第272話 扱い
ジャンク達が去っていったあとの訓練所の観客席では、クリーガーが隣にアマリアを立たせたまま思案していた。
眼下の訓練所では騎士達が後片付けなどをしている。
(いやはや……参った。強気に出てみたが、却ってそれが悪かったんだろうか。いや、ジャンク殿なら儂がどんな態度でも断っていただろう。……それよりこれからの事だ。どうするかな……予定通り騎士団や魔法師団、暗殺部隊などを仕向けるべきか、そうでないか)
クリーガーは予定通りに刺客仕向けるかどうかを迷っていた。
だが、それと同時にそれによるリスクも考慮していた。
いくらジャンクと言う一人の人間が欲しいからと言って、犠牲を厭わず他の戦力を送り込んでいいものか、と。
模擬戦とは言え、それで騎士団全員を相手にして、それで尚且つ【狂化】した人間を簡単に無力化したような人間だ。騎士団を総動員しても敵わないだろう。
なら魔法師団はどうだ? ……いや、これでもジャンクには敵わないだろう。なんせ、まだ実力を隠している様子だったのだから。嘗て戦士として戦っていたクリーガーにはそれが分かった。
なら暗殺部隊……これも言うまでもなくこれも無理であろう。ジャンク一人だけならばともかく、他にも戦力が未知数な仲間が数人いるのだから、その隙を突くのは困難だ。
どうしたものか。国の状況的に考えてこれ以上の戦力を失うわけにはいかない。だからと言って国の希望であるジャンクを諦めるわけにはいかない。
犠牲なくして得るものなし。
クリーガーに戦いを教えた人物が言っていた言葉だ。それを思い出して、ジャンクに刺客を仕向けると言う考えに寄りかけるが、なんとか踏みとどまった。
冷静に考えれば、刺客なんかを仕向ければ、もう和解は不可能だ。自分達に協力して欲しいのだと言うのにそれはあまりにも矛盾している。
それに気付いてからはあっさりだった。
ジャンクは諦める。
しかし、王女を報酬として差し出したが受け取り断られた、と言う事実は残る。これは間違いなく国の威厳に関わる事だ。
そこでクリーガーは賭けに出る事にした。
……威厳を失って他国に舐められて、さらに不利になるぐらいなら……ならばもういっその事一か八かの賭けに出てみよう、と思ったのだ。
どの道このまま現状維持を続ければこの国は長くは続かないのだから。それなら国民の反感を買ってでも賭けよう。賭けに勝てればそんな反感を捩じ伏せれるようになるだろうから。
ノースタルジアと言う国は落ちぶれた。そんな状況打開するには大きな行動を起こす必要があった。何か、国の歴史を大きく変える出来事を起こす必要が。
……聞けばゲヴァルティア帝国の皇帝は独り身だとか。
クリーガーは賭けた。
──ゲヴァルティア帝国の皇帝に、この国の姫──アマリアを嫁がせる。
そうすればノースタルジアにとっての脅威であるゲヴァルティア帝国との敵対は避けられ、その上ゲヴァルティア帝国と友好関係を結べる。
逆に、その申し出が断られてしまえば、他国からはゲヴァルティア帝国に取り入ろうとしていると思われてしまう。そして、『なぜ強国であるノースタルジアがゲヴァルティア帝国に取り入る必要がある? ……あぁそうか、強国ではなくなったからか』……と、他国にはそう捉えられてしまう事になるだろう。
だからこれは賭けなのだ。大きな大きな、大きすぎる賭けだ。
幸いにもアマリアは類を見ない程の美少女であったので、断られる可能性は……ジャンクの事があるのでないとは言いきれない。
だが、あれは特殊な例であり、普通の人間であればこんな申し出を断ったりするはずがないので、クリーガーはその事にはある程度の安心を抱いていた。
しかも、最近聞いた話では、新しいゲヴァルティア帝国の皇帝は欲望に忠実な人物だと言う。自国を潤わせるためにミレナリア王国に戦争をしかけたり、さらに言えば皇帝を殺して無理やり皇帝となった強欲で乱暴な人物だと。
寧ろ、お前の国の姫を寄越せ、と言われる可能性すら感じられるほどであり、クリーガーがこれにさらに安心を抱く理由でもあった。
アマリアの優れた容姿……そして皇帝が欲望に忠実である事。それらを鑑みてクリーガーはこの政略結婚は国を賭けるに値すると考えていた。
「お父様、どうされるのですか? ジャンク様達は行ってしまわれましたよ?」
「……ふむ、アマリアよ。先ほども言ったが、我が国は非常に追い詰められている。そこで、だ。……アマリア、お前をゲヴァルティア帝国の皇帝に嫁がせようと思っている。確定したわけではないから今のところはなんとも言えんがな」
「……え……?」
そう告げるクリーガーを呆然と見上げるアマリア。結構な歳になると言うのに、未だにクリーガーは背中が曲がったりせずに凛々しい筋肉と年寄りにしては珍しい高身長を維持しているから、アマリアが見上げる必要があった。
「政略結婚などでお前を嫁に出したくはなかった。本当はお前には自由に恋愛をして欲しかった。……だが、この国の存続のためだ。我慢してくれると助かる……いくらお前が反発したとしても、王である儂の決定は覆らないのだからな」
頭の中が真っ白と言ったような表情をして石像と化すアマリア。
そんな反応になるのは当然だと言えるが、普段からアマリアに優しくて絶対にアマリアをぞんざいに扱う事がなかったクリーガー。
そのおかげか、この年頃の少女にしては珍しく父親が大好きだったアマリアは、その大好きな父親が自分に向かって政略結婚などと口に出したのがショックで仕方なかった。
「それは……なんの冗談……ですか……? お父様……?」
「儂がこんな趣味の悪い冗談を言うものか」
「そう……ですよね。……すみません……少し気分が悪いので部屋に帰らせていただきます」
俯きがちに頭を下げ、ドレスの裾持ち上げて転ばないように早足で去っていくアマリア。そんなアマリアを何とも言えない顔で見送ったクリーガーは「はぁ……」と溜め息を吐いてから観客席に腰掛け、肘置きに肘を置いて後片付けをする騎士達を眺め始めた。
その頭の中では何にも考えていなかった。ボケたとかではなく、単純に何かを考える気力がなかったのだ。
今まで手塩にかけて育ててきた愛娘を政略結婚の道具として使う事や、国なんかのために愛娘を消費してもいいのか、ゲヴァルティア帝国の皇帝から酷い扱い受けないか、アマリアが嫁いだ後に気落ちせずにやっていけるだろうか。
それを頭ではないどこかで他人事のように考えているクリーガーは、ただただ深くて重い溜め息を吐いていた。
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自室に戻ったアマリアはベッドの上で膝を抱えて丸まっていた。
薄々こうなるのではないか、とは思ってはいたがいざそうなると言われればどうしてもこんな気分になってしまった。
ノースタルジアはある時を境に戦力が急激に落ちた。それは先代の王……クリーガーの父親、アマリアにとっては祖父にあたる人物が王になった時だった。
祖父は決して王の素質がないわけではなかった。
ただ、民の暮らしをよくするために軍事を疎かにし過ぎたのだ。騎士が訓練する時間を削って騎士に街の見回りをさせた。そして街の治安維持に尽力した。……先代の王が騎士の質が落ちたのに気付くのはすぐだった。だが、先代の王はそれを改善しようとしなかった。そのまま変わらず騎士に街の見回りをさせ、その代わりにと他に騎士を繕った。
そのせいで騎士と言う地位に満足して安定した暮らしに満足する、惰弱な騎士が現れ始め、そしてそんな騎士がどんどん増えた。
そしてあろう事か、騎士団長である父親などの親しい人物のコネで騎士団長へと至った、名ばかりの騎士団長が誕生する事が相次いだ。弱い弱い騎士団長が誕生したのだ。
ただでさえ街の見回りなどのせいで僅かになっている訓練の時間も無能な騎士団長のせいで無意味に近付き、騎士はみるみる内に弱くなっていった。
それを知っていて考えるアマリア。
祖父は王の素質がないわけではない。しかしそれは先ほどまでのものへと変わった。改めて祖父のやった事を思い返すと先ほどまでそう思っていた考えが音を立てて崩れるのが分かった。
間違いなく無能だ。祖父もこの国の騎士も。
自分達が弱くなっていくのを自覚していながら、王である祖父に改善を求めなかった騎士。騎士の弱体化を知っていながらも民のために治安維持に努めた祖父。
民を守る騎士が民を守っているせいで弱くなっては無意味だろうに。
本当に祖父は何を考えてこんな状況に持っていったのか。どうしてここまでして民のために努めたのか。
アマリアには到底理解できなかった。
アマリアは偉そうに祖父を貶しているだけではない。ちゃんとこの状況をどうにかしようと行動はしていた。
それは騎士の国外遠征だ。だが名目上は訓練ではなくアマリアの護衛。
なんのためにアマリアが国外に出ているのかは極秘と伝えて街道を進み、襲い来る魔物を退ける力を持たせるために行動したし、行動させた。訓練と知っていて戦うより、任務として戦った方が騎士の経験になるから訓練だとは明かさず極秘としていた。
姫という守るべきものがいれば騎士も頑張る事ができて、戦う事できて強くなる事ができる。そう考えてアマリアは騎士達とともに国を出ていた。
だが、騎士は弱かった。あまりにも弱かった。国を出てそれほど経たない場所に現れる魔物にすら窮地に追い込まれた。
ダメだ。こいつら。
そう思ってはいても、何とか騎士を思う良い姫を演じた。だが、それでも騎士に限界は来た。自分が死ぬわけには行かないのだが、戦力を失う事も避けたかったアマリアは少し葛藤して、そして踵を返した。自分が適当な理由をつけて連れ出し、訓練させようとしていた騎士。そいつらの弔いぐらいはしてやろうと、再びそこに戻るとなんと騎士は生きていた。そしてそこに四人の見知らぬ人物いた。
それからが現在だ。
いったい私が何をしたのか。国のために危険に晒されながらもギリギリまで騎士を信じて行動していたと言うのに。
どうして政略結婚などでゲヴァルティア帝国の皇帝へと嫁がなければならないのか。
明かりが灯っていない。
カーテンで日差しも遮られている暗い部屋。
カーテンの生地が薄いのか少し日差しは漏れている。
あまりにも酷い仕打ちだ。
アマリアは先ほどよりも強く膝を抱えて丸まって、そしてそのまま小刻みに体を揺らしながら泣いた。
時折嗚咽を漏らしながら静かに泣いた。
ベッドの上でただただ静かに啜り泣いた。
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魔の国──デーモナスに到着したジャンク、ライリー、グリン、ティアネーの四人は入国手続きを済ませて魔の国へと足を踏み入れた。入国手続きの際には物凄く警戒するように睨まれたが、基本的に人間に慣れていない亜人や魔人、知性のある魔物が大勢いる国なのでそれも仕方ないと言い聞かせて手続きを済ませていた。
ちなみに、以前までは人間がデーモナスに入る事はできなかったのだが、亜人や魔人が人間の国に移り住んだと言う話を耳にしたデーモナスは、人間が亜人や魔人を受け入れてくれているのに我々が拒否し続けるわけにはいかない、と考えてつい最近から人間の入国を認め始めていた。
そんなデーモナスの内部は不思議でありながらも新鮮な景色で満たされていた。亜人や魔人が蔓延る街や町、村と言うのは飽きるほどに見てきたが、そこに主にいるのは人間だった。
だが、デーモナスでは見渡す限り人間が見当たらない。
ここは正真正銘の亜人や魔人、そして知性のある魔物の国だった。
そんな国に足を踏み入れるのはその秩序を乱してしまうような気がして躊躇われたが、そう感じるのはライリーとティアネーだけのようで、ジャンクとグリンはいつもと変わらずスタスタと歩いていっていた。
「えぇ? ジャンクさんとグリンさん、躊躇いないです?」
「何がだ?」
「だって、人間がいない、異種族だけの街ですよ? 少しは入るのに躊躇ったりしてもいいじゃないです?」
「こいつら異種族だって遠慮なく入ってきたただろう。なのに俺達だけが躊躇うのもおかしいだろ」
ジャンクに言われて、それもそうか、と納得したライリーとティアネーはそのままジャンクとグリンの場所まで追い付く。
門を通ってすぐと言う、人通りの多いところで人間がそんなやり取りをしていたからか、物凄く目立っていた。
街中は人間の街とは全然違った。
種族の違いがあるためか、その特定の種族専用の飲食店や宿屋、服屋だったり道具屋などがあった。出店も看板のところに『○○専用』などと書かれていたりした。
理由は簡単だ。ある種族にとっては無害なものでも、他の種族にとっては有害だったりする事があるからだ。
例えばアルラウネという女性型の植物の生物にとって無害なニンニクや銀や、そのアルラウネにとって主な栄養源となる日光……だがそれは吸血鬼という亜人と魔物の間に存在する種族にとっては全て有害となる。
だからこうして特定の種族専用の施設を造る必要があった。
故にこの国には多種多様な飲食店や宿屋と言った施設が立ち並んでおり、そのどれもがその種族に合わせて造られている。
つまりは店の数が異様に多い。今晩を過ごす宿をみつけるのですら一苦労なのだ。
炎の精霊専用の灼熱の宿、吸血鬼専用の棺桶しかない宿、アラクネー専用の蜘蛛の巣だけの宿、アルラウネ専用の植物まみれの宿、ハーピー専用の鳥の巣しかない宿などなど。
……他にも鬼人の宿と言うまともそうな場所はあるのだが、気性の荒い鬼人が暴れたのか、外装も内装も全部ボロボロに壊れて荒れまくっていたので無視した。
獣人の宿も全て無視だ。宿泊する候補になりそうなものだが、大体が人間の事を考慮しない造りになっているのでこれも無視だ。
猫獣人の宿であれば魚しかない食事が出されたり猫獣人の身体能力を基準にした高所にある部屋という無茶な造りだったり、犬獣人であればこれまた犬獣人の好物だけが出たり鳴き声がうるさかったり、蜥蜴獣人であれば虫が出されたりするので、獣人の宿は論外だった。
そうして暫く街中を彷徨いていたジャンク達はやっとまともそうな宿をみつけた。
それは、ヴァルキリーと言う『神の使い』や『戦乙女』などと呼ばれている女性型の生物の宿だ。
光をみつけた虫のように吸い寄せられるようにその宿に入っていく四人。
受け付けのヴァルキリーからは、人間がきた、と言うような物珍しそうな視線で一瞬見られるが、それはジャンクとグリンを視界に入れた瞬間に嫌悪感にまみれた視線へと変わった。
ヴァルキリーは女性だけで形成された種族だ。そして異名である『戦乙女』の、乙女の名の通り穢れを知らず、それにも関わろうとしない男嫌いな種族だ。……とは言え、男が嫌いなだけで男を敵とは認識していないので、どうしても関わらないといけない場合は嫌々ながらも関わってくれる。
どうしても関わらなければいけない場合と言うのは、戦いの際にやむを得ず男性と協力しなければならない場合や、男性と戦わないといけない場合だ。
あとは自分が認めた相手が男性だった場合などだ。
ヴァルキリー言うのは主に仕える事で更に力を増す。これは『神の使い』の使いと言う部分から来ているのだろう。その主と言うのは自分が認めた場合や、その人物に敗北してしまった際に屈服させられたりすればそうなってしまう。なので自分達が嫌う男性に屈服させられてしまったらそれを主と認めてしまうのだ。
「……いらっしゃいませ」
不機嫌そうな声色で言う受付のヴァルキリー。それに苦笑いしながらライリーが受付を済ませていく。その際もヴァルキリーはずっとジャンクとグリンを睨み付けていた。変な行動をしないか警戒しているのだ。
それから部屋に向かうために廊下で数人のヴァルキリーとすれ違った際にも嫌そうな顔で嫌悪感にまみれた視線で睨み付けられた。
初対面なのにここまで嫌われている事にグリンが我慢の限界に達して口を開こうとしたが、ライリーがそれを止めた。
「ヴァルキリーは男嫌いな種族なんだ。私達にはここしか泊まれる宿がないのだから仕方がない。辛いだろうが我慢してくれ」
「だからって何もしてねぇ俺らがずっとあんな目で見られるのはおかしいだろうが! 気に入らねぇ……文句の一つぐらい言わねぇと気が済まねぇ……!」
ライリーの手を払ってすれ違ったヴァルキリーに向かっていくグリンだが、そこで今度はジャンクが止めた。
「やめておけ、ヴァルキリーは『神の使い』や『戦乙女』などと呼ばれるだけあってその強さは半端ない。しかも自分の仲間の数が多ければ多いほどヴァルキリーはさらに強くなる。……一人のヴァルキリーが相手ならともかく、相手は数人いた。お前では確実に勝てない。我慢しろ」
「…………先生がそう言うなら……」
グリンがノースタルジアの騎士全員を相手にするのは止めなかったジャンクが、たった数人のヴァルキリーを相手にグリンを引き止めた。その事を理解したグリンは渋々と言った様子で引き下がった。まだヴァルキリーの態度が気にくわないようだが、取り敢えずは我慢する事にしたようだ。
それから辿り着いた部屋。当然だがジャンクとグリン、ライリーとティアネーで分かれている。
室内漂う甘ったるい匂い、若干桃色がかった白い清潔感のある部屋、洗面所には女性が身支度をするための品物などが置かれている。
ジャンクとグリンは溜め息を吐いてから荷物を置いてそれぞれ過ごした。
一方、ライリーとティアネーはそんな様相の部屋を気に入って喜んでいたのだが、それをジャンクとグリンは知らない。
翌朝、朝食を宿で済ませたジャンク達四人は街に出て手分けして聞き込みを始めようとする。だが、それを阻む者が数人現れた。
「おっ、本当に人間じゃんか。人間の入国が認められたとは聞いていたが初めて見た」
「な? 言っただろ?」
「おう。門の前で騒いでるのを見たってのは嘘じゃなかったんだな、悪い悪い」
そう会話するのは数人の内の二人だ。どうやら門の前で騒いでいるのを見られていた上に、その相手が面倒臭い相手だったようだ。それを悟ったジャンク達は露骨に嫌そうな顔をする。ヴァルキリーがジャンクとグリンを見るような顔だ。
「なぁなぁ、人間。ちょっと俺らに力を貸してくれねぇか?」
だが、予想に反して乱暴ではない事を言う数人の内の一人……先ほど「な? 言っただろ?」と言っていた、馬の頭に鹿の角を生やした獣人。
てっきりデーモナスでの人間の希少性を利用して、自分達を売り捌こうとでも考えている悪党かと考えていたジャンク達は馬の獣人に質問で返す。
「力を貸す? どういう事だ?」
「俺達はこの国に住む全ての種族の意識を変えようとしてる団体だ。このデーモナスではたくさんの種族が暮らしているが、それだけだ。積極的な異種族への関与はない。例えるなら……家庭内別居のような感じだな」
「…………」
「んで、その意識を変えるには、その活動をしている俺達が多種多様な種族であれば見本として振る舞う事ができて、異種族同士でも仲良くできる事が証明できる。だから人間であるあんた達にも協力してほしいんだ」
「それで、もし俺達が協力したところで何の得があるんだ?」
馬の獣人にそう返すジャンク。聞いた感じでは秋を探している旅人である自分達にはなんの得もない話に聞こえたのでそれを尋ねる。協力するつもりは一切ないのだが、それでも予想外の得があれば靡くかも知れないので一応聞いておいた。
「得……そうだな……ヴァルキリーから嫌われる事もなくなる…………とか?」
ジャンク達がヴァルキリーの宿から出てきたところで話かけた馬の獣人は、ここでジャンクとグリンが受けた嫌悪感を丸出しにされると言う酷い仕打ちを察してそう言った。
それはいいな、と思うジャンクとグリンだったが、やはり自分達は旅人だ。そのうちここを去るのだから少し我慢すればいいだけなので、それで意識改革に協力する気にはならなかった。
「じゃあな」
「え、あ、ちょっ……!」
それだけ言い残してジャンク達は颯爽と去った。人混みに紛れれば簡単にあの場から去る事ができた。
それからは手分けして秋の事について聞き込みを始めるが、特に手がかりになりそうな情報は得られなかった。