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第238話 ミレナリア王国周辺

 遠くにある城壁に向かって進むアルタ達。 その道中には一切人がおらず、快適に進んでいた。


 なぜここに秋達がいないのかと言われれば、場所が違うからとしか言えないだろう。


 秋達がいるのはゲヴァルティア帝国に続く街道で、アルタ達がやってきたのは冒険者の街フィドルマイア方面の街道だ。


 アルタは自分が支配している生物の全体の半分を連れていた。だが、それはミレナリア王国をニ方向から攻撃するために更に半分に分けられていた。


 ミレナリア側も、そうなる可能性を考えなかったわけじゃないが、ゲヴァルティア帝国と比べれば人数で劣っているので戦力を分散するのは完全に悪手だと考え、一か八かでこうして戦力を一方向に集めたのだ。

 ……結果、それは上手くいかずにこうして挟み撃ちされてしまってる。 しかもそれを伝える者すらいないので、ミレナリア王国軍はそれに気付かずに、三体の緑竜が先行している部隊をゲヴァルティア帝国軍の全戦力だと思い込んでしまっている。


「流石に緑竜が三体もいれば本隊だと思い込んでくれたかな? 正直こう言うのは面白味に欠けるんだけど、挟み撃ちされたと知った有象無象の絶望に染まった顔を見てみたかったからね。仕方ないね」


 あっさりミレナリア王国に侵入したアルタ達は特に何もせずに王都内を進む。 この戦争が終われば自分が支配する事になる土地だ。 なので不用意に破壊して、後の面倒な復興に時間をかけたくないのだ。それに、破壊活動をすればその音で、王都で控えている聖魔法使い達に挟み撃ちに気付かれてしまうと言う理由もあった。


「じゃあどうしようかな。 取り敢えず聖魔法使い達は怪我をさせないように捕まえてくれるかな。 あとで支配してこっちの戦力に加えるつもりだから。 って後ろのやつらに伝えてきて」

「分かりました」


 赤髪の男がそう返事して後ろへと走って行った。 それを見届けたアルタは再び歩き始めた。 向かうのは王城で、自らが直接敵の王を討ちに行くつもりなのだ。


 もしこれが成功すればアルタは二国の王を殺害した事になる。 そうなってしまえば、当然アルタの存在は大きくなるだろう。 そうなればそのアルタが引き連れる運命は不変に近くなり、アルタは力を増す事になるだろう。


 アルタは運命の大小、強弱を知らないが、無意識にそう進んでしまうのはアルタが【魔王】になる素質があるからで、その運命がアルタを導いているのだろうか。


「伝えてきました」

「早かったね。 じゃあ王城へ向かう隊と、聖魔法使い達を捕らえる隊に分かれよう。 聖魔法使い達は大した脅威じゃないから主な戦力を王城へ向かう隊に注ごう」


 再び赤髪の男が後方に走っていき、隊を分ける。


 聖魔法使いを捕らえる隊が全体の3割で、残りの魔物と騎士で王城へ向かう。

 アルタの支配する生物は魔物が圧倒的に多いので、聖魔法使いを捕らえに向かった3割は全て魔物だ。 知性のない魔物がどれだけ加減をして、基本的に戦闘ができない聖魔法使いを捕らえられるのかは分からないが、確実に結構な人数が死んでしまう事だろう。

 ……これはアルタも想定済みで、4割ぐらい残っていればいい方だと思っている。


「さて、また王殺しをしてしまおうか」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 ミレナリア王国が全戦力を片側に総動員している事を知ったカエクスはゲヴァルティア帝国の軍が王都に到達する前に森の木々を伝って王都へと急いだ。

 カエクスは、ある事情から地面を歩く事ができないので、何かにぶら下がるか、壁を伝って移動する必要があった。……にも関わらず、その移動速度はゲヴァルティア帝国の軍が移動するのよりも圧倒的に早かった。



 王都に帰って来たカエクスは一気に反対側の城壁を通り抜け、インサニエルがいる方へと急いだ。 このまま挟み撃ちを成功させてしまっては、元々不利だった形勢は更にに不利になってしまい、自分達の敗北が確定してしまうからだ。 ……別にインサニエルとカエクスが帝国軍に敗北しても問題はないと考えるが、勇者と賢者、神徒が敗北してしまえば二人の希望は─多くの人々の希望は消滅する事になる。 なのでカエクスは急いでインサニエルに報告する必要があったのだ。


 再び森の木々を伝って移動を開始する。


 だが、カエクスは更に希望がが遠くなるのを感じていた。 遠くに見える前線は、完全に押されているようだったからだ。 街道の端には三体の緑竜の死骸が転がっているので実力者がいるのは確かだが圧倒的に不利だった。


 何が不利なのかは一目瞭然だった。

 人数で負けている。 王都の人間を総動員しているのにも関わらずだ。

 そして雰囲気だ。 恐らくそこの緑竜が与えたであろう戦意の喪失を未だに引き摺っているのか、戦場は既に敗北ムードだった。


 カエクスはその中からすぐにインサニエルの気配を感知し、糸を飛ばしてそれを蜘蛛のように使ってインサニエルの背中へと張り付いた。


「カエクス司教? どうされましたか?」

「問題が発生した」

「問題ですか?」

「向こう側に王国軍が誰一人おらんのだ。 そして、向こう側からも帝国軍がここと同じぐらいの数を引き連れて来ている」


 一瞬だけ無の顔になったインサニエルはすぐにその、いつもの余裕そうなそ表情を引き攣らせた。


「もう無理そうですね。 ……もう少し様子を見てからと思っていましたが、仕方ありませんね」


 そう言ってインサニエルは迫っていた魔物を斬り捨ててから、勇者と賢者と神徒──アデル、クルト、ラウラがいる場所へと歩き出した。



~~~~~~~~~~~~



 無休の連戦の末に疲れ果てて後方に下がって休憩していたアデル、クルト、ラウラ。


「すみません。ちょっといいですか?」


 そこにやってきたインサニエル。 ……カエクスは佇まいが不審なので森へ帰っている。


「はい? どうされました?」

「実はあなた方三人にお話がありまして……」

「話ですか?」

「えぇ。 実は自分はあなた方三人と同じで、ある存在を倒そうとしているのですが……」

「ボク達三人と同じ……?」

「ある存在を倒す……?」


 アデルとラウラがインサニエルの言葉を復唱する。


「……! もしかして……!」


 何かに気付いた様子のクルトがアデルとラウラに耳打ちをする。


「あ! なるほど! ……って、えぇ!?」

「あの……でも、勇者でも賢者でも神徒でもないあなたがなぜ……魔王を?」


 ラウラが最後だけ小声で言う。

 当然の疑問だろう。 普通の人間ならば魔王が出現しても勇者や賢者に任せて行動をしない。それどころか足手まといになるのは明らかなので関わろうとしないのだから。


「自分の正義のために、目的のために、平和のために……ですね。 それでどうですか? 自分と協力して魔王を倒しませんか?」


 そう言うインサニエルにアデル達は相談を始めた。


「どうする? 知らない人だけど……」

「俺は反対ですね。 どう考えても怪しいですし、それに白いローブですよ? テイネブリス教団なんじゃないですかね?」

「私は……どっちでもいいです。 運勢の女神の加護がありますからね。 流れに任せてるだけでいいでしょうから」

「ラウラ……それマーガレットが聞いたら怒るよ? ……あ、ちなみにボクは賛成だよ。 だって魔王の誕生は勇者と賢者から申告されない限り誰にも分からないんでしょ? ……だったらこの人がそれを知っているって言う事は、この人は勇者や賢者以外の役割を与えられた人って事になるからね。……ラウラみたいな特別な役割ね」


 アデルの言う通り、魔王の誕生は勇者と賢者の申告があって初めて認められ、知られる。 なので勇者と賢者である、アデルとクルトが魔王誕生の兆しを誰にも申告していないのに知っている人間がいると言う事は、勇者や賢者に準ずる存在だと言う判断になるのだ。


「……それもそうですね……じゃあ俺も賛成です……怪しいですけどね」

「じゃあ……賛成が二票で、どっちでもいいが一票だから……この人に協力するって事でいいよね?」


 アデルがクルトとラウラに尋ねる


「はい!」

「大丈夫です」

「うん。じゃあそう言う事だからよろしくね。 えーっと……」

「あぁ、自分はインサニエルと言います」

「ボクはアデル。 よろしくねインサニエルさん」

「俺はクルトです。 信用はしていませんがよろしくお願いします」

「私はラウラって言います。よろしくお願いします!」

「はい。 よろしくお願いしますね。アデルさん、クルトさん、ラウラさん」


 協力を得られたインサニエルは自分の仲間に会わせたいから、戦争後に一旦集まろうと言う事で、待ち合わせ場所を指定した。 更に仲間が増えると言う事でアデルは喜んでそれを受け入れた。クルトは渋々、ラウラはどっちでのいいと答えていた。 どうやらこの三人の中で物事を決める決定権があるのはアデルだけのようだった。


「それと、フィドルマイア方面から別の部隊がやってきているようなので早めに撤退するか、指揮をされているマテウスさんに伝えてなんとかした方がいいですよ。 では、自分はこれで」

「え? あ、ちょっと待って! …………行っちゃった……」


 言うだけ言って去っていったインサニエルに手を伸ばしながら立ち上がったアデルは、その手を下げた。


「って、それより大変だよ!? フィドルマイアの方から敵が来てるって! マテウスさんに報告しないと……!」

「ちょっと待ってよアデル。 流石にあの人を信用し過ぎじゃないかな? 俺には何か企んでいるようにしか見えなかったんだけど」

「確かに怪しいよ。こんなタイミングで協力の申し出とか、敵の動きを把握してるとかさぁ……」

「だったら……!」

「でも、もしそれが本当だったらボク達はどうするの? 魔王討伐に協力してくれる仲間を見逃すの? 敵が反対からも来てるって知っていたのに言わなかったって……許されないよ?」


 二人の間に険悪な空気が漂う。

 これまで特に喧嘩らしい喧嘩をしてこなかった二人が険悪な雰囲気になっている。 それは決して悪い事ではなく、それだけ仲間の安全を考え、勇者や賢者としての重責がのしかかった結果なのだ。


 どちらも正しく、あるが故に発生した険悪な空気。だからラウラも厳しく止める事ができずにあわあわするだけだった。


 だが、そんな空気に耐え兼ねたのか、先に折れたのはクルトだった。


「…………分かった。 報告しに行こう。 万が一があれば大変だからね」

「……! ありがとうクルト……! じゃあボクが言ってくるよ!」


 そう言って走っていくアデル。

 ここからそのやり取りが見える。 可愛らしく身振り手振りで伝えるアデルに、驚いたり、何かを考える仕草をするマテウス。


 そしてマテウスは分かったとばかりに頷いた。


 普通ならマテウスは相手にしなかっただろうが、恩人の友人の言う事なので無下にできず聞き入れたのだろう。


「みんなよく聞いてくれ! 実は──」


 そう言ってマテウスは、フィドルマイア方面からも帝国軍が来ている事と、それに対処するために人員を割くことを話した。


 当然反感を買ったが、王が死んでは元も子もない、と言う事でマテウスは半ば無理やり……強引に説得して人を幾らか王都へと向かわせた。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 ミレナリア王国軍に混ざった【砕頭】と言う異名を持つ転生者──斎藤芽依……この世界ではジェシカと言う名前を持つ女性は、そこで自分の親友を探していた。


 ここはゲヴァルティア帝国軍を待ち構えるミレナリア王国軍が集まる場所だ。

 ここには王国軍の全戦力が集められていると聞いたので、ジェシカはここでアケファロスを探していた。 だが、目的のアケファロスは一向に見つからずに時間だけが過ぎていった。 ……それもそのはず、アケファロスは可愛らしい猫の顔が刺繍された布の仮面を着けているのだから。 ちなみにジェシカはその猫仮面状態のアケファロスをここで一度目にいれていたのだが、アケファロスだと気付かなかったのでスルーしてしまっていた。


 そして始まる戦争。それは三体の緑竜の登場で始まった。

 最強と謳われる種族が三体も登場した事にジェシカは苦笑いしていたが、その緑竜は数人の人間を相手にしてあっさり倒されていた。

 そんな異常な事が連続して起これば、ジェシカの引き攣った表情が戻るのに時間がかかるのは当然だった。


 人数的にも、戦力的にも圧倒的に不利なこの戦場で、ジェシカは敵の頭を砕いて殺して生き残る。


 これはジェシカの固有能力【砕頭】の効果だ。

 このスキルは、相手の頭部に打撃攻撃を与えるとどんなに相手の物防、魔防の数値が高くても一撃で相手の頭部を粉砕できるスキルだ。 任意発動能力なので、軽く頭を叩いただけで相手が死んでしまう心配なはない。


 アケファロスも【断頭】と言う似たようなスキルを持っているが、この【断頭】は、相手の首に斬撃攻撃を与えるとどんなに相手の物攻、魔防の数値が高くても一撃で相手の首を切断できるスキルだ。


 相手が【再生】のスキル持ちでない限り、どちらも破格のスキルなのだが、結局は当たらなければ意味がないのでそこは二人の技量次第だろう。





 戦場を大きな戦槌を抱えて戦場を駆け回るジェシカ。

 こうして目立てばアケファロスから近付いて来てくれると思って戦槌を振り回す。 一見我武者羅に振るっているように見えるが、その戦槌の軌道上にはしっかりと敵の頭部がある事から、適当に振るっていない事が分かる。


「てぇーい! アケファロスちゃんどこだー! 出てこーい!」


 その身に合わない重そうな槌を軽々と振り回しそう叫ぶジェシカ。そんなジェシカに若干怯えを示し、巻き込まれないように距離をとる他の騎士や冒険者。 だが、当のジェシカはそれを気にすることなく……と言うか気付かずに小気味の良い音を立てながら頭を粉砕する。


 やがて、巻き込まれるのを避けるために周囲から味方がいなくなった事に気付いたジェシカは敵陣のど真ん中で孤立してしまった。


「ありゃりゃ……突っ込み過ぎた……? これじゃあの時と全く同じだよぉ……あー? 嫌な予感がしてきたぞぉ!?」


 とは言うが、そうは見えない軽い口調でジェシカは独り言を言う。


 そんなジェシカが轟かす破砕音……それに混じって感じる、周囲の魔物が死ぬ気配。


(誰かが私の周りで戦っている?)


 孤立した筈のジェシカの周囲に誰かがいる。 ジェシカのような人外がこうして特攻するのは理解できるが、ヒト種の集まりであるミレナリア王国軍にそんな命知らずの人間がいるのか。


 そんな事を考え、集中力を欠いてしまったジェシカは背後に迫る騎士に気付かなかった。


「死ね! 化け物!」


 騎士はそう言って背後からジェシカに剣を振り下ろす。 化け物と言うのはジェシカの種族を見抜いて言ったわけではないのはジェシカが仮面をしている事で分かるので、この化け物とう言う言葉はジェシカの無双ぶりに対して出た言葉だろう。


「させません!」


 どこからか聞こえた透き通った聞き覚えのある声に続いて、騎士の背中から血が噴き出した。

 誰が助けてくれたのかと思い、ジェシカは周囲を見回すが周囲に味方は見当たらない。


 だが、すぐ近くで魔物が死んでいくのは見えた。


 恐らくここで戦っている人物が助けてくれたのだろうと思い、そこまでの道を魔物を粉砕する事で切り開く。


 そしてその先にいたのはつい先程みかけた猫の仮面をした人物だった。

 さっき遠くから見かけたときにも感じたのだが、この人物からは親近感を感じる。

 親友を探す過程で数多の魔物を討伐してきたジェシカには分かる。この感じは不死者(アンデッド)から感じるものだと。


「助けてくれてありがとうございました」

「いえ、人助けをするのは当然ですから」


 その素っ気ない態度に少々の懐かしさを覚えながらもジェシカは猫仮面の人物のそばで戦闘を再開した。


 お互いにお互いを助け合い、そして敵軍を的確に……そして次々と倒していく。見知らぬ人物との臨時の連携のはずだがなぜだか上手く合わせる事ができる。


「この感じ、昔を思い出すなぁ……親友と息を揃えて無双してたあの時を」

「奇遇ですね。 私も親友と共に戦った時を思い出していました」

「もしかしたら私達は前世で親友同士だったのかもよ?」


 ジェシカはそう言うが、ジェシカの前世は戦争のない平和な日本で暮らしていた日本人なのでそれはあり得ないのだが、何となくそう口にしてみたのだ。


「私の生前の記憶にあなたのような怪力な人はいませんでしたよ」


 猫仮面の人物がそう言うが、ジェシカは一つ引っ掛かりを覚えていた。見覚えがあるのだ。この猫仮面の人物の剣術に。

 あのドワーフの女性──スヴェルグが起源であるはずのあの剣術に、似ていたのだ。


「ねぇねぇ、どこでその剣術を習ったの?」

「この剣術ですか? ……私の師匠……お母さんのような人に教わりました」


──あたしもついこの間、娘……のようなものが居なくなって寂しかったんだ──


 思い出すのはスヴェルグの言葉だ。 スヴェルグと似ている剣術に、曖昧な家族関係。 一瞬にしてジェシカの鼓動が早まっていく。


「…………も、もしかして……ドワーフの女性に教わりました?」

「そうですが……なぜ分かったのですか?」


 殆ど確定したようなものだが、一応念のために更に深く確認しておく。


「……………………もしかして…………揺れない湖のそばに住んでいるドワーフの女性に教わりました?」

「…………そ、そうですが……あの……あなたはどうして私の事をそんなに知っているのですか……?」


 もうここまで来れば間違いないだろう。


 ジェシカは仮面を脱ぎ捨て、訝しげな表情で自分をみつめるアケファロスを抱えて飛び上がった。 ここは敵軍のど真ん中だ。さっきこうして会話していたのも敵の攻撃を捌いて攻撃しながらしていたのだ。


「なっ!? え? ちょ、ちょっと! 何をするんですか!?」


 お姫様抱っこで抱えられたアケファロスがジェシカの于での中でそう怒っている。


「アケファロスちゃん! 私だよ! ジェシカ! 親友の!」


 潤んだ目でアケファロスに顔を向けて告げるジェシカ。するとジェシカの顔を見たアケファロスはすぐにその表情を驚愕に染めた。


「え……? じぇ、ジェシカ……?」

「あは。あの時以来だねぇ。私の名前を呼んでくれたの」


 ジェシカが冗談めいた感じでそう言う。


「ほ、本当に……?」

「本当だし、本物だよ!」


 信じられないと言った表情をするアケファロス。

 そんなアケファロスはすぐに涙目になってジェシカに抱き付いた。


「おーよしよし。 久し振りのジェシカちゃんを思う存分堪能したまえよ? アケファロスくん」

「うっ……あ……うぁぁ……あうっ……」


 咽び泣くアケファロスをあやすジェシカ。


 地面に降りたっても泣き止まなかったアケファロスに、ジェシカが困り果てていると、そこに一人の男性がやって来た。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 王都のとある一角にある建てられた汚い道場の屋根の上から王都を眺める者が二人いた。


「あれは…………反対側から帝国軍が来ましたね」


 緑色の髪で青色の目をした、窶れたサラリーマンのような見た目の男が王都へと侵入してきたゲヴァルティア帝国の軍を見てそう言う。


「騎士も冒険者もいないみたいだし、あいつらは俺達で相手するか」


 茶髪で黒い瞳の如何にも一般人のような人畜無害そうな男が、見た目にそぐわない好戦的な事を言う。それに窶れたサラリーマンのような男は「分かりました先生!」と言ってあっさり受け入れる。


 ゲヴァルティア帝国の軍が二つに分かれたのを見てから汚い道場の屋根から飛び降り、進むゲヴァルティア帝国の軍の前に立ちはだかる二人。

 いきなりの出来事に先頭を歩いていた騎士は狼狽するが、すぐに気を取り直して言った。


「なんだ貴様らは。 無様に縮こまって震えてればよかったのに、わざわざ我々の前に姿を現すとは愚かにもほどが──」


 二人の見た目から一般人だと侮っていた騎士は、宙に浮かぶ()()()()で首を刎ねられた。

 それに呆気にとられている近くの騎士達も同様に首を刎ねられてあっさり息絶える。


「…………成長の機会がやって来た。 目の前に差し出された餌共を殺して殺して殺しまくって強くなれ。 ……いいか? 親方?」

「今は親方じゃないですけど……はい! 分かりました! あいつらが挑戦者って事ですよね?」

「そうだ。 こいつらは俺達に挑む挑戦者だ。 俺達が幾らこいつらを殺してこいつらが死のうが、俺達が強くなるためなら関係ない」


 人畜無害そうな男は、窶れたサラリーマンのような男に慣れた様子でそう言う。


「俺達には誰にも負けない強さが必要だ。 不要な人間だと、ゴミのような人間だと罵られ、廃棄されない為にも……」


 そんな人畜無害そうな男は今までの人畜無害そうな様子から一転、戦闘狂のようなギラついた目で帝国軍に告げた。


「さて、お前達はガラクタの山を越えられるかな?」

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