第244話 魔王の在り方
ティアネーとスヴェルグを伴ってやってきたのはフレイア達が戦う戦場だ。 戦況はアケファロスやジェシカの奮闘の甲斐あってこちらが優勢なように見える。
俺達三人はそんな戦場を離れたところから見ている。戦いに加わらない理由は、ティアネーとスヴェルグにそんな体力がないのと、戦いが終わってから合流して落ち着いてから話をしたかったからだ。
と言ってもやはり見ているだけではすぐに飽きてきたので俺は【勇者】【賢者】【魔王】の関係についてもう一度考える事にした。恐らくそれ関連で俺が行動を起こすのは戦争でゴタゴタしている今しかないだろうからな。
まずは【勇者】と【賢者】だ。 こいつらは【魔王】を倒すためにセットで生まれるか、選ばれる。アデルとクルトがどのようにして【勇者】と【賢者】の役割を得たのかは知らないが、【勇者】と【賢者】は生まれた時からそうなのか、ある日突然それに選ばれるかの二つらしい。
そんな【勇者】と【賢者】は隔絶した力を持っているとされている。アデルとクルトにそんな感じはないが、そのうちいつか得られるのだろう。
そして、【勇者】が持つとされる鎧や剣、盾もアデルは持っていないし、【賢者】が持つとされるローブや杖、魔導書をクルトも持っていない。
これらがどのようにして得られるのかは俺には分からないが、【魔王】が誕生したと言うのに未だにこんな状態なのは明らかに【勇者】や【賢者】として遅れているだろう。
これでは【勇者】や【賢者】の成長を嫌う【魔王】に早々に襲撃されて潰される事になっただろう。
まぁその遅れの責任はアデルとクルトに冒険者活動なんぞをさせていた俺にあるのだが。 これでもし俺が【魔王】ではなく、普通の一般人であれば俺は【勇者】と【賢者】の成長を妨げた歴史の大戦犯だっただろう。
だが生憎と今回の【魔王】は俺だ。 自分の保身のためにこんな面白い存在の芽を摘み取るなんてつまらない事はしない。
そんな事より、俺の今後の行動についてだが、まずはここを離れてどこかに向かうつもりだ。当然俺の所有物である、クロカ、シロカ、クラエル、アケファロスは強制的に連れていくとして……問題は俺が保護しているセレネと、護衛対象であるフレイアとソフィアだ。 セレネとソフィアは特に柵もなさそうだから付いてきてくれそうだが、元王族であるフレイアは貴族関係の柵が多いだろう。
……黙ってフレイアを連れ出せば解決なのだろうが、流石にそれは不味い…………事もないか。だって俺は人間の守護者である【勇者】と【賢者】と敵対関係の【魔王】なのだしな。
よし、フレイアは黙って連れ出そう。
王女を攫う魔王なんて創作物の話ではありきたりであまり面白くないが、実際に俺がやるとなると中々面白そうに思えてくるな。これで決定だ。
そして俺がここを離れる理由は【魔王】が【勇者】と【賢者】の側にいるのはおかしい、と言う事と、いずれあいつらと戦う事になるのだろうから【勇者】と【賢者】の成長を見ないようにするためだ。
後は【勇者】と【賢者】との戦いについてか。
まずこれはアデルとクルトが俺の仲間、友達とか以前に【勇者】と【賢者】は何者かの思考操作により【魔王】への敵意を植え付けられているだろうからアデルとクルトとの戦闘は避けられないだろう。
ならアデルとクルトを殺すのか? と聞かれれば、今のところは殺す気はないと答えるだろう。今のところ言うのは気分が変わる可能性があるからそう言っただけだ。
じゃあ【勇者】と【賢者】を殺さないのならどうするのか。
そんなのアデルとクルトと適当に接戦を演じつつ戦って殺さずに負かして、撤退させてと言ったようにひたすら二人を凌ぐだけに決まってる。
……だが俺としてはそんな演技をずっと続けるのもつまらないので、【勇者】と【賢者】の思考を操作している何者かを探しだして殺したいところだ。
それがどこの誰かは分からないが、だが大体の目星は付いている。
恐らくそれは天使や悪魔、神や邪神と言ったような人知を越えた存在だろう。なんせ今まで何度も何度も【勇者】や【賢者】の思考を操作して【魔王】討伐を強要させてきていたのだから、思考操作をしている何者かが数万歳を越えているのは確実なので定命の者でないのは確かだ。
だがそれだけならば長命種であるエルフやドワーフがとても長生きしただけの可能性もある。だが、人間や亜人、魔人を凌駕する力を持つ【勇者】【賢者】のような大きな存在の思考をエルフやドワーフごときが操作するのは難しいだろう。だから天使や悪魔、神や邪神が候補にあがったのだ。
……まぁ何者かが思考を操作していると言う事自体が妄想に過ぎないのだが、臆病な【勇者】が人類にとって脅威とされる【魔王】に挑んだりする時点で、【勇者】が普通の思考をしていないのは確かなので、何者かが干渉しているのはほぼ確定だろう。
だから俺はここを離れたあとは【勇者】と【賢者】の周囲に蘇生させた生物を潜ませて、それらしい者の干渉を待つつもりだ。 ……まぁ蘇生させた生物は融通が利かないのである程度は俺も近くにいる必要があるだろうが、取り敢えずそうするつもりだ。
と、そんな事を考えていると、魔物と騎士が混じった帝国軍が撤退していくのが見えた。 恐らく、アルタと言うらしいゲヴァルティア帝国の皇帝が伝令の兵か何かを誓わせたのだろう。一斉に来た道を引き返していく光景は波のようで中々に壮観だった。
ゲヴァルティア帝国の軍もいなくなったのでフレイア達のところに歩いて戻る。
「王都の方は大丈夫だった?」
「あぁ。 撤退していった」
「そう。ならよかったわ」
フレイアが心配しているのはオリヴィアの事だろう。王族や貴族とかそう言う地位に就いている人間は避難せずに王城に集まっている。
この間なぜ避難しないのか? と思ったのでオリヴィアに尋ねてみたところ、国民を放って情けなく逃げるなんて国民の上に立つ者としてあり得ませんから、と帰って来た。王族や貴族も大変なんだな。こうして見栄をはって国民の上であろうとするなんて。と言うのが感想だ。
「……っ! し、師匠!!」
「おぉ、本当にアケファロスじゃないかい! ……全く……アンタは本当に変わらないねぇ」
スヴェルグを視界に入れるなりスヴェルグへと駆け出して飛び付いたアケファロスは、嬉しそうな表情をして泣いているようだった。
スヴェルグの口振りから察するに、アケファロスが湖畔で修行していた頃はいつもこんな感じだったのだろう。 ……意外だな。基本的に敬語でクソ真面目なアケファロスがこんなだなんて。いったい幾つ面白い要素を取り入れれば気が済むのか。ツンデレに、ポンコツに、マザコン? に、その癖に戦闘技術は突出していて静かで澄みきった芸術のような戦い方をする。 色々とギャップが凄いんだよなこいつ。
そんな俺の視線に気付いたのかアケファロスは顔を真っ赤にして、目にもとまらない速さで涙を拭ってからスヴェルグから離れた。
俺は咄嗟に目を逸らした。見ていないから存分に甘えろと思って目を逸らしたのだが、それ以降アケファロスがスヴェルグに甘える事はなかった。
仕方ないな……今日の夜にはここを出るんだし、アケファロスとスヴェルグと二人きりで触れ合う時間をどこかで見つけてやらないといけないな。俺の都合で振り回すのだからこれぐらいはしてやるべきだろう。
「……それで、その女の人は誰よ?」
そんな俺の誤魔化しに気付いたのか、「二人で話していたのであなたなんか見ていませんよ」と言うように話しかけてきたフレイア。その甲斐あってアケファロスのジト目からは逃れられた。……気がかりなのはフレイアの口調が責めるようなものだった事だ。
「助かった」
「別にいいわよ。アキにはいつも助けられてるしこれぐらいはするわ。……それで、その女の人は?」
フレイアが言っているのはティアネーの事だろう。面識はあったが流石にティアネーがこれじゃ気付かないのも無理はないだろう。実際に俺も初見では気付けなかったしな。
「こんな見た目だが、こいつはティアネーだ。 ……『大人化の薬』が完成したからこんな事になってるらしいぞ」
「え? 嘘よね……? こんな……色々……おっきい人が、あのちっちゃかったティアネーなの?」
「はいです! お久し振りですフレイアさん。 私は本当にティアネーですよ!」
開いた口が塞がらないと言った様子のフレイアに、胸を張ってそう言うティアネー。気のせいだろうか? フレイアにその大きな胸を見せつけているようにも見える。自分とフレイアのを比べて勝ち誇っているのだろうか。
確かにフレイアもとても大きいとは言えないがそこそこはある。そんなフレイアの胸をティアネーは羨んだりしていたのだろうか。
まぁいいか。
「びっくりね……そんな見た目になってるのもだけど、大人化の薬? って言うのを一人で完成させた事が一番凄いわね」
大人化の薬は、自分の種族全体の体の発育が遅い事を気にしたエルフがいつまで経っても完成させられなかった薬だ。長命種であるエルフですら完成させられなかった薬をティアネーは15、6歳と言う年齢で完成させてしまったのだ。フレイアがそれに感心するのも納得だろう。
「伊達に森の魔女やってないのですよ」
自慢げに鼻を鳴らすティアネー。以前なら可愛らしかったのだが、今のその体でやられるとアホにしか見えない。やはりこいつは大人の体になるべきではなかったのだろう。
そうして話し合っているとマテウスがこっちへやってきた。
「やぁアキ。 この間は本当にありがとう。せい……あの女の人にも伝えておいてくれ。 あれから色々あって無事にドロシーの記憶も戻ったし、君とあの人には本当に感謝しているよ」
あの女の人とはソフィアの事だろうな。
「それで、マーガレットさんから聞いたよ。君が挟撃を仕掛けてきた帝国軍に向かっていったって。 王都の方はどうだった?」
「帝国軍は撤退していった。一応建物に被害はあったが、味方は誰も死んでいなかったと思う」
「そう、ならよかった。 じゃあ俺は今から王都で事後処理とか言うのをしないといけないから。 じゃあね」
そう言って去っていったマテウス。王都の事情にあまり興味はなさそうだったので、この間のお礼が言いたかっただけだろうと思う。まぁ事後処理とやらをしに行くのだから完全にそうだとは言いきれないが。
「それにしても、意外と大丈夫だったな」
「…何がだ?」
「お前らが俺の手助けがなくても窮地に陥らずに戦えた事だ」
「クドウは少々過保護なんだ。 ……大切に思ってくれるのは嬉しいが、もう少し信頼してくれてもいいんだぞ?」
「そうですわ。 わたくし達ももう十分に世で通用するのですわよ?」
…………そうか。 この世界の強者の基準で言えば既にフレイア達はかなりの強者の部類に入るんだよな。なら通用して当然か。
いやぁ、しかし……信頼か……今でもそれなりにこいつらを信頼しているつもりなのだが……うーん……でも、今更改める必要もないだろうしまぁいいか。
そう言えばアデル達の姿が見えない……あぁ、そうだった。テイネブリス教団の奴との待ち合わせに行っているのか。
どんな奴がアデル達に接触しているのかを知るために俺は【探知】と【遠視】と【遠聴】を使ってアデル達を見つけ出し、様子を窺いながら盗み聞きする。今まで関わったテイネブリス教団の奴らは俺の邪魔しかしなかったから、今回も【勇者】【賢者】【魔王】と言う面白い関係を邪魔してくる可能性があるのであまり【勇者】と【賢者】に干渉したくはないが、こうして干渉する。
……それにしても、結構いいな【勇者】と【賢者】の動向を探るって【魔王】っぽくて。まぁ敵の力を知りすぎたりするのは面白さに欠けるからほどほどにしておかないとな。
アデル達が集まっていたのは、ティアネーの森の一角だ。特に何の特徴もない森の中だ。そこにはアデルとクルト、そしてドロシーを拷問していた……確かインサニエルだったか、と、暫く前まで屋敷を見張っていた忍者白ローブがいた。 ……ここになぜかラウラもいるのがよく分からないな。
「来てくれましたかお三方共。 こちらは私達の仲間の一人であるカエクス司教です」
「よろしく頼む」
「他にもいるのですが、ここにはいないのでまた後々紹介させていただきますね」
インサニエルが話を進める。
「それで、私達の拠点なのですがアブレンクング王国にありまして……なので情報の伝達などを円滑に進めるために勇者様方にはこちらへいらっしゃっていただきたいのですが……どうでしょうか?」
「アブレンクング王国かぁ……確かゲヴァルティア帝国とは反対側にある国だったよね……どうする? クルト、ラウラ」
「学校が改修工事を行っているとは言え、俺達は学生だし、親のおかげで学校に通う事ができていますからね……そんな勝手に決められる事でもないと思いますね……」
「そうですね。 親とか学校とか、冒険者活動とか、色々ありますからね……私達だけでは決められないですよ」
─今は異種族の大移動により学校が改修工事しているだけで、それが終われば学校は再開される。そうなれば当然アデル達は再び学校に通い始めないといけないのだが、アブレンクング王国に行ってしまえばそれは叶わなくなってしまう。それはアデルクルト、ラウラが得ている【勇者】【賢者】【神徒】の役割を公にすれば済む話なのだが、それをしてしまうと、現在協力関係にあるテイネブリス教団以外からも協力を申し出られしまう。まだ子供であるアデル達にそれらと関わりを築けるような器用さはないのでそれも避けたい。……そんなどうしようもない立ち位置なのだ。最善は役割を公にする事なのだが、やはりそれは避けたかった─
まぁアデル達の言う事は尤もだよな。そもそも学生だと言う時点で厳しい立場だったんだよな。【魔王】を倒した英雄だと持て囃されたとしても、出席日数やらで学校を卒業できないければ、その先の就職に影響が出てしまうので学業を疎かにする事はできない。……騎士団なら腕っぷし買って快く受け入れてくれそうだが、アデル達にもなりたい職業があるだろうからな。やはり就職先が制限されるのは痛いのだろう。
俺は別にやりたい仕事とかないので、冒険者と【魔王】を両立しながら生きていこうかなと思っている。しっかり冒険者活動をする時は変形して姿を変えるので【魔王】だとバレる心配はないしな。
「あ、そうでしたね……でしたらアブレンクング王国にある学校に転校していただいたりなどは……?」
「……それならよさそうな気もするけど、問題はお母さん達がなんて言うかだよね……」
「ですよねぇ……」
「アデル、ラウラ、仕方ないよ。 親だけには伝えるしかないと思うよ。この先も色々と頼る事になると思うしさ」
インサニエルの提案に悩むアデルとラウラにクルトが言う。本当になんでラウラもいるんだろうか。
「うーん……分かった。 お母さん達にだけは……家族にだけは伝えておこう。いい? クルト、ラウラ」
「分かった。 仕方ないことだからね」
「分かりました。 私も伝えておきます」
「うん、じゃあそう言う事だから。 また明日の……夕方ぐらいにここで会えるかな、インサニエルさん」
「構いませんよ。……もしアブレンクングへの転校は無理でしたら他にも何か考えておきますね」
「すみません、ありがとうございます」
と、そんな感じで会話は終わり、インサニエルとカエクスは去っていき、そしてアデル達もこちらの方向へと向かってきた。
なるほどな。アブレンクング王国か。確か……フレイアから聞いた話によると『ソルスモイラ教』と言う運命の女神を崇めている宗教が主に伝わっている国だと聞いたな。それにソフィアの出身地だとか。
邪神を崇拝するテイネブリス教団なんかが拠点構えられたり仲間を待機させたりする余地はなさそうだが、もしかしたらソルスモイラ教と繋がりがあったりするのだろうか。
まぁいいか。
「あの……」
「ん?」
そんな事を考えているとアケファロスに話しかけられた。
「えっと……師匠に会わせてくれてありがとうございました。 あなたに感謝するなど苦痛でしかないですが、お礼を言っておきます」
「どういたしまして。 ……それと一言余計なんだよお前は」
とは言うが、それがアケファロスのいいところだったりする。俺の周りにこんな奴いないからな。こいつとは一緒にいて退屈しない。
その後合流したアデル達と共にみんなで王都へと歩いて帰りながら色々話した。いつも通りの雑談や、戦争ついての感想とか大体そんな感じだ。
王都に着く頃には日は暮れて真っ暗になっていた。星々が地面を照らすがそれは微々たる明かりだ。だが、星自体はとても綺麗だ。夜の明かりにまみれた都会に住んでいた俺からすればとても珍しいものだ。それもこの世界に来てからは当然の光景になっていた。しかし改めてこうして見てみると綺麗なものだ。
周囲にはところどころに崩壊した建物があるが、それにしても夜風が気持ちいいな。犯罪者で溢れるこの世界の夜風はとても貴重なものなので、フレイア達も存分に夜を堪能している。地球にいた時にはよく嗅いだ涼やかな夜の匂い。浄化されるような快感すら得られそうな匂い。
俺がなぜそんな事に意識を傾けるのか。戦争が終わった達成感から感傷的になっているからか、それとももうすぐここを離れるから無意識の内にここを堪能しようとしているからか。なんにせよ、気持ちいいのだからそれでいいだろう。
「…今日は外で寝たい気分だぜ」
「そう言いたくなる気持ちはわかりますわよ。 でもいくら人がいないとは言え、危ないですわよ」
「…冗談だっての」
「ラモンさんが言う冗談に聞こえないんですよね」
そう言うクルトに周りからは笑いが起きる。 確かにラモンが言うと冗談には聞こえない。 こいつなら本当やりかねないから思わず注意してしまうんだよな。
そんな談笑が夜空に響く。 薄暗い……ほぼ暗闇だ。 だが俺達は躓く事なく進める。 ダンジョン探索などしていれば嫌でも慣れるってものだ。
帰り道、俺は、ボクは、私は、わたくしは……こっちだから、と次々といなくなっていく。そんな中いなくなる事なく共に歩むのはフレイアを筆頭とした屋敷組だけだ。
丁度いいし、ここで話しておこう。
「俺、王都を離れようと思うんだ」
「……え……? 冗談……よね?」
足を止めて言うのはフレイアだ。 クロカやシロカ、セレネにアケファロス、ソフィアは概ねそんな感じだ。クラエルは首を傾げているだけだ。
「本気だ」
「な、何でそんな急に? 何かあったの?」
「アデルとクルトが勇者と賢者だってのはお前には話したよな」
「……? えぇ。そうね。聞いたわ」
「俺がアデルとクルトの敵なんだ。 俺が魔王なんだよ」
「……………………え?」
全員固まっている。魔王と言うのはクラエルにも分かったらしく、可愛らしく驚いている。
「それは……本当なの……?」
「あぁ。 だから魔王が勇者と賢者の近くにいるのはおかしいって思ったから、ここを離れようと考えたんだ。 他にも理由はあるが、面倒臭いから省くぞ」
「………………」
「勝手だとは思うだろうが、クロカとシロカ、クラエルとアケファロスには絶対に付いてきて貰うぞ。 お前らは俺の所有物だからな」
本当に勝手だとは思うが、これが俺が望んだ自己中言う事なので心が痛んだりはしていないだろう。
「それは構わんが、フレイアとセレネとソフィアはどうするのだ? 全員アキが守るべき人間なのだろう?」
「……フレイア達はどうするのじゃ?」
クロカとシロカが言う
「当然、私はアキについていくわよ。 明日のお昼ぐらいまではお母様も王城にいるだろうし、止められる事もないわ」
「ん。 私もアキについていく。 アキの側にいるのは楽しい」
「私もです。アキさんに守っていただいている立場ですし、多少はアキさんに合わせませんと。それに今の私には特にやりたい事もないですし、どこまでもついていきますよ」
予想外にも全員が自分からついていくと言っている。 セレネとソフィアなら分かるが、フレイアまでそう言っているのには驚きだ。オリヴィアと離れる事が嫌じゃないのだろうか。かなりのお母さん大好きっ子だったと思うのだが。再会した時に抱き合って泣いてたし。
「せっかく魔王になったんだから『お前らが嫌がっても無理矢理連れていく』……みたいな事を言ってみたかったんだが、まぁいいか。……あぁ、分かった。 みんなありがとう」
素直に礼を言うが、なんだか無性に照れ臭くて俺はそのまま屋敷へと歩き出した。