第283話 何かのために
久遠夏蓮は自身の夫や子供達や喫茶店と共に各地を移動して、喫茶店を経営しながら旅をしていた。
それ自体はこの世界に来て少ししてからずっと行っていた事だ。最初は移動する喫茶店ではなかったが、アレクシスのおかげで色々整ってからはこうして『移ろい喫茶』として店を開いていた。
そんな特殊な喫茶店は瞬く間に有名になり、訪れた事がない町や村で記事として取り上げられるほどに知名度を得ていった。
そして偶々訪れたミレナリア王国の王都ソルスミードで別の世界に残してきたはずの息子と再会した。1日~3日でまた別の町へと移ろうのが普通となっていたが、こんな再会をしてしまっては暫く移ろう事はできない。
なのでそれから暫くは王都に店を構えていたのだが、何の前触れもなく唐突に息子は失踪してしまった。
夏蓮達がそれを知ったのは使用人やらをたくさん連れて、何やら旅に出るかのような格好したオリヴィアが店に来たからだ。
オリヴィアは焦った様子で最初に目に入った夏蓮に駆け寄り「か、夏蓮様、大変です! クドウ様が失踪してしまいました……!」そう震える声で言った。
最初は何を言っているのか分からなかった夏蓮だったが、頭の中であたりめを味わうように何度もその言葉を噛み締めれば、遮蔽物を残さずに難なく理解できた。
それはもう、やたら鮮明に……広がる草原の如く。
夏蓮の息子を預かっているのにも関わらずこんな事になってしまった……その責任から、全身が凍り付くような思いで必死に頭を下げて謝るオリヴィアを「オリヴィアさんのせいじゃありませんよ」と取り敢えず夏蓮は宥める。
息子が失踪したと知って取り乱さずに相手を宥める事ができる自分に苦笑いをしながら、オリヴィアを宥める。
それに気付くと、もしや自分はそれほど心配していないのか、と夏蓮は考え始めてしまった。
ならどうして心配していないのか……息子─秋を信じているから? その内ちゃんと帰ってくる、何事もなく無事だと。
……そんなわけない。夏蓮はいつだって子供達に対して過保護だ。秋が魔物の大群と渡り合えると知っていても心配で心配で仕方なかった。どれだけ取り繕っても心配だった。
相手の実力を信じずに危険を考慮している。そこに信じると言うものはない。
では、長い間別々暮らしていて絆が薄くなっており、秋を他人のように思っているから?
そう考えるが、夏蓮はこれを否定できなかった。
否定したかったが、否定できなかった……肯定もできなかった。
どれだけ秋に飛び付いて抱き付こうが、その時に得られる感情は春暁や冬音に接するものとは違った。どこか後ろめたさを感じていた。
この後ろめたさが何によって生まれているのかは分からない。
秋を一人残して家族全員が死んでしまったと言う申し訳ない気持ちからか……どこか償いたいと言う気持ちがあったからか……それとも、今まで愛せなかったから存分に愛そうなどと言う考えがあったからか。
親が子供へ愛を注ぐのは当然の事だ。それを今までできなかったから代わりに今からやろう、申し訳ないからお詫びにやろう、相手への償いとしてやろう……そんな子供の事を考えないような思考。
子供は親の愛を拒む事をしないから、それを良い事に自己満足のために愛を注ぐなど卑怯以外の何物でもない。
頭を振って思考をかき消すと同時にそこで漸く『秋を探さなくちゃ!』と言う考えに至った。それから、謝るオリヴィアをなんとか宥めて今に至る。
「どうしたの、ボーッとして」
「いえ、別に何もないですよ」
「そう? ならいいんだけど」
夏蓮は誤魔化して言う。季弥は何かを誤魔化しているのに気付いていたが、夏蓮が話したがらないのなら……と考えてそのまま流した。
「それより夏蓮。最近冬音と春暁の様子がおかしいと思わない?」
季弥がそう言う。それは夏蓮も感じていた事だ。ある日を境に今まで手伝っていた店を疎かにして毎日どこかへ行っているのだ。
この喫茶店はいつも色々な場所へと移ろっているのでどこか……ある特定の場所に通ったりする事はないはずなので、そう毎日毎日でかける事にはならないはずだ。
だと言うのに二人はどこかへ行っている。怪しく思わないはずがなかった。
「確かに最近の二人は変ですよね。毎日どこへ行っているのでしょう……」
「僕もそう思ってこっそりついて行ってみたんだ」
「アナタ……そういう事はよくないですよ?」
咎めるようなジト目で季弥を見つめる夏蓮に頭を掻きながらへらへら笑って季弥は「ごめんごめん」と謝った。
「でも、何かよくない事に巻き込まれていたら大変じゃないか。ここは地球ほど平和じゃないんだから、これぐらいはしたくなってしまうんだ」
「まぁ……それは分かりますけど…………えぇと、それでなんですか?」
「そしたら、二人は魔物を狩っていたんだ。遭遇したとか襲われたとかではなく、自分達から魔物を探して狩っていたんだ」
季弥が告げる衝撃の話にバッと勢いよく立ち上がり、季弥に詰め寄る夏蓮。その形相に引き攣った笑みを浮かべて手で制する季弥。
「ど、どど、どどどう言う事ですかそれぇっ!?」
「そのまんまの意味だよ。自分達から進んで魔物討伐をしてたんだ。これは夏蓮に報告しておかないといけないな、と思ってね」
そう言う季弥から離れて、顎に手を当てて考え事を始める夏蓮。耳を澄ませれば独り言を行っているのが聞こえる。
「これはお説教が必要みたいですね……」
それを耳にした季弥は心の中で冬音と春暁に謝りながら苦笑いを浮かべて、夏蓮の考え事の邪魔をするまいとその場を離れた。
家族と言う大切な存在を失う事の苦しみを痛いほどに知っている夏蓮の胸中を察して、そしてそれを受け入れて。これほどに過保護になるのも仕方ない事だと考えて。そう、愛する夏蓮のために……そして子供達のために。
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最果ての大陸にいる時鐘の老人……或いは幼児のエクディロシ。
世界によって生み出された存在であるエクディロシは世界に忠誠を誓い、世界に仇なす神々やそれに従う勇者、賢者を敵視している。
そんなエクディロシは人間が住む大陸に向かって勇者や賢者の周囲の時間の流れを遅くして成長を妨げていた。
その気になれば勇者や賢者が生まれる直前や生まれた瞬間まで時間を遡って、赤子である勇者と賢者を抹殺し、勇者や賢者の存在を消す事もできたりする。
ではなぜそうしないのか。
その理由は、そんな事に力を割いてしまえばあっという間に時間を司る神の時間操作に抵抗して、流れを鬩ぎ合わせている時間の状態が崩れてしまうからだ。
エクディロシがいなければこの世界、ヴァナヘイムの時間の流れは、時間を司る神の手によって途轍もない速度で過ぎていく。
そうなれば世界の思考速度が自分に流れる時間の流れに追い付かなくなり、そしてやがて思考が追い付かなくなった世界は魔物を増やしたりして神に抗うための戦力を増やす事ができなくなってしまい、神々に乗っ取られてしまうのだ。
一年だけ生きたつもりだったのだが実際は十年も経っていたような……体感時間はそのままに、周囲に流れる時間だけが早くなるような感じだ。
それを防ぐためにエクディロシは自分の寿命を代償にして、時間を司る神と同じぐらいの時間を操る力を得てその流れを塞き止めていた。一介の魔物が神の力に抵抗するにはこのぐらいはしなければならなかった。……と言っても、これでやっと押さえ込めているような状態なので時間を遡るなどの余計な事をしてしまえばあっという間に時間を司る神に時間の流れを支配されてしまう。
……そして、エクディロシが老人のような見た目をしている事から分かる通り、エクディロシが支払える寿命はもう残り少なく、時間を遡る事なんかに力を割く事ができないのも理由の一つだ。
残り少ない寿命を勇者と賢者の抹殺と言うその場しのぎには使えなかった。神徒のようにその場で生み出される脅威があるのだから。
最初に言った幼児と言うのはこの寿命を代償にしている事が理由だ。
寿命を代償にしなければエクディロシはまだ幼児だったのだ。幼児と言っても軽く百年は生きていたが、元々長命な生物である魔物の中でも特に長命であるエクディロシはそれだけ生きても幼児と同程度と言えるような存在だった。
……つまり幼児と同程度の脳である。これがエクディロシが言語を話せない原因であり、時報の音色であるその声が奇怪なものである原因だった。
そんな長命な存在がこれほどまでに老化していると言えばエクディロシが代償として支払った寿命の膨大さが分かるだろうか。
ちなみにこのエクディロシの時間操作が、隣接する世界……例えば地球などの人間が無事にこのヴァナヘイムにやって来れている原因でもあった。エクディロシはこれで地球などの隣接する世界と同じと言えるほどに時間の流れを近付けているのである。
この働きがなければ転移してきた異世界人は時間の流れに乗れず、時間の流れに飲まれて消滅してしまうのだ。
転生は時間の流れなどに関係なく、魂の浄化さえ終われば問題なく世界を渡れるので別だ。
魂の浄化に要する時間はその生物の培ってきた履歴の節々に影響され、その事柄によって大小様々な大きさで変動する。
……あの時から地球で八年過ごした秋とヴァナヘイムで八年過ごした季弥達が同じ時を過ごしているのは、エクディロシが時間の流れを調節していた事などの様々な出来事が絡み合っていた事が理由だった。
少々話が逸れたが、こうしてエクディロシは時間の流れを近付けて異世界人が世界を渡れるようにし、異世界人を少しでも世界の力にしようとしている。
そうして世界を渡った際に世界が強力な力を与え、異世界人が神に誑かされない内にアビスのような知性がある使者を遣わせて、こちらへと引き込もうとする。
異世界から来た人間であり、この世界に伝わる宗教に疎いからこそ世界が付け入る余地があるのだ。
たまにその世界渡りに神が干渉して、お前に力を与えたのは自分だ、などと言って信仰を得ようとして、そのついでに戦力も蓄えようとする事もあるが、この世界にやって来る異世界人の大体が『気付いたら森で寝ていた』『気付いたら暗い洞窟にいた』などと言うようにして世界にやって来ている。
そんな絶望的な状況にアビスなどの知性ある使者が颯爽と訪れ、協力者のような関係を築き上げ、そして結果的に世界の味方へと引き込むのだ。
神に干渉された異世界人は記憶を書き換えられ、元の世界で死んだという事にされたり、新たにこの世界で産まれ落ちたりなどして神の信者として生きている。
どちらもやっている事は人の事を考えない非道なものだ。自分のために、と言うとても自己中心的な考えを持って行動している。
エクディロシを含むそんな生物達は、自分はそのための道具だと理解していながら世界に力を貸す。思考操作されているわけでもなく、自発的に。
生んでくれた親のためであり、その親の腹の上で自分達も生き続けるために。
誰もが神を信仰し、願い、祈り、他力本願になり、自分で何も為せず……何も成せないような死んだ世界で生きたくないから。
誰もが自分で何かを考えて自分の力で進む生物の意思を、この世界を生き抜くための燃えるような強い自我を感じられて、活気が溢れている生きた世界で生きるために。
世界のため、生きる生物ため、そして自分のために。
若くして老いるエクディロシは、その寿命を削ってまで世界を維持する。
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ゲヴァルティア帝国。
そこに全身を覆える程の外套を羽織った二人の人間が歩いていた。フードのようになっているせいでどんな顔をしているのかは窺えない。
「皇帝は赤龍に乗ってどこかへ行ったよ。エルフを二人も連れて。いつも赤龍に乗ってどこかへ行ったら数日は帰って来なかったし、始めるなら今だろうさ」
フードの影になっている部分から眩い光を放ち、もう一人の人物の方を向きながら男の声でそう言う。それに話しかけられた人物は「あぁ」と返事をしてから呟いた。
「邪魔者もいなくなったみてぇだし……今度こそやり遂げてやろうじゃねぇか。俺から……俺達から全てを奪い去っていったこの国を滅ぼす。ここに住む人間の全てを等しく……善人も悪人も関係ねぇ……どれだけ後味が悪くなろうが、罪は罪だ。皇帝を止めなかった……止められなかった時点で皆殺し。……あぁそうだ、皆殺しだ」
自分に言い聞かせるように呟く男を見つめる、光を放っていた男。
その男が醸し出す雰囲気は心配するようなものだったが、呟いている男が最後に「楽勝」と呟いているのを聞き、その心配する雰囲気を霧散させた。
そんな、光を放っていた男に顔を向けてから呟く男は声をかけた。
フードの影から僅かに覗くその口元は笑みを浮かべていた。戦意に満ちた獰猛な笑みだ。
「これは俺の復讐だ。全てを奪われた空っぽによる略奪だ。伽藍堂の俺に自己満足を詰め込むんだ。俺に救われ身なんだからしっかり手伝えよ。……行くぜ相棒」
風が吹く。斜め下から掬いあげるような風だ。そのせいで呟いていた男のフードが捲れ上がる。
現れたのは血のように赤い髪と赤い目を持つ、炎のような熱い雰囲気を感じる、ゲヴァルティア帝国に全てを奪われた哀れな男。
自分達を慕う人間を皆殺しにされ、帝国軍から逃げるために住居をも追われ、追っ手から逃げるために一緒に逃げる家族から離れる選択をしなければならなかった。だが、どうせ家族と離れるなら……逃げるだけなのが癪なのでどうにかして報いてやろうとこうして今までを生きてきた。
皆殺しにされた人々のため、無意味に殺された父のため……何より、奪われてばかりなのが許せない自分のために。
可愛い妹達の兄として……尊敬する父と母の息子として格好よく生きるためにも無力ではいられない。死んだ父の代わりに母や妹達を守りたい。死んだ父のように圧倒的な劣勢を覆せるほどに強くなって多くを守りたい。
基本的に傍観するだけで気まぐれに救いを齎す神。容赦なく命が奪われる無情に満たされた世界。
この世の無慈悲な理不尽を憎む【冒険王】は守るために、攻撃するための力を欲した
「もちろんしっかり手伝わせてもらうよ。僕は命の恩人には尽くすタイプなのだから」
風によってフードが捲れ上がった【冒険王】に合わせてティオ=マーティもフードを捲り上げた。それと同時に駆け出した【冒険王】に続いて走り出すティオ=マーティ。
現在の居住区として使われている貴族街の外へ向かう。
「応援も呼ばせねぇ。呼ばれたとしても入らせねぇ。だからまずは貴族街の外壁を燃やして出入りを制限する。【邪視】で外壁を焼いていってくれ。俺は周りを走って逃げようとしてる奴らを始末していく」
「オーケー」
ティオ=マーティは再び左目を金色に発光させて外壁を見る。それだけで石造りの外壁は発火し、それからは簡単に燃え広がっていった。
ティオ=マーティが使うこの【邪視】は如何なるものでも燃やす事ができる。石であろうと、氷であろうと、だ。燃えると言う現象を見たものに与えるのでこれで燃やせないものは殆どない。耐性があればあるほど【邪視】の力は及び難くなるので、燃やせないものは殆どないと言った。
外壁が発火している事に気付いた人々の喧騒が外壁の外にいるティオ=マーティと、外壁の周りを凄い速さで走る【冒険王】の耳に入る。
それを聞いた二人は復讐が始まったのだ、と気を引き締め、罪悪感などに襲われて情けに囚われないように心を強く持つ。
やがて走って外壁を炎で覆ったティオ=マーティと逃げようとする人々を殺し回った【冒険王】が合流した。
「もう血塗れじゃないか」
「別にいいじゃねぇか。どの道こうなっちまうのは明らかなんだしよぉ。……んで、後はこの間と同じでひたすら殺すだけだな。逃げ道を塞いだとしても、隠れられりゃどうしようもねぇからお前は目に入った建物を焼き払ってくれ。火魔法でやると魔力がもったいねぇから松明に宿した炎なり、なんなりで頼むぜ」
「分かった。じゃあ騎士とかは任せたよ」
頷くティオ=マーティはアイテムボックスからダンジョン探索用に、と買ってそのままだった松明を取り出し、火魔法で火をつけた。この松明に宿った炎で建物に火を移すのだ。
そうして殺して燃やして進む二人。そのせいで、マーガレット達とアルタと肉塊から生まれた悪魔──グーラのせいで元々荒れていた貴族街は更に荒れていた。
やがて二人は貴族街の中頃に来た。
小さな太陽が絶え間なく生まれているかのような明るさと熱気。何かが焼けるような匂いとバチバチと音を立てて弾ける炎。ふと視界を動かすと真っ黒に焦げた人型が転がっている。体が真っ二つに切断されたものや、ある部位だけが斬り落とされたもの。
おかしいな、ここはまだ何も手を加えていなかったはずなのに。
貴族街と平民街を繋ぐ崩れた門から進んできた二人の眼前に広がる、炎に包まれる貴族街。ティオ=マーティがアルタが出かけるのを【神眼】で見た時はこうはなっていなかったのに……考えて辿り着いた結論は、【冒険王】とティオ=マーティの襲撃に乗じて何者かが貴族街で暴れている、と言うものだった。
こんな街が炎に包まれるような大惨事が起きれば、必ず誰かしらが死に怯えて醜い欲望を露呈させ、悔いを残さないように満たされようとする。今回のこれもそれだろうと考える二人。【冒険王】の復讐が楽になるから別にいいか、と考えるティオ=マーティとは反対に、【冒険王】は苛立ちを覚えていた。
俺の復讐に水を差しやがって。
それが【冒険王】の頭に浮かんだ最初の考えだった。憎くて堪らないゲヴァルティア帝国は誰かの余計な手出しも相まって当初の予定より早めに滅ぶだろうが、そこに【冒険王】がやったと言う達成感はない。あったとしても到底満足できるようなものではないだろう。
だから【冒険王】は顔を顰めて走り出した。余計な事をした誰かを探すために。何も言わずに走り出した【冒険王】を見て、何かあったのだろう、と無言で追いかけるティオ=マーティ。
そうして後を追っていると、【冒険王】が足を止めた。
止まったのはゲヴァルティア帝国で最も王族や貴族や国民に知られる場所だ。大きく立派だったその建物は魔物の出入りためにそこら中に穴が空いている。
ここは城だ。城の手前だ。
「どうかしたの? あぁ、城を焼くの?」
「ここにいる」
「え?」
「ここに余計な事を……俺の邪魔をしたゴミ野郎がいる。勘がそう言ってんだよ。クソが……俺が滅ぼすはずだったってのに」
苛立たし気に拳を握り締める【冒険王】から視線を動かすティオ=マーティ。そのまま視線を城に向けて【神眼】で城の中を覗き見る。
慌ただしく駆け回っている使用人。どうしたものか、とオロオロしているアルタの支配下にある魔物達。
城の中に魔物がいると言う異常事態は先ほど見た時や、アルタの動向を探る際に厭になるほど見たので驚きはない。
そんな城の中を見回すティオ=マーティはそのまま口を開いた。
「どんな奴が邪魔をしたかって言うのは分からないのかい?」
「人型で全身に口がついてる、おおよそ人間とは思えない奴だな」
特に考えた様子もなく答える【冒険王】は、勘などの所謂第六感と呼ばれるものに特化しているので深く考えたりはしない。
「あぁ……いるよそいつ。しかもそいつは【神眼】を使っている僕の目を見てニタニタ笑いながら中指を立ててる」
「なるほどな。どこまでも舐めた野郎なわけか。悪魔みてぇな奴だったし、復讐者である俺達が苦しんだりする様を見て楽しんでんだろうな。……まずますぶち殺したくなってきたぜ……まぁ、逃げずにこの国にいるだけでどの道殺すんだけどよぉ」
前半を憎々しげに呟き、後半は好戦的な笑みを浮かべて言う【冒険王】の背後から耳元に話しかける者がいた。ティオ=マーティは隣にいるので、ティオ=マーティではない。
「へェ……人間ごときが俺様を殺すだってェ?……」




