第30話 なぜ素っ気ないのか?
俺は街を散策していた。
浴場を求めて。
体をスライムに変形させて汚れを落とすイメージをすることで、清潔に保つことはできるけど、そう言うことじゃないんだよな。
結局日も暮れてきたし宿屋に帰る事にした。
無念。
宿屋のおばちゃんが作る夕飯は美味しかった。
俺は今部屋のベッドに寝転がっている。
明日はどうしようか。どうにかフレイアと仲良くなりたい。これから俺が粘着する相手として、仲があまり良くないのに一緒に居るなんて嫌だ。楽しむ為にストレスを溜めるなんて意味が分からない。はっきり言って無駄だ。
だから思いきって聞こうと思う。それが原因で仲違いをしたのならそれまでだ。
俺は新しい玩具を探すだけだ。
次の日俺はギルドの前にいた。
程なくしてフレイアがやってきた。
「おはようフレイアさん」
「……おはよう」
分かっていたことだけどやっぱり素っ気ない。
「じゃあ行こうか」
「……えぇ」
「どれにしようか……」
「…………」
採取、住人の雑用、雑魚モンスター……いや、魔物の討伐。
「まぁ魔物の討伐だよね。フレイアさんもこれでいいですか?」
「……えぇ」
ヤバい。俺が圧を掛けているような感じになっている。
もし、公衆の面前で口喧嘩をしようものなら間違いなく悪目立ちする。それは避けたい。だから森の中で二人っきりになったら絶対聞き出そう。
「ゴブリンの討伐ですね。畏まりました。ギルドカードを提示して下さい。……アキさんとフレイアさんですね。では気をつけて行ってきて下さい」
俺達は今、ミスラの森にいる。
さぁ聞き出そう。
「あのさ、フレイアさん」
「……なにかしら」
「えっと…… なんでそんなに素っ気ないのかな……って。いや、その……これからフレイアさんの護衛をするんだからある程度仲良くなりたいなぁって思って……」
俺はわざとオドオドして、相手が話しやすくする。
「……!? そ、そんな事ないわよ」
「え……いや、でも森で最初に会ったときはもっと喋ってくれてたけど……」
「……ぐっ……ぅぅ……き……気のせいよ」
「フレイアさん。本当の事を教えてくれないかな……?」
「………………じゃあ……あんたが先にホントの事を言いなさいよ……」
「……え? どういう事?」
何を言ってるんだこいつは。俺はずっと本当の事を言ってるぞ?
「……どういう事じゃないわよ。馬車でお母様と話している時のあの胡散臭い笑顔……! ……一体何を企んでいるのよ!」
あらら……バレてる……作り笑いなんてするもんじゃないな。まぁ止めないけど。
「お母様も言ってたわよ。『何かを隠しているような変わった雰囲気の方だった』って」
そっちにもバレてたか。
うーん。亡国の王族と言えども、腐っても王族ってか。
人との腹の探り合いや本性を見抜くのは俺なんかより幾分も上らしい。
俺自身は上手く皮を被ってたつもりなんだけどな……
一度剥がれた化けの皮はそう簡単に被り直せないようだ。
「……バレてたのか……」
フレイアは臨戦態勢を取る。
「……それが本性ね……っ!」
「……いやいや……そう警戒しないくれ。俺はお前達に危害を加えたりしない」
「……そんな言葉が信じられるとでも? 目的を言いなさい!!」
「俺の目的はお前ら亡国の王族に降りかかる厄介事に首を突っ込んで楽しみたい……それだけだ」
「…………は? ……何よそれ ……っていうかなぜ私達が王族だと……っ!?」
「何でって……鑑定したんだよ」
「嘘よ! 私はちゃんと鑑定妨害の指輪を……あれっ!? 無い! 指輪が無い! ……あっ! ……そうよ……きっとそうよ……盗賊に拐われたときに落としてしまったのね……ああ! なんて事! これじゃ人前にでれないじゃない!」
「ぷっ……くくく」
面白いな……楽しいな……こんな少しのやり取りでもこんなにも変化があるなんて……
やっぱり手放したくないな。
どうにかして側に居られないだろうか?
…………そうだ。こいつは丁度落とし物をして困っているらしい。探すのを手伝えば良い感じに恩を売れるのでは?
売れなくても、悪い人じゃないと認識を改めてくれるかも知れない。
分かっている。そんな簡単に好意を抱かれないのは。それでも、俺は足掻こう。面白い玩具を手放したくないからな。
「探すの手伝ってやろうか?」
「あぁぁあぁ…………は?」
「だから探すの手伝ってやろうか?」
「……今度は何が狙いなのよ? 隠しても無駄よ。あんたが碌でもないことを考えてるのはお見通しよ!」
「酷いなぁ。俺はお前達の側で楽しく過ごそうとしているだけなのに……」
取り敢えずこいつらに不利益にはならないから問題ないと思うんだけど。
「…………さっきからその"楽しく"ってなんなのよ……?」
「さっきも言っただろ? お前ら王族に降りかかる厄介事に首を突っ込んで、俺が楽しく過ごしたいだけだ」
「それの何が楽しいのよ……」
「何の変化もない日々を淡々と無駄に過ごすより、色んな刺激があるほうが凄く楽しいだろ」
「……全く分からないわね」
「わかんないか……残念だ」
いやぁだってそうだろ?普通なんてつまらない。
出来るなら色んな奴と協力したり敵対したり、そんな騒がしい日常の方が楽しいよな?
「…………それじゃあ……もしも私達王族に厄介事が起こったら、あんたはどっちの味方をするの……?」
「面識のない赤の他人の味方をするわけないだろう」
「…………ふ、ふーん。 ……あと、貴方は盗賊じゃ無いのね?」
「は? そんなわけないだろ」
フレイアはジーーッ……と俺の目を覗き込む。
「……なるほどね……じゃあもういいわ。あんたが敵じゃないって言うなら信じてあげるわ」
そう言いフレイアは臨戦態勢を解く。
お? 何かよく分からないけど信用されたっぽい?
まぁなんでもいいが、手放す事にならなくて良かった。