第232話 暗い道を歩む
昼食を済ませ、ソフィアを半ば無理やりダンジョンに連れていき、ラモン達との自己紹介も済ませ、縦穴の底へ向かい、最後に到達した場所まで戻ってきた。
相変わらず真っ暗だ。……だが、今日は違う。光と聖魔法に長けているソフィアがいるからだ。
ソフィアは光の球を発生させ、宙に浮かべる。
この前ここに来たときは、この中で一番光魔法のレベルが高いエリーゼの魔法でも薄明るいと言った程度だったのに、ソフィアの光の球は十分な輝きを放っていた。
光魔法のレベルはエリーゼと同じで8なのに、この違いは聖女の特性か、それとも【光・聖魔法強化Lv1】と言うスキルのおかげか……それは分からないが、とにかくこれで進めそうだ。
「うわぁ……凄く明るいね……」
「あぁ。 これなら結構進めそうだな」
「……眩しい」
アデルとマーガレットとセレネが言う。
ちなみにここにいる、フレイア、セレネ、アケファロス以外のこいつらにはソフィアが聖女だとは伝えていないので、こいつらはソフィアの事を『物凄い光魔法を極めた人』と捉えているだろう。
「…いやぁこのギリギリのタイミングで、あんたみたいなすげぇ人が現れてくれて助かったぜ」
「ギリギリのタイミングって何だ?」
ラモンが言う言葉の意味が分からないので聞く。 もしかしてこのダンジョンには時間制限か何かがあるのだろうか? 封鎖されるとか?
「…もうすぐ戦争じゃねぇか。そうなっちゃダンジョン攻略なんかできねぇだろ?」
「あぁそう言う事か」
皇帝が死んだと言う話はまだ聞かない。 まぁ当然だろう。こんな短期間で二度も皇帝が死んだとなれば帝国は間違いなく混乱に陥り、周辺の国から嫌われているゲヴァルティア帝国はその隙を狙って袋叩きにされるだろう。 そうならない為に国民にすら知らせずいるのだろうし、戦争を止めるとも言わない。
「すまないなみんな。戦争に巻き込んでしまって」
「マーガレットさんが謝る事じゃないと思いますよ。俺達は俺達でマーガレットさんと一緒に戦うって決めたんですから」
「そうですわ。 それにわたくし達は仲間ですのよ? ですからどんな困難も共に、ですわ」
「みんな……ありがとう……」
そんな会話を繰り広げながら縦穴の底を進む。 出てくる魔物の強さは変わりない。 コボルトキングとかオークキングとかそこらの奴ばっかりだ。 そんな魔物を倒し続けるフレイア達は目に見えて強くなっていっていた。セレネはまだ差があるが、やはり『吸血鬼人』としての素の能力が高いからか、ギリギリ付いてこれている。
今なら全員が一人で龍種を倒せるのではないだろうか。
……そうだ。 クロカとシロカのレベル上げもそのうちしておこう。 あいつらのなけなしの龍種のプライドからしても自分達より強い人間を見過ごすわけにはいかないだろうし。
そんなこんなでボス部屋の前までやってきた。
「久し振りね。 この扉を見るの」
「そうだね。 なんか緊張してきたよ」
「私もです」
「…大丈夫だろ。俺達も結構強くなったしよ」
そう言った油断を招く発言はよせ、とマーガレットが言い、ラモンが適当に返事をする。 そんなよく見る光景に緊張がほぐれたのか、アデルとラウラが笑っている。
「まずは少し扉を開けて中の様子を窺いますわよ。 ソフィアさん。 光球を室内へお願いしますわ」
「はい、分かりました」
マーガレットとアケファロスがゆっくり開いた扉をソフィアの光球が通過する。
部屋は結構広いようで、全体が照らされるまでに少し時間がかかった。
照らされた部屋の中には赤い龍がいた。龍種だ。さっき俺が龍種なら~~~などと考えていたからだろうか。
「龍種ですわね」
「ニグレドちゃんと、アルベドちゃんの同族ってだけで戦い難いわね……」
フレイアがそう言うが、大丈夫だと言っておく。
「あいつらはお互いの種族である、黒龍と白龍以外はなんとも思ってないから大丈夫だぞ」
「そうなのね。なら大丈夫な気がしてきたわ」
あの二人は自分と自分の親友以外の色の龍種がどうなろうとなんとも思っていない。それは二人から聞いたのもあるが、最初に二人と魔物の大群を潰した時に行動で示していたので確実だ。
それにしてもあの赤龍はダンジョン産の魔物なのだろうか。 アケファロスのように外部から取り込まれるものもいるみたいだし、少し気になるな。 確認する手段はないが。
そんな事を考えている内にフレイア達が赤龍へと駆けていった。 ここに残ったのは俺と猫仮面をつけたアケファロスとソフィアだけだ。 だが、ソフィアは若干前に出てフレイア達を聖魔法で治療する為に気を張っている。
アケファロスも俺と同じく初見の敵や、雑魚との戦闘にあまり関わらないようにして貰っている。とは言え、俺と違って積極的にサポートする事は許されているので、あまりこいつは暇ではなかったりする。
「アケファロスは赤龍を倒した事があるか?」
「ありますよ。 赤龍の里を訪れた時にいきなり襲いかかられたので」
「……龍の里か。 俺もそのうち行ってみたいな」
龍がたくさんいるのだろう。そいつらと戦うもよし、平和的に関わるのもよし、何にせよ面白そうなのでそのうちクロカとシロカを連れていこう。
そんな事を考えているうちに戦いは終わったようだが、なぜか立ち尽くしている奴がいる。 気になったので【遠聴】でそれぞれの話を聞く。
「最強と謳われていた龍種をこうもあっさり……私達は思ったより強くなりすぎたようだな……」
なんか強者じみた事を言っているが、それでもやはりマーガレットはマーガレットのようで最後に、油断をしないようにしないとな、と言っていた。こいつはどこまで行ってもこうなのだろう。油断まみれの俺とは大違いだ。
「…こりゃあ売れば儲かるだろうが、もう金は必要なさそうだもんなぁ」
この間まで力と金に固執していたラモンがそう言って苦笑いしながら赤龍の死体をみつめている。
「ねぇクルト、ラウラ。これなら魔王も……」
「勝てそうな気がしてきましたね……!」
「マーガレットさんじゃないけど、油断や慢心はよくないですよ」
向こうでは【勇者】と【賢者】が魔王についてコソコソと話しているが、なぜそこにラウラが加わっているのだろうか。 もしかしてアデルかクルトのミス……アデルのミスで二人の素性がバレてしまったのだろうか。 そしてそれを知ったラウラが、私も! とか言って…………いやないな。 臆病なラウラが自らそんな危険に飛び込むわけない。 …………まぁなんでもいいか。恐らくだが【魔王】は……【魔王】になり得る存在だったであろう、皇帝は俺が殺してしまったのだから。
そんなマーガレット、ラモン、アデル、クルト、ラウラはすぐに気を取り戻してフレイア達と赤龍の分配を始めた。
その後暫く進み、数体ボスを倒したところでソフィアの光魔法が通じなくなったのでダンジョン探索は終了し、ソフィアの魔法をメインにレベル上げを始めた。【光・聖魔法強化】は光魔法と聖魔法の両方の使用でレベルが上がるようで、このスキルのレベル上げは大変そうだったが、このスキルのレベルが1だった事もあり、割りとスムーズにこのスキルのレベルが上がった。だが、どうせなら今日はこれのレベル上げに費やそうと言う事になったので今日はこのままレベル上げだ。
それと、【光・聖魔法強化】はそのレベルに応じた分だけ光魔法、聖魔法が強くなるようだ。 だが、その上がり幅が異常で、例えば光魔法がLv7だとして光・聖魔法強化がLv3だったら、実質的に光魔法のレベルは10となる程の強化がされる。 異常だ……聖女は。
そうしてダンジョン探索を終えた俺達は、相変わらず人通りが少ない道を歩く。 最近は戦争が起こると言う事もあり、街中はピリピリしている。なんせ相手はゲヴァルティア帝国……幾つもの国を潰して領土を増やしてきた大国だ。 だからこの国が負けると考え、自棄になって犯罪に手を染める者が現れ始めた。なので衛兵の手が回らなくなり、それを知って更に犯罪者は増えていく。
貴族まではいかないまでも、そこそこの金持ちは傭兵などを雇って出歩いたりしている程だ。
そんな世紀末にも似た荒れようだからか、普通の大通りを歩いていると言うのにあからさまに危ない奴らに囲まれた。 この世界に危ないお薬があるのかは分からないし、今までそう言った人間を見た事がなかったが、あぁ……キメてるんだろうな、と分かるほどにこいつらは恐ろしい形相をしている。……なぜか土まみれだ。耳が尖っていて長いのでエルフかと思うが、いくら危ないお薬をキメたかも知れないと言えど、流石にここまで醜くはならないだろう。
何か話し掛けてきているようだが、呂律が回っていないので全く聞き取れない。もしかしたら遠くから来た人達で、そう言う見た目で、違う言語を話していて言葉が通じないだけの可能性があるので迂闊に手出しできない。
いっそのこと、刃物でも出してくれれば助かるのだがそんな様子はないので、土の縄で縛り付けて脱出することににした。地面には穴ボコがたくさん空いていたのでそこから覗いている土を利用した。
どうでもいいが、氷魔法で無から氷が生成できるように、土魔法でも無から土を生成する事ができる。無から何かを生成する時はMPの消費も大きくなるので、魔法使いにとっては地形も大事だったりする。…………と言うかなぜ街中に穴ボコが空いていたんだろうか。
その後は屋敷に帰り、なぜかフレイア達の溜まり場と化した俺の部屋で様々な遊びが繰り広げられた。 フレイアも、クロカも、シロカも、アケファロスも、ソフィアも、門番をしている筈のクラエルまでもが、ここで遊んでいる。 元王族で国王が優遇していたと言う事もあり、結構大きい屋敷だから一部屋一部屋が全て大きいのだが、流石にこんなに集まると狭く感じる。まぁ、感じるだけで狭くはない。だってアケファロス以外のここにいる奴は大体小さいからな。……胸にも当てはまる事だが、こっちではない。
そんな俺の心を読んだのか、小さい奴らが俺を睨んでいる。
「どうした?」
「今、失礼なこと考えてたわよね? お母様に似ている私はそう言う事に鋭いのよ。 気を付けなさい」
スキル無しでそれは恐ろしい。 オリヴィアの【看破】は相手の目を覗けば覗く程詳細に分かるらしいが、フレイアのこれも大概だ。 そう言えばあの時、俺の目を見つめて盗賊じゃないと判断していたが、あれもそれの一端だったりするのだろうか。
「アキよ、何を考えてたのだ?」
「こんなに人がいるのに部屋が空いているのはなぜなんだろうなって」
「…………待て、それは遠回しに童達が小さいと言っておるのか?」
「そうだ。 お前らがアケファロスぐらい色々大きければこうは感じなかっただろうな」
フレイアにはバレているようだし、いっそのこと開き直って素直に言ってやる。 幸い、ここにはいじったら面白い奴が多い事だし。
「なっ!? ……い、色々とはなんですか!」
「色々だ」
その後、色々揉めて……卑猥な意味じゃなく色々あって、軽い口論に発展したが、流石に数人相手には多勢に無勢で言い負かされた俺は、バカにした罰として着せ替え人形にされてしまった。俺に懐いているクラエルは最後まで味方をしてくれたが、その甲斐なく、負けたのだ。
夕飯までまだまだ時間があったのが最悪だった。
まぁだが、これのおかげでフレイア達の結束が強まったのか、みんな仲良くなっていた。……喜ばしい事なのだが、そのせいで俺を着せ替え人形にすると言う罰が白熱してしまったのもあるので、一概によかったとは言い難かった。 ちなみにセレネ、アケファロス、ソフィアは女性化に驚いていたが、案外あっさり受け入れて俺で遊んでいた。
いつか絶対に仕返ししてやるからな。
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グラディオとフォニアは住居をどうするかを路地裏で相談していた。 フォニアがグラディオの護衛をするに当たって、住居を同じにしたほうがいいだろうと、フォニアが言い出した事から始まった。
「オイラは自分の移動屋台的な場所で寝泊まりしてたけど、流石にもう一人人が住めるようなスペースはないよ」
「私は野宿だったからそもそも……」
「あぁー……じゃあお金がかかるけどやっぱり宿屋かなぁ……」
「…………すまない。 荷物も纏めず飛び出して来たから金はあまり……」
「オイラも売り上げがよくないから……」
と、絶望的な現状に溜め息を吐く二人。 このままここで話していても進展はないから歩きながら話そうと、通りを並んで歩くが、結局いい案も出なかったので取り敢えず宿屋で一室を借りて夜を明かした。グラディオは隣で平然と眠っているフォニアのせいで寝付けなかったのはここだけの話だ。
翌日には宿屋の部屋を引き払い、少しでも金を稼ごうとグラディオの移動屋台へとやってきた。 その屋台には剣などを大量の物を置いているのでグラディオがあまり移動できなかったのが売り上げが低い原因であったのだが、フォニアもいるので移動は幾分かは楽になっただろう。
一日の終わりが間近となった夕暮れを過ぎ、遠くに朱色を残す黄昏時を少し過ぎただろう頃─日没。
「グラディオはいつもこんな重い物を引いていたのか……」
「まぁね。 それぐらいしないとお金を稼げないしね」
「…………すまなかった」
唐突に謝罪するフォニアに「え?」と首を傾げるグラディオ。そんなグラディオを見ずに、フォニアは屋台を引きながら答える。心なしか俯いている気がするのは気のせいだろうか。
「私達が、お前を……お前達、異世界人を不当に扱ったせいでお前達はこんな事になってしまっている。 そうするように指示を下した皇帝はもういないが、それに従って動いていた者を代表して謝らせてもらう。 申し訳なかった。 償いになるとは思っていないが、私の任務が無事に終わればこれからもお前の仕事を手伝わせて欲しい」
普段と同じ口調で声色でフォニアがそう言うが、そこには確かに謝罪しようと、申し訳ないと言う気持ちが、誠意が見えた。
それを受けたグラディオもフォニアへと言葉を紡ぐ。
「オイラは別にフォニア達を恨んでいないからいいよ。 だけど、他の五人はどうだろう。 ……マテウスとドロシーは騎士と言う安定した職に就いたらしいし…………ティオと……【冒険王】の兄ちゃんも冒険者として大成してるらしいからあまり恨んでいないと思うよ。 ……だけど……【城塞】は……リブはどうだろう……四人と違って話を聞かないからどこかで野垂れ死んだか、一般人と同じように暮らしてるか……だろうね。 まぁ、何にせよ、みんな思い思いに暮らしてるだろうし、気に病む事はないだろう」
グラディオがそう言って申し訳なさそうに項垂れるフォニアを慰める。
日が沈み、人通りが更に少なくなった街中。涼しさと静けさが街を支配する中、移動屋台の車輪はガラゴロと音を立てて回り、そして進む。
日中よりも人通りが少ない街中を、後少しだけ客を求めてひたすら進む。
並んで屋台を引く二人の腕が何度も擦れる。
その度に無理やり実感させられる隣を歩く異性の存在。
暗がりの中、うっすらと浮かぶ自分より小さい異性の輪郭。
普段そう言った事を意識しないフォニアですらもそれには、冷静な顔をしながらも胸を高鳴らせていた。 グラディオは言うまでもないだろう。
(……な、なんなんだ……この……ドキドキ? は……!? 私はこんな感情を知らない……! 心臓の鼓動が、車輪音に紛れて聞こえてきそうだ…………ダメだ……私は今、誠意を込めて謝らなければならないのに、こんな事に気を取られてはダメなのに……! 止まらない……ど、どうすればいいんだ……!?)
そんな激しい困惑と罪悪感に苛まれるフォニアは、だんだん感情の制御が利かなくなり…………
そして…………
鼻血を吹き出して倒れた。
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グラディオとフォニアから逃げ出したインサニエルは、塔の出っ張りの裏に張り付くカエクスと話し合っていた。
「こっちは【魔剣】を発見したものの、横槍を入れられて失敗しましたよ。そっちはどうです?」
「此方は手出しすら困難だ。 あの屋敷からは異様な気配が漂ってきている。 龍種と同格の化け物が二。 それより多少強い化け物が門に一。それらから逸脱した化け物が一。 それよりも遥かに格上の化け物が一。 正直【城塞】よりも城塞だ」
冷静に……だが若干怯えながら告げるカエクスに、珍しくインサニエルが驚く。
「盲目のあなたでも怯える事が……いえ、盲目だからこそその感覚が鋭いのでしょうね。 自分には分かりませんし」
インサニエルが呟く。 その呟きは風に乗ってインサニエルの足場の下にいるカエクスには届かなかっただろうか、それとも風に乗って届いただろうか。
「これは部下から聞いた事だが、現皇帝はこの国に戦争をしかけるのだとか。 騎士と数千の魔物を率いて」
「それは初耳ですね」
「だが、あれらを前にそれらが意味を為すとは思えぬ。 寧ろ不用意に刺激そた事により此方が破滅するだろう」
「……ふむ。 でしたら帝国は切って邪神様の復活に向けてあの方達との関係を育むのに尽力した方がよさそうですね。 帰りますよ」
「了解した」
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数多の魔物が犇めく一つの空間。 そこにあった壁や天井は全て排除され、完全な野晒しになっている。謁見の間の真上の部屋などは全て倒壊し、空が謁見の間を見下ろしていた。
「おーこうして見るとなんか気持ち悪いねぇ。 まぁいいや。 ……前も言ったと思うけど、もうじき行われる戦争では君達が重要なんだ。頑張ってね。 ……はおあ……僕も大層な立場になっちゃったからね。それらしく、精一杯君達をこき使うよ」
犇めく魔物達はそれに答えるように咆哮を上げる。 その木霊する凶悪な咆哮は帝都にいる住民を戦慄させると同時に、この戦争の勝利を約束し、勝利が確定し、既に勝利したかのような……勝鬨のようにも聞こえた。
勝利していないのに勝利したと錯覚させる程の魔物達の咆哮はどんどん遠くなっていく。 戦慄と錯覚を齎す凶悪な咆哮が去ると、妙に静まったような気がして、帝都の人々は謎の寂しさに駆られた。
「いい返事だね。 じゃあ各々、どんな手段を使ってもいいから戦力の増強に励むように……解散」
飛び立つ魔物、地面に潜る魔物、突然いなくなる魔物、風を吹き荒らして去る魔物、そんな様々な散り方は、断崖の岩が落下した事により飛沫を上げる海のようだった。
「じゃあ僕らも戦力の増強に励もうか。 行くよ」
「了解」
側に使えていた、赤髪の男に声をかけるアルタと、それに付いていく赤髪の男。 赤髪の男は何もかもが真っ赤だ。 髪も目も、服も。服まで真っ赤なのは、「そこまで赤いんだったら全部赤くしよう」と言うアルタの提案のせいだ。
赤髪の男本人はそこまで赤尽くしなのを嫌がっていなかった。それは赤髪の男の家族がみんな赤かったからだろう。
ちなみに赤髪赤目の男の出身地はもう既に存在していない。そんな理由から自棄になり、アルタに支配されてしまっていた。
「どこへでもお供致します。【邪王】様」
「僕をそう呼ぶなって言ってるだろう。 殺すぞお前」
赤髪の男を睨み付けてそう言うアルタ。
「……で、でしたら【魔王】様にいたします」
「それもやめろ。僕は邪王でも魔王でもない。 アルタだ」
「ではアルタ様と」
「様……もいらないけど、まぁそれはいいや」
そうしてアルタはいつも通り魔物を支配する為に、風通しがよくなり過ぎた城を出た。




