第299話 創造されたもの
魔力が回復するまでの間にフレイア達と最果ての大陸でレベル上げをしよう、とは言ったが別行動をしているためにどこにいるかが分からない。
なので俺は一人でミレナリア王国をうろうろしているわけだ。こんな事になるぐらいならフレイア達に蘇生生物の監視をつけておけばよかったと少し後悔せざるを得ない。
ちなみに人前なので秋としての姿ではなくロキシーとして、金髪赤目の美少女の姿でうろうろしている。自分で美少女と言うのも自惚れが過ぎるだろうが、実際に美少女なので仕方ない。
まぁそれはいいのだが、宿屋などではかなり不便だし何よりも面倒臭い。フレイア達の前……つまり部屋の中などでは秋の姿をしているが、宿屋での食事の際などは一々ロキシーにならなければならない。その変形の使い分けが物凄く面倒臭いのだ。
秋と言う存在の足取りを掴まれないためなので仕方ないのだが、やはり面倒臭いものは面倒臭いのだ。
そしてそれ以上に面倒臭い事はいくつかあった。まずはナンパされたりする事だ。フレイア達を探すために少し人気のないところを覗いたりすれば、ずっと俺に付いてきていた男達に囲まれて半ば脅迫のように同行を迫られる。その度にそいつらを殴り飛ばすのが面倒臭い。
次に言葉遣いだ。フレイア達を探すために道行く人に尋ねる時、いつも通りに喋ろうものなら、最初は鼻の下を伸ばしていた男もだんだんと「なんだこいつ」みたいな目付きになっていき、最終的に距離を取られる。
最悪の場合は女装してる変態だとアホに騒がれて衛兵のお世話になったりする。……女装している変態と言うのは俺からすれば割とあっているのだが、まぁ今の性別は女なのでそんな風に騒がれるのは不快だし面倒臭いだけだ。
あとは服装だ。自分用の女物の服を買うのは馬鹿らしいので、俺のベッドに潜り込んできたフレイア達を着せ替え人形の刑にする時に着せようと、予め買っておいた服で過ごしているのだが、それがやたらとヒラヒラしているので動きに気を付けなければいけなかったりする。……自分で買っておいて文句を言うのは違うだろうが、元々はフレイア達に着せるのを想定していたのでこれは仕方ないと思う。
動きに気を付ける理由だが、それはもちろん下着だ。流石に女物の下着なんか買っていないので、もし何かの拍子で下着が見えてしまえば本物の変態だと騒がれてしまうかも知れないので気を付ける必要があるのだ。
そんな感じでロキシーとしての生活は色々と問題だらけなわけだ。いずれは全てをどうにかしたいと思っているが、全てをどうにかしてしまえばそれは完全に女だ。
足取り掴まれないようにするためだけに、流石にそこまでするつもりはないので我慢するしかないのだ。
そんな事を考えている内に目の前にフレイア達を発見した。髪色や人数も同じなので他人の集団と言うわけではないだろう。そう判断した俺は声をかけようとして思いとどまった。
俺の頭をこの瞬間に過ったのは、尾行しよう、と言うものだった。特に何か重要な目的があるわけではなく、ただあいつらが何をして羽を伸ばしているのかを知りたいだけだ。完全にストーカーだが、まぁいい。
それと、このストーキング……尾行では隠密系スキルは使わない。せっかく姿を変えて尾行するのだからそれに頼ってみようと言うわけだ。
そうして追跡し始めてからまず最初にフレイア達が入ったのは武器屋だ。
……あれ……女同士の華やかな休日……服屋に行ったり喫茶店で駄弁ったり……なんかを想像していたのだが、随分と物騒な場所に入ったものだな。……しかもここはアルロ武器商店だ。軽い知り合いの店にこんな姿で入店するなど、かなり気が引けるが尾行のためなので仕方ない。品定めをするフリをしてフレイア達のやり取りを盗み見る。
「ニグレドとアルベドはその膂力を活かすために手甲とかがいいんじゃないかねぇ……クラエルはトリッキーな戦法が取り柄だからアキ坊と同じあの変な剣がいいだろうね」
スヴェルグがクロカとシロカ、クラエルに合う武器を見繕っている。どうやらここには三人に合う武器を探しにきたらしい。ちなみにセレネは短剣、フレイアとアケファロスが普通の剣、ジェシカが大きい金槌みたいな鈍器、ソフィアが魔法の杖、スヴェルグが普通の剣……それか大太刀だ。
そして九人と言う大所帯で来たからか、アルロがスヴェルグ達の近くに行ってオススメの武器を手に取って優れている点などをクロカやシロカ、クラエルに説明している。
「せっかく来たんだし私もなんか買おっかな」
「なんか買おっかなって……アンタのスキルがあれば武器の性能なんか関係ないじゃないのかい?」
「そうだけど、ほら、気分転換みたいな感じかな」
「あたしにはよく分からないねぇ……」
ジェシカの固有能力【砕頭】は鈍器で相手の頭部を殴り付けると、相手の物防や魔防などを無視して確実に一撃で頭を破砕できるスキルだ。これがあれば武器を変えずとも相手を仕留める事ができる。それに、鈍器であるから剣のように頻繁に買い換える必要はあまりないのだが、やはり同じものをずっと担いでいると言うのも飽きてしまうのだろうな。
「ん。じゃあ私も」
「それなら私も買い換えようかしらね」
「……? あの火の魔剣、もう使いものにならない?」
「違うわよ。あれは大事な剣だからあんまり使いたくないだけで、寧ろ使いものになりすぎて困るぐらいよ。私が買い換えるのはこっち」
セレネに便乗してフレイアが言うが、それに疑問を呈したセレネに腰に提げた剣を指してフレイアが答える。
セレネが言っている火の魔剣って俺がフレイアにあげた奴の事だよな……? ふむ、そうか……あれが大事か……それは良かった。全く使っているところを見ないからなまくら扱いされているのではないかと思っていたが、確かに、アイドラーク公国に蔓延るアンデッドの大群を弔うという、フレイアにとって大切な時に使っていた。すごく大切に扱ってくれているようだ。
そんなフレイアとセレネに音もなく忍び寄ったアルロは言葉巧みにクロカやシロカ、クラエルにそれぞれの武器を手に取らせていた。三人もそれを買うつもりのようで、新しい玩具を買って貰える寸前の子供のように見回したりしている。
それからアルロのオススメを買う事にしたフレイア達。結局ジェシカは新しい武器を買わなかったが、それでも名残惜しそうに店内を見ている。きっと気に入ったものがなかったのだろうな。
……と、そこでフレイアが何かに思い至ったかのような素振りで足を止めて、そしてアルロに話しかけた。
「ここは魔剣も扱っているのかしら?」
「あぁ、あるよ。ふふふ、ウチの店の魔剣は凄いよ~? 見てみる?」
「気になるけど遠慮しておくわ。私が知りたいのはこの魔剣に覚えがないかって言う事よ」
そう言ってフレイアがアイテムボックスから取り出したのは炎竜の魔剣だ。それを見たアルロは驚いたような顔をしている。なんせ俺が作った魔剣をこんなところで見る事になったんだからな。
……それにしてもフレイアの勘の良さは凄まじいな。前にフレイア達、アイドラークの王族は全員勘が鋭いと聞かされたがここまでとは思わなかった。【看破】を持っているオリヴィアが鬼嫁として君臨していたのは想像に難くないが、フレイアはそれよりももっと凄まじい鬼嫁になりそうだな。
相手の目を覗けば覗くほど相手の事を深く知れるオリヴィアの【看破】には劣るだろうが、フレイアもそれなりに嘘を見抜く力はある。……いや、人の本質を見抜く目と言うべきか。とにかくその優れた目に、この勘の良さも加わればそれはもう……本当に凄まじい事になるだろう。
「あの人……クドウ君だったかな……が言っていた『炎ってイメージの人』って君の事だったのか! いやー驚いたよ。まさかこんな風にあの魔剣の持ち主に巡り会えるとはね」
感動したように言うアルロ。それを見てフレイアはこの魔剣がここで作られた物だと理解したようで、炎竜の魔剣をアイテムボックスにしまい、そして言った。
「ありがとうございました。あなたがアキに魔剣を作らせてくれたおかげで私は前に進む事ができました」
頭を下げて礼を言うフレイアを見つめるアルロには何がなんだか分かっていないだろう。
だが、今の頭を下げているフレイアからすれば、別にアルロが知っていようが知ってなかろうが関係ないのだ。ただあの魔剣に救われたフレイアが言いたかっただけなのだろう。
「…………なにがあったのかは知らないけど、その魔剣が誰かの助けになれたのならよかったよ」
何か言葉を返さないと、と言った様子で少し考えたアルロはそう言ってからそしてさらに言葉を続けた。
「僕はね、魔剣を売る人を選ぶんだよ。実力が一定以下の人には絶対に売らないんだ。その理由は魔剣を使って悪事を働く人がいるから。……その実力がある人って言うのは全て僕の感覚で決めるんだけどね、今改めてクドウ君に魔剣を作らせてよかったと思ってるよ。その魔剣を使って冒険者や騎士として働くでもなく、こうして人に贈って人を幸せにして喜ばせられるような人に魔剣の製法を知って貰えてよかった」
……と、そこで店の奥から「店長、オイラの魔剣見てくれ!」と聞こえてきて、アルロはフレイアに一言言ってから店の奥へと消えていった。
アルロが言う事はもっともだ。魔剣なんて言う強力な武器を手にした人間がその力の魅力にとりつかれれば何らかの犯罪に手を染めてしまう可能性がある。だからそれなりに実力があってそう簡単に現状を手放せない人間にしか売らない、そう言う事なのだろう。つまりは力のある人間として生きる実力がある人間にしか売らないと言う事だろう。
フレイア達はアルロが戻ってきたタイミングで、気に入った武器の会計を済ませ、そして店を出た。
次はどこに行くんだろうか、などと考えていたら唐突に振り返ったフレイアに見つかってしまった。本当にフレイアは鋭すぎる勘をしていると思うよ。
当然「なんでコソコソついてきてたのよ」と問い詰められるわけだがこいつ相手に嘘を吐くのは得策ではないので正直に話した。フレイア達がどのように羽を伸ばしているのかを知りたくなったと。
するとスヴェルグからは「アキ坊が何を考えているのか分からない」と言われたが俺自身も俺の事を把握しきれているわけではないので同じくそう思う。
とにかく尾行しているのがバレてしまったので、呆れたような溜め息吐いているフレイア達を最果ての大陸へとゲートで連れて行った。最果ての大陸に行く事自体は昨日の内に同意を得ていたので少し話せばすぐに受け入れて貰えた。
「早速手に入れた武器を試すのだ」
「落ち着くのじゃニグレドよ。ここは最果ての大陸じゃ。武器の性能を試せるような場所ではないのじゃぞ。残念じゃが元の大陸で慣れてから使うべきじゃ」
シロカが一丁前にそう注意しているがお前もさっき買った手甲を着けているじゃないか。試す気まんまんだったシロカに気付いたクロカが言い返して、やいやいと喧嘩が始まるが誰も注意しない。と言うかできない。
全員が最果ての大陸そのものが放つ威圧的で弱者を抑圧する濃密な強者の気配に呑まれているのだ。この中での強者の部類に入るアケファロスやジェシカ、スヴェルグまでもがそれに気圧されている。
最果ての大陸に蔓延る魔物を一体ずつ相手にするだけならばまだまだ余裕を持てていただろうが、それらの魔物の気配が積み重なった結果、漂う事になった強者の気配はかなりキツかったようだ。
こんな状況であれほどに元気一杯なクロカとシロカが鈍感……いや、野生が鈍っているだけなのである。
「これは想像以上途轍もない場所だねぇ……アキ坊、アンタ本当にこんなところであたし達を守りながら戦えるのかい?」
「余裕だ」
「即答かい……凄い自信だね……まぁいいさ。そこまで言うのなら信じてやろうじゃないかい」
この大陸にいる全ての魔物を相手に戦えと言われたら苦戦するだろうが、それだけだ。勝てないわけではないし、守り抜けないわけでもない。シュウと邪神、そんな神にあたる存在を二柱も殺して喰ってきているのだ。今さらただの魔物なんかに負けるわけがない。
「お、早速ゴブリンが来たぞ。最初は誰が行く?」
「我がやるのだ!」
手を挙げて前に出るクロカに向かって、後ろでシロカが何か言っているが最果ての大陸ゴブリンに目を輝かせているクロカの耳には届いていない。
「覚悟するのだゴブリンよ! この我の経験値となるが良い!」
普段着の着物姿に買ったばかりの手甲を装備したクロカがゴブリンに向かって走り出す。それを視認したゴブリンは、クロカの勢いに任せた一撃を躱して反撃しようする。だが、初撃を躱したところでゴブリンはクロカの足払いで転倒してしまい、クロカがその腹部を思い切り殴り付ける血を吐くゴブリンの腹部容赦なく殴打するクロカのせいでゴブリンはあっという間に息絶えた。
「うぬ? アキよ、最果ての大陸の魔物とはこんなものなのだ?」
「相手はゴブリンだぞ。そのゴブリンを相手に何発も食らわせないといけなかった時点でお前はまだここを侮るべきじゃない」
「……確かにそうなのだ……ただのゴブリンが我の一撃で死ななかったのだ。危ないところだった……アキが言ってくれなければ気付けなかったのだぞ」
気付いてくれたみたいで何よりだ、と言ってやりたいところだが、仲間の断末魔を聞き付けた他のゴブリン達がわらわらと湧いてきた。
瞬く間に俺達はゴブリンの大群に囲まれる。しかも周囲にはゴブリンだけでなく、ハイゴブリンのような上位種からゴブリンキングまでいる。
「ここはゴブリンの縄張りのようですね……」
「ん。絶体絶命」
ソフィアとセレネが言う。そのおかげで思い出せた。
そう言えばここ……久し振りの日差しが気持ちよくて、昼寝してしまって起きたらゴブリンに囲まれていた場所だ。
「上陸して早々にこんな窮地に陥るなんて思いませんでしたよ」
「なんかすまないな」
アケファロスが愚痴るように言うので思わず謝ってしまう。今度からはゲートで繋ぐ場所は注意するようにしよう。
……と、そうこうしている間にもゴブリン達が弓や魔法などの遠距離で攻撃しようとしてきたので、スヴェルグが声をあげた。
「行くよ、アンタ達!」
そんな合図を皮切りに俺達は一点に向かって攻撃を仕掛けて包囲から脱した。
それからは思ったより呆気なかった。ゴブリン達が大した事ないのではなく、思ったよりもフレイア達が強かったのだ。一撃で仕留める事はできていなかったが、それでも誰一人として怪我を負うことなく殲滅できた。
「なんとかなったわね。みんな大丈夫?」
「うん、大丈夫。疲れただけで怪我とかはしてないよ」
一応【探知】で周囲に何もいないのを確認してから話し掛ける。
「どうだ、ここの魔物は。思ったより大した事ないだろ?」
『うん! もう怖くない!』
「そうじゃな。じゃがやはり気を付ける必要はあるのぅ」
無邪気な笑顔を浮かべるクラエルを撫でながらシロカの言葉に頷く。
呆気なかったとは言ってもすぐに片付けられたわけではない。ダンジョンで鍛えられたフレイアや、龍種であるクロカとシロカ、ダンジョンマスターのクラエル、吸血鬼人のセレネ、五百年以上は生きたであろうアケファロスとジェシカとスヴェルグ、聖女のソフィア。
そんなのが集まってもすぐにはゴブリンの集団を片付けられないほどなのだ。これからも警戒して着実にレベル上げをして貰わなければならないだろう。
あれから夕方になるまでレベル上げをしていたが、スキルや魔法を使わなかったおかげで魔力も回復したので、レベル上げを切り上げて小高い丘の魔王城の創造に取り掛かる。
そう言えばフレイア達はどれぐらいレベルが上がったのだろう、と考えてしまうが集中するためそれを振り払い、思考を研ぎ澄ませるスキルを存分に使いって意識を弛まない糸のように真っ直ぐ伸ばして集中する。
小高い丘に向かって手を翳し続けて体感時間では数分、だが実際は何時間も過ぎていたようで辺りはすっかり暗くなっていた。
そのせいで暗い色合いの魔王城は夜に紛れて輪郭だけが浮いている状態だった。
さて、フレイア達を呼びに行こう。今回は監視用の蘇生生物をつけているので居場所は分かる。その蘇生生物の視界を通してフレイア達の現在地を視界に入れた俺は【転移】でそこまで移動する。
そこは飲食店だ。街頭もない王都の暗い中を出歩くのは危険だと考えて取り敢えずここに入ったようだ。ちゃんと【認識阻害】を使って転移したので俺の存在は誰にも知られていない。そして席についてから【認識阻害】を解除する。
「すまない、待たせた」
「じゃあ行きましょうか」
いきなり現れた俺に驚いた様子を見せないフレイア達は会計を済ませて店を出るのでそれについていく。やはり王都の夜道は暗いので光魔法を携えて歩かなければならない。
そして誰にも絡まれる事なく無事に王都を出てアイドラーク公国へと歩みを進める。ゲートで移動してもよかったのだが、歩いた方がいいと思ったのだ。
夜の暗闇に浮かぶ巨大な輪郭。それだけでじわじわと威圧感や期待が増すだろうからな。
「ぐぬぬ……何にも驚かないように淡々としているのも中々難しいんだね……」
「さっきから静かなのはそのせいだったのか」
だがお前らのそんな努力も全ては無駄に終わるだろう。お前らが想像しているのはたった一つの巨大な魔王城だろうが、なんせ俺が創造したのは八つの巨大な魔王城だ。お前らが失神してしまうかも知れないほどの驚きを与える自信がある。
そうして歩いてやってきたのはあの小高い丘だ。うっすらと窺える魔王城の輪郭に息を飲むフレイア達。
「これが……俺が創った魔王城だ!」
そう言うと同時に光魔法で小高い丘の魔王城を光魔法で照らす。
その光の広がりはとどまるところを知らず、周囲にある七つの魔王城をも簡単に照らし出す。ダンジョンで相当光魔法のレベルをあげたので当然だ。
まるでここら一帯だけが昼になったのかと錯覚してしまうほどに眩しい視界に、フレイア達は目を瞑ってしまっている。
やがて次第に開かれていくその瞼は眼前の魔王城や周囲の魔王城を視界に入れると、先ほど眩しさに瞼を閉じていたのが嘘だったかのようにパッチリと開かれていく。そのフレイア達の様子は俺に、苦労して創って良かった、と思わせるほどに素晴らしいものだった。これだから人の反応は見飽きない。
そして静謐な闇夜に反響するフレイア達の驚愕の叫び。
「どうだ。これが魔王城だ」
「なんでこんなにたくさんあるのよ!? しかも魔王城が建っている場所って……」
「そうだ。お前達が言った場所だ。最初は本当に候補に入れるだけだったんだがな、その数がちょうど俺が持つとあるスキルと同じ数だって気付いたんだよ。だからこれだけの数の城を創ってみたんだ」
「……いや、創ってみたんだ……って……まぁいいわ。あとは明日しっかり聞かせてちょうだい。今日は疲れ過ぎててちょっと話を聞く余裕がないから」
しんどそうに頭を抱えているフレイア。見れば他のクロカやシロカ達も疲れ果てたような顔をしている。
それも当然か。街を歩き回って色々買い物をしたりして、最果ての大陸では神経を磨り減らしながら警戒をしてその状態で戦ったりしていたんだしな。
仕方ない。詳しい説明は明日にしよう。今日は取り敢えず全員をそれぞれの部屋に連れていこうか。そしてフレイアの言う通り明日たっぷり説明してやろう。それはもう今日と同じぐらい疲れ果ててしまうぐらいに。
そして驚かせてやろう。フレイア達には大罪スキルの事を明かしていないのでそれを知った時にどんな顔をするか楽しみだ。
そんな事を考えながらフレイア達を小高い丘の魔王城へと連れていき、そしてフレイア達のために用意していたそれぞれの自室へと案内した。
ちなみにこの小高い丘の魔王城だけは内装を作ってある。なんせこの魔王城こそが本命の魔王城なので、一番優先して内装を完成させるべきだからな。風呂とかは勿論あるとして、それに鍛冶や錬金術などができる特殊な部屋も用意してあるし、魔王城らしく宝物庫なども用意している。……宝物庫には何もないがな。
フレイア達をそれぞれの部屋に案内したあと、少し考え事をしたくなったので魔王城から出て、良い感じに傾斜がある屋根に寝転がる。
夜空に浮かぶ月をただ見つめて考える。もちろん俺の寿命の事をフレイアに伝えるための事だ。
本当は今日伝えようと思っていたのだが、話し掛ける事はできたとしてもそれを伝えるとなればどうしても竦んでしまって言葉にできなかった。
当たり前だ。どこの世界に恋人に向かって、お前とこれからも生き続けるために喰わせろ、みたいな事を言う奴がいるのだと言う話だ。
蘇生生物は俺が消えるように念じるか、殺されたりしない限り消える事はない。だから【魂強奪】を使えるようになって蘇生生物の完全蘇生ができるようになれば、フレイアも俺と同じく老いない体になれるだろう。そう考えて寿命の事と完全蘇生の事を伝えようとしているのだが、やはりそんな事は伝えられない。
ただ喰らうだけならいつものように腕を大きな口に変形させて喰らってしまえばいいのだが、特別な存在であるフレイアに対してそんな粗末な扱いをしたくはない。つまりは俺のこの口で喰らうしかない。しかし恋人をどんな手段であれ、喰らうなど正気ではない。
フレイアと同い年に生まれ、見た目の年齢は同じ。
だからそれに差をつけたくない。なので早くフレイアに打ち明け、同じ見た目年齢のまま生きていきたい。
……そう、全ては俺のわがままだ。
フレイアと付き合い始めたが故にこんなわがままが生まれてしまった。だが、フレイアと付き合い始めた事に後悔なんかしていない。
俺のフレイアを愛する気持ちは本物であり、フレイアを幸せにして俺も幸せになりたいと思っている。
だからこそ伝えなければならない。
俺がフレイアを誰にも渡したくないと言う独占欲や所有欲、支配欲を抱いているのならば、無責任な沈黙を貫くわけにはいかず、絶対にフレイアに伝えなければならないのだが……できない。
そんな立派な気持ちや思考をしていても行動がついていかないのだ。
怖い……フレイアに愛想を尽かされるのが。
フレイアの幸せを考えない自己中な怯えが伝える事を許さない。
……だが、俺もいつまでも情けないままではいられない。あのフレイアの恋人として胸を張れるような最高の男にならなければならない。そう、ならなければならない。
明日は絶対に伝えよう。




