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第245話 去る者、追う者

 屋敷へ帰って来てから自分の部屋にある荷物とかをまとめた。 と言ってもあまり俺の物はなかったのですぐに済んでしまった。なのでクロカとシロカの部屋を見に行く事にした。龍種だしなんかあいつらの部屋は散らかってそうだからだ。

 だが、意外にも二人の部屋は綺麗だった。


 ……まぁそうか。この世界にはゴミになるものがあまりないからな。ペットボトルや食べ物の袋とかそう言った類いがないのでとても環境にいい世界なのだ。


 ついでにクラエルとかセレネ、アケファロスの部屋にも行ってみたが、やはり綺麗だった。


 つまらないな。 うわきったねぇ部屋、とか言ってバカにしたかったのだが、こうも綺麗だとバカにできないじゃないか。


 フレイア部屋はこの間訪れた時には綺麗だったので見る必要はないので、そのまま自分の部屋に帰り、夕飯を食べて風呂に入って過ごす。


 それにしても不思議だなこの感じは。

 さっきまで戦争が行われていたのにこうして普通に暮らして平和を享受すると言うのは。


 この世界の戦争の形は地球にいたものと全く違い、一日の内に終わるようなものだった。地球にいた時に聞いた戦争の話では長期間に及んでの暫く継続する戦争だったらしいが、この世界の戦争は短期間で終戦する、短く壮絶なものだった。


 俺の知識にある戦争と全く違うのに驚きを隠せない。世界が異なるだけでこれほどに違うとはな。魔法やスキル、ステータスなんてものがある時点で比較するべきではないのだろうが、やはりこの差は凄いだろう。


 久し振りに静かな自室のベッドの上でそんな事を考えていると、扉がノックされたので、出てみると、そこにはパジャマ姿のフレイアがいた。

 ベッドに侵入しに来たのだろうか。……だが、今までは俺が寝た後に来ていたはずなんだが……


「どうした?」

「ちょっと話があるの。 いいかしら?」

「あぁ」


 取り敢えずフレイアを部屋に入れて向かい合う。机と密接している椅子を引いてやってからベッドに腰掛けるが、なぜかフレイアは俺の隣に座った。


「話ってなんだ?」

「ここを出るって話よ」


 なるほど、それか。 今になってオリヴィアと離れる事が嫌になったりでもしたのだろうか。学業とかマーガレット達の事もあるしな、やはり無理があったか。


「あぁ、それか。 何か問題があったか?」

「アキはまた説明をはしょったでしょ? だから詳しく話を聞いておきたかったのよ」

「そう言えばそうだったな」


 言われてから面倒臭くて説明を省いたのを思い出した。なのでそのまま理由を語る。さっきも説明した魔王が勇者と賢者の側にいるのはおかしい、と言うものと、アデルとクルトの成長を見たくないからと言うものと、最近感じていた人間関係のせいで鈍った鋭さを磨くため、異世界を観光してみたかった、などの理由を告げた。


「観光って言う事は色んなところへ行くのよね?」

「そうだな。 確実に行っておきたいのはエルフとかドワーフとかの亜人が住んでる国だな。世界樹とやらにも行きたいし、海底の神殿とか、空に浮いてる島とかも行っておきたいな。あとは──」


 俺が言っているのは全て存在すると言われているものだ。 ある場所には世界樹なる空を穿つほど巨大な大樹が、ある場所には海底神殿なる海に沈んだ古代の神殿が、ある場所には見上げれば遠くに見える空島が、と言った具合にそんなロマン溢れるものがたくさんあるらしい。


「そんなに行きたい場所があったのね……まぁいいわ。 私はどこまでもアキについていくから覚悟してなさい?」

「そうか。……どこまでもか」

「そうよ。どこまでも一生ついていくわよ」


 いやぁ……それは完全に……


「プロポーズにしか聞こえないんだが」

「はぁ!? ばっ……! ばばば、バカじゃないの!? そんなわけないでしょ!?」

「分かってるって、冗談だ。 そんな必死に否定しなくてもいいだろ?」


 そう言う意味じゃないと分かっていても流石に傷付くんだが……

 顔まで真っ赤にして……この冗談、そんなにムカついたか?


「……冗談って言うのも……そ、それはそれで……なんか……」

「ん?」

「な、なんでもないわよっ! とにかく! 私はずっとアキについて行ってずっとそばにいるからっ!」


 そう言って部屋を出ていくフレイア。


 うーん……やはりプロポーズにしか聞こえないな、その台詞は。


 ……と言うか別にお前がついて来なくても、俺からついて行ってやるのにな。


 お前は俺の護衛対象なのだから。









 翌朝


 いつもより早く起きた俺は、寝巻きから胸ポケットに装飾が施された複製制服に着替えてからフレイア達を起こして回る。 もちろん揶揄うのも忘れずにだ。

 ちなみに何をしたかと言うと、いつも俺がされている事をやり返しただけだ。 目覚めれば隣に誰かがいる。いつものように行われるそんな悪戯をやり返したのだ。


「心臓に悪いからやめてよね……」

「安心しろ。 俺は滅多に早起きしないからもうする事はない」

「我のところには来てもいいのだぞ?」

「だから俺は早起きしないから無理だって」


 俺達は手ぶらでそんなやり取りをしながら屋敷を出た。荷物は各自のアイテムボックスの中だ。屋敷の門だが、なんとこんな朝早くから門番が立っていた。 なので一列になって【認識阻害】や、【気配遮断】【無音行動】などの隠れる系のスキルを全て使って門番の間を素通りして王都を外へと向かって歩き出す。


「それで、どこへ向かうのですか?」


 アケファロスが俺に尋ねる。 アデル達が向かう可能性があるアブレンクング王国に行く事も考えたが、既に蘇生させた生物をアデル、クルト、ラウラに放っているので、反対側のゲヴァルティア帝国方面に向かおうと考えている。まぁ蘇生させた生物は融通が効かないのでこまめに回収する必要があるだろうが、アブレンクングからゲヴァルティア程度であれば十数分もあれば余裕だろうから毎日でも回収できるだろう。


 ゲヴァルティア方面に向かう理由は、そちらの方向にエルフの国があるからだ。残念ながらエルフの里は前皇帝が率いるゲヴァルティア帝国軍が侵攻したせいで壊滅したが、エルフの国はまだ存在している。これはドワーフや獣人の国にも言える事で、前皇帝が率いていたゲヴァルティア帝国は亜人の国を滅ぼしていない。あくまでその周辺の里や村を侵攻しただけだ。オリヴィアはゲヴァルティア帝国が異種族の国を侵略したと言っていたが、それは早々に届けられた情報が間違っていただけだ。


「取り敢えずエルフの国に行くつもりだ」

「うむ、なるほど。アキは美形の女子(おなご)にチヤホヤされたいだけのようじゃな」

「アキ、欲張り。 こんなに女の子に囲まれてるのに、まだ足りない?」


 酷い言われようだが、まぁ正直エルフなんて美形で耳が長くて弓や魔法に長けているだけだし、見た目以外は価値はないだろうな。だが、それならこの王都でたくさん見たし、どうでもいい。

 俺の目的は『エルフの国』と言う存在だ。

 建物はどんなだ? ツリーハウスのような感じか? 暮らしは? 食生活は? そう言った、エルフという種族の生態を知りたいだけだ。


「アキさん、言い返したほうが……」

「図星だから言い返さずに無言なんでしょうね」


 流石聖女ソフィア、優しい。……アケファロスは後でゲームで負かしてたっぷりおちょくってやる。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 戦争が終わった日の翌日の昼頃、王城から帰って来たオリヴィアに向かって屋敷から走ってくる者がいた。


「オリヴィア様! 大変でございます!」


 そう言うのは息を切らすオリヴィアの側仕えのメイド。所謂専属メイドと言う奴だ。このメイドはいつも慌ただしく忙しないと言ったような人物で、皿を割ったりするのは当然のメイドだ。


「何があったんです?」

「そ、それが……! フレイア様が魔王に攫われてしまって!」

「え…………?」


 いつものように慌ただしくしているので、またですかと言った様子で専属のメイドに尋ねたオリヴィアは想定外の言葉に固まる。


「ま、魔王……?」

「はい、本物の魔王かは分かりませんが、フレイア様のお部屋にこれが」


 専属メイドがオリヴィアに手渡すのは紙だ。手紙だ。

 すぐに手紙を開いたオリヴィア。 手紙にはこう書かれていた。



 ─王女は私が預かった。返すつもりはないが、どうしても返して欲しければ私を見付け出して奪いとってみろ。魔王より─


 そう短く書かれていた。


 これは魔王なのかは分からないが、魔王を名乗る何者かが屋敷の警備を突破して、大事な娘を攫った。その事情にサーッと血の気が引いていくオリヴィアはふらつきながらも屋敷へと入っていった。

 オリヴィアはフレイアの悪戯の可能性があるのでそうして暫く屋敷中を探し回るが、とうとうフレイアは見つからなかった。


 思えばフレイアの護衛を頼んでいた者も、その者が連れてきた者達も忽然と姿を消していた。


 もしかして魔王に敗れた?


 オリヴィアはそう考えるが、あの時見た秋のステータスから鑑みてあり得ないと考える。 ならば秋達はどこへ?


 考えた果てに出た結論は、秋達が魔王の配下でフレイアを攫うために潜入していたのではないか、と言うものだ。 秋が時々屋敷から抜け出す事や、たまに帰りが遅い事や、フレイアだけを先に帰らす事なども合わさってその疑いを加速させていた。


 だが、それでもそれはあり得ない。


 なぜならオリヴィアの持つ【看破】が秋を悪人ではないと結果を出したからだ。【看破】は他人に使えばその人物の本性などを知る事ができる。嘘なども見抜ける他人との腹の探り合いなどにおいては万能なスキルだ。そしてそれは相手の瞳を覗けば覗くほど鮮明に知る事ができる。

 別に瞳を覗かなくても【看破】は使えるのだが、瞳を覗けばもっと深い深層を覗けると言うだけだ。


 そんな【看破】が悪人ではないと告げたのだ。秋達が魔王の配下などだった可能性は低い。ならばフレイアの家出か? 秋達はそれに加担している? ……などと色々考えるが、答えは出ずオリヴィアは再び登城してアレクシスにこの件を伝えた。


「なんやって!? 娘さんが魔王に攫われたぁ!? ほんまかい!?」

「えぇっと……?」

「すまん……本当か? と聞いたのです」

「本当です。 これがその手紙です」


 オリヴィアはアレクシスに魔王が書いたと思われる手紙を渡す。


「ほんまやなぁ……だが、本当に魔王なのなら勇者や賢者はどこに? 魔王討伐と言う役割を担っている者が名乗り出ていないなどおかしくないか?」

「……言われて見ればそうですね。……ですが魔王でなければクドウ様方が急にいなくなられた説明がつきません」

「どうしてそう思われるのだ?」

「クドウ様は破格のステータスをお持ちでした。 伝承にある魔王など目ではないぐらいに。そんなお方がこのタイミングでいなくなられました……それはつまり……」

「──あぁなるほど、負けるわけのない人物が魔王の出現と同時に姿を消したからもしかしたら油断でもして魔王に殺されてしまったかも知れないと、そう言うわけだな」


 言葉に詰まるオリヴィアを気遣って言葉を次いだアレクシスに、重々しく頷くオリヴィア。


「…………そうやな……まぁ自分らにできるんは張り紙でもして勇者と賢者を見つける事ぐらいやろうな」


 そう言ったアレクシスが提案したのは、王都や避難所に『勇者と賢者を探しています』と言ったような張り紙を張って勇者と賢者が名乗り出るのを待つ事だった。

 まず間違いなく魔王の誕生を国民に勘付かれるだろうが、この国を救った英雄の子孫のためならばそんな心配はしていられなかったのだ。


 アレクシスは身内に甘く、身内のためならば盲目的になって周りが見えなくなる人物だ。 アレクシスがそうなるわけは、アレクシスが身内を失う事の怖さを知っているからだ。前世で身内が悉く死に、周囲から孤立したアレクシス──陽吾は今世では身内ととことん関わって、いつ身内が死んでも悔いが残らないようにすると決めたのだ。

 そして義理人情に厚い陽吾は、例え自分が受けた恩でなくても身内が受けた恩なら自分もそれに報いると言う性格なので、こうして先代の王が受けた恩に報いているのだ。


 その後、屋敷に帰ったオリヴィアは食事も喉を通らず、風呂でも安らげず、瞼も軽くて閉じられないと言う散々な状態に陥り、一時はかなり憔悴していた。だが、持ち前の図太さで翌日には立ち直り、前向きに考える事ができるようになっていた。


 屋敷の広間に使用人、及び警備員や門番、騎士と言った屋敷の人間を全て集めてオリヴィアは高らかに言い放った。


「ここにいる皆さんでフレイアとクドウ様を探しに行きます」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 アデル、クルト、ラウラは、ティアネーの森に向かう途中、騎士達が王都に張り付けている紙に目が行った。


 魔王が誕生した事は、それと同時に取得したスキルで把握していたが、まさかこうしてバレているとは思いもしなかったアデル達三人。


 その張り紙は勇者と賢者を探していると言ったような紙で、アデル達はそれを見て相談する。


「えぇ……どうしようこれ。 お母さん達の許可も得てアブレンクング王国に向かう準備が整ったところなのに……」

「無視でいいんじゃないかな。 協力関係が増えれば俺達の周りの人も忙しくなってストレスが溜まるだろうし、ソルスモイラ教と協力してるであろうテイネブリス教団と円滑な協力関係を築くには無闇に関わらない方がいいと思うし」

「え、でもテイネブリス教団やソルスモイラ教よりこの王都の人達の方が規模も大きいですし、王様とも知り合いですし、こっちの方がよくないですか?」


 クルトとラウラの意見が相違する。 珍しく自分の意見を言ったラウラに驚く二人は考える。


「でも、ソルスモイラ教は広く布教されていて信者も大勢いますからね……王都の人達と同じぐらいの数はいると思いますよ」

「それに、ボク達は運命の女神ベール様に会った事もあるし、その繋がり大事にした方がよさそうだし、しかもラウラはベール様の加護も受けてる聖女なんだしさ、ソルスモイラ教とテイネブリス教団についた方がよさそうだよね」


 簡単言うと国との繋がりか、神との繋がりかだ。

 アデル達は魔物の大襲撃の後に国王アレクシス・ミレナリアとの繋がりも、夢を介して神聖な領域で運命の女神ベールとの繋がりも得ている。

 そんな大きな……大きすぎる、人が一生で一度関われるかどうかの繋がりを取捨選択しなければいけない。その贅沢な選択にクラクラと眩暈がしてくるが、それでも三人で相談して決める。



 その結果、アデル達は『王』ではなく『神』を選んだ。


 理由は単純に、王より神の方が頼りになると思ったからだ。それに世界に広がっている信者も含めればミレナリア王国の規模を越えると考えた。 あとは、アデル達への理解の深さだ。 ソルスモイラ側はラウラが【神徒】だと知っているが、ミレナリアは知らない。その差は大きい。【神徒】がどういう存在なのかを知っているベールと、知らないアレクシスでは、勿論ベールを選ぶだろう。そもそも【神徒】とは即興でベールがつくったものなので地上の人間は知らないし、伝えていいのかも分からないのでなんにせよ、ソルスモイラ教とテイネブリス教団を選ばなければならなかったのだ。


 アデル達は張り紙の前から去って、インサニエルとカエクスとの待ち合わせ場所であるティアネーの森へと向かった。


 友達との──仲間との別れは辛いから。

 と言う理由で別れの挨拶もなしに旅立つのだ。仲間の元を去るのだ。後ろ髪を引かれる思いだが、引き返せば辛いだけなので、後は進むしかなかった。


 無事に親の許可も得られた三人はティアネーの森へと歩みを進めた。


 簡単に国外への転校を許し、それに伴わないなどどうかしていると思うが、三人の親はそう言う人物なのだから仕方ないのだ。

 自分の子供に無関心で、子供が賜った【勇者】【賢者】【神徒】と言う大層な役割にも目の色も変えず、相変わらず冷たくて無関心だ。


 三人が幼い頃はそんな無関心ではなくちゃんと関心持っていたのだが、無関心へと変わったのは三人がこの役割を得てからだ。親は自分に起こった変化を知らないし、気付いていないのだが、三人が役割を得たのがきっかけなのだ。


 その原因は三人をそれぞれ【勇者】【賢者】【神徒】に選んだ三柱の神だけが知っている。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 秋とフレイア、ニグレドとアルベド、クラエルにセレネ、アケファロスにソフィア、アデルとクルトとラウラが姿を消した事を知った、マーガレットとラモン、エリーゼ。


 そんな三人は、疎らに冒険者が集まりつつある王都の冒険者ギルドの一角に集まっていた。


「姿を消したクドウ達の事についてだが、ここにいる三人で探しに行こうと思う」

「…探すつったってどこを探すんだよ?」


 ラモンが当然の疑問ぶつける。だが、ここにいるエリーゼは伯爵家の娘だ。多少の記録などには目を通す事ができた。


「それなら大丈夫ですわ。 門の通行記録に残ってますもの。 クドウさんフレイアさん、ニグレドさんアルベドさん、クラエルさんセレネさん、アケファロスさんソフィアさんの8名はゲヴァルティア帝国方面の門から王都を出ましたわ」

「…すげぇな。そんな事もできんのかよ」

「これでも伯爵の娘ですわよ? 侮らないでくださいまし。 ……それでアデルさんクルトさんラウラさんの3名はフィドルマイア方面の門から王都を出ましたわ」


 エリーゼの情報収集によってあっさりと、秋やアデル達の大まかな足取りが掴めてしまった。


「問題はどちらから捜索するか……だが、これはクドウ達の方を先に探そうと思う。 この時期にあっちに向かったんだ。恐らくゲヴァルティア帝国に向かったのだと思う。 目的は……皇帝を直接……とかだろうな。 二人はどう思う?」

「…俺は賛成だぜ。 それにアキならアデル達も簡単に見つけだせるだろうしな。 目的地もそれで間違いないだろうよ」

「わたくしも賛成ですわ。 理由はラモンさんと同じですわ」


 二人の答えを聞いたマーガレットは頷いてから喋りだした。


「なら決まりだな。 では、すぐに準備を整えて探しに行くとしよう。こういう問題は時間が経てば厄介になるからな。集合場所はゲヴァルティア帝国方面の門の前だ」


 冒険者ギルド出てそれぞれの家へ向かって捜索の準備を整える。捜索は長引くだろうから念入りに、そして時間も惜しいのでテキパキ準備をする。




 大体十分が経った頃だろうか、それぐらい経って門の前にマーガレット、ラモン、エリーゼが揃った。


「じゃあ行こう。クドウ達を探しに」

「…おう。 全くよぉ……男友達に全員逃げられたなんて勘弁して欲しいぜ」

「あら、そうでしたわね。 クドウさんとクルトさんがいないと、このパーティの男性はラモンさんだけですわ。 なら居心地の悪い思いをさせないためにも早急に見つけませんといけませんわね」

「いっそハーレムなんか作って見るか?」

「…はっ! ハーレムなんて、冗談キツいぜ。そう言うのはアキの役割だ。俺には似合わねぇっての」

「あははははっ! 確かにそうだ!」


 そんな軽口を叩き合いながらマーガレット達はゲヴァルティア帝国に向かって歩き出した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 ティアネーは、昨日、共に戦った人物のもとを訪ねていた。


「おはようございますです。ジャンクさん、グリンさん。 昨日のお礼をしに来たです!」

「お礼?」

「はい! お二人がいなかったら私は帝国軍に殺されてたと思うです。だからお礼をしに来たです」


 私服姿のジャンクとグリンにティアネーはそう言う。逃げ遅れたティアネーの前に現れた帝国軍。それと戦って結果的にティアネーを守る事になったジャンクとグリンに、ティアネーはお礼をしに来たのだ。


「これは『物攻増加の薬』と『治癒の薬』です! お二人に必要だと思って作ってきたですよ」

「おぉ、助かる。 ほら、グリンも受け取っておけ」

「分かりました」


 ティアネーが差し出す薬を受け取るのを拒んでいたグリンはジャンクに言われて漸く受け取った。


「さ、次はライリーさんです。 行くですよ」

「は? あ、おい!」

「先生!」


 ティアネーがジャンクを引っ張ってやってきたのはライリーが住んでいる屋敷だ。ライリーも一応騎士爵を賜っているので貴族の一端なのだ。なのでライリーの屋敷を探すのは簡単だった。


 ちなみにティアネーは王都に帰って来ていた一般人に「人畜無害そうな茶髪で黒目の男の人と、窶れた緑髪で青目の男の人の家ってどこです?」と到底分かるわけがない質問をしたのだが、その一般人がジャンクとグリンの知り合いだったため、無事にジャンクとグリンの道場の場所を知ることができたのだ。

 ……そう。ジャンクとグリンはあのガラクタまみれの道場で寝泊まりしているのだ。



「おはようございますです、ライリーさん。 今日は昨日のお礼をしに来たです!」

「おはよう。ティアネー。 お礼ってなんだ? そんな物を渡される覚えはないぞ?」


 ジャンク達と同じ反応をする私服姿のライリーに、ティアネーはジャンク達に言った事と同じような事を言う。


「いえいえ、ジャンクさん達と一緒に私を助けてくれたじゃないですか! だからそのお礼をするです! ……これは『治癒の薬』と『美肌化の薬』です。 美肌化の薬は私のオリジナルなんですよ! 効果は私の折り紙つきです!」

「お礼の品を要らないと蹴るのは失礼だろうし、ありがたく受け取っておこ

う。 しかし美肌化の薬か……最近は忙しくて肌の手入れなどができなかったからありがたいな」


 戦争関連で忙しく動き回っていたライリーはそう言う。肌は特に問題はないように見えたが、本人は気にしていたのだろう。


「あとはスヴェルグさんとクドウさんですが……スヴェルグさんは家が分からないですし、クドウさんは失踪しちゃったみたいなんですよねぇ……」

「待て、今何て言った?」

「え?」

「クドウが失踪したと言ったか?」


 ティアネーに詰め寄るライリー。


「はいです。クドウさんが住んでるフレイアさんの屋敷を訪ねたですけど、クドウさんとフレイアさん達が失踪したと言われたです」


 ティアネーが屋敷の使用人に言われた事をライリーに伝える。

 すると、ライリーは表情を引き締めて言った。


「クドウ達を探しに行くぞ。この時期に失踪したんだ。ゲヴァルティア帝国の方に向かったか、ゲヴァルティア帝国の者に攫われたのだろう。 ほら、準備をしてこい。 ティアネー、ジャンク、グリン」

「え?」

「「は?」」

「早く!」


 ライリーの言う事に目を瞬かせるティアネー達だったが、ライリーの剣幕に敗れ、渋々言う事を聞いてそれぞれの自宅へ帰り、そして再びライリーの屋敷に集合した。

 特に集合場所を定めていたわけではないのだがこうして揃う事ができた事からこの四人は相性がいいのかも知れないと思う。


「道場は……別にいいか。たまにはこうして旅をするのも修行になるだろ」

「先生がそう言うなら俺もそうします」

「高身長になる目標を達成して研究テーマもなくなってたですし、こうして旅をして新しい研究テーマを探すです!」

「よし、全員揃ったな。じゃあ出発だ!」


 早足で歩き出したライリーについていくティアネーとグリンは顔を見合わせて苦笑いを浮かべ、ジャンクは自分とティアネーとライリーの荷物を持っている。アイテムボックスにしまわずにこうして持つのには理由がある。

 それは筋トレだ。グリンも自分の荷物プラス街道で拾った石を持って歩いている。


 ただの生徒のためにここまでする教師と、暇さえあればこうして体に負荷をかける道場の師範と、その師範を慕いその下で修行する変な弟子と、高身長になるためだけに必死に研究する魔女。


 そんな変な四人はゲヴァルティア帝国に向かって歩き出した。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 秋達が王都を出たのを見届けた二人の人影。


 別に秋達を待ち構えていたわけではないのだが、偶然それを見てしまったのだ。


「……旅にでも出るんでしょうか? 取り敢えず追いかけます?」

「そうだね。 あの子の保護者としてあの男を見定めなきゃダメだろうし、暫くは尾行していようか」

「分かりました。 いやぁ……やっと見つけたと思ったら今度はストーキングですか……なんだか不審者みたいですね。私達」

「余計な事言ってないで早く追いかけるよ!」

「はーい!」


 そうして会話を終わらせた二人──ジェシカとスヴェルグは秋達の後を追い始めた。


 だが、隠密行動とは無縁な旅をしていた二人はすぐに秋達に見つかってしまうのだった。


 ポンコツの親友も、ポンコツの親代わりもポンコツなのかも知れない。

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