第31話 フレイア・アイドラーク 1
私は唖然としていた。
盗賊に馬乗りにされた時点でもう諦めてしまっていた。
私はこれから奴隷として一生自由なくこきつかわれるのだと思っていた。
なのに私の眼前の光景はそんな未来を打ち砕くものだった。
突然現れた黒髪の男性は盗賊をあっさり倒してしまった。
私に跨がる盗賊を蹴り飛ばし、縦横無尽に振るわれる短剣をいとも容易くいなし、喉を切り裂き、謎の技で不意討ちをされる前に仕留める。
そして私への第一声は謝罪。
正直何故謝られたのか分からない。そりゃあ殺人現場なんて見たくなかったけれど、それ以上に私は感謝の気持ちが強かった。
私は変な人に救われた。
名字があるくせに名乗る順番が逆だったり、あからさまに貴族の格好をしている私に『畏まらなくて良い』等と言う。
私が貴方より上級の貴族だったら不敬だなんだのと騒ぎ立てられるかも知れないと言うのに、それを顧みずさっきの発言だ。
まぁ私は畏まったのが苦手だったからありがたかったけど……
とにかくホントに変な人だ。
だと言うのに私は変にこの人を意識してしまう。
さっきから目が泳いでいるのが私にもわかる。
相手はよく分からない変人だと必死に言い聞かせ、意識しないよう自分に言い聞かせる。
それにしてもクドウなんて言う貴族聞いたことないわね。