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第229話 皇帝

 翌日、朝、昼と適当に過ごした。 やはり皇帝などと言う大物を始末するなら夜だろうからな。


 ちなみに昼食後はアケファロスに剣術を教えて貰っていた。 その頃にはアケファロスとまともに打ち合えるようになれたので、鼻血を流しながら特訓した甲斐があったと言うものだ。あと、【高速学習】も【思考加速】と同じ容量で加減をしていたので鼻血程度で済んでいたのだが、その分覚えが悪くなるのが欠点だ。




 …………そんな事より皇帝の殺害だ。

 皇帝がどんな人物なのかは分からないが、前皇帝を殺して皇帝に成り上がったような奴だ。しかも前皇帝を殺したのは自分だ……って吹聴しているらしい。 相当頭がイカれてる奴なのは明らかだ。

 この手の奴は、危険だが大体が面白い人物な事が多いので、ここで殺さなくてはいけないのが残念だ。


 などと考えながら屋敷を出る。 夕飯は済ませているが、それでも遅くなるすぎるとリブに怒られるし、もしかしたらオリヴィアにチクられるかも知れない。それに風呂のお湯を抜かれてしまうので急がなければいけない。


 翼を生やしてから、向かい風をある程度風魔法で防ぎながら高速でゲヴァルティア帝国へ向かう。

 最近は大体【転移】で移動していたから久々のような感じがするな。こうして空を飛ぶの。



 そうしてあっという間に到着したゲヴァルティア帝国の上空で【認識阻害】を使いながら空にとどまる。多分到着までは十分も経っていないだろう。 そしてここからは城が見えるのだが…………壁に大穴が空いている。

 もしかして俺より先に誰かに襲撃されたのだろうか。


 その大穴からは玉座に座る黒髪黒目の同い年ぐらいの男と、その向かいからやってきた銀髪の少女が膝を突いてから男に何かを話しかけている光景が見える。


 皇帝? っぽい男は生きているので襲撃は失敗したのだろう。 あんな大穴を空けられる奴を退けるとは……サクッと暗殺するのは無理そうだ。


 銀髪の方は顔が見えないし、黒髪黒目の皇帝? も見覚えがないが、二人ともどこか……知っているような感じがする。


 なんとなく【遠視】と【遠聴】を使用して二人のやり取りを把握してみる事にした。 今のところどちらも敵寄りの立場なので盗み見、盗み聞きする事に気が引けたりはしなかった。そもそも大穴が空いているのを放置するのが悪いんだしな。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 途中の村や町で休みながら歩き、とうとうソフィアはゲヴァルティア帝国に到着した。


 真っ先に向かうのは美しいドレスなどを売っている店だった。 皇帝に会うのだから今のようなボーイッシュな服装ではいけないだろうと言う当然の判断からだ。


 男っぽい人物が女物の服を物色している事を怪しまれたが、ソフィアがキャスケット帽を脱ぐと溢れ出す綺麗な銀髪に見とれる従業員はハッとすると態度を一転させ、ニコニコと接客をしだした。

 その変わり様にソフィアは苦笑いするが当の従業員はニコニコと笑みを浮かべて次から次へとドレスを持ってきた。


 結局それらを一通り試す事になったソフィアが買い物を済ませて店を出ると、既に辺りは茜色に染まっていた。ソフィアの予定では今頃銭湯に入って綺麗になってから皇帝と出会っている筈だったのだが……

 その後ソフィアは計画通り、長旅で体臭がキツくなっているだろう自分の体を銭湯に向かい綺麗に洗った。


 思いの外じっくりお湯に浸かってしまっていたソフィアは風魔法で急いで髪を乾かして城へと急いだ。


 ちなみに皇帝との面会は皇帝が変わってから物凄く簡単になっており、誰でも申し出れば面会ができるようになっていた。

 アルタはこれが暇潰しになるだろうと考えたのだ。 殺しに来るのもよし、握手を求めるのもよし、世間話をするのもよし、と。


 城への侵入を防ぐ為に配備された門番に、皇帝と面会したい、と伝えたソフィアの申し入れはすぐに受け入れられ、今すぐに面会が行われる事になった。

 後日に面会をすると言う約束さえできれば満足だと思っていたソフィアは案内された個室でいそいそとドレスに着替えて皇帝との面会に向かった。


 案内された謁見の間は一目で異様だと分かった。 ソフィアは遠目から見てもおかしいなと思っていたが、まさか本当に穴が空いているとは思わなかったのだ。幻術か何かの類いだと思っていたがのだ。


「やぁ。こんばんは。 えっと……ソフィアさん?」

「こ、こんばんは……皇帝陛下。 夜分遅くに申し訳ありません……」


 大穴見つめていたソフィアに向かって気さくに話しかけるアルタ。 ソフィアはその軽さに驚いて少し動揺してしまう。


(一般人相手に面会するような人ですから、こんな性格だとは予想できましたね……)


「いやいいよ。僕も丁度暇だったし。 ……あ、気になる? その穴」

「はい……」

「だろうね。 でも気にしないでいいよ。 君には関係ない事だし」

「分かりました」

「それで、今日はどうしたの? 用があるんでしょ?」

「あぁ、はい。 えっとですね──」


 ソフィアはアルタに質問をしていく。 なぜ前皇帝を殺したのか。 皇帝になった目的は何か。 なぜミレナリア王国に戦争をしかけたのか。 など、自分が気になる事を次々と聞き出していった。


「──では、陛下は陛下を奴隷のようにしようとしていた前皇帝を殺害し、勝手に皇帝に仕立て上げられ、自身の愉悦の為にミレナリア王国へ戦争をしかけられた……と?」

「そんな感じだね」


 ソフィアは混乱していた。 皇帝へと至った動機こそ適当なものだったが、愉悦の為に戦争を起こすなど適当どころか狂気の沙汰だ。 ソフィアはそれと同時にこの人は目的の人ではないと悟っていた。


「じゃあ今度は僕からの質問。 君はどうして僕に会いに来たの? この国の人間じゃないよね?」

「っ! ど、どうしてそう思われたのですか?」

「だってこの国の人間なら面会に来た人間の末路を知っているからもう面会には来ない。 なのに怯えた様子もなく君は来た。 それどころか少しワクワクしていた。 ……不自然じゃないかい?」

「…………」


(知らなかった。 この国で面会が事実上で行われなくなっていたなんて。 それに末路……怯える……? 一体面会に来た人はどうなって……)


「あ、やっと怯えてきたね? ……末路を知りたい?」


 ソフィアはた固唾を飲み、小さく頷く。 怖いものみたさと言う奴だろうか。 危険な好奇心を抑えられず頷いてしまった。


「僕に一生支配されるんだよ。 どんな人間でも、善悪を問わずね」

「し、支配……ですか……一体なぜ?」

「うーん……戦争の為にちょっとでも戦力が欲しいからかな。 ただの一般人でも捨て駒にはなるでしょ?」

「なっ……!? 捨て駒!?」


 膝を突いていたソフィアは勢いよく顔を上げ、そのまま後ろに倒れ尻餅をついた。 そして立ち上がりアルタに抗議する。 捨て駒と言う単語を聞き、ソフィアの正義の心に火がついたのだ。


「無理やり支配して捨て駒にするなんて、一国の王がする事じゃありません! 今すぐに解放してあげてください!」

「いやだよ。 ……どうしてもって言うなら僕を殺しなよ。 そうすれば自然と解放されるよ?」

「…………ぅっ!」

「できないのかい? まぁそうだよね。 ただの一般人が人助けなんて薄い薄い理由で綺麗な自分の手を汚せないよね。 分かる分かる」


 ソフィアの正義の心を嘲るアルタ。ソフィアは唇を噛んでアルタを睨む事しかできなかった。

 事実だからだ。 人助けはしたいがその為に人殺しなんて真似はできない。 悪路……茨の道は想定していたが、それでも決して人殺しだけはするまいと決めていたのだ。


「……で、それはいいとして、さっきの答えを聞いてなかったね。 どうして君は僕に会いに来たのかな? 正義を為しに来たのではないようだからね」

「…………人を探していたんです」


 ソフィアは渋々と言った様子で話す。


「へぇ……その人の特徴は?」

「……黒髪黒目で、適当な性格、希望にも絶望にもなり得る生物の王……」

「もしかして、僕がそうだと思ったの?」

「…………」


 沈黙するソフィアを見て「なるほどねぇ……」と頷くアルタは、何かを思い付いたように笑みを浮かべた。


「全部僕に当てはまってるね」

「……え……?」

「他のはもちろん、あらゆる生物を支配できるところとか、まさに僕じゃないかな? それに王様だし」

「……っ……で、でもあなたは私を守ってくださるような人なんかではないです!」

「じゃあ守ってあげるよ。 捨て駒ではなく、普通の人間として支配して守ってあげるよ」

「支配する意味は……ないですよね……?」


 揺らぐソフィア。 まだ教皇が言っていた茨の道は進んでいない。 だけどアルタに支配される事が茨の道だったとしたら……? それなら人物の特徴も当てはまるし、茨の道を進む事もできる。


「……僕は人間が信じられないんだ。 昔、酷い目にあったからね……だから支配して裏切らない部下を増やしていたんだよ……」

「…………」


 更に揺らぐソフィア。 聖女であるが故か、目の前悲壮感が漂う相手を無下に扱う事ができなかった。


 今のソフィアはただ優しく、甘いだけだ。目の前の男がろくな人間ではないのが分かりきっているのに、だと言うのに愚かにも目の前の男を哀れんでしまっている。


 そんなソフィアは頷きかけるが、最後に皇帝の事を──アルタに流れる運命を確認しておこうと思い、ギリギリで踏み止まった。


 視える運命は、支配と殺戮と愉悦。 攻め滅ぼした国の人間を残らず支配し、また他の国へ。その過程でソフィアは捨て駒として使われている。 そしてアルタは人死にを見て笑う。愉快そうに嘲笑う。 そして果てには自分の支配下にいる人間までもを殺し、自分以外を死滅させる。


 この未来はあくまでも一つの未来でしかないが、それでもアルタが邪心を抱いているのが判明しただけで十分だった。 他人であるソフィアがアルタに影響を与えて支配されればこうなってしまうだろうと言う、一つの運命が視えたからには支配されるわけにはいかなくなった。


 もしこれが【未来視】であれば、アルタの行動次第で次々と未来が変わり、その結果平和的な結末を迎える事もあっただろうが、これは【運命視】だ。アルタの選択など関係なく周囲の人間の行動により確定に近付けられた物語だ。 だが、ここで周囲の人間であるソフィアが、アルタの支配から逃れれば先程【運命視】で視た死滅の物語は回避できるかも知れない。



「お断りします。 あなたが人間不信かどうかはさておき、あなたは嘘吐きですから」

「あれ……バレちゃったかぁ。 まぁいいや。 無理矢理支配すればいいだけだしね」


 アルタは玉座から立ち上がり、少し歩いてソフィアへと手を伸ばした。

 だがその腕はソフィアに届く事なく、アルタの腕は血飛沫のドレスを纏って宙を舞った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……ひっ……!」

「痛いなぁ。 誰?」


 皇帝が動じる事なく誰何するが、俺は今この皇帝を殺しに来た暗殺者なので答えない。ちなみにアケファロスの服装から着想を得て、いつもの外套に布の仮面をつけてみた。布仮面には梟の顔を模した模様をいれている。 外套ってなんだか梟っぽいし、梟の顔って仮面っぽいし、梟は夜行性の動物だしで梟を選んだ。

 いいセンスだとは俺でも思う。


「ホーホー」

「あっ、なんだ梟かぁ……ってなるわけないよね?」

「ホーホー」

「君、それ貫くの?」

「いや、やめておく」


 梟の真似をしてみたが、冷静に考えれば会話ができないのでとても不便なのでやめた。


「……で、なんのつもり? 僕は君じゃなくてそこの子に用があるんだけどさ? 邪魔しないでくれるかな?」

「そうか。実は俺もこの聖女に用があるんだ。 ここで易々とお前に渡すわけにはいかないんだよな」

「な、なな、なぜその事を……!?」


 さっき、ソフィアが勢いよく立ち上がった時に今まで髪で隠れていた横顔が見えたのだ。


 ダンジョン攻略は俺以外にもフレイア達も参加するので外套を脱がなくてはならない。それは今のソフィアとの関係的に厄介な事になるので避けたい。 なのでまずソフィアにはマテウスとドロシーの治療をさせる。 その後でマテウスとドロシーに聖女の話を聞いたと言ってソフィアをダンジョン探索に利用すればいいだろう。あの時コレクター達から助けた恩を返せとieba簡単だろう。


「聖女……? まぁ分かったよ。 ならどっちが強いかで決めないかな? 純粋に殺し合いで決めようよ」

「分かった」


 皇帝がいつの間にか再生していた腕を振り上げると、次の瞬間には俺の目の前まで迫っていた。

 その拳を振り上げて握り潰す。 すると皇帝の拳はあっさりひしゃげてグチャグチャになった。


 模倣の通路で上がりまくっていたステータスがどれだけの強さなのかを確認したかったのだが、以前のステータスの最大値にも満たないぐらいの強さでグチャグチャになってしまった。 それもそうか。 前の状態でも敵無しだったのに、その倍近く増えればそうなるだろう。


 一見、ステータスの数値が過剰に見えるが、これから色々な生物を蘇生させて使役するのなら足りないぐらいではないだろうか。……ちなみにこの間の下級悪魔のような奴はもう消してあるのでステータスは元通りだ。


「す、凄い怪力だね……数千の魔物達とステータスを共有しているのにこれかぁ……」

「お前が弱ければそれの意味ないだろ」


 ただの魔物が数千ごときであれば、こいつは俺には敵わないだろう。強い魔物のステータスをどれくらいかプラスすればその限りではないが、こいつの強さから推測するに強い魔物のステータスはあまり共有できてはいないようだし、こいつ自身も戦闘経験が皆無のようなので凄く弱い。こいつはステータス任せなのだ。 ……そこは俺と同じだが、俺は最近アケファロスから色々教わって技術と言うものを学んでいるのだ。


 つまり差が開き過ぎている。


「…………確かにそうだね。 ありがとう目が覚めたよ」


 そう言う皇帝に向かって蹴りを放つ。 驚くほどあっさり吹っ飛んでいき、壁に空いた大穴から退場……退城していく。

 こいつの強さを表すなら、ステータス任せに戦っているアケファロスより二回りぐらい弱い。 ……と言ったところだろうか。 やはり経験と技術がないのが痛い。 ……俺も人の事言えないが。


 地面を転がる皇帝はとても皇帝とは呼べない無様な様子だった。


「あ、あの……いいんでしょうか皇帝陛下を……」

「いいんだよ。 皇帝を殺して皇帝に成り上がったような奴なんだから自分が殺される覚悟ぐらいしてるだろうし、厄介な戦争を起こさせない為にはその元凶を潰さないといけないからな」

「……そうですが、別に殺さなくても……」

「面倒臭い奴だなお前は。……まぁいい。何でもいいが邪魔だけはするなよ」


 立ち上がろうと、皇帝が地面についている手を風の刃で斬り落として、その切り口を土魔法で地面から伸ばした土で塞ぐ。 土と腕が一体化しているかのようだ。


 地面を這いつくばるような状態の皇帝の前まで歩く。

 ここで殺してもいいが、個人的に魔物とステータスを共有できると言うのが気になるので、こいつを殺すかどうか迷っている。


 なのでチャンスを与えてみる。


「戦争をやめると言うなら殺さない。 戦争をやめないと言うなら殺す。 どうする?」

「あはは! もちろんやめるわけないだろう? 生きる楽しみを捨ててまで無意味に生きるつもりはないからねぇ」

「そうか」


 俺を見上げて笑う皇帝の頭を踏み潰す。 簡単に砕け、簡単に死ぬ。


 こいつを喰っておきたいが、皇帝が死んだ事をこの国の人間達、亜人達に理解してもらわなければいけないのでここに放置していくしかない。 魔物とステータスが共有できるスキルは欲しかったが仕方ないのだ。

 皇帝が死んだ事により国は混乱に陥る。 そうなれば戦争なんかする余裕がなくなるので、戦争が中止になる可能性が高くなるのだ。





 ……そんな事より早く帰らないとな。


「帰るぞ」

「え……?」


 そう言って手を差し出すが、ソフィアは困惑している。


 ……それもそうか。自分の意思で孤児院を出て旅人となったソフィアに帰るところはないか。 ……かと言ってここに置いていくとソフィアが皇帝を殺したと思われてしまうだろう。 ……どうするかな。マテウスとドロシーの治療をさせたいんだが…………無理矢理連れていくか。


 そう考えた俺はソフィアに真っ白い仮面をつけさせてから手を掴んで一緒に転移門(ゲート)を潜った。行き先はマテウスの病室だ。ドロシーの病室は知らないので【認識阻害】を使って探索するしかないな。




「な、なんだ!? ふ、梟!? ……と、誰?」

「静かにしろ。 お前の手足を治せるかも知れない奴を連れてきた」

「……! そ、その声は……!?」

「言うな」

「あ、あぁ……すまない。 そんな外套を羽織っていると言う事はそう言う事なんだよね。 それで……その仮面の人が……?」

「あぁ。 …………頼む」


 そう言ってマテウスの左腕と右足を持ってくる。 【聖者】であるドロシーがいるから、と冷凍保存されていたのをたった今ゲートを使ってパクってきた。 前回マテウスに会いに来たときに発見しておいたのでゲートを繋げる事ができた。


「え……? あ、はい……」


 何がなんだか分かっていない様子だったが、左腕と右足、左腕と右足がない人物を見て咄嗟に助けなきゃと思ったのだろう。 何もかも考えずに聖魔法を使いながら左腕を肩に押さえつけながら治療する。 右足も同じように。


「終わりました」

「お、おぉ……! 動く! 久し振りだなこの感覚は!」


 喜ぶマテウスを余所にソフィアがちょんちょんとつついてくるので、振り返る。


「……あの、どういう事なんですか?」

「怪我人の治療だけど?」

「そうではなくて……どうして私が聖女だと知っていたり【不死身】のマテウスさんと知り合いだったり……とかそう言う事です」

「説明するの面倒臭いから無理。 さ、次はドロシーだ。 マテウスも来るだろ?」

「もちろんだ!」

「ちょっと! 適当に誤魔化さないでください!」


 何か言っているのを無視して【認識阻害】を使う。 右手にはソフィアいるのでマテウスは左手だ。【透視】や【遠視】を駆使して各部屋を覗いていったところ、ドロシーはマテウスの病室から一番遠い病室にいる事が分かった。

 マテウスが気まずそうにしていたので問い詰めたところ、最初の頃はドロシー探す為に病院内を徘徊していたから、出会えないように離したのかも知れない、と。 マテウスがなぜそれほどにドロシー執着するのかは分からないが、異常だと思う。



「ここにドロシーがいるんだよな?」

「あぁ。 他の患者もいるから静かにしろよ」

「分かってるよ」


 扉を開くと、まずはカーテンで仕切られた病室が。 その一番奥のカーテンにドロシーはいた。


「……ごめんドロシー。 守ってあげられなくて」

「…………」


 ソフィアが治療する側でマテウスはそうしてドロシーに語りかけ続ける。


 それはドロシーが目を覚ましてからも暫く続いた。

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