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第248話 エルフの国 2

 王に会ってもらうぞ、と言う事なのでエルフの男についていく。街を行くエルフ達には異物を見るような目で見られたが、エルフの男が俺達を連れているのを見て絡んでくる者はいなかった。


 そうしてやってきたのは、この国の中心に聳え立つ大樹だ。正確には大樹の内部だ。


 大樹の内部はくり貫かれたように高くまで空洞が広がっており、大樹の内部の光源は窓のように外部と繋がれた穴から入り込む、あの木の実の明かりだ。

 内部のそのところどころには家屋のようなものが建てられていて、その家屋へと至るまでの道は螺旋階段のようにして繋がっており、人が通行するための道ができていた。


 つまり大樹の中に町が広がっているのだ。いや、町と言うより、街と言った規模だろうか。


 そしてそのてっぺんに城があるのかと思いきや、城は大樹の内部に入ってすぐ目の前にあった。王城がここにある事から、ここが……この大樹の内部こそがエルフの国の王都なのだろう。


「あは、凄い! 凄いよここ! 大樹の中に築かれた街、まさにエルフ! これこそ私が求めていた王道ファンタジーだ!」

「大樹の中に街があるなんて誰が想像できるんだい?」

『すごーい!』

「見れば分かるだろうが、目の前のあれが城だ。 あそこで王が待っている。ついてこい」


 ここで気付いたのが、エルフの差だ。

 大樹の外、地上の集落にいたエルフは総じて男はもやしのように細く、女は一部がまな板だった。だが、大樹の中にいるエルフは男は大根のようにゴツゴツしており、女はメロンのように一部が大きかった。要するに、大樹の中にいるエルフは外にいるエルフより肉付きがいい。もやしとまな板の事を肉付きが悪いと言うわけではないが、そんな印象を受けたのでそう言った。


 恐らく食事よる差なのではないだろうか。当然王都のような扱いの大樹の内部ではいい食事を摂れて、村町の立ち位置である外ではあまりいい食事を摂れていない。そう言った食生活の違いからくる体型の差なのだろう。

 今まで見たエルフは皆がもやしかまな板だったので、大根やメロンもいるんだなと少し驚いた。


 そんな事を考えている内にエルフの王城が目の前に迫っていた。

 城の見た目は……木だ。 木の幹がいくつも絡み合って城のような見た目をとっている。どう成長したらそうなるのか全くわからないが、ラウラの持っていた【植物操作】のような類いのスキルか魔法でやったのだろう。


 そんな王城の内装は外観からは想像がつかないほどまともで、煌びやかなどと言うより、蔓や蔦などの自然物で溢れており凄く自然を感じるものになっていた。 どんだけ自然が好きなんだエルフは。


 ふと思ったのだが、地上に張られていた結界はこの地下まで及んでいるのだろうか。フェイクにまで結界を張っているぐらいだし、ここにも結界が張られていそうだ。


「王に謁見が可能か聞いてくるから少し待っていろ」


 奥に歩いて行くエルフの男と交代するように、一人のエルフがやってきた。こいつもまた男だ。エルフの女は俺達を見るなり慌てて姿を隠しているのでそうなっている。


 ……思い切り警戒されている。 まぁ当然か。相手からすれば俺は女ばかり侍らせている危ない奴なんだからな。変に目を付けられて酷い目に遭いたくないのだろう。


 交代でやってきたエルフの男に案内されたのは何の変哲もない普通の部屋だ。天井裏には何人か潜んでいるみたいだ。

 エルフの情報網は凄いな。ここに来て間もないのに、もうこうして暗殺者だかなんだかを忍ばせいるのだから。


「天井に誰かいますよ」

「知ってる」


 小声でアケファロスが伝えてくる。ソフィア以外は気付いているようだが、意識して視線を向けないように振る舞っている。


「そう言えば、この大樹の中にいるエルフからは妙に強い気配を感じるのだ。我ほどではないがな!」

「私も分かる。纏っている魔力が凄く濃い」

『ボクにも分かるよー』


 体つきなら分かるが、強い気配……纏っている魔力か。例の、生物から常に漏れ出ている魔力の質や波とやらだろうか。そう言えば、今度意識してみようとは思っていたが実行しようと思った事はなかったな。やってみるか。


「それってどんな風に感じるんだ?」

「どんな風に……? うむぅ…………こう……なんか感じるのだ」

「ニグレド説明下手くそ。生き物が纏う魔力の波長は、魔力への適正が他の生き物より低い人間にはあまり感じられない。亜人や魔物に生まれつき備わっている特別な感覚。いわゆる第六感」


 ニグレドの代わりにセレネが説明してくれる。

 生まれつき備わっている感覚なのなら説明し難いのも納得できる。だが、どうしても感じてみたいのだ。『蘇生』が使えるようになった時のように新しい感覚が増える事があるのだし、俺は人間ではないから完全に無理と言うわけではないだろうし、やってみる価値はあるだろう。


「あまりって事は人間にも少しは感じられるのか?」

「できる。まずは自分の中の魔力の流れに乗って自分の魔力の波を調べる。 目を閉じて自分の全身に魔力を纏わせるのが簡単」


 言われた通りに目を閉じて全身に魔力を巡らせる。これぐらいなら蛇腹剣に魔力を纏わせるので慣れているから簡単だ。


「おや、案外簡単にできてるじゃないかい。普通の人間なら1ヶ月はかかるんだがねぇ」

「久遠さん、天井の人達が臨戦態勢に入ってますよっ!」


 感心したように呟くスヴェルグと、焦ったように囁くジェシカ。目を開けてチラリと見れば、今にも襲いかかってきそうな感じだ。

 まぁ襲いかかってくるなら反撃するのでそれでいいだろう。こちらは救世主と言う体であのエルフの男と【契約】しているのだからこちらが咎められる筋合いはないし、聞くにエルフは仲間を大事にするらしいので、あのエルフの男との契約を重んじて逆にお詫びをしてもらえるかも知れないしな。


「次は?」

「纏った魔力を誰かに伸ばしてみて。そうしたら他人の魔力の波長が分かるはず」


 だそうなのでアケファロスに伸ばす事にした。

 現在俺が纏っている魔力を少しずつ移動させて徐々にアケファロスに近付ける。この操作が難しいんだよな。離れれば離れるほど制御が利かなくなっていく、この感覚は魔法を放つ感覚に似ている。魔力を変質させて属性を込めていないのでいきなり火魔法などが放たれる事はないだろうが、無属性の魔力の塊は放たれる事だろう。


「なぜ私なのですか……」

「特に理由はない」


 強いて言うなら、もしミスっても軽く謝るだけで済みそうだからだ。それにそういう反応が見たかったからだ。


 暫くそうして魔力を伸ばしていると、何かに触れたのが分かった。冷水が温水に変わっていく瞬間のような不思議な感覚だ。そしてその途中で変わった感覚……アケファロスの魔力を俺の魔力で呑み込めそうな感じもする。この呑み込めそうか否かで相手の強さを測るのだろう


「おぉ、来ましたね」

「あとはそれを意識せずに常にやるだけ」

「魔力の濃度も濃すぎるからもっともっと薄くするのじゃぞ」

「分かった」


 もっと難しいのかと思っていたが、予想以上に簡単だったな。 と思っていると、セレネが呟いた。


「でも不思議。 教わったからってこんなに早くできるなんて。……アキが人間じゃないから?」

「そうだろうな。亜人や魔物が生まれつきできる事なんだから、人間じゃない俺が簡単にできるのは当然だ」


 人間を辞めてから……辞める事になってから色々な事ができるようになった。種族の垣根を越えて他の生物の特徴などを奪ったから。

 最初は人間でなくなった事に落ち込みこそしたが、人外でいる事に適応してしまえばそれからは最高だった。無能故に傍観者であった俺がこうして行動を起こしているというのが堪らなく愉快だ。

 現在の俺には不明な点が多く、面倒臭い事を考える事が多々あるがそれでもおつりがくる程には満たされている。


 逃げるアケファロスを魔力で覆おうとしながらそんな事を考えていると、一番最初に出会ったエルフの男がやってきた。


「許可を得てきたぞ。 王は多忙なのだから今すぐに謁見だ。ついてこい」


 自らの主を待たせまいと、やや急ぎ足のエルフの男について行き、連れて来られたのは根っこでできた扉の前だ。無数の根がある一点を覆っている光景は何かが封印されているようにも見えて少し不気味だった。


「連れて参りました」


 エルフの男が言うと、その根っこが退いてその先にある部屋が露になった。その部屋は入り口から玉座までを太い枝が伸びて一本道になっており、それ以外の地面はところどころに穴が空いていて、蜘蛛の巣のようだった。

 ここを蜘蛛の巣だと思わせる原因である、入り口から玉座までの太い枝以外の細い枝の向こうには通路が伸びているようで、そこを通るエルフの姿が見受けられた。


 奇妙な構造の部屋ではあるが、しかし目の前にはもっと奇妙なものがいた。


「よくぞ参った。 えぇと……人間に、黒龍に白龍、道化に、吸血鬼と鬼人の混血に、アンデッドに、聖女に、アンデッドに、ドワーフ、そして……き、キメラ……?」


 王らしき男が一人一人の種族や特徴を言っていくが、改めて聞くと色々おかしい集団だよな。と言うかどうやって俺の種族を知ったのだろうか。見た目だけは人間なので見ただけでは分からないはずだが……まぁ【鑑定】だと思うのだが、それならレベルや称号に驚くはずだろう。なのに種族だけに驚いている。変だな。


「ま、まぁとにかく、よくぞ参った。 して、なぜ余は謁見をせねばならんのだ? エルサリオン?」

「それはですね──」


 エルサリオンと言うらしいエルフの男は王に事情を説明しだした。異種族を嫌うエルフの王なのにそれはどうなんだと思わなくもないが、座っているのを見た感じではエルサリオンと言う男より背が小さそうなので若いエルフなのだろう。と言うか見た目ならただの少年だ。


「なるほど。 エルフ以外の種族は下賤故に侵入を拒み、追い出して関係を断てと。そう言う事なのだな?」

「そうでございます」

「ふん、馬鹿馬鹿しい。 確かに我らエルフは美形が多いのでそうなるのは仕方ないが、だからと言って異種族を恐れて森に籠りっぱなしなど……腐ってしまうわ!」

『え?』


 エルサリオンと俺達全員の声が揃う。

 まさかこの王、無知なのか? ゲヴァルティア帝国が近くにあると言うのに無闇に動けば一瞬でこの国のエルフは終わるぞ? あのアルタとか言う皇帝は何を考えているか分からないしな。


「よし決めた。たった今、エルフは外界との関係を構築するために社会の扉を開け放とうぞ!」

「ど、どうか冷静になってください! さきほども申しました通り、エルフは人間共の欲望の捌け口とされております、ですので何千年こうして身を潜めているのでして……!」

「だからこうして停滞しておるのだろうが。 前から思っておったが、エルフは進歩がなさすぎる。取り柄である、長命や魔法に長けていると言う利点を全く活かせておらんのだ。……自分の種の利点を活かさず、無駄に資源を食い潰す世界の穀潰しはいっそ滅んでしまえばいい。そうは思わんか?」


 自分の種族を『世界の穀潰し』などと罵るこれがこの国の王なのか。あまりの酷い言い草にエルサリオンも呆気にとられしまっている。こいつの脳内には王への不信感と、エルフが壊滅していく様が渦巻いているのだろう。


 エルフの在り方は面倒ではあるが、面白いものなのでできるだけ滅びないようにしてやりたいな。


 などと思っていると、小さな王が玉座を下りてこちらに歩いてきた。すると、ちょいちょいと手招きして耳を近付けるように伝えてきた。


「ど、どうだ? これでよかったのか?」

「は? 何がだ?」

「そなたらの入国を正当化するために種族の垣根を壊そうとしてやったのではないか。 ……よ、余はどうなっても構わんからこの国を滅ぼすのは……他のエルフは見逃してやってはくれないか?」


 こいつマジか。


「元々お前らエルフをどうこうしようと言う気はない。 俺はエルフの生態や文化を知りたかっただけだ。 多少の協力はすれど、滅ぼすなんてあり得ない」

「そ、それではこのまま停滞していても……?」

「勝手にすればいい」

「はぁ~……なんだ、余の早とちりだったのだな……エルサリオン、さっきの発言は撤回する。余は少し……いやかなり乱心していたようだ」


 王がエルサリオンにそう言うが、どうもエルサリオンの様子がおかしい。


「いえ、確かにその通りです。 我々エルフは発展を求めず停滞しているばかりでした。これでは本当に『世界の穀潰し』そのものでございます。……ですから私は決めました。 我々誇り高きエルフが『世界の穀潰し』などと罵られないように変わろうと!」


 エルサリオンはそう言って謁見の間を飛び出していった。


「……え? ……ちょ、ちょっと待てぇぇぇい! エルサリオォォォォン!」


 続けて少年王が謁見の間を飛び出していった。

 どこの国も王は行動的なようだ。ミレナリアは前線に向かおうとする王がいたし、ゲヴァルティア帝国は部下を下がらせて自分が戦う皇帝がいたし、ここには軽率な発言をして慌てて客を置いてどこかへ行く王がいた。


 ……どうしようか。


「え、どうすんのよこれ……」

「取り敢えずさっきの部屋に戻っておきましょうか……?」

「ん。そうするべき」


 ソフィアの言う通りさっき暗殺者っぽいのが潜んでいた部屋へと戻ってきた。戻ってくると暗殺者っぽいのはいなくなっていた。


「で、どうするんだい?」

「俺に聞かれてもなぁ……」


 俺としてはさっさとエルフの国を見て回りたいのだが、エルサリオンがいなければ確実に面倒臭い問題が起きるし、そもそも城連れて来られた以上勝手にどこかへ行くのも後々面倒臭い事になるだろう。

 諦めてここで待つしかないようだ。……城を隠れて彷徨くだけならセーフだろう。バレなければ。


 そう考えて【認識阻害】【気配遮断】【無音移動】を使って一人で城を歩き回る。一人で行動している理由は、隠密系スキルは効果を共有する対象が増えれば効果が薄まるからだ。 あと、なぜこの三つのスキルだけを使っているのかと言われれば、アケファロスのスキルにこれがあるのを見て、そう言えばこのスキル持ってたな、と思い出せたからだ。


 この城は迷路のように入り組んでいて、すぐに迷いそうになる。 原因は辺り一面が木でできており、そこに蔦や蔓などが無数にあるだけなので、どこも同じような光景だからだ。

 使用人の執事が「ここの蔦……! 素晴らしい……!」などと言っていたが特に違い分からなかったのでスルーだ。人間の感性の俺には分からないが、エルフからすればそんな蔦すらも装飾なのだろう。


 廊下を彷徨いているだけではつまらないので、部屋に入ってしまいたいところだが流石にそれは不味いので【透視】で廊下から覗くだけにとどめておいた。使用人の部屋だったり、厨房で料理をしていたり、トイレや風呂、物置。 宝物庫らしき厳重に警備された場所は、何重にも壁があって【透視】の効果が途中で効かなくなったので覗けなかった。他にも王が使うであろう執務室に、本棚ばかりの図書館のような場所、王族の寝室……など様々な部屋があった。


 面白いものがあったのは王族の寝室だ。 何人寝れるんだと言うぐらい大きすぎるベッドに一人の女性が腰かけて、地べたに座って玩具で遊ぶ娘を微笑ましそうに眺めていた。それだけでは面白いとは思えないのだが、面白いのはその母娘だった。

 つい最近手に入れたスキル【純潔】の効果で性交経験の有無が判別できるようになったのだが、娘は当然ながら、なんと母親も処女だったのだ。……確認する方法は気色悪い事に……匂いだ。処女は甘い匂いがして、非処女は無臭だ。…………冷静に考えればマジで気持ち悪いな。 使用中止を検討するレベルだ。


 ちなみに特に害がない固有能力は常に発動させている。【純潔】以外だと、【強欲】【嫉妬】【色欲】【忍耐】などだ。【嫉妬】に関しては発動させる意味がないのだが一応だ。突然格上が現れて襲われるかも知れないからな。【色欲】は性欲が強くなってしまうそうだが、それを耐える事で精神的苦痛を受けたという判定になって【忍耐】でステータスが増加するので使っている。


 それで母親が処女だと言う事についてだが、当たり前だがあれは本当の母親ではないと言う事なのだろう。……だが、それにしてはやけに慈しみの目で娘を見ている。自分の子供でもないのにどうしてだろうか。 ……俺には分からないが、母親にとっては自分の子供かそうでないかは関係ないものなのだろうか。


 まぁいいか。


 フレイア達がいる部屋に帰って来た俺は、オセロで負け続けて悔しそうに唸っているアケファロスを眺めながらエルサリオンか使用人、もしくは王が来るのを待っていた。


 だが、結局誰も来なかったので俺達は仕方なく城を出て最後に通過した村の付近にゲートで転移してから宿に向かって泊まった。空いている部屋が残り少なかったので、二人部屋を二部屋だけ借りて五人ずつに分かれた。当然ベッドはパンパンなので三人は床で寝る事になったのだが、それはじゃんけんで決めた。


 エルフの国の宿屋で泊まってもよかったが、【精霊術】が使えない俺達には風呂もトイレも使えないので、置き手紙を残してからこうしてエルフの国を出た。


 置き手紙を残した理由はエルサリオンと結んだ【契約】のせいだ。案内が終わっていないのに俺が無断で国を出たらエルサリオンがどんな目に遭うかを考えたら置き手紙でも残しておいてやろうと思ったのだ。幸い案内の期限なども決めていなかったしな。

 置き手紙を残すだけで【契約】を反故にした事にならないのかは分からないが何もしないよりはマシだろう。


 手紙で思い出したが、スヴェルグが誰かに手紙を出していた。誰かは知らないが、まぁ時期的に考えてアケファロスを見つけたと言うような手紙だろう。







 翌朝、体をポキポキ鳴らしながら起きて、サービスの朝食を摂ってから再びゲートでエルフの国へ向かう。


 一晩の内に何があった? と言うほどにエルフの国は荒れており、大樹の外にいるエルフ達は喧しく騒いでいた。 「人間と関わるだって!?」「世界の穀潰しになるわけにはいかない!」「せめて外に出るエルフは男だけにしてぇ!」「やっと文明が動くんだ!」などと口々に騒いでいた。原因は分かりきっているが。


「酷い有り様じゃのぅ……」

『お祭り?』

「ある意味ではお祭りとも言えるかも知れませんね……お祭りのように楽しいものではないですけどね」


 そう言えばエルサリオンはどこに行ったのだろうか。エルフの国がこうなる程には騒いだ筈だが姿が見えない。


「いたぞ!」

「王がお呼びだ! ついてこい!」


 周囲を武装したエルフに囲まれ、城へと連行される。槍を突き付けられているせいで冤罪で罪人にでもなった気分だ。一般エルフからの視線が痛い。


 大樹の内部に連れられ、城へと入る。そして待たされる事なくそのままあっさり謁見の間に連れて来られた。その時点で武装したエルフ達は俺達の包囲をやめて入り口を自分達が並んで塞いだ。 嫌な予感がするな。


 昨日は通路が覗いていた細い枝々の上には肉付きのいいエルフ達が立っていた。大根だ。メロンだ。どうでもいいが、処女だった母親もメロンの持ち主だった。


「よくぞ参った。……連日とすまないな」

「構わない」

「そう言ってくれると助かるな。 呼び出された理由は察しがついておると思うが、昨日の謁見の事だ。 余の早とちりでエルサリオンを暴走させてしまった事についての議論だ」

「大事になってたな」


 大樹の外の光景を思い出しながら言う。大樹の内部は昨日と変わりなく平和そのものだった。大樹の外のエルフはここに入り込んで来ていないようだった。


「うむ。 余が取り逃がしたエルサリオンが余の言った事を吹聴して回ったのだろう。 ……これは王の意識に反した国とって害となる行為なので、残念ながらエルサリオンは指名手配されておる。余の失言が招いた暴走故にとても心苦しいな」


 王は顔を歪め、胸を押さえて心底悔しそうにそう言った。

 自分のミスが招いた悲劇。その事実に年若いエルフの王はとても心を痛めているようだ。


「そうか。 案内役がいなくなったのは痛いな。 ……で、なぜ俺達を?」

「……その……実はそなたらにエルサリオンを洗脳したと言う疑惑が……あってだな……もちろんあの場にいた余はそう思っていないのだが、他のハイ・エルフ達がうるさくてな」


 エルフの王が見やるのは、俺達から見て左側の細い枝に立っている大根やメロン達だ。


 ……ハイ・エルフ? ……あぁ、なるほど。あの体つきは食生活の違いなどではなくエルフの上位種だったからか。


「初めまして、色々な女性を侍らしている色男さん。 わたくしはアレゼルと申しますの」


 左側の細い枝に立っている一人のハイ・エルフがそう言う。


「俺は──」

「まぁ! 出会って数秒でわたくしを口説くおつもり!? 反吐がでますわ、喋らないでくださいまし! 清廉なわたくしはあなたのような色男ではなく、もっと控えめの男性が好みなんですの!」


 名乗り返してやろうと思ったらこの言われようだ。美形のエルフの上位種であるハイ・エルフなのだから自分の容姿に相当自信があるのは分かるが、流石に自分を高く見すぎだ。清廉を謳っているが心が清らかな人間の発言じゃないし、好みを主張しているし私欲まみれじゃないか。


「ごめんなさいね。 アレゼルは少し変わっているので……あ、私はフェニルと言います。……えぇと、あなたは?」

「アキ」

「アキさん、いい名前ですね。 呼びやすくて私的にはとても好きですよ」

「そうか」


 フェニルは右側の細い枝に立っているハイ・エルフだ。

 恐らく左側が俺がエルサリオンを洗脳したと思っている奴らで、右側が王派の奴らなのだろう。

 名字も名乗ろうかと思ったが、このエルフの国における貴族であろう、アレゼル、フェニルが名字を名乗らなかったのでやめた。


「アレゼル、フェニル、王の前だぞ。議論に関係ない私語は慎め」

「あら、サリオン、まだ議論は始まっていませんわよ? さっきからやけに静かだと思えば勘違いしてらしたのね。まぁハイ・エルフに進化して日が浅いから仕方ありませんわよねぇ~?」

「アレゼル……」


 サリオンと呼ばれた左側にいる男は、同じく左側にいるアレゼルに煽られている。……あれ? もしかして味方同士じゃないのか? エルサリオン派と少年王派に分かれてるんじゃ……?


「……喧嘩になりそうなのでそろそろ議論を始めたいと思う」

「申し訳ありません、王よ」

「良い。ではまず……アレゼル。この者達がエルサリオン洗脳したとそなたが思う理由を聞かせて貰おう」

「分かりましたわ。では、わたくしがエルサリオンが洗脳されたと思う理由を話させていただきますわ」

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