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第247話 エルフの国 1

 アビスが現れた以外に特に何もなく、そうしてやって来たのは森だった。 この付近の町で買った地図によると、この森のどこかにエルフの国があるのだとか。

 近くに誰もいないのを確認してから飛び立って空から森を見下ろしてみたが、そこに広がるのは木々の海で、とても国と呼べるものはなかった。と言うか人工物が何一つなかった。


 本当にここにエルフの国があるのかと疑ってしまうが、多分ここにあるのだと思う。エルフの国にはソルスミードに俺が張った結界と同じような類いの結界が張られているのだろうから。


 ソルスミードには魔物避けの結界が張られている。魔物の認識から外れ、魔物の接近を妨げる結界が。

 ならばエルフからすれば魔物同然である、人間の接近を妨げるために結界を張っていてもおかしくないだろう。


 エルフは男も女も全て美形だ。 そんな美形の種族を人間達が見逃すだろうか。いや、見逃すわけがない。

 異種族が集まるソルスミードで時々首輪をつけたエルフを見かけた。それらは皆が暗い表情をしていた。つまり美形であるエルフをどんな形であれ、奴隷として密かに売り捌いているのだ。それは人間の欲深さの証拠だ。……そんな人間の欲深さをずっと前から知っているエルフがなんの対策もせずに森に隠れているなどとは到底考えられない。結界を張っているのは当然だろう。


 あと、この森の周辺にはいくつも廃村があった。確証はないが、恐らくゲヴァルティア帝国に侵攻されたエルフの村だろう。なんらかの理由で森を追われ、森の周辺で暮らさざるを得なくなったのだろうな。



 そんな事はどうでもいいんだが、それにしても厄介だな。人間の接近を妨げる結界が張られているとなれば俺達はエルフの国に辿り着けない。この結界がどのように作用するのかは分からないが、厄介なものに変わりはない。


 まぁ取り敢えず進むか。道に迷えばここまでゲートで帰ってくればいいしな。


 そう考えて俺はフレイア達を引き連れて森へと入っていった。


 森の中は驚くほどに明るかった。森にしては。

 空から見下ろした感じでは隙間なく木々が密集していて日差しを遮ってそうだったのに、木漏れ日があちこちに差していて思ったより明るい。 そんな木漏れ日が点々と地面を照らしている様は綺麗なものだった。


「こりゃまた自然を感じる光景だねぇ」

「うむ。これほどに住みやすい場所に寝床を設ければよかったのだ」

「ティアネーの森のあの場所はイマイチだったのか?」


 クロカがそんな事を言うので聞いてみる。


「悪くはなかったのだがあそこは頭上に葉がなかったからな、朝になると一日中寝ていたくても嫌でも起こされてしまうのだ。 それに比べてここはどうだ? 涼しいし頭上に葉もあるから快適だったのだろうな」

「なるほど。 ぐーたらできるかできないかの違いか」

「お主は相変わらずじゃのぉ……まぁこの快適な森ではぐーたらしたくなるのも分かるのじゃ」


 そんな中ふと振り返ると、フレイアとソフィアとセレネの歩みが遅いのに気が付いた。どことなくしんどそうだが、ダンジョンではこの倍以上は動いているのになぁ。どうしたのだろうか。


「三人とも大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ。 ……ただ、少し気分が悪くて……」

「大丈夫じゃないだろそれ。 ……ソフィアとセレネもそんな感じか?」

「はい……眩暈がします」

「力が入らない」


 ふむ。普通の人間であるフレイアとソフィアが不調を訴えているのならばほぼ確実に結界の影響なのだろうが、セレネもとなれば結界のせいかは分からない。


 エルフの国に張られている結界が人間避けだけではなく、エルフ以外の生物の接近を妨げる結界の可能性もあるが、それは……あまり現実的ではないのだが、まぁこれだろう。


 結界と言うのはその効果を増やせば増やすほど、結界を展開する際に必要な消費魔力量が多くなる。

 異種族の魔力の波長を隠し、魔物の認識と接近を妨げる効果しかないソルスミードの結界ですら消費魔力が四百万も必要だったんだ。

 この結界がエルフ以外の生物を指定するのにどれだけ効果を増やしたかを考えればゾッとする。そしてそれを展開できるほどの魔力量……MPを持っている存在が何より恐ろしい。


 対象に含まれているであろう、ドワーフのスヴェルグが何も感じていないのは、こいつが【結界貫通】とか言うスキル持っているからだろう。この間ステータスを盗み見したらそんなのがあった。


「じゃあ三人はここで待ってろ。残りのクロカ達もここでフレイア達を守ってやっててくれ。俺が一人で行く。エルフの国に入ったらゲートで迎えに来てやるからそれまで待ってろ」


 結界がエルフの国の内部にまで効果が及んでいたら意味がないが、その可能性は低いだろう。内部にまで結界の効果を張り巡らせるには、更に消費魔力が増えてしまうからだ。

 例えば外部に及ぶ効果に5の魔力が必要で、内部にも結界の効果を及ばせるとすればまた5の魔力が必要なのだ。ソルスミードの結界は内部にまで効果は及んでいなかった。もし及んでいれば八百万もの魔力が必要になっていただろう。


 ただでさえ結界の効果を増やし過ぎて莫大な魔力が必要なのに、更に消費魔力を増やすなんて無謀だろう。第一、接近を妨げる結界なのだ。内部にまで効果を及ばせても無意味だろう。



 ちなみにここの結界の接近を妨げる効果には魔物は含まれていないのだろう。龍種……魔物であるクロカやシロカが不調を訴えずにここを快適だと言ってる時点でそれはほぼ確実だ。


 ならクロカやシロカと同じく結界の効果を受けていない俺は魔物と言う事になるんだが、ソルスミードの魔物避けの結界の効果も俺は受けなかったしなぁ……レベルが高いと効果を受け難いかも知れないのは、王都にやって来られたジェシカの存在で予想はついていたのだが、それでもそのあとにジェシカに聞いた話で、完全には無効化されないと言うのは分かっている。

 どれだけ物防や魔防が高くても、物攻と魔攻の攻撃によるダメージを0にできないのと同じなのだろう。

 ……だが、俺は本当に何も感じずに素通りできるんだよな。

 いよいよ俺がなんなのか分からなくなってきたぞ。


「ダメなのだ。 アキのような女誑しを一人でエルフの国に放り込むわけにはいかんのだ」

「うむ。その通りじゃ」

「いや──」

「本人にはそも自覚がないのじゃからアキの言い分は聞かぬぞ。それで、誰がついていくのじゃ?」


 俺を無視して相談が始まった。 本人に自覚がないと言われれば否定もできないし、何よりちょくちょく女誑しなどと言われれば本当にそうなのかと自分を自分で疑ってしまう。


 …………と言うか目の前の光景がその証拠なんじゃ…………?


 いやいや……違う、これは洗脳だ。ちょくちょく言ってきて俺を疑心暗鬼にさせて自分を女誑しだと思い込ませようとしているんだ。……と言っても目の前の光景が……


 ……うん。なるほどダメだな。スキルや魔法などの洗脳系のものなら無効化できるのだが、こんな感じの洗脳は防げないのか。女誑し云々はどうでもいいとして、これに気付けただけでも収穫だ。


「なら、クラエルとジェシカ、スヴェルグの三人がアキについていくのね?」

『やったー!』

「やったねぇクラエルちゃん~」

「戦力を分散するとしたらこれが一番最適だろうね」


 気分が悪くて戦力にならない、フレイア、セレネ、ソフィア。

 残ったクロカ、シロカ、クラエル、アケファロス、ジェシカ、スヴェルグの中で戦力を分散するとすればこれが最適だと言う結論にいたったようだ。

 つまりここに残ってフレイア達を守るのは、クロカ、シロカ、アケファロスだ。


 そうしてフレイア達と一旦別れた俺達は森を歩き始めたのだが、そう言えば【探知】を使えば結界とか関係なく進めるじゃん。と言う事を思い出したので使ってみたのだが、一部だけ【探知】で探れない場所があった。

 まさか【探知】までも妨害する効果があるのか……? だが、そこだけ【探知】できないなんて怪しすぎるし、バレバレだ。


 当然そちらへ向かって行く。するとしばらくしてから、地上や木々の上に家が建てられているのが見えた。……見えたのだが、どうみても国と呼べる規模ではない。村と町の中間と言った程度の物凄く小さい規模だった。確かに森の外にあった村々に比べれば大きいが、とても国とは呼べないな。


 だが、ここに大層な結界が張られているのは【探知】を妨害されているので分かるが、まぁこの規模ならあれだけ結界に効果を増やしても大丈夫なのがよく分かるな。……よかった。MPの化け物がいなくて。


 そうしてそのエルフの国? に足を踏み入れると、すぐに誰かがやってきて周囲を囲まれた。当然だがそいつらは耳が長い美男美女のエルフだった。


「我ら、エルフの国に何の用だ!」

「観光をしに来たんだ。見て回ってもいいか?」

「いいわけないだろう!」


 この中で一番いい装備をしている男のエルフが言う。

 まぁそうなるよな。ここまでしてエルフと魔物以外の生物の侵入を拒んでいるんだから、簡単に許すわけにはいかないのだろう。


「どうやってここまで来たんだ!」

「あぁ……俺、魔物だから結界の効果を受けないんだよ。こいつとこいつもそうだ」

「見え透いた嘘を……」

「本当だ。ほら」


 腕を液状に変形させて人間ではないと主張する。クラエルも腕を同じように変形させ、ジェシカも自分の仮面をとって顔を見せる。

 スヴェルグには触れない。俺とクラエル、ジェシカが魔物であるならこいつも魔物なのだろうと勝手に思ってくれるかも知れないからだ。


「……!? ど、どうやら本当のようだな……だが、魔物であるなら尚更ここを通せん」


 ……? どういう事だ? 結界に魔物避けの効果を付けていないと言う事は魔物をエルフの敵として認めていないと言う事だ。 それなのに通せないってどういう事だよ。


「じゃあなぜ結界に魔物避けを付与しなかったんだ?」

「はぁ? 魔物避けなら付与しているぞ?」

「……は?」

「……いや……は?」

「いやいや、その効果がなかったからこうして俺達は通れているんだが……」


 ……まさか効果を与え忘れたとか言うんじゃないだろうな?


「おい、急いで確認してこい」

「はっ!」


 男のエルフが命令すると、女のエルフが敬礼して奥へ走っていった。


「す、少し待っててくれ」

「……分かった」


 無言で経過する数分の気まずい空間に救世主が現れた。さっきの女エルフだ。それが息を切らしながら戻ってきた。


「た、隊長っ! ほ、本当に効果が付与されていませんでしたぁ!」


 呼吸荒くそう言い放つ女エルフに、「なぁ~にぃ~!?」と叫ぶ男エルフ。それに合わせて「やっちまったなぁ!?」と小さく呟いたジェシカに、思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪える。 こちらの世界ではジェシカが転生してきてから五百年近く経つらしいが、ジェシカはこのネタを知っている。……世界間の時間の流れの違いを自覚させられるな。


「ほら、言っただろ?」

「あ、あぁ……」

「つまり俺達はお前らの国の致命的欠陥に気付かせてやった救世主って事だ。なら感謝の印としてこの救世主をもてなしてくれないか?」

「く、久遠さん……恩着せがましすぎないかな?」


 ジェシカがそう言うが、こうでもしないと入れてもらえなさそうなのだから仕方ないんだよ。


「はぁ!? ふざけるな! 欠陥を指摘してくれたのには感謝しているが、魔物をむr……国に入れるなどできるか!」

「……あぁ~なんか仲間呼びたくなってきた。 ……いいのか? こんな集落簡単に潰せてしまうぞ?」

「ひ、卑怯だぞ! 我々の弱みにつけ込んで……!」

「案内してくれるだけでいいんだ。 俺達はエルフの生態とか文化を知りたいだけだからな」


 脅してから目的を告げる。実にせこいやり方だが、相手が嫌がらなければ俺が脅す必要はなかったのだから、これは相手が無駄に嫌がった結果なので俺は悪くない。


「ほ、本当に案内するだけでいいんだな……?」

「あぁ、俺達にエルフの国の生態や文化を知れる場所を案内してくれ」

「分かった。だが案内が終わったらすぐに帰ってくれ。結果の修復を行わなければいけないんだ」

「分かった」


 ……と言う内容で契約する。これで相手はエルフの国の生態や文化を知れる場所を俺達に案内しないといけなくなった。


 これは【契約】と言う、この前殲滅したコレクターの誰かが持ってたスキルの効果で、これで契約した内容を反故にすると酷い目に遭うらしい。酷い目と言うのは契約内容の重さで程度が変わるので酷い目の程度がその時まで分からないと言う恐ろしいものだ。


 契約内容の重さのとは、例えば国絡みの契約とか、明日どこどこに集合な、とかそういう感じだ。

 当然国絡みと言う重い契約を反故にすればその時に降りかかる酷い目は最悪の場合死ぬと言うのもあり得て、逆に明日どこどこに集合な~のような比較的軽い契約を反故にすれば、犬の糞を踏むとか、鳥の糞を浴びるとかその程度の酷い目に遭う。 まぁ契約と言うより約束が近いかも知れないな。


 ちなみに現在こいつらと結んだ契約の内容はとても重いものになっている。


「……!? き、きき、貴様ぁ! 何をした!?」

「いやぁ、この間【契約】って言うスキルを手に入れたからお前で試してみたんだが、どうだ? 救世主と契約した気分は?」


 こいつは、俺が自分で俺を救世主だと言っても、「確かに感謝しているが~」などと言っても俺が救世主だと言う事を指摘しなかったので、こいつらは救世主などと言う大きな存在と契約してしまった事になっている。救世主なんてある意味王より上位に立てるのに、これを反故にすればどうなる事やら。 ……ぷぷぷ……初めて使ってみたが、かなり使えるスキルだ。


「け、【契約】……? まさかあの……契約内容を守らなければ酷い目に遭うと言われているあの……?」

「そうそう、それだ。 と言うわけでエルフの国の案内を頼んだぞ」





 フレイア達を連れてきてから、忌々しげに俺を睨むエルフの男に連れられてエルフの基本的な家などを見て回ったが、凄いものだったな。 だって、【精霊術】とか言う精霊を使役する事ができる、『精霊使い』の持つスキルによってトイレや風呂が一言で作動するんだから。流せと言えばトイレの水が流れ、湯を張れと言えば湯船にお湯を貯め、シャワーと言えばシャワーからお湯が流れる。

 ミレナリアでは魔道具と呼ばれる、魔石を使った魔力を流す事で作動するものがそれにあたる物だった。なのでこの言葉で作動するのは魔力を流すのが苦手な者でも簡単に使える便利ものだろう。一々言葉を発する理由だが、トイレや風呂に精霊が宿って効果を発揮させていので、精霊にして欲しい事を伝えるためだ。

 ちなみにこれらは【精霊術】を持たない俺達には使えないものだった。しかもエルフは全て『精霊使い』なので、エルフの国の家は全てこの精霊に頼ったものだ。つまり本当にエルフ以外の暮らし考えていないようだ。


 あと、家の内装とかは人間ものと殆ど同じだった。強いて言えば植物が異様に多い事だろうか。ツリーハウスような家も地上にある家もも、それ以外は全く同じだった。


 他にも色々あったが、まぁいいか。


 そんな感じでエルフの国を見て回った。終始エルフの男に睨み付けられていたのは言うまでもないだろう。

 ……うーん……【契約】は使うべきではなかったか? ……いや、だがエルフの国の生態や文化を余すことなく知るためにはこうするしかなかったんだから仕方ないだろう。実は案内されていないところがあったなんてのは嫌だからな。


 そんな感じでエルフの国……と言うか集落を一通り見て回ったので、最初いたところに戻ってきた。


「おい、何してる? 案内はまだ終わっていないぞ。まさかこのまま勝手に帰って俺を酷い目に遭わせようと言うんじゃないだろうな?」

「まだあるのか?」

「当たり前だ。ここはエルフの()だぞ? この程度のチンケな規模の国があると思っているのか? ……こっちだ」


 なるなど。この集落はここが国だと分からないようにするフェイクで、本当の国はどこかにあるのだろう。騙されるのが嫌だったから結んだ【契約】が予想外の形で結果を出したのだ。……【契約】がなければ結局は騙されていたんだから予想外の結果でもないのか?


 エルフの男に連れて来られたのはエルフ集落の中心部にある広場だ。そこは噴水やベンチ、砂場に、鉄棒と言ったものがある公園のような場所だ。

 エルフの男がそこにあった砂場に何かを唱えると、大きい砂場は真横に開いていき、やがてそこには地下へと続く大階段が顔を覗かせた。


 え? まさかエルフの国って地下にあるのか?


「ラノベで培ったエルフの生態がこの一瞬で覆された……わ、私、ここで待ってようかなぁ~」


 どうやらこのフェイクである集落はジェシカの知識通りのエルフの生態らしい。かく言う俺もこれが知識にあるエルフ像だった。現実地下に住んでいるらしいがな。


「ダメだ。ついてこい」

「ですよねー」


 死んだような目をしているジェシカはスヴェルグに引き摺られながら階段を下りている。しかし段差が痛かったのかすぐに自分で歩き出した。


 そんな長く続く大階段を下りきると、そこには地上と変わらないぐらいに明かりに照らされた、だだっ広い世界が……国が広がっていた。

 天井は見上げるぐらい高いのだろうが、その天井を覆い隠しているのは国の中心に屹立した大樹の樹冠だ。あの樹冠は多分天井まで届いているだろう。……その大樹の実だろうか? それがこの地下世界を主に照らす光源となっているようだ。その実は枝の部分から様々な長さの糸のようなもので照らされているので、あるところでは街灯の代わりにもなっているようだ。


 家々は全て木製で、地上と変わらず地面にあるものや、大樹の枝に建てられたもの、その他の木々に建てられたものと様々で、心が踊る思いだ。

 そして地上の集落と違って人の……エルフの往来が盛んで、地下だと言うのにとても活気に溢れた様子だ。しかもそれの全てが美男美女だと言うのだから日が差さない地下に咲く花畑のようだ。


 日が差さない地下でどのようにして木々を育てたのか、あの大樹を育てたのか甚だ疑問だ。


「ふわぁ……すごいわね……」

「地上の夜に明かりを灯せばこのような感じなのでしょうか?」

『きれー!』

「地下だと言うのに……いや、地下だからこその趣があるのかねぇ」

「ん。湿っぽくない」

「ふぅおおおおお! エルフっぽい!」

「アルベド、あの木の実は食べれるのだ?」

「知らぬわ。 ……食べるのではないぞ?」

「ダンジョンの中もこうであれば退屈しなかったのですが……」


 そんな感じで各々感想を言っているが、俺は気になったのでエルフの男に尋ねた。


「なぁ、今更だがお前だけの判断で俺達をここに連れてきてよかったのか?」

「エルフは仲間を大切にする種族だ。仲間である俺の危機とあらばこの秘匿された国に人間や魔物を連れ込むぐらい安いものだ」

「……そんなだから仲間を人質にされて犠牲を増やすんだぞ?」


 王都の冒険者ギルドで、エルフは仲間を人質にとられれば必ず助けに向かうと聞いた事があったが、これがそれの答えか。 だが、仲間であるエルフをなぜ森の外に追いやったのだろうか。


「助けるのは仲間だけだ。仲間でない者は助けない」

「仲間の基準は?」

「【精霊術】が使えるか。10歳になるまでに全属性の魔法を使えるか。つまりレベル1に到達しているか。同じく10歳になるまでに【弓術】のレベルが2に達しているか。肌が褐色のダークエルフでないか。 他にもあるが、大体こんな感じだ。どれか一つでも満たしていれば森から追放する事になる。 まぁダークエルフはまたこの森に入り込んで勝手にどこかに住み着いているらしいがな」

「へぇ……面倒臭いんだなエルフって」


 10歳になるまでと言っているがこれは人間の年齢で~とかではなく、エルフとっての10歳だ。そう言えば簡単そうに聞こえるが、長命種で人間と比べれば発育が遅いエルフにとってはまだ乳児と言った程度で、這い這いができるかどうかの段階だ。かなり厳しい条件なのが分かるだろう。【精霊術】は練習の末に身に付けるのが難しいそうなので、生まれた時点で持っていなければ赤ん坊だろうと追放だそうだ。


 あと、ダークエルフについてだが、ダークエルフは生まれた時は普通のエルフらしい。だが、ある日突然肌が褐色になってダークエルフへと変貌するらしい。時期は個人差があるそうだ。エルフはそんなダークエルフを気味悪がって追い出すのだそうだ。


 生態や文化は面白いが……色々面倒臭いんだよな。


「我らの国に見惚れるのは分かるが、いつまでも階段で燻っていないでさっさと来い。部外者を国に入れた事を王に知らせなければいけないからな。 あぁ、もちろん貴様らにも王と会ってもらうぞ」

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