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第3話 無力

 僕は酷い無力感に襲われていた。

 結局助けられなかった。

 自分の命を投げ出しても。


 僕が突き飛ばした子供はさっきの僕以上に酷い有り様だった。全身から血を流し、胴体にはタイヤの跡、目玉は飛び出て、手足は曲がってはいけない方向に曲がっている。トラックに圧迫された圧力に耐えられなかったのか腹部から内蔵が飛び出ている。

 こんな凄惨な様を10歳前後の子供がしているのだ。


 僕が突き飛ばしたから?

 僕がしっかり突き飛ばさなかったから?

 僕が中途半端に突き飛ばしたから?

 僕が…………? 僕が…………?







 僕が自責の念に苛まれていると鋭い悲鳴が僕の耳朶を揺らした。


 その子供が痛みに堪えられずのたうち回っていた。


──何故? 僕の時は痛みはなかった。


 その子供が折れた手足を振り回し暴れている。


──何故? テントラは子供を指差し嗤っている。


 その子供が頭を振り回し飛び出た目玉が頭部から切り離される。


──何故? テントラは僕を見て無邪気な笑みを浮かべている。


 その子供がのたうち回る度に臓物が飛び散る。


──何故? テントラは心底愉快そうに哄笑をあげ、そのまま感情を抑えきれなくなったように発狂しはじめる。



 今の…この白い世界の何処にそれほどに面白い物があっただろうか?



 やがて落ち着いたテントラはのたうち回る子供を視界の外に置き僕に向き直る。

 その顔にはヒビが入っていた。


「どうだった? 久遠秋君?」


 テントラはニタニタとヒビの入った顔で僕に問い掛ける。

 老人のような言葉遣いもしていない。なんなら、もう老人ですらなくなっていた。


 僕は何と言ったらいいのかわからなかった。


 子供の傷を治すようテントラに言う?

 どうしてこんな事をした! ……とテントラを責める?

 僕のせいだ……と悲観に暮れる?


 僕が考えているとテントラは失望したかのような蔑みの視線を向けた。

 そして興味を無くしたかのように僕から目を反らし、のたうち回る子供を見つめ始め、どっか行けと言わんばかりにシッシと手を払う。


 どうすることも出来なかった僕は俯き、苦痛に歪む悲鳴を耳に残し門を通り抜ける。

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