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第236話 敵前

 昼飯を食い終わり、再びクロカ達とボードゲームをして遊んでいたが、屋敷に騎士がやってきたので中止して準備を始める。


 この騎士はこの国の王──アレクシス……前世は関東生まれの関東育ちだが関西弁を喋る陽吾と言う名前の地球人だったらしい、に遣わされてやってきた騎士だ。


 今回の魔物の大群の時と同じく個人が雇う騎士は強制徴集されないらしいが、今回ばかりはさオリヴィアも騎士を戦争に向かわせるようだ。 知性のない魔物ならともかく流石に人間相手に渋ってられないのだろう。


 そう言った理由からアレクシスが遣わせた騎士がこの屋敷の騎士を連れていく為にやってきたのだろう。


 別に俺達は呼ばれてないが、俺達もそれについていく為に準備をしている。

 フレイアに、クロカもシロカも、クラエルもセレネもアケファロスもソフィアも……全員が準備をしている。


 正直言うと、7人も守りきれるか分からない。しかも今はここにはいないが、あとからマーガレット達もこれに加わる。 まぁ……思考加速も加減ができるようになったし……頭痛は仕方ないとして、的確に加減をして体から出血だけはしないようにさっさと終わらせてしまおう。


「久し振りに暴れられるのだ!」

「それはいいのじゃが、ちゃんと敵と味方の区別はするのじゃぞ?」

「当然なのだ。 幾ら我でも味方を攻撃したりはしないぞ」


 クロカとシロカがそう会話している。


「言い忘れてたけど相手に魔物使いがいるみたいだから、龍化はするなよ。間違えて攻撃されるかも知れないからな」


 この間帝国に皇帝を殺しに行った時にたまたま魔物の大群を見つけたのだ。どうもそれは誰かに従えられているものらしく、ある一ヶ所に集まって色んな魔物が平和に暮らしていたので魔物使いの仕業だと考えた。 そして恐らくその魔物使いは皇帝だ。確証はないがなんとなくそう思うのだ。


 そしてこれも確証はないのだが、あの皇帝が【魔王】になり得る存在だと考えている。 さっきの話を持ち出して来る事になるのだが、『魔物を従える王』で【魔王】だ。


【魔王】には様々な形がある。 魔物の王で【魔王】だったり、魔人の王で【魔王】だったり、魔族の王で【魔王】だったり……と、この世界にはあらゆる形の【魔王】が存在する。


「なんだと!? ぐぬぬ……仕方ないのだ……」

「敵に魔物使いがおらんでも龍化はするべきではなかったぞ。 人間は弱いからのぅ、すぐに怯えて童達を攻撃し始めるじゃろうからな」

「むむ……確かにそうだな……」


 考えれば分かりそうな気もするが、こいつらの周りにいる人間……屋敷の精鋭騎士達のせいで感覚が狂っていたのかも知れないな。特にこの屋敷に門番はかなりの強者だろうと思われる。 俺が戦った人間の中で一番近いのは……そうだな……インサニエル……だったか? あいつ程ではないが、実力的にはあいつが一番近いだろう。


「……ソフィアは後ろの方で怪我人の治療をするの?」

「そうですね。 一応護身術は嗜んでいますが、後方で負傷者の治療をするつもりです」

「ん。 護身術は相手の攻撃を利用しないと効果を発揮しない。 存分に聖女の実力を活かすべき」


 セレネとソフィアと言う、本来ならば敵対しているであろう二人が会話している。

 一部の教会関係者は吸血鬼を魔物の一種としているのだが、そいつらは吸血鬼の事を『人間の姿を真似る不遜な魔物』としていて吸血鬼を目の敵にしている。実際には吸血鬼は亜人に分類されているので、これはただの亜人差別にすぎない。 そんな敵対している関係性の二人が会話しているのは中々に微笑みを溢しそうな光景だ。


『アケファロスお姉ちゃんは怖くないのー?』

「怖くありませんよ。 私はこの世界全体から見れば結構強い方ですし、小さいものも合わせれば戦争なんて何度も体験しましたからね」

『怖くないの!? すごーい!』

「クラエルはどうなんですか?」

『んー? ボクはちょっとだけ怖いけど、アキがいるから平気だよー!』


 ダンジョンマスターの二人の会話だ。

 本当になんでクラエルはこんなに俺に懐いているのだろうか。 最初に出会った時はクロカとシロカほどではないにしろ結構手酷く痛め付けたと思うんだがな……

 命を奪わずに見逃した事が大きいのだろうか……今度聞いてみるか。


「……クラエルはどうしてあの人の事をそこまで信頼しているのですか?」

『えっとねー……ボクを殺さないでいてくれたし、ボクに優しくしてくれたし、ボクと遊んでくれるし、後は雰囲気かなー』

「雰囲気?」

『うん。 なんかね、アキと一緒にいると安心するんだー。 なんかこう……心が温かくなって、自然と嬉しくなって楽しくなって、幸せになるんだー』

「幸せに……ですか。 ……分からないでもないですけど、私はそこまでは思わないですね」

『それはアケファロスお姉ちゃんが魔物じゃないからだと思うよー? お姉ちゃん元々は人間だったでしょ? だから分かり難いんだよー』


 雰囲気か……前も誰かに言われた気がするな。

 元々の俺が持つ体質なのか、異質同体人間として得た『種族特性』の一つなのか、それともいつの間にか手に入れていた常時発動能力か何かなのか……はたまたもっと別の…………まぁ何も分からないが、取り敢えずクラエルが俺に懐いている理由はわかった。


「アキ。そろそろ行くわよ。 みんなも準備はいい?」

「完璧なのだ」

「うむ。 バッチリなのじゃ」

『準備できてるよー!』

「ん。 準備万端」

「大丈夫です」

「私も問題ないです」


 それぞれの個性が出る返事を聞いてから俺達は屋敷を出て、遣いの騎士についていった。 フレイアもついてきたのには一瞬驚いていたが、オリヴィアが何か言ってくれていたのかすんなり受け入れて貰えた






 そしてやって来たのは、城壁から数十分ほど走った場所だ。とは言うが本当に走って来たわけではなく、今のフレイア達が全力で走ればそのぐらいだったろうと言う事だ。つまり結構王都から離れた。城壁が全く見えなくなるぐらいには離れた。

 そこでは騎士や冒険者などが集まってそれぞれの準備をしていた。剣を研いだり、弓の調整、鎧に凹みなどがないか、遮蔽物となる柵や壁造ったりなど、念入りに準備して少しでも生存できる確率をあげようと頑張っていた。

 いったいあの王都のどこにこれだけの人間がいたのかと疑問に思うほどたくさん人いる。いや、数日前からここで色々な準備していたのだろうな。


 それはマーガレット達も例外ではなく、魔物の大群を相手にした時よりの真剣に装備を手入れしていた。


「……すまないな。みんな」

「…おいおい、何回目だよそれ。 もういいっての」


 またマーガレットが謝っているが、この間と同じく励まされている。 だが、その様子は一向に晴れる事はなく、沈んだままだった。

 騎士でもなんでもない友達を争い事に、戦争に巻き込んでしまった。 その事実が重たくマーガレットを押し潰しているのだろう。


「おいお前ら。励ましてこいよ」


 俺がそう囁くのは、クロカ、シロカ、クラエル、アケファロスだ。 こいつらは十分強いのでこいつらの存在を再認識させる事でマーガレットを元気付けるのだ。特に龍種であるクロカとシロカの存在は大きいだろう。 もちろん、ダンジョンマスターであるクラエルとアケファロスもいるのだが、この二人の本気を体験していないマーガレットにはあまり効果がないとみた。

 アケファロスの実力は知っているだろうが、それでも代々伝えられてきた『最強』の種族である龍種の前にはそれはあまり意味がないだろう。


「マーガレットよ、貴様がそんなでどうするのだ。 貴様は仲間に頼られて仲間を引っ張る立場であるのに、なんだその様は」

「そうじゃぞ。 リーダーならリーダーらしく堂々としていればいいのだ。ほれ、あそこにお手本のように堂々とした男がおるじゃろう。 あんな感じじゃ」


 シロカが指すのは俺だ。


『元気出して! 何かあってもアキが助けてくれるよ!』

「……あなたはこれを嫌うでしょうが、あえて言います。 あの人がいる限り私達は負けません。 あの人に本気でぶつかって負かされた私が言うんですから間違いありません。 誰の心配もする事はありませんし、気に病む事のありません。 だって誰も死にませんから」


 マーガレットが嫌う事を立て続けに言ってしまうクラエルとアケファロス。いつものマーガレットが相手なら完全に逆効果だろうが、今日のマーガレットはどこか支え求めているように見えたので多少は効果があっただろう。


「……みんな……ありがとう。 ……クドウも、ありがとう」

「何がだ?」

「お前がニグレド達に頼んだのだろう?」

「なんで分かった?」

「クドウは嘘が下手だからだな。 ……でもまぁ…………今日だけは思い切り頼りにさせて貰うぞ」

「好きにしろ」


 素っ気なく言ってしまったが、内心では嬉しかった。

 自分の力しか信じない、と言った感じだったマーガレットが「思い切り頼りにさせて貰う」と言ったのだ。 こんな変化が嬉しくないわけがない。


 マーガレットに、「頼られるのは悪い気がしないからこれからもどんどん頼ってくれ」とか言いたかったが、言えば怒られる気がしたのでやめた。



「あ、いつものマーガレットさんに戻った!」

「あら、本当ですわ。 先程のしおらしいマーガレットさんもよかったのですけど、やはりいつものマーガレットさんが一番ですわね」

「…ったく。 一々めんどくせぇやつだぜ」


 ラモンは呆れたようにそう言っているが、心のどこかではマーガレットを心配していた様子だ。 ……人に嘘を吐くのが下手だとか言ってた癖にお前も下手くそじゃないか。 エリーゼの言う通り、いつもの自信満々なマーガレットと違い、しおらしいマーガレットは貴重で中々よかった。 こんな状況でなければ俺は暫く観察していただろう。


 そんな冗談は置いておくとして、【探知】にある反応がだんだん近付いて来ている。それでもまだまだ遠いのだが、それほど余裕も持てないような距離だ。


 それが分かるからこそ、本当に皇帝が生きていたのだろうなと実感させられる。


 いったいどうやってあの皇帝は生き残ったのだろうか。確実に頭を踏み潰したはずなのだが。 ……もしかして偽者だったのだろうか…………いや、もしかしなくても偽者か。 ……冷静に考えればそうだよな。本物の皇帝が軽々しく一般人と面会なんかするわけないよな。 ……となればあの面会は一般人の不平不満を聞くためや、反逆者を炙り出すために行われた皇帝の影武者による面会だったのだろう。


 こんな分かりやすい罠に気付けなかったのは俺が間抜けなのもあるだろうが、変人になれすぎたせいもあると思う。こんなバカな奴もいるんだな、程度にしか思わなかったし。


 と、そんな時、聞き覚えのある声が響いた。


「諸君! ここに集められた理由もう分かっているだろうが、一応説明させて頂く。 ……たった今、この王都ソルスミードにゲヴァルティア帝国の騎士達が迫ってきている。 ……ゲヴァルティア帝国の騎士達では長いので、そうだな……普通に敵軍としよう」


 どこか覚えのあるセリフを言うのはマテウスだ。

 この間の魔物の大群の時よ同じように前に立ってそう声を上げている。そのそばではマーガレットの父親であるレイモンドと、体育教師もしているライリーもいる。 ……こいつらは巷で金髪トリオと呼ばれているらしい。言われてみれば確かに全員金髪だ。


「そこで私、ミレナリア王国第一騎士団団長、不死身のマテウスが指揮をとらせてもらう事になった。 よろしく。 ……と言っても、私はこう言う事に疎いので簡単な事しか言えないがな。 だが、私も色々あったのでな。 小さい脳味噌を精一杯使って指揮をとらせてもらう」


 おや? 前みたいにあほのように笑うのではなく、今回は頑張る姿勢を見せている。 なるほど。本当に色々あって進歩したようだ。


 そして現在、マテウスは周りの騎士や冒険者からドロシーとの関係を冷やかされている。 マテウスとドロシーが付き合い始めたのは既に話題になっていたからだ。


「皆さん静かにしてください。 今はおふざけをしている場合ではないのですよ。 その話は後でにしましょう」


 見兼ねたドロシーが注意するが、最後の一言で歓声が上がった。 そして次第にその歓声は静まる。 後でマテウスとドロシーの関係を冷やかすために黙ったのだろう。


「……では作戦を伝える。 弓兵はティアネーの森に潜んで狙撃。 できるだけ剣士は槍兵と共に戦ってくれ。 槍兵が相手を牽制して剣士がそこを攻撃する感じだ。別に剣士でなくとの斧使いでも槌使いでもいい。 ……だが、それでは人数で劣っている我々が不利になるので、そこを魔法使いの魔法でカバーだ。 兎に角死ぬな。相手はあのゲヴァルティア帝国だ。 確実に我々が人数で劣っているのだから一人一人が大事なんだ。 頼んだ」


 それっぽい作戦と戦いの方針を決めるマテウス。 こう言う事に疎いのでいい作戦なのかは判断できない。


 ミレナリア王国はゲヴァルティア帝国と比べて圧倒的に戦力で劣っている。だから街道の側にある砦などに兵を待機させるより、こうして自国が近くて戦いなどがしやすい場所に戦力を集中させているのだ。……まぁ、ここまでしていてもミレナリア王国はいまだに不利なのだが。


 それから各々散ってマテウスの言った通りに分かれる。剣士は槍兵と戦えとの事だったので、フレイア達の側には【魔力武器創造】で作り出した長槍を浮遊させている。 もちろん『思考加速』で脳の処理能力を強化してある。知らない他人に無闇にフレイア達を任せられないし、力量に差があればフレイア達の足を引っ張りかねないからな。

 そして久し振りにこのスキルを使う機会が来たのは結構嬉しかったりする。なんせ初めて自力で取得したスキルなのだからな。使ってみたくなるのだ。


「…………緊張してきたわ」

「ボクも……」

「魔物の大群とはわけが違いますものね。 緊張するのも無理ないですわ」

「……あはは、エリーゼさんは全然緊張してないみたいですね……私には真似できそうにないです」

「昔から肝が据わっていると言われてましたわ。 影では不動のエリーゼなんて呼ばれてたらしいですわよ」


 うふふとエリーゼは笑って見せる。そんな冗談めいた言葉に自然と緊張が解けていったようだ。 流石エリーゼ。

 ……言っては悪いがエリーゼはこのメンバーの中で一番地味なのだが、こう言うところが優秀なのでその地味さがチャラになっている。そして、魔法レベルが上がらない呪いを受けているとは言え、賢者であるクルトと同レベルの魔法を使えるのもエリーゼの努力の賜物だろう。エリーゼはあれだ。人一倍物事をこなせるのに目立たない可哀想な感じのやつだ。

 エリーゼにはいつか報われて欲しいなと思う。


 さて、そんなこんなしている内にゲヴァルティア帝国軍がやってきた。 帝国軍の先頭を行くのは、三体の緑竜だった。 龍ではなく竜だ。


 龍が東洋で見る蛇のようなドラゴンで、竜が西洋で見る翼の生えた蜥蜴のようなドラゴンだ。 龍と竜のどちらも最強の種族とされていて、龍種と竜種は仲が悪かったりはしない。


 どうでもいいが最初は、最強とは勝手に人間が呼んでいるだけだったのだが、次第にそれが龍種と竜種にも広まって、自分達龍種と竜種のニ種族で最強を名乗ろうとなったらしい。




 翼の生えた蜥蜴─竜の登場に呆然とする騎士達や冒険者達。 中にははやくも戦意喪失してしまうものもいた。まぁ、竜種は最強と言われているし一般人からすれば当然の反応か。


 …………不味いな。【探知】で見る限り、相手はこちらの倍は確実にいる。それなのに戦意喪失なんかされたらたまったものじゃない。


 ……咄嗟に『蘇生』で戦力を増やすのも考えたが、この状況で俺のステータスを持っていかれるのは痛いので却下だ。最終手段として俺が相手を全滅させるつもりなのでそれは避けたかった。


 そして、この『蘇生』は万能ではなく、『蘇生』させた生物を消したければ一々『蘇生』させたの側に行かないとダメなのだ。つまりここで俺のステータスを与えた生物を散らばせてしまうと、ここは戦場なのでそいつらのステータスの回収が大変になるのだ。

 俺の元に戻ってくるように指示を出せばいいのだろうが、この指示も使い勝手が中々に悪い。例えば、敵をある程度倒したら戻ってこいと命令すれば、その『ある程度』はそいつの裁量で決まってしまうので、全滅させるまで帰ってこない事もある。この間は下級生悪魔のような奴に「拠点から出たコレクターを捕縛しろ」と命令したら俺が運び出したコレクターを捕縛し始めた事もある。普通の生物に備わっている自我がない故の弊害だろう。

 なので『蘇生』は無しだ。


 ちなみに俺が『蘇生』させた生物を誰かが倒した場合、倒した者に経験値は入らない。なので俺が密かに企てていた、フレイア達の簡単レベル上げ計画は始まりすらしなかった。


「みんな! 行くぞ!」


 マーガレットの掛け声で俺達は三体の緑竜へと……敵軍へと走り出した。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 戦争が始まる前夜、フォニアはグラディオに自分の任務の事を話していた。恋人同士になったからか、心置きなく打ち明けられた。


「……王族を……じゃあ明日オイラは適当に彷徨いてる事にするよ」

「避難しないのか?」

「今更したってもう遅いって。 それにフォニアを置いて行けないだろ」

「グラディオ…………いかん……また甘えたくなってきた……」


 モジモジするフォニアに顔を緩めるグラディオ。


「ま、まぁ! とにかく明日は一緒にいられない。 これが最後の任務なんだ。 これが無事に終われば…………それからは一緒に暮らそう」

「プロポーズにしては気が早すぎるよ。 昨日の今日だよ?」

「ぷ、プロ……っ そんなつもりじゃ……!」

「分かってるって。 ほら、明日に備えてもう休んで。 失敗できないだろ?」


 揶揄われた事に気付いたフォニアが頬を膨らませるが、グラディオはそう言う。 本当は危険な事をしてほしくないグラディオだったが、最後の任務だと言うフォニアへの、せめてもの思いやりとしてそうすすめたのだ。


「あ、そうだ。 どんな魔剣がいい? 形とか効果とか希望ある?」

「短剣がいいな。 できれば数本欲しい。 効果は風の抵抗を受けないとか、毒の状態異常が欲しいな。 随分と欲張ってしまったが……できそうか?」

「もちろんできるよ。 【魔剣】のグラディオだよ? このぐらい楽勝だ」



 安心しように微笑んだフォニアは荷台へと戻って行った。


「さて、久し振りに作るか……」


 元々大量に作ってあった事と、売れ行きよくないのもあり、魔剣を作る機会がなかったのでグラディオにとっては久し振りの魔剣作りになる。


 グラディオのスキルは通常のスキルと異なり、かなり特殊なもので、何もないところから魔力と想像力だけで【魔剣】を創造できてしまうのだ。そんな破格のスキルだが、欠点がある。それは魔力の消費が尋常じゃない事と、想像したものが曖昧だと魔力だけを消費して魔剣が創造されない事だ。


 グラディオは早速スキルを発動させる。


 魔力は大体グラディオの魔力の半分近くを消費した。 想像に至っては細部まで想像しないといけないので、商品として置かれている魔剣と違って細かい装飾などは施せず、とてもシンプルな物になってしまった。

 だが、フォニアの要望を全て満たした一本の短剣が出来上がった。


  魔力の回復を待ち、そして再び細かくイメージして短剣を作る。

 グラディオはこの作業を朝まで繰り返した。失敗する事もあったが、フォニアの最後を綺麗に飾るために何度も繰り返した。




 翌日、今日は戦争が行われる日だ。

 狙うタイミングは騎士達が戦争に向かった後、つまり昼過ぎ頃だ。 元とはいえ王族なのだ。無様に逃げずに見栄をはって自宅にいるだろう。


 それまでグラディオとフォニアは激しくいちゃついていた。 甘えるフォニアに、それを愛でるグラディオ。 ペットを可愛がっているようにも見えるほど遠慮のない甘え合い。

 そんな幸せな時間はあっという間に過ぎ、グラディオと共に昼食を摂ってから、フォニアは標的のいる屋敷へと向かった。







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 勇者と賢者、神徒に自分達の計画への協力を仰ぐ為に、インサニエルは戦争の準備が行われているらしい、王都からかなり離れた場所までやってきていた。ちなみにカエクスはゲヴァルティア帝国方面に続く街道へと向かっていた。


 インサニエルがやってきたそこでは騎士や冒険者が集まって戦争への準備をしていた。 かなり高位の役職に就いている金髪の三人が戦争について話し合っていたり、落とし穴を掘ったり、壁を、柵を、敵の足を引っかけられる細い糸をはったり、特殊な札を使った『符術』と呼ばれる特殊な術を用いて仕掛けられた爆発したりする罠など、様々な準備をしていた。


(……どうやらここで敵軍を待ち構えて迎え撃つようですね。 相手との戦力に差があるのですから賢い判断だと言えるでしょう。 …………ですがこれだけの大人数……まだあの王都にこれだけ人がいたのですね。 ……いえ、反対側にも騎士や冒険者がいるのでしょうから、王都にはもっといた事になりますね)


 などと考えながらインサニエルは周囲を彷徨く。もちろん勇者や賢者、それに神徒を探すためだ。

 インサニエルとカエクスは、その三人が戦争に参加していない可能性も考えたが、勇者や賢者、神徒などと言った大層な役割を与えられている人間がそう簡単に逃げるとも思えないので、ここで戦争に参加しているのは確実だと考えていた。


(……どこに──あ、いました。 ん? 周囲の人は……あぁ、報告にあったパーティメンバーですかね。 …………ふむ、困りましたね。周りの人間が邪魔です…………不用意に我々の計画を知られるわけにはいきませんから、少しどこかに行って欲しいのですが……)


 インサニエルとカエクスの──テイネブリス教団が企てる計画は、とても人に知られていいものではない。なぜならその計画は一歩間違えれば世界を救うどころか、破滅に導いてしまうものだからだ。ここで計画を知られて敵を増やして一般人を怯えさせてしまうのはよくないのだ。


 そう考えて、勇者と賢者と神徒に関与できずに時間が経ち、やがて三体の緑竜が前方から翼をはためかせて飛んできた。


 そんな最強の種族の登場に、怯えてしまい武器を捨てる者がチラホラ見受けられた。

 インサニエルはそんな人間達を見渡しながらどうしたものか考える。一体程度ならインサニエルでも倒せるが、流石に竜種を三体も相手にするのは不可能だった。


(……自分が前に出たいところですけど、あまり目立つのはよくないですからね。勇者も賢者も神徒も、見た限りでは自分と同格かそれよりも少し強い程度でしたが、本当の実力はどうなのでしょうか。……ここは勇者、賢者、神徒の力を見せて貰いましょうか)






 一方のカエクスは街道沿いにある森の枝を、蝙蝠のようにぶら下がりながら猿のような移動方法で移動していた。街道の様子を知る為に街道から丸見えな場所を移動しているが【隠密】のスキルと【認識阻害】のおかげでカエクスは存在しないも同然の存在だった。


 進んでも進んでも一向に感知できない生物の気配。

 森に住んでいたであろう魔物の気配も一切ない。 恐らくこれから行われる戦争を察知して奥へ逃げたのだろう。


 やがてカエクスが感知できる範囲に入ったのは、数えるのも億劫になるほどの大勢の生物達だ。 それらは真っ直ぐカエクスがやってきた方向へと進み、何がなんだか分からないほどに色々集まった魔物や人間の気配がしている。


 そんな気配を感知してから分かる事は、これが敵軍であろうと言う事だ。


 まぁそれは当然なのだが、そこでカエクスは一つ疑問を覚えた。



(……これがゲヴァルティアの軍であるのならば、ミレナリアの軍は何処に……?)

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