第24話 アイドラーク公国の王女
「そういやぁお嬢ちゃん。結構可愛いねぇ?」
そう言い盗賊は笑みを、下卑た笑みに変化させる。
「……? 気持ち悪いわね……いきなり何なのよ……」
「ハァ……ハァ……」
盗賊は息を乱れさせる。その顔はゴブリンに向かって仲間です、と言って近付いても受け入れられそうなほどだ。
「おい……お前まさか……!?」
「駄目だぞ、そいつは商品だ。どこに使用済みの商品を売る奴がいる。俺達は中古は取り扱ってねぇんだ!」
「いいじゃねぇか新品同様に綺麗に使えばバレねぇよ」
「ちょっとさっきから何の話をしているのよ?」
「……君は分からなくてもいいんだよ?」
鼻息荒く言う盗賊に嫌な予感がした少女は袋から抜け出し、転がりながら距離を取る。
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私はアイドラーク公国の第三王女、フレイア。
私はとある事情から、残った騎士や使用人、お母様とともに、ミレナリア王国へやって来ていた。
お母様は私に『これからは自分の身は自分で守らないといけなくなる事もある』と言い、私はミスラの森で魔物との戦闘をしていた。勿論、私を守るための騎士も連れて。
事件は休憩中に起こった。
私は気分転換に、お母様や騎士達から離れ、丘の上にある木の側でボーッとしていた。
今思えば軽率だったと思う。私やお母様の立場を考えれば、危険すぎる事は分かりきっていた筈なのに。
気が付けば後ろに人が立っていて、それに気付いたものの、だけど理解が追い付かないまま、私は意識を手放していた。
次に気が付いたのは体に痛みが走った時だった。私は思わず呻いていた。
状況が理解できなかった。暗い。手が動かせない。足も動かせない。声も出せない。
声が聞こえる。しかし話の内容は聞こえなかった。
やがて、視界が開ける。
そこには、見知らぬ男が三人いた。
「んー!? んー! んんんー!」
え!? なによ!? あんた達だれ!?
「まてまて、今口枷を外してやるからなぁ」
男が私に付けられていた布を外す。
「ちょっと! 何なのよあんた達! こんなことをして只で済むと思ってるの?」
こうは言ったものの、今の私やお母様に何ができるだろうか。
「へぇ……? 俺達ゃあどうなんだよ?」
「そ、それは……そう、処刑されちゃうわよ!」
「そうか……処刑されちゃうのか俺達は。ふーん?」
こいつは私達の事情を知ってて惚けているんだろう。
明らかに演技だ。
でも、私は一縷の望みに懸けて知らんぷりをする。
「な、何よ……」
「いや、別に? あんなに兵士が居たのにみすみす誘拐された無能な兵士達に俺達が捕らえられるのかなって思っただけさ?」
「……っ!」
そうだ……私もお母様も、今連れている騎士も弱い。あの場にいた騎士ではこの男達には手も足も出ないだろう。もしかしたらいい勝負を演じられるかも知れないけど、結局は負けるだろう。
私達は弱いから。
「そういやぁお嬢ちゃん。結構可愛いねぇ?」
え?
男はいきなり言う。その言葉と、言い方に私は寒気がした。
相手に悟られぬよう冷静に言う。
「……? 気持ち悪いわね……いきなり何なのよ……」
「ハァ……ハァ……」
男が息を荒くする。
気持ち悪い。怖い。私はどうされるのだろう。そんな不安が私の恐怖心を駆り立てる。
「おい……お前まさか……!?」
「駄目だぞ、そいつは商品だ。どこに使用済みの商品を売る奴がいる。俺達は中古は取り扱ってねぇんだ!」
「いいじゃねぇか新品同様に綺麗に使えばバレねぇよ」
「ちょっとさっきから何の話をしているのよ?」
「お嬢ちゃんは分からなくても良いよ?」
売られると言う単語が出てきた。
そうだ。私は売られるんだ……奴隷として、誰かに死ぬまで尽くす事になるんだ。
覚悟は出来ていた。後ろにこいつらが立っていた時点でしていたつもりだ。でも、いざ面と向かって自分の過酷な未来を突き付けられると、その覚悟が破綻してしまった。
耐え難い恐怖が私を襲った。
本当は今すぐに子供のように泣き叫びたかった。とはいえ、私も王女の端くれ。王女としてみっともなく泣き叫ぶ事は出来ない。
──逃げる
そんな選択肢が今更私の頭に浮かんだ。
私は袋から抜け出した。
手も使えない。足も使えない。なら転がってでも逃げよう。
しかし、そんな些細な抵抗は男に押さえ付けられる事で一瞬で終わる。
私の上に男が跨がる。
私は自然と涙を溢していた。