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第227話 問題解決へ

 昨日はとある事情から夕飯抜きだったので、いつもより朝食が美味しく感じたし、物足りなくなった。 それはアケファロスも同じだったと思う。


 そして今日も光魔法のレベル上げ。 一向に進捗はなく、相変わらず今日も停滞していた。



 だが、今日はちょっと大きな噂を聞いた。【砕頭】の噂とかが塵に思える程だ。


 その噂とは、あのゲヴァルティア帝国が、ここ、ミレナリア王国へ戦争をしかけると言うものだ。しかもゲヴァルティア帝国はいつの間にか皇帝が変わっていたらしい。……そう言えばこの間、皇帝が変わったと聞いたような気がする。


 まぁ皇帝の入れ替わりはどうでもいいが、戦争は勘弁して欲しい。

 冒険者は強制徴集されず任意で戦争の参加が可能だが、騎士としても活動しているマーガレットは強制徴集されてしまうだろう。そうなれば仲間である俺達はその戦争に付いていくと言う選択をとると思われる。 ……なんだかんだ、この人数での冒険者活動が一番安定しているし、何より実質的なパーティリーダーはマーガレットなのでいなくなられると困るのだ。


 ……面白い事を求めてはいたが、戦争などとなってくると話は違う。これはただ単に面倒臭いし煩わしいだけだ。そう考えると現在の皇帝も前の皇帝も大して変わらず鬱陶しいだけだ。 こうなる前に始末しておくべきだったかも知れないと思えてくる。



 そんな事をラモンと一緒にコレクターの拠点を潰しながら考えていた。

 昨日結構潰したからか、ここを入れてあと三つ潰せば一先ずは終わりだ。……まだ残りがいるかも知れないので油断はできないけど。


 そうして辿り着いたのは一つの大部屋。

 そこの奥では椅子にふんぞり返りながら座っている男がいた。 明らかにここのボスのような感じだ。


「あれがラモンの標的か?」

「…いや違う」


 らしいので相手が言葉を発する間も無く、ラモンがコレクターから奪い取ったナイフを投擲し、心臓を刺した。


「可哀想だな。 あのカメノスとか言う奴」


【鑑定】を使っている途中であいつが死んだので名前までしか見れなかった。


「…おっと、俺とした事が迂闊だったぜ。 相手の情報を確かめず殺しちまうなんて。 えーっと、じゃあ残りはペルディタとツィールだったか」

「それが標的の候補か?」

「…おう。どっちかが俺の敵だ」


 じゃあそれが残りの二つにいるかどうかだな。

 既に一般のコレクターと間違われてラモンに殺されていないといいが。




 カメノスがいた拠点を燃やしてから次の拠点へと走る。しっかり隣の家に火が燃え移らないように土魔法で壁を作ってあるので大丈夫だ。


 次に大部屋でふんぞり返っていたのは、ペルディタと言う男だ。


「あれは違うのか?」

「…いやあいつも違うな」


 またもやラモンがナイフを投擲するが、ペルディタはそれを氷の刃を放つ事で迎え撃った。


「いきなり刃物を投げつけてくるなんて最近の子供は躾がなっていませんね。 私が躾をしてあげましょう」


 そう言ってペルディタは床を凍らせてフィギュアスケートのように滑ってきた。

 いつの間にかその手には氷の剣が握られていて、それでラモンを斬り裂こうと剣を振るった。


 だがその攻撃はしゃがんで回避したラモンには当たらず、すれ違い様にラモンがペルディタの膝にナイフを突き立てた。


「ぎぃやあああああ!」


 ペルディタが悲鳴を上げているが、それよりいつの間にそんなにたくさんのナイフを集めていたのか気になる。


 膝からナイフを引き抜いて膝を押さえて蹲るペルディタの胸を容赦なくラモンは貫く。


 普段のラモンはこんなではないのだが、こいつらコレクターを相手にする時は別人のように豹変して無慈悲になっている。 恐らく……と言うか確実にラモンの標的と探し人が関係しているのだろう。


 次の拠点にラモンの標的と探し人がいればいいが、そう上手く行くかどうかだな。









~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 秋が聞き出したコレクター達の拠点の最後の一つ。

 そこの暗い一室で、秋、ラモン、ツィール、老執事の四人が睨みあっていた。


「あれが標的か?」

「…暗いからわかんねぇ」


 迂闊に手出しはできない。 ただの無関係なコレクターの可能性もあるし、ラモンの標的の可能性もあるからだ。


 そんな中、ツィールが口を開いた。


「……どうやらお前達は凡人とは違い、希少な人間のようだ。だが無能だ。 なんせ俺を敵に回したんだからな」


 ツィールがそう言い、指を鳴らすと部屋に明かりが灯った。

 そんな急激な明暗の変化に一瞬目を細めるラモン。 そんな一瞬の隙にツィールはラモンに肉薄し、ラモンの腹へ跳び蹴りを繰り出した。


 防ぐ事もできずに後方の扉に叩きつけられ、少し跳ねるラモン。 血を吐き出した事から相当なダメージ負った事が窺える。

 ラモンは腹に手を当てて傷を癒す。 どこを負傷したのか分からないので背中などにも満遍なく聖魔法を使っている。


 そんな様子を秋と老執事は離れた場所で傍観している。



「…てめぇ……だな……? その狡猾そうで調子に乗ったような面ぁぁ……!」

「お前みたいな無能、知らんな」

「…だろぉな。 なんせ10年も前なんだからよぉ!」


 立ち上がったラモンは剣を抜き放ち、ツィールに斬りかかるが、ツィールは剣を抜き放つ事すらせずにヒラヒラと躱し続ける。

 だが、そんなツィールの横っ腹にラモンが放った風の刃が思い切り当たり、血飛沫を上げてツィールはよろめく。

 そこに振り下ろされた剣を転がる事で避けたツィールはそのまま立ち上がると同時に剣を抜いた。


「ただの無能ではないな。お前、さては冒険者とかそう言った類いの仕事をしてるだろ」

「…だったらなんだよ」


 それに答える事なくツィールはラモンに剣を振るう。だがその剣はアケファロスに比べればとてもお粗末なもので、防ぐ事は簡単だった。 寧ろさっきのように肉弾戦を挑まれた方が辛かっただろう。


「ふざけるな! 騎士になれなかった落ちこぼれ冒険者の癖になぜ防げるんだ!?」


 剣を振るう手を止めずに驚愕した様子でツィールがそう言う。


「…何言ってんだてめぇ。 冒険者は騎士になれなかった奴がやる仕事じゃねぇよ」

「じゃあどんな奴が冒険者なんかになると言うんだ!」

「…知るかよ。 理由なんて人それぞれじゃねぇのか?」


 喋りながら剣を振るうのが精一杯のツィールと、喋りながらでも余裕のあるラモン。 その力量の差は一目瞭然で、誰が見てもラモンが優勢だと言うだろう。


「…んな事より俺の家族どこだ?」

「あ? お前の家族なんか知らねぇよ」

「…嘘を吐くな! あん時、わざわざお前が出張ってきたんじゃねぇか! それだけ母さん達に希少性を見出だしてたんだろ!?」


 剣を振るう手を止め考え込むツィールに、合わせてラモンも攻撃をやめ、ツィールを睨む。


「お前の家族……? 紫髪……青目………………あぁ思い出した。あいつらか。 お前の家族って紫髪青目で母親、父親、娘の三人構成だろ?」

「…そうだ」

「あいつらなら一週間ほど前にゲヴァルティア帝国の貴族に売ったと思うぜ。今頃死んでるか捨てられてるだろうな。 なんせあの貴族は物持ちが悪いからな」

「…ゲヴァルティア帝国か。 なんつう貴族だ?」

「知るか。 ……いや待て……確か侯爵だったな」


 ツィールがペラペラと喋り出す。 なぜ急にあっさり話し出したのかは、この場に人の思考力を低下させるスキルを持った者がいるからだ、と言っておこう。


「…それだけ分かりゃあ十分だ。 死ね人攫い野郎」


 ツィールへ接近したラモンはそのままツィールの首を刎ねた。


 すると呆気なくツィールの首は両断され、ゴトッとスイカを落とした時のような音を立てて地面に落ちる。


 ラモンはツィールの血が滴る剣を振って雑に血を振り払う。


「どうだ? 標的を仕留めた感想は?」

「…今は物凄いスッキリしてるぜ。 ……けどこの爽快感はその内虚しくなるんだろうな。 ……なんとなく分かるぜ」

「そうか。 で、この老人はどうする?」

「…そうだなぁ……」


 考え込むラモンと、特に何も考えていない秋に老執事が口を開く。


「主無き私に生きる意味などありません。悩まず、一思いににどうぞ」

「そこまで慕っているのにどうしさっきはあいつを助けなかったんだ?」

「主様は人に助けられるのを嫌いますから。例え死にかけてもです。 原因は……そうですね。 騎士になれず路頭に迷っていた時に、嫌いな人物の口添えで冒険者になった時からでしょうね」


 そう語る老執事の表情は相変わらず無表情だった。


「ふーん。 でもまぁ……お前は殺さないぞ。残りの拠点まで案内して貰わないといけないからな」

「もうありませんよ。 残党はいるでしょうが、我々の拠点はここで最後です」

「じゃあお前がコレクター達のリーダーとして衛兵の詰所に出頭しろ。 それが主の世話をするお前の役目だ」

「かしこまりました」


 素直に受け入れる老執事に言い知れない不気味さを抱いた秋とラモンは足早にその部屋から出て、誘拐され人々の救出に向かった。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





【探知】で誘拐された人々の捕らえられている場所を探し当てた俺とラモンは走ってそこまで向かう。

 離れた場所に一人だけいるようなのでまずはそちらに向かう事にした。 連れて歩く人数はできるだけ少ない方がいいと言うラモンの考えからだ。



 施錠された部屋の前まで来るが、もちろん鍵など持っていない俺達だが、俺が腕を液状に変形させ鍵穴の形を型どり、腕を固体化させてそのまま捻る。


 すると見事に解錠され扉が開く。 相変わらず犯罪者が重宝しそうな能力だが、そんな使い方をする気はない。



 扉をゆっくり開いてできるだけ中にいる人物を刺激しないようにする。 だってこんなところに隔離されているような奴だし危ない奴の可能性が限りなく高いからな。


 だが、室内にいた人物は危ない奴からかけ離れた人物だった。 孤児院で子供達の面倒を見ているような世話好きな奴だった。


 何て名前だったか……


「え……? あ、あなたは……あの時の……!?」

「確かお前は……ソフィアだったか?」

「…え? なんだ知り合いか?」


 なんでこいつがここに? いや、女子供を始めとした希少な存在を誘拐する組織だしこいつがここにいても不自然ではないか?


 と言うかあの指輪していないぞこいつ。 普段なら絶対覚えていない事だが、あの時少し見た印象では銀髪で右人差し指指輪嵌めていると言う事ぐらいだったから気付けた事だ。


「あの……どうして私の名前を?」

「あの時、子供達が『ソフィアお姉ちゃん』って叫んでただろ」

「あぁ……なるほど。 確かにそうでしたね。 えっと……あなた方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「俺は秋。 こいつはラモン」

「アキさんとラモンさんですか。 私はソフィアです。よろしくお願いいたします」


 何か随分と呑気な奴だな。こんな状況だと言うのに。

 ……いや、コレクター達の怒号は聞こえてただろうから、それが止んだ事でコレクター達が倒されたと把握しているからか。


「あの……【鑑定】はしないでいてくれると助かります。 今はちょっと……【鑑定】されると不味いので……」


 あ、思い出した!

 あの時こいつがしていた指輪は『鑑定妨害の指輪』だった。 つまりこいつはそんな物を身に付ける程見られると困るステータスを持っていると言う事だ。


 するなとは言われたが容赦なく【鑑定】してやろう。【鑑定】されてもされた側は気付けないし黙ってればバレないだろう。


 そう思い俺はソフィアに【鑑定】を使った。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

名前:ソフィア

種族:人間

Lv16

MP :169

物攻 :160

物防 :156

魔攻 :166

魔防 :163

敏捷 :146


固有能力

【運命視】【叡智】【】【】


常時発動能力

護身術Lv6 魔法Lv5 魔力操作Lv6 家事Lv5 作法Lv4 祈祷Lv7 速筆Lv3 速読Lv2 光・聖魔法強化Lv1


任意発動能力

聖女の癒しLv1


魔法

火魔法Lv1

水魔法Lv3

土魔法Lv2

風魔法Lv3

氷魔法Lv2

雷魔法Lv1

光魔法Lv8

闇魔法Lv1

無魔法Lv1

聖魔法Lv8

時空魔法Lv1



称号

聖女(運命の女神の加護)

__________________________






 なるほど『聖女』か……これはまた面白い存在を見つけられたな。 しかも運命の女神の加護とか言うものに【運命視】か。 加護はともかく、【運命視】もどんなスキルなのかは分からないが、結構面白そうなスキルなのが雰囲気で犇々と伝わってくる。


 ………………ん? 聖女って聖魔法や光魔法が得意だったよな?

 あれ、これって上手く味方に引き込めればダンジョンの問題と、マテウスとドロシーの問題の両方が片付くんじゃないか?



 ……だが、ソフィアに向かって俺に力を貸すように伝えるとすれば絶対に【鑑定】を使ったのがバレる。そうなるとソフィアからの心証が悪くなってしまい、協力してもらうのは難しくなるだろう。

 ならばここは黙っているべきだろう。


「取り敢えずここを出るぞ」


 俺はそう言ってソフィアが入っている檻を壊す。 例の如くスキルや魔法を受け付けない結界が内側と外側から二重にかけられていたようなので、スキルの補助を得ずに自力で腕を変形させて破壊した。


「え……? スキルも魔法も無効化されるこの檻をどうやって……それに今のは……?」

「説明はしないぞ」


 とは言ったのだが、それでもグダグダ考え込んでいるソフィアの腕を引っ張って他の人間や亜人が捕らわれている部屋へ向かう。


「…アキってあんま親しくない人にもそんな感じなんだな。 まぁその方がアキらしくていいんだけどよぉ」

「俺らしいってなんだよ」


 こんな感じで話したくなれば、突然敬語でも話したくなる。

 親しくない人間に対しては特に口調の切り替えなどは意識せずに思ったままの口調で接しているので、その辺りは曖昧だったりする。

 実際に、前に一度それで屋敷に来たナタリアに対しての接し方を変えたしな。どうでもいい人間と接するのに一々そんな気を遣ってられないのだ。


 ……分かりやすく言うと、親しい人間に対しては一貫してこの口調で接するように意識はしているが、そうでもない人間に対しては口調をあまり意識せずに思ったままの口調で接する。





 その後、救出した人間、亜人を衛兵の詰所まで届けてから、ラモンと別れ、ここがどこか分からないと言うソフィアを孤児院まで送り届けた。


 ソフィアも衛兵に預ければよかったのだろうが、居住している場所を知っているのならそこに連れていけば詰所の衛兵の手間がかからないと思ったのだ。


 最近、と言うかコレクターから救出した奴らは、みんな同じ詰所に連れていっているからな。そこの衛兵の苦労は計り知れないのだろう、と思ったからこうしてわざわざ俺がソフィアを送り届けたのだ。



 そうして屋敷の門の前へと転移してクラエルに抱き付かれてから、クロカ、シロカ、リブに出迎えられて自室へと戻る。


 昨日の一件で荒れた室内はアケファロスが自分で修復したようだ。逃げ回っていた俺も悪いが、剣を振り回したアケファロスこそが一番悪いので仕方ないのだ。


 そんな事よりセレネに伝えておかないとな。


「セレネ」

「なに?」

「コレクターの話なんだが、これは殆ど片付いた。 まだ残党がいるだろうが、少なくともあいつらの拠点は全部潰した」


 コレクターがいなくなったのでこれでセレネはもう安全だ。 これで俺にくっついて、俺がセレネを守る必要はなくなったわけだ。


「…………残党がいるならまだ危険」


 俺がそう伝えようとしているのが分かったのか、俺にしがみついてきてそう言うセレネ。

 確かに残党がいるのは危険だが、所詮は徒党も組めない一匹狼も同然なので恐れる必要はないだろうが、セレネは大分警戒しているようだ。


 どうするべきか。 ……ここでセレネを放り出すのもいいが、一度関わりを持ったからにはそう簡単に投げ出せない。 ……かと言っても、どこにどれだけいるか分からない残党が完全に消えるのを待つなんてどれだけ先になるか……


「あ! そうだアキ。 もういっその事ずっとセレネの側に居てやれば良いのではないか?」

「は?」

「そうなのじゃ。 今更野に放っても職に就けず路頭に迷うだけじゃ。 お主ならそれなりに親しい相手がそんな事になるのは嫌じゃろう?」


 なぜ二人がセレネの肩を持つのか分からないが、確かにそうだ。 異種族で溢れるこの王都で今更どんな職に就けると言うのか。人口の増加で人手が足りすぎているからな。


 …………なら仕方ないか。 暫くしてこれが落ち着くまで今まで通りで行こうじゃないか。


「仕方ないな」

「ん。 ありがとうアキ」


 そう言うとセレネはクロカとシロカとウインクを交わしあった。


 ……なるほど。 計画的な説得だったのか。

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