第246話 世界の意思
ゲヴァルティア帝国を越えたあたりでジェシカとスヴェルグがついてきている事に気付いた。
理由はすぐに分かったが一応なぜついてきていたのかを尋ねると、予想通りアケファロスが心配だったからとの事だった。
まぁ何百年も探していた親友、娘とやっと再会できたのにも関わらずあの短時間だけ接して、はい終わり、なんてのは少々残酷だっただろう。
とは言え、今はアケファロスは俺のものだ。ならばジェシカやスヴェルグなんかより俺の都合に合わせるべきなので申し訳ないとはほんの少ししか思わない。
ちなみにミレナリア王国の王都ソルスミードから、なぜか火の手が上がっていたゲヴァルティア帝国までは徒歩で一週間ほどかかった。道中の寝泊まりはそこらの村や町で済ませた。幸い金には困っていなかったので余裕を持って久々の宿屋暮らしを謳歌した。
……そう言えばフィドルマイアにいたころに泊まっていたあの宿屋の熊みたいなおばちゃんは生きているのだろうか。……フィドルマイアは手練れの冒険者ですら魔物の大襲撃に対応しきれずそのまま滅んだのだから無事な可能性は低いが、戦えない女子供の数が多い孤児院のやつらも逃げられていたので死んだとは言いきれないな。
……まぁいいか。それほど親しかったわけでもないしな。
エルフの国への道中は本当に何もなかったのでこんな事を考えて退屈を紛らわすしかなかったのだ。
「何もないのだ……」
「うむ。見渡す限り緑の草原じゃ。自然は素晴らしいものじゃが、流石に見飽きてしまうのぅ」
周りには本当に何もない。草原だけだ。
遺跡世界と白の世界から解放された時は物凄く安らいだ覚えのある草原は今はとてもチンケなものに見えて仕方ない。寝転がって寝たいとも思わない。
なのでさっさと移動したいのだが、転移は視認できる範囲と行った事のある場所にしか行けないので使えないし、空を飛ぼうにも流石にこの人数は運べない。変形して腕を増やそうにもいつ人目に晒されるか分からないし、【認識阻害】を使おうにも効果を共有する人数が多ければ効果は薄まるので得策ではない。
……というかそもそも、元々の【飛行】は人を運ぶ事ができるスキルではなく、自分だけが飛行する事ができるスキルなのだ。それを俺が無視して無理矢理行っていたからギリギリできていただけで、一人や二人ならともかくこの大人数を運ぼうものなら物攻魔攻とか関係なしに【飛行】の効果が薄まって墜落するのは免れない。
ならば自力化した『飛行』で【飛行】スキルの制限を振り切ればいいと思うだろうが、自力化した『飛行』はちゃんと翼で羽搏く事が必要みたいなのでどのみちこの人数は運べない。重すぎて羽搏きが意味を為さないのだ。
まぁ……その翼で羽搏いたとしても実際に人間の重さを考えれば俺一人でも無理なのだろうが、そこは羽搏く力が強いとか俺の体重を軽くするとかなんとかで、なんとかなっているのだと思うが……まぁ要するにこの人数は自力化の頑張りを帳消しにするほどなのだ。
はぁ……変なところだけ現実的で融通が利かないのだから面倒臭いよなこの世界は。でもそうでもしないと常に世紀末のような惨状になりかねないので仕方ないのだろうが、それでも厄介だ。
ちなみにこれに気付いたのは、ゲヴァルティア帝国を出た頃ぐらいで、流石に一週間も歩けばその頃には徒歩に飽きてきていたのでよしじゃあ飛んで行こうってなって、あれ、重くて飛べない……って感じで気付いた。なのでそれまでは馬車を使うと言う考えは思い付かなかった。だが今は違う。切実に馬車を求めている。
……あと、重くて飛べないって言ったら総叩きにされたので、言葉が悪かったなと多少は反省している。
「ジェシカとスヴェルグは今までこうして旅をしていたのか?」
「そうだよー、冒険者として依頼達成すればお金が手に入るとは言え、馬車を雇うお金ももったいないし基本的にこうして歩いてたねぇ」
「いざと言う時にいつでも対応できるように貯金してるってわけさね」
「なるほどな」
道理で平気そうなわけだ。何百年と繰り返してきた事なのだからこれが当然だと思っているのだろうな。逞しいな。 特にジェシカは地球人だったらしいが……確か斎藤芽依って名前だったか? それがよくこんなのに耐えられるな。最近聞いた話だと地球にいた頃は俺と同い年の学生だったらしいし、随分と変わったものだ。
……そうだ。ジェシカが地球にいた頃の話でも聞いてみるか。どんな学生がここまで変化したのか気になるしな。
「ジェシカが地球にいた頃はどんなだったんだ?」
「地球って言うと、確かアキが住んでた世界の事よね? 異世界人だとは聞いていたけど、ジェシカもそこの出身だったの?」
「うん、そうだよ。 で、えっと地球での暮らしだよね?」
「あぁ」
そう言えばジェシカの出身地の話をしていなかったなと思いながら返事をした。
「えっと……まずこの前も言ったけど、私は学生だったんだよね。 高校一年生だったんだけど誕生日が来る前の15歳時に、部屋の掃除をしてたら上から落ちてきた私のラノベがいっぱい落ちてきて死んじゃったんだ」
「らのべとはなんじゃ?」
「えっとぉ……本……だね」
「間抜けな死に方なのだ」
「本当にね。本だけに」
と、こんな感じでジェシカはちょっと変な奴なのだ。存在自体が……死に方すらギャグと言うか、まぁとにかく生粋の面白い奴なのだ。ジェシカの明るさがそれに拍車をかけているのだろうな。
「あぁ、趣味は異世界モノのラノベを読む事だったなぁ……今はそれそのものの世界に転生できて幸せだね!」
「じゃあここにいるクロカとかは結構お前の好みなんじゃないか? 定番の龍種だし」
「そうだねぇ、口調もそれっぽくていいよね。 のじゃとか、のだ、とか」
「童達の口調は変かぇ?」
「いやいや、凄く貴重なものだから感動するレベルのものであって、全然変なんかじゃないよ!」
「ならいいのじゃが」
なるほど。 クロカ達への視線が憧れの人を目にした奴のものだったからそうだとは思っていたが……やはりそうだったか。
「人付き合いとかはどんな感じだったのですか?」
「あ、それ気になるぅ? 親友の事だし気になっちゃうよねぇ?」
「べ、別にそう言うわけじゃありませんから」
「ツンデレさんめっ! それで人付き合いに関してだけど……まぁ……ぼっちだったよね」
ぼっちと言う単語が通じているのか分からないが、ジェシカの物言いから察したのか哀れみの視線がジェシカを突き刺す。 そう言う視線が一番辛いんだからやめてやれとは言えなかった。悲壮感漂うジェシカの背中が面白かったからだ。寧ろいいぞもっとやれとすら思っている。……他人事ではないのだが。
「大丈夫ですよジェシカさん。 私達がいますから」
「ソフィアちゃん……いや、ソフィアたん……マジ天使ぃ」
「た、たん……?」
泣きつくジェシカに戸惑うソフィア。
そんな愉快な光景を前に、地中から何かが迫って来ているのが分かった。
振動を伴っているのでフレイア達も分かったのかすぐにそこから離れだしている。
だが、それは覚えのある気配だったので俺は安心してそいつが出てくるのを待つ事にした。
覚えのある地中から現れる生物と言えば限られるだろう。俺がすんなり思い出せる程に覚えていると言う時点で更に限られてくるだろう。
鏡が割れるように入る亀裂が地面に表れた。 それは大きな振動によるものなのだろうが、どうにも地面そのものがあいつのために文字通り道を開けているように見えて仕方ない。
そんな門を彷彿とさせる亀裂はどんどん大きくなっていき、やがて地面の中身を覗かせた。バラバラと崩れる土は地中に落ちていくが、そこから出てくる生物はそれを気にしていないのかそのまま土を受け入れているようだ。
パックリ口を開けた奈落の穴から這い上がるのは異形だ。だが以前のように黒い霧や、地面を溶かす溶解液、粘性の高い粘液などは撒き散らしていない。今回は俺が目当てなようで刺激しないようにしているようだ。
その異形の姿は、四足歩行で鬣のない獅子の顔に、ステンドグラスのような鮮やかな色合いの翼が二対生えており、四本全てが異なる様子の足に、百足の胴体が三本尻尾の代わりのように付いている。
前とは少し違う見た目なものの概ね同じ姿のそいつは、俺を遺跡世界で最初に殺した生物で、俺に殺された生物の元となる、原型の魔物──アビスだ。
こいつから漂うオーラ? は以前見たものと全く違い、かなり強そうな雰囲気を漂わせている。比べるとすればスヴェルグを負かしたアルタと言うらしいゲヴァルティア帝国の皇帝より少し弱い程度だろうか。
『久し振りだなアビス。 何をしに来た?』
念話を使ってアビスに話しかける。
「人間の発声器官を再現する事ができたから口頭で話をしよう」
「なんだ。 普通に話せるのかよ」
どのようにして人間の発声器官を再現したのか気になるが、まぁ自分で解剖でもしたのだろう。この世界にそう言った知識はあるにはあるのだが、貴族や研究者の間で秘匿されているらしいので一般人が人体の構造を知る事はないのでそう考えた。
「それで? 何をしに来たんだ?」
「祝いに来たんだ。 どうやら【魔王】へと至ったそうだからな、偶然近くを通りかかったからついでにと思ったんだ」
祝いに来た……? そんな祝われるような事じゃないと思うんだが……だが、『知る者』であるこいつが俺を祝うんだから、【魔王】には何か喜ばしい事があるのかも知れない。……嫌味の可能性も考えたが、殺されたくない一心であの場を去ったこいつが俺の機嫌を損ねるような真似をするとも思えないので嫌味の可能性は早々に隅に退けた。
考えても分からないので素直に尋ねる。
「祝いにって、魔王になった事の何を?」
「魔王とは神が定めた世の摂理を越える存在だ。 どうしてそんなものが現れるのかと言えば、それは『神』ではなく、『世界』が魔王を生んだからだ」
……ふむ。 俺は勝手に神がこの世界を管理しているものだと思い込んでいたが、どうやらこいつの話を聞くに、世界は神の意思に逆らって色々とやっているようだ。
「神は意思を持つものに直接的な干渉はできない……厳密には直接的な干渉はできるのだが許されていないだけだ。 ……だが世界は意思を持つ。レベルやスキル、魔法と言ったようなステータスの存在を創ったり、今回のように【魔王】などと言う神の意思に反したものを創造している。それはこの世界にとって神が寄生虫のようなものだから、邪魔で排除したいからだ」
「寄生虫……?」
「そうだ。 この世界は誰かに生まれたり創られたりしたものではない天然の世界だ。神の管理対象外にある天然物なのだ。それに付き纏う神はまさしく寄生虫だ。この天然の世界に寄生して人々からの信仰を得て自分の力を取り戻すために寄生している寄生虫なのだ」
つまり、神は意思があるものに干渉できるが、何らかの制限があるのでできない。
自然発生した天然物であるのこの世界は神の管理対象外にあり、意思を持つので神は思うように管理できずこの世界に手を焼いている。
この世界が神に逆らうのは、この世界にとっての神は寄生虫のようなもので邪魔だから【魔王】を生んで神を排除させる……と。
「天然の世界って言ったが、天然じゃない世界もあるのか?」
「もちろん、神が生んで意思を与えなかった世界が天然ではない人工的……いや、神工的に創造された世界がある。そう言った世界では当然その世界を創った『創造神』が一番信仰されているのだが、他にもその世界を管理する神……様々なものを司る神が複数いるのが当然だ。 だが、そこで信者を得て信仰を得られなかった落ちこぼれの神が天然の世界を……信仰と言う文化がない世界に寄生するのだ」
「へぇ……面倒臭いんだな神って」
要するに神は何らかの理由で信仰されたいからこうしてこの世界にやってきて神として振る舞っているのか。だがそれは世界にとって邪魔だから排除すると。
例えるなら保護者でもないのに保護者面している奴と、そいつを目障りと思う子供と言ったところか。
確かに保護者でもないのに保護者面してる奴らはウザイのは分かるが、自分の代わりに色々と管理してくれているのだから黙って受け入れておけばいいのに。
……と、思うが世界にとってはそうじゃないんだろうな。
神が存在しないのだから願いや信仰と言ったらものが存在しない。
つまり自分の力だけが頼りで実力至上主義で弱肉強食の強かな世界に、希望や願い、信仰などと言った個々の強さを鈍らせる余計なものを持ち込まれたのだから。
まぁ……確かに自分の強さを鈍らせる弱さに蝕まれるのは嫌だな。
……かと言ってもアビスの言い方は神を寄生虫などと揶揄するような、完全に世界寄りの言い方だから真に受けられないしな……
…………はぁ……どちらが正しいんだか分からないな。
「……で? どこに祝う要素があったんだ? 俺にとっては面白くもないただの面倒事を押し付けられたようにしか思えないんだが」
「この世界に寄生する神を殺せば莫大な強さを得られるのだぞ?」
「……確かにそれはいいな。 ……と言っても俺はどちらかの肩を持つつもりはないからな」
「そうか。 だが、どうしても強さが欲しいと言うのなら『神殺し』を検討するといい。 簡単に強さを得られるからな。では、私はこのあたりで行かせてもらおう」
「おう。じゃあな」
そう言ってアビスは奈落のような穴へと戻っていった。
いやぁ……それにしても面白い話を聞けたな。神だの世界だのって。やはりあの時あいつを殺さずに生かしておいてよかったな。流石『知る者』だ。
全てを鵜呑みしたわけではないが、参考程度にとどめておこう。
「すっごいねぇ! キメラだよアレ! たまに見かけたけど、こんな近くでじっくり見たのは初めてだぁ!」
「あぁ。キメラは厄介だからねぇ。関わるべきじゃないんだけど……今のはいったいどういう状況だったんだい?」
「アキ、今の何?」
ジェシカが興奮し、スヴェルグとセレネが疑問に思っているようだ。クロカ、シロカ、クラエル、アケファロスの魔物組は無関心な様子だった。フレイアとソフィアは絶句して固まっていた。
ソフィアはともかく、フレイアお前は見たことあるだろう?
「そう言えばフレイア以外は知らないんだったか。 あいつはアビスって言ってな、俺と少し縁がある魔物なんだよ」
「え、縁……? よく分かりませんけど、怖かったですよ……」
「本当にね……みんなはあんなのを目にしてどうして平気そうにしてたのかしらね?」
「全くです」
フレイアとソフィアのどちらかと言うと一般人寄りの二人はそう会話している。 そう言えばここに普通の人間とか魔物は一人もいないな。
フレイア王女だし、クロカとシロカも龍の姫だし、クラエルとアケファロスはダンジョンマスターだし、セレネは絶滅したはずの吸血鬼と鬼人の混血だし、ソフィアは聖女だし、ジェシカは転生者だし、スヴェルグは剣聖だし……なんだこれは。 いつの間にかこんなのを普通だと思うようになっていたが、改めて見直してみればとても面白い奴が集まっているじゃないか。
こんな有り様なのにも関わらず俺は面白い事を求めていたのか……我ながら強欲な事だな。
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あのタイミングで狙いすましたようにやって来たアビスだったが、アビスは本当に通りかかっただけで、そのついでに秋へ情報を提供しに来たのだ。
アビスがあそこを通りかかった理由はアルタにあった。
戦争後、自国に帰還したアルタは火の手が上がる帝都に特に反応する事なく、帝都を出て自分の戦力の増強をするために付近の森へと向かった。
そこで偶然出会したアルタとアビス。
「確か君みたいなのをキメラって言うんだっけ? いきなりで悪いんだけど僕に支配されてみないかい?」
「断る」
アルタから底知れない不気味さを感じとったアビスは当然その提案を蹴った。すると、「じゃあ力尽くで支配するね」と言うアルタ。
このままではこの得体の知れない男に支配されてしまう、そう悟ったアビスはステンドグラスのような二対の翼で空へ飛び立った。だが、それでもアビスを目掛けて飛来する魔法を避けながらアビスはそこを離れる。
そうして飛んで逃げて、かなり離れたところでアビスの独壇場である地中へと潜った。アビスの固有能力【深淵】は、地上から低いところに行けば行く程ステータスが上昇すると言う効果を持っていた。アビスがいる位置から丁度真上に行った場所にある地上を0としてステータスが変動するので、山の下と平地の下では圧倒的に山の下にいる方が有利になる。 ちなみに【深淵】には他にも効果があるのだがそれはここでは語らない。
そしてアビスは秋達の気配を感知して地上にでてきたのだ。
秋は自分の成長を待つために自分を見逃した。ならアルタと言う脅威から守ってくれるはずだと。
そしてそのついでに自分の目的である神の殲滅への協力を促したが、いい結果は得られなかった。
しかしこの事を秋に知ってもらえたのは僥倖だと言えた。
なぜならあの人間は既に神殺しを為しているからだ。
神殺しを為した者は神から得られる経験値の膨大さを知っている。なので神殺しを為した者が力を求めると、いずれその経験値に惹かれてまた神殺しを為す可能性が高いからだ。
アビスは世界が認めた『特殊個体』で『名前持ち』の一体だ。『特殊個体』と『名前持ち』への認定は神でも行えるのだが、アビスは世界が認定した『特殊個体』で『名前持ち』の魔物だ。 なので世界への忠誠心が高い。なのでこうして世界のために神の殲滅を目論んでいた。
あと、この『認定の称号』による忠誠心の高さだが、これは世界の意思の認識と、その個体によって変化する。
まず、世界の意思の認識とは言葉通り、世界の意思を認識する事だ。アビスのように世界に意思があると知る必要があるのだ。『知る者』と言う称号を得たからアビスだからこそ知り得た事であり、世界の意思の認識は通常の生物にとっては困難を極めるものだ。
なぜならそれらは神の存在のせいで世界の意思の存在がかき消されてしまっているからだ。世界が地震や嵐、火山の噴火などで自分の意思を主張しようともそれらは「神の怒りだ」「自然災害だ」と言うように解釈され、世界の意思はかき消されてしまうのだ。
次に個体差だ。
これは簡単で、その『認定の称号』を得た生物の性質で変化する。もしその生物のプライドが高かったり、一人でいるのが好きな生物であればそれらの生物が世界の意思を認識したとしても忠誠心は皆無のままだ。
あとは、既に誰かに仕えていたり、慕っていたり、服従していたり、支配されていたり……すれば世界の意思を認識したとしても忠誠心は変わらずその仕えるべき人間に向いたままだ。
なのでアケファロスは、アビスが秋に向かって話している世界の意思の存在の話を聞いても世界へと忠誠心を向けなかった。
ニグレド、アルベド、クラエルの名付けは秋であるため、この話を聞いても揺らぐ事はなかった。
つまり世界は神よりも自分を慕っている生物が少ないと言う圧倒的に不利な状況にある。
神は生物からの信仰心を得て自分の力を増すために、生物が住まう世界を攻撃しない……できないので世界は安全だと思うだろう。
だが、これは大きな間違いだ。
神からすれば世界が意思を持っている事により、自分達が思うように行動できないので神は世界ではなく、世界の意思を疎ましく思っている。
なので神は世界ではなく、世界の意思を攻撃するのだ。その攻撃の方法とは、先ほども言った通り世界による意思の主張をかき消して徐々に世界の自我を傷付ける事だ。
意思が尊重されないものは人間、亜人、魔物、神、世界を問わずに死んだも同然の存在として扱われる。なぜならその者の存在が認められないからだ。
そうして誰にも存在を認められなくなった世界は徐々に神への抵抗を諦め、自分の意思を押し殺して神の存在を認めて受け入れるようになる。
すると、世界の意思の主張である自然災害もなくなり、平和になった世界を神のお陰だと崇める者が現れ始める。神にとっては世界の精神を殺すのは一石二鳥。邪魔な世界を実質的に殺せて、実質的に死んだ世界の上で暮らす生物達からの信仰も得られるのだ。
そんな信仰で溢れ、思考を止めて祈りを捧げ、自力を……自主独立を忘れ、他力本願で溢れた世界は生きていると言えるだろうか?
否、それは死んだも同然の世界だ。
世界の死はまさしくそこに生きる生物全ての死に繋がるのだ。
そこに生きる生物のためを謳う神がそうして生物の自我を殺しているのだ。そして神にはその自覚が一切ないのが最悪なところだ。
寄生先──宿主の意思や自我を崩壊させ、乗っ取って。
自分がそこの主導権を握る。
それは正に──
──寄生虫だ
分かり難いでしょうが一応
【深淵】
『平地から地底まで』
平地─0───────
|
|←平地(地上)から地底までの深度3
|
地底─アビス(ステータス上昇値3)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『山から地底まで』
山──0───────
|
|←山(地上)から地上までの深度3
|
平地─────────
|
|←平地から地底までの深度3
|
地底─アビス(ステータス上昇値6)




