくなってしまうものである。


 数億のステータスを持つ存在。そんな極上の食物を喰らえばどんな味が……いやそれよりも、どれほどレベルが上がるだろう……【強奪】のレベルも一つぐらい上がるだろうか。


 そんな期待を胸に、秋は魂の集合体へと進む。







~~~~~~~~~~~~~~~~~







 秋が去ったダンジョン内は静寂に包まれていた。

 誰もが無言。


 当然だ。フェンリル達とパニエは敵同士なのだから。


 拗れる前にパニエは魔物が殲滅された道を引き返し、地上に出てラウラ達の元へと駆け出した。

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