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第298話 情けない魔王

 現在はフレイア達全員でアイドラーク公国を彷徨いている最中だ。拠点を構える場所は決まったが、他にもいい場所があるかも知れないのでこうして見て回っている。


 今朝はクロカ達との関係を主従関係から変化させるために話を持ちかけたが、嬉しい事に誰も俺のところからいなくならないでいてくれた。


 残っている問題は魔王としての拠点と、フレイアに俺の寿命の事を打ち明けるか……だが、寿命の事に関してはいずれ……早々に打ち明けておいた方がいいだろう。隠していても、俺が老いない点やらフレイアのすぐれた目やらをもってすればバレるのだから。


 それに、せっかく同い年なのだから年齢や見た目にあまり差をつけたくない。

 俺だけこのままの姿でフレイアだけ少し老けているなんて嫌だし、フレイアにとっても嫌だろうと思う。同い年の恋人になったはずなのに自分だけ少し老けているなんて。


 ……まぁフレイアがどう思うかは分からないが、とにかく俺が嫌なんだ。少しでも見た目に差がつくのが……フレイアだけが老いていると俺が子供みたいに見えそうで嫌なんだ。

 我ながら幼い考えをしているなと思うが、フレイアとは対等な……いや、もっと言えばフレイアを引っ張っていけるような彼氏になりたい。だから俺にもフレイアにも他人にも俺を小さく見られたくない。

 フレイアの彼氏として胸を張って生きれるようになりたい。……今のところ情けない姿しか見せていないし尚更大きく在りたい。


 そのためにも差がついてしまう前にこの現状をなんとかしたい。と言ってもフレイアに打ち明けたところで現状の解決策なんかないわけだが……あるとすればせいぜい俺と縁を切ってフレイアに別の幸せを探して貰うしかない。俺が感情に流されたせいでフレイアを不幸にするぐらいなら、フレイアにはそうして欲しい。


 だが、それが何より嫌なのも事実だ。フレイアの言う通り俺は独占欲や所有欲、支配欲などが強いようで、一度フレイアを俺の彼女としてしまったのでもう誰にも渡したくないと思っている。


 ……そんなどうしようもないわがままな俺のための解決策は……フレイアを喰って完全蘇生させる事だ。


 蘇生させた生物は、殺されたり、俺が消えろと念じて想像しない限り消えないのは精神世界でシュウが言っていたので確かだ。……あいつを信じるならの話だが。


 そしてこれを信じるならばそれはつまり老いて死ぬ事がないと言う事になる。


 だとすれば、俺がフレイアを喰って、【強奪】のレベルを上げて【魂強奪】を手に入れて、全てを元通りにできる完全蘇生が使えるようになればいいわけだ。……これも邪神の話を信じるならの話だが。


 はっきり言って、シュウも邪神もどことなく信用する事ができない怪しさを放っているのでこれを頼りに動くのは避けたいが、だが、やはり俺はなんとしてでもフレイアと一緒に生きたいのでこれを信じて行動しなければならないと思う。


 この解決策の一番の問題はシュウや邪神の話の信憑性などではなく、俺が彼女であるフレイアを喰うと言うところだろう。【強奪】のレベルをあげるための宛も、この間アビスに教えてもらったから大丈夫だしそれ以外は何もない。


 ちなみに現状【強奪】でできる事は、『身体強奪』『スキル強奪』『ステータス強奪』『魔法強奪』と、そしてこの前に遊戯の女神が創った模倣の通路で【強奪】のレベルがあがった事によって『異能強奪』と言うものを手に入れた。

 異能……正直スキルや魔法と何が違うのか分からないが、今のところ活躍はないが、そのうち役に立ちそうなので別に文句などはない。


 ……そんな事より、問題は俺がフレイアを喰うと言う事だ。どう考えてもできそうにない。いつものように腕を大きな口に変形させてくらってしまえばいいのだろうが、フレイアのようなとても大事な存在を、そんな有象無象を喰らう時と同じ方法で喰いたくない。……となればやはり、この手で殺してこの口で喰らい尽くすしかないのだが……それができないから悩んでいるんだよな。


 ……うーん……よし、悩んでいても仕方ない。取り敢えず寿命の事をフレイアに打ち明けよう。そもそもフレイアが俺に愛想を尽かさない前提で考えるのがいけないのだ。


 そう思ってフレイアに声をかけようとするが、やはりと言うべきか口をパクパクと開閉させるばかりで声が出ない。……本当に情けないほどに弱すぎる。フレイアへの告白だって自分で決めて明確な意思を持って言ったわけではなくて、フレイアに見惚れてしまって、これはもう告白しなければならない、と感情に脅されてしたようなものだったし……俺は大事なことを殆ど自分の意思で告げられていない。


 ……本当に何もかもが壊れていく。……壊れていくのを実感してしまう。

 少し前まで確かに持っていた強い心がなくなって、今のような甘ったれた弱い心になってしまった。

 誰にも何も奪われないように強く生きるため、自分だけを信じて自己中として自由に気ままに楽しく面白く幸せに……俺が俺のためだけに生きるつもりだったのにいつの間にか人間に馴染んでこうして平和に生きてしまっている。

 自己中に生きると何度も確認して何度も決心して何度も決意して頑張って努力していたのに、今ではそれも虚しくこれほどまでに俺の心は弱くなってしまっている。

 それを認識したとて、今の俺はそれを対して問題だと思っていないのが本当に嫌だった。


 そうして暗い思考に苛まれる俺に目敏く気付いたフレイアが「どうしたの?」と顔を覗き込んでくる。寿命の事を伝えるチャンスだ、とは分かっていても「なんでもない」と言って誤魔化してしまう。フレイアは怪訝そうな顔をしながら「そう? ……ならいいんだけど……」と言って再び隣を歩き出した。


 寿命の事を伝えられなかったばかりか、昨日あれだけ相談しろと言われていたのにそれすらできなかった。十中八九フレイアは俺が何かに悩んでいる事に気付いている。そうでなければあんな怪訝そうな顔をするわけがない。その上で俺が自分から相談するのを待っているのだ。……こんな情けなくて女々しくて弱々しい俺にはもったいない程に良い女だよ、本当に。





 あれから結局伝えられないまま夜を迎えた。思考に没頭していたせいでセレネが言ってくれるまで夜になった事に気付けなかった。


 昨日も泊まった宿屋に入って受付で支払いを済ませ、五人ずつに分かれてから部屋に入る。今日は俺とフレイア、セレネ、ソフィア、スヴェルグで一部屋。クロカ、シロカ、クラエル、アケファロス、ジェシカで一部屋だ。


 またフレイアと同じ部屋になった。だが、昼間にああして誤魔化してしまったせいで妙に気まずい。もっとも、気まずさを感じているのは俺だけのようなので少しバカらしくもあるのだが、それでも気まずいものは気まずい。


 そんな事より、付き合い始めてからこんな風に連続して同じ部屋になるなんて偶然を越えてどこか人為的なものすら感じてしまう。昨日あれだけ揶揄われたのだし、誰かが……特にジェシカあたりがくじ引きの際に何らかの細工をしてそうだ。


 ……よし……分かった。偶然でも人為的なものだとしても、こんな、お膳立てされたかのような絶好の機会を逃すわけにはいかない。今度こそは自分の意思で決断して何かを告げたい。例えそれが最悪な結果を招くものだとしても、それは仕方ない事だと認めて諦めよう。


「……なぁフレイア。どこか良さそうな場所とかなかったのか?」

「うーん? 今日見て回った限りでは特になかったわね。元々そんな名所的なのがある国じゃなかったし探すだけ無駄だと思うわよ。……今さらで悪いけど」


 あれれ、俺はなんの話をしているんだ? こんなどうでも良い話をしたかったわけじゃないんだがな……恐らくまだ迷いが捨てきれていないのかも知れない。


 ……よし、もう一度だ。


「じゃあどこか良さげなところとかないか? 何か凄味がある場所とか、眺めがいい場所とか」

「それじゃ大雑把すぎるのよね……うーん……あ、凄味がある場所なら『最果ての大陸』なんかどうかしら。 あそこは勇者や賢者ですらやられてしまうほどに強力な魔物が蔓延っている魔境って言われてるから凄味だけならあると思うわよ」


 ……おかしいな。俺の思ったように口が動かない。どうでもいい事を尋ねて逃げてしまっている。まだ、最悪な結果に辿り着く事への決心がついていないのか。我ながら諦めが悪いなと思わざるを得ないが、でもまぁ、それでいいのかも知れない。簡単に諦めがついてしまうのもそれはそれで、俺のフレイアへの気持ちはその程度だったのか、みたいになって不満だし……うん……よし、この話はまた今度にしよう。


 しかしそれにしても最果ての大陸か。何だか怖そうな雰囲気の名前だけどどんなところなのだろうか。……もしかしたらここなら危険な神なんかを殺さずとも簡単に【強奪】のレベルをあげられるだろうか。


「へぇ……最果ての大陸か。どこにあるんだ?」

「ミスラの森の向こうよ。海を渡る必要があるから最果ての大陸に向かうなら船とかがいるんだけど、アキなら飛んで行けばいいから大丈夫よね」

「ミスラの森……ってフィドルマイアの側にある奴か。あそこの向こうにそんなのがあるんだな」


 ……ん? ……ってかそれって俺が最初に辿り着いた場所じゃないか?

 言われてみれば確かにあそこの魔物はこの大陸で見る魔物よりも遥かに強かったな。なんせ遺跡世界の中盤~終盤に位置する魔物がうようよいたんだから。……なるほど、それなら魔境と言うのも納得できるし、かなり凄味もある。

 その上安全に【強奪】のレベル上げもできるだろう。

 だが、神とどちらが効率よくレベル上げできるかと聞かれれば迷わずに神を選ぶだろう。それほどまでに神は強くて経験値も美味しい。問題は神は魔物と違って無限とも言えるほどに湧いてくるわけではないだろうからいずれはレベル上げに限界がきてしまうと言う点だろう。まぁその時は『最果ての大陸』の魔物を狩ればいいだけなのだろうが、神を殺してレベルを上げてしまえば中々レベルは上がらなくなるだろう。そうなってしまえば面倒臭い作業が始まるわけだ。

 ……やめよう。考えれば考えるほどにやる気がなくなってくる。


 とにかく、勇者や賢者が最果ての大陸で生き抜くのに苦労するようじゃここに拠点を構えるのは無理そうなので、当初の予定通りアイドラーク公国に建てるしかなさそうだ。


「じゃあ明日は拠点を創って、それから時間が余れば最果ての大陸でレベル上げをするか」

「アキ、早まらないで」

「セレネさんの言う通りですよアキさん! いくらなんでも最果ての大陸は危険すぎます! 何代も前に魔王を討伐した勇者や賢者ですら帰ってこれなかったと言われているような危険な場所なんですから!」


 セレネとソフィアが、まるで自殺志願者を引き止めるかのような扱いをしてくる。その反応ももっともだ。俺からすれば最果ての大陸なんかは脅威にならないが、この大陸で比較的平穏な暮らし送ってきたこいつらからすればそれはもう自殺と同じに映るのだろう。


「あの大陸の魔物ぐらいで死にはしない。なんせあの大陸の魔物はダンジョンの深域のボスと同程度の魔物がゴロゴロいるだけなんだから」

「それが危ないって言ってるんですよ!」

「いやいや、慎重に行動すればお前らでも生きていけるぐらいだぞ? それに行くのは一人じゃなくて全員でだ。スヴェルグとかアケファロス、ジェシカみたいなのもいるんだしそうそう危険に陥る事はない。 ……実際に最果ての大陸の魔物を見た事がある俺が言うんだ。間違いない」

「……ちょ、ちょっと待ちな。 え、なに、アンタ最果ての大陸に行った事あるのかい?」


 頭を抱えてスヴェルグが睨むように聞いてくる。いくら強力な魔物が蔓延る魔境と言えど、そんなに睨まれるほどの事じゃないだろう。


「……もしかしてアキがあの時、私が盗賊に攫われそうになったところに居合わせたのは……そう言う事なの?」

「そう言う事だ。この世界に来て最初に放り出されたのがその最果ての大陸とか言う奴だったらしいんだ……今さっき知った。だから大丈夫だ。あそこの魔物の強さなら生き抜ける」


 なるほどそう言う事だったのね、とフレイアが頷いている。俺が異世界人だって言うのは話したが、どこに放り出されたかなんて事は話していないからこんな反応をしている。


「アキ、本当に大丈夫?」

「おう。俺もいるし確実に大丈夫だ」

「ん。なら良い。……ソフィアはどうする?」

「……私もアキさんの言葉を信じてみようと思います」

「よし、これで決まりだな。明日は拠点を創ってから時間が余れば最果ての大陸でレベル上げだ」





 その後、夕飯の時に別の部屋にいて先ほどの会話の内容を知らないクラエル達に話すが、最果ての大陸の脅威をあまり理解していないクラエル以外、全員に反対された。なのでセレネとソフィアを説得した時と同じような事を話してなんとか首を縦に振らせた。

 ……クロカとシロカ、アケファロスが嫌だと拒否してくれたのが少し嬉しかったな。


 そうして夕飯を食べ終わった後、頭の中に存在している魔王城の設計図などを最後に見直してから寝た。今日もじゃんけんで負けたので床で寝る事になった。







~~~~







 秋達が別の部屋で明日の予定を話し合っている頃。


「ねぇーねぇー、今朝は久遠さんとなんの話をしてたのぉー?」


 ニグレドとアルベド、クラエルとアケファロスをみまわしながらジェシカがニヤニヤした表情で尋ねる。


 この部屋には見事に秋が呼び出して話をしていたメンバーが揃っている。

 これは単なる偶然などではなく、部屋決めの際にジェシカがくじに細工をして意図的にこうなるように仕込んでいたからこうなっている。ジェシカがそうする理由は簡単で、この四人が今朝、秋と何を話していたかを問い詰めるためだ。


「アルベドよ、これは話してもいいやつなのだ?」

「どうじゃろうな……別に隠すようなものでもないような気もするが、しかし話してしまえば秋が童達だけを呼び出した意味がなくなってしまうしのぅ……」

『呼び出した理由はボク達だけで真剣な話をしたかったからだと思うよー。秘密にしたいとかじゃなくてねー』

「まぁ、話してもいいんじゃないでしょうか。特に口止めなどもされていませんし、話したところで私達が咎められる事はないと思いますよ。……もしそれでもあの人が怒るようなら、口止めをしなかったあなたが悪い、と言えば済みますから大丈夫です」


 ジェシカの前で相談を始める四人。そんな四人の会話内容から、ジェシカは色々な妄想を膨らませている。


「確かにそうじゃな。なら話してしまうのじゃ」


 アルベドがそう言って今朝秋と話した事をジェシカに伝える。その会話の内容を聞いたジェシカは自分が思っていたものよりも面白くないものだったので若干不満そうだったが、それでも微笑ましそうな笑みを浮かべていた。


「なるほど、みんなとの関係を発展させるために主従関係を解消した……と。ふむふむ……普段から人にあんまり興味なさそうに見える久遠さんだけどしっかり考えてるんだねぇ~……それで、みんなはもう久遠さんの従者じゃなくなったわけだけど、これからはどんな関係を目指すのかな?」


 今までは出会った当初から従者と言う関係だったが、しかし自分達はもう従者ではなくなった。従者としての付き合いかたしか知らないニグレド達はどんな関係を目指すのか。……そんなジェシカの問いに首を傾げる四人。


「ほら、知り合いとか友達とかのそんな関係の事だよ。久遠さんにとってみんなはどんな立ち位置にいるつもりなのかなぁ~……って」

「ふむ……童はジェシカのように、アキの仲間のような関係を目指すのじゃ」

「我もそんな感じなのだ。それにアキの側にいる……と、アキに言ったしな」

「そうですね。あの人から離れない、と言いましたし私はあの人の仲間のような関係になるんでしょうね」


 ジェシカの問いにそう答えるニグレドとアルベド、アケファロス。ジェシカを含む四人の視線はまだ答えておらず、そしてニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべているクラエルへと向いた。


「クラエルちゃんはどうなのかな? 久遠さんとどんな関係になりたいの?」

『んー……ボクはアキのお嫁さんになりたい! ボクを殺さないでいてくれて、いつも優しくしてくれるアキのお嫁さんになりたい!』

「なにぃ!?」

「なんじゃとぉ!?」

「んなぁっ!?」


 嬉しそうな笑顔を浮かべて躊躇う様子もなくそう言うクラエルに驚きの声をあげる三人。

 そんな三人が驚愕に染まった顔を元に戻すのはほぼ同時で、喋りだすのもほぼ同時だった。


「わ、我も! 我もなのだ! 我もアキの番になるのだ!」

「童もじゃ! ただの仲間なぞではなくて童はアキの番になりたいのじゃ!」

「ちょ、ちょっと二人ともなにを言ってるんですか……!」

「そう言うアケファロスちゃんはどうなのさ? 本当はアケファロスちゃんもそうなりたいんじゃないのぉ~? ん~? いいのかなぁ~……ぐずぐずしてたらみんなにとられちゃうよ?」


 アケファロスに顔を近付けてニヤニヤした笑みを浮かべながらジェシカは言う。するろ、次第に焦ったような表情に変わっていったアケファロスはとうとうニグレドやアルベド、クラエルと同じような事を言った。


「その……わ、私もっ! 私もあの人の……お、お、お嫁さんに……なりたい……です……っ」

「わーい! ツンデレちゃんがやっと素直になったー! やったー!」


 茹でられたタコのように肌を真っ赤に染めたアケファロスはおちょくってくるジェシカに反撃できないようだ。


「ナイスだよ! クラエルちゃん。 おかげでみんな素直に自分の気持ちを打ち明けられた!」

『ボクなにもしてないよ?』

「純粋で無知な幼女クラエルたん可愛い」


 頬擦りを始めるジェシカにされるがままのクラエル。嫌がるどころか嬉しそうだ。

 クラエルに頬擦りをするジェシカを恨めしそうに睨むのは茹でダコとなったアケファロス以外の二人だ。


「そう言うジェシカはどうなのだ! 我達のように主従関係を解消されたわけではないが、ジェシカはアキとどうなりたいと思っておるのだ!」

「そうじゃそうじゃ! 童達が想いを明かしたのじゃからジェシカも話すべきじゃぞ!」

「私ー? 私は今のままでいいかなぁ……みんなみたいに久遠さんに惚れるようなきっかけがあるわけでもないし、自然と久遠さんが好きになるほど一緒にいるわけでもないからねぇ」


 顎に指をあてて考え、そしてそう言ったジェシカを悔しそうに睨むニグレドとアルベド。


「ぐぬぬ……どうにか……どうにかして一泡吹かせてやりたいのだ……」

「その気持ちは童も同じじゃが、ジェシカがアキに惚れておらぬのは事実のようじゃ……ここはいったん諦めるのじゃニグレドよ。いずれまた攻撃を仕掛ければよい」

「そうだな……覚えておるのだぞジェシカ! いつか必ず貴様にも同じ気持ちを味わわせてやるのだ!」

「あは、いつでも歓迎だぜぃ龍娘さん達! ついでにアケファロスちゃんも! ……クラエルたんは私の味方だよねー?」

『みんな頑張ってねー』


 そんな騒がしい四人をニコニコと嬉しそうに眺めるクラエルは少し離れたところでそのやり取りを眺めていた。

 しかし、そんな感じで騒いでいると他の客の迷惑になるわけで……隣室から壁ドンされるのは時間の問題だった。







~~~~







 翌朝、起床して朝食を摂ってから早速アイドラーク公国へ向かう。フレイア達は連れてきていない。魔王城の規模が大きくて魔王城の数もそれなりにあるので側にいさせても暇になるだろうと考えて別行動をしている。今頃は王都を彷徨いて服とか何やらを買っている頃だろう。……それに、こう言うのはサプライズにした方が盛り上がるだろうからな。


 さて、先ほど「魔王城の数」と言った通り、俺が創る魔王城の数は一つではない。


 クロカが提案した市街地のクレーターの中心に一つ。

 シロカが言った城の跡地に一つ。

 ジェシカが言っていた大きな空洞になっている洞窟の中に一つ。

 セレネが言っていた地面に空けた縦穴の底に一つ。

 アケファロスが言っていた人工空島に一つ。

 クラエルが言っていた平原に一つ。

 ソフィアが言っていた森の中に一つ。


 合計で七つ……いや、俺の分も合わせれば八つか。それだけの数の魔王城を建てるのだ。

 上記の七つの城にはそれぞれ『大罪スキル』を持たせた蘇生生物を配置し、最後にフレイアが言ってくれた小高い丘に本命である俺の魔王城を建てるつもりだ。

 この小高い丘からであれば上記の全ての城が一望できるので本物の魔王の城とするに相応しいだろう。

 ……縦穴と人工空島はまだ存在していないので、この小高い丘から一望できるところに創ろう。


 そう考えて俺はまず縦穴と人工空島の創造に取り組む事にした。


 縦穴はどこか適当な場所を思い切り殴り付ければよかったので簡単に済んだが、【重力操作】のスキルなどを使わなければならない人工空島は大変だった。俺が【重力操作】を使い慣れていなのもあるが、なにより高度の調整や維持に手間取ってしまった。あとは人工空島の装飾だろうか。草木や花などの自然を取り敢えず配置してみたが、まだ肝心の城がないのでなんとも言えない。

 ちなみに勇者や賢者がちゃんと人工空島に足を踏み入れる事ができるように人工空島の真下に転移門(ゲート)の効果を付与したアーチを設置しておいた。


 しかし、ただでは通らせないのが魔王だ。


 アーチの側には二体のゴーレムを設置する。もちろん蘇生生物であり、蘇生生物特有の融通の利かなさを利用して「アーチに近付く者を全てを排除しろ」とだけ命令してあるのでゴーレム本来の機械性が大いに振るわれる事だろう。


 そしてそれから全ての城の創造に取り組む。主に使うのは土魔法。それを行使する際に硬度をそれなりに高めたりして堅牢にしておく。模倣のダンジョンの通路に張ってある氷の壁ほどにはしていない。魔王城って壊れてなんぼなんだから。それでもちょっとやそっとじゃ壊れないぐらいに頑丈にしないといけないので調整が難しい。


 そんな感じで四苦八苦しながら完成した七つの魔王城。現在のMPの残量的に小高い丘の魔王城は今は創れそうにないので、MPが回復しているであろう夕方頃に創ろうと思う。


 それにしてもあれだけのMPを使って七つの城しか創れないか。まぁ、人工空島の創造に手間取ったり一つ一つを相当創り込んだし当然か。


 それに、小高い丘の城は本命の魔王城なので、このMP切れは改めて気合いを入れるための丁度いい機会だろう。

 さて、MPが回復するのを待っている間にフレイア達と最果ての大陸でレベル上げでもしようか。

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