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第225話 重なる世界の力

 アケファロスの昔話を聞いた日の翌日。


 相変わらず今日もレベル上げだ。 何度も言うが、自分自身のレベルより、魔法レベルは格段にあがりにくいのでこんなに時間を費やす事になっている。

 最近では1日に1レベルも上がれば上出来と言うレベルだ。


 この淡々としたレベル上げだが、フレイア達は文句一つ言わずに行っている。

 これは今までもレベル上げはこうだったから今回もそうだと言う事だろう。


 まぁ強奪で簡単にレベル上げしていた俺はそうは思わないのだが。


 ……


 …………



 今日のレベル上げを終えた俺はフレイア達を屋敷まで送り届けてから再び外に出た。

 今日は目的なく彷徨くわけではないので昨日までより足取りは軽い。

 目的地はコレクター達の拠点だ。問題があるとすれば、どこも行った事がないことだろうか。


 歩くのも面倒臭いので飛びたいが生憎と今は日が高い。これでは人目についてしまうのでなしだ。



 楽しい暇潰しに心を踊らせながら歩いていると、見覚えのある人物がいた。

 昨日の少年だ。 周囲を他の犬獣人の子供達に囲まれて路地裏に連れていかれている。


 これは不味い。


 そう思いそちらに向かおうとするが、またもや見覚えのある人物が路地裏に入っていった。


 ラモンだ。紫髪のオールバックなどそうそういないので間違いないだろう。


 俺は更に歩くスピードを上げて路地裏に向かった。



「おいラルフ。お前なんでまだいるんだよ」

「ほんとにな。コレクターに襲われたんじゃなかったのか?」

「それは……助けてくれた人がいたから……」

「うわーマジかよ。 コレクターも運がないなー」

「なんかムカついてきたし、殴らせてくれや」

「い、嫌だよ……! やめて……」


 そう言って一人が腕を振り上げた。 壁に凭れかかって攻撃を防ごうと手で守るラルフと言うらしい少年。


 だが、その拳が振り下ろされる事はなかった。


「…そこまでにしとけやクソガキ共」

「離せよ!」


 後ろから拳が握られた腕を掴んだラモンから逃れようと、犬獣人の子供がそう言いながらラモンの足を蹴るが、ラモンに効いている様子はない。


「…やなこった」

「はぁ!?」

「…はぁ!? じゃねぇよ。お前はこいつが嫌がってる時にそれを聞き入れたのか?」

「聞き入れるわけないだろ混血の言う事なんか!」

「…なるほど。そう言う奴だったか……じゃあ説教垂れても意味ねぇか」


 そう言ってラモンは丁寧にできるだけ傷つけずにいじめっこ達を気絶させた。


「…大丈夫だったか?」

「は、はい……ありがとうございます」

「…おう。どういたしまして。 ……今度なんかあったらここに来い。 俺が助けてやる」

「え……あ、はい! 本当にありがとうございました!」


 そう言ってラモンは小さい紙にサラサラと何かを書いて手渡した。 恐らく自分の住所だろう。


 それから手を振って路地裏から出ようとしたラモンが俺を見つけた。


「…お、アキじゃねぇか」

「もしかしてそう言うのに慣れてるのか? 住所教えるまでの手際がよかったが」

「…まぁな。何回も同じ事やってきたからな。ってか……なんだよ……見てたんなら助けてくれればよかったのによぉ……」

「すまん。 ラモンがあれをどう片付けるのか気になったんだ」


 俺がそう言うとラモンは愉快そうに笑う。


「…そうだよな。アキはそう言う奴だもんな!」


 と、クロカのような事を言っている。

 ふと気になったんだが、俺ってこいつらから見たらどう映っているのだろうか。 ……今度聞いてみるか。


「…で、アキは何してたんだ? ……あぁ、俺は散歩だぜ。 暇だったからな」

「俺も似たようなものだな」

「…お、じゃあ一緒に王都を彷徨こうぜ!」


 どうしようか。 説明できなかったので誤魔化したが結果的に面倒臭い事になってしまった。

 散歩の同行を断るなんて意味分からないし、受け入れるしかないのか?


「…なんつってな! アキはどうせまた、なんかすげー事しようとしてんだろ? 俺には分かるぜ?」

「なんですぐに見抜かれるんだ?」

「…アキは分かりやすいんだよな。雰囲気ってかそんな感じので分かるんだよ。 ……で、俺も行っていいか?」

「…………仕方ないな。ついてきてもいいけど、あまりでしゃばるなよ」

「…おう!」


 俺達はラモンの住所が書かれた紙を大事そうに握っているラルフを放置して街中を歩きだした。


「…そう言えば何すんのか聞いてなかったけど、何すんだ?」

「コレクターとか言う奴らを幾つか潰しに行くんだ」

「…コレクターって、あの有名な?」

「あぁ、それだ。 人身売買もしてるとか聞いたな」


 俺がそう言うと、ラモンは黙り込んで何かを考え始めた。 どうしたのかは分からないが、そっとしておいてやろう。「…もしかしたらみんなを見つけられるかも知れねぇ……」とか言ってるがそっとしておいてやろう。




 そうして到着した、まず最初の拠点。

 人通りが比較的少ない通りに建てられたごく普通な家屋と言ったような建物だ。


 ここに堂々と建てておけば不審に思われないだろうと言う考えでここに拠点を構えているのだろうが、味方にバラされてしまえば意味はないよな。


「…どう攻めるんだ?」

「正面突破以外ないだろ」

「…相変わらず色々ぶっ飛んでんなぁ……ま、分かったぜ。 俺もチマチマ行くより大胆に行きたかったからな」


 その数秒後に何の合図もなかったが、合図があったかのように揃って走り出した。

 ちなみに俺達は大きな外套を羽織っているので、俺達の容姿がバレる事はないだろうし、中に居る人間も【遠視】で把握しているのでここがコレクター達の拠点であるのは間違いないのも理解しているので、一般人の家だと言う事もない。

 


 俺は建物の周りを一周して、氷魔法で全ての出入口を塞ぐが、ラモンは正面から乗り込んでいる。 今頃コレクター達と戦っていることだろう。


 さて、俺はどうしようか。 ラモンはコレクター達に何かあるようだったし、積極的な手出しは憚られる。

 ……ならいつも通りサポートに徹するか……

 はぁ……今回はいい刺激が得られると思ったんだがな……まぁ仕方ないか。



 玄関から氷漬けにされた建物へと入る。中々寒い。どうやら建物の中にまで冷気が入り込んでしまっているようだ。

 もう玄関にラモンはいなかったが、ラモンが通った道には死体が転がっているので追跡は簡単だった。


 そうして死体を辿っている内にラモンに追い付いた俺は、コレクションとして捕らえられていた人間種、亜人種を助け出しているラモンに話しかける。


「どうだ? 探している人はいたか?」

「…いや、ここにはいなかった。 ……この建物にまだ人はいるか?」

「……いや、ここにいる人達以外は誰もいないな」

「…じゃあ次だな」




 大勢の人種を連れて建物を出た俺とラモン。

 ゲートで助け出したやつらを衛兵の詰所に転移させて、次の拠点を潰しに行った。


 その後、六つ程コレクターの拠点を潰したところで日が暮れてきたので今日は終わりだ。

 明日また続きをするつもりだ。 正直、逃げられる未来しか見えないが、そこはなんとかできるので大丈夫だ。












 自室に戻った俺は、クロカ、シロカ、セレネ、アケファロスを部屋から追い出して、久し振りのような気がする『蘇生』を使用する。


 白い世界と、部屋の景色がピッタリ重なる。

 もう慣れたものだ。 ……と言うか、物凄く自然に行える。 それも、手足を動かし息をするが如く本当に自然に、当然に。


 形は……そうだな。 監視して逃げるコレクターを捕縛できるようにしたいから……翼と腕が生えた目玉のような形にしよう。

 ゲームに出てくる下級悪魔のような感じだな。


 そうイメージを固めて蘇生を実行する。


 眩い虹色の光が収まると同時にそこには無数の下級悪魔がいた。 ステータスはコレクター達を簡単に相手取れるぐらいには強くしてあるので、逃げられる可能性がはかなり低いだろう。


「よしお前ら。 よく聞けよ──」


 それから簡単に役割を伝えてから窓から放つ。 拠点の位置もそれぞれ伝えてあるので、これで大丈夫だろう。 何か問題があれば帰って来いとも伝えたので大体の事は対処できるだろう。



「お、結構使いこなしているじゃないか。秋君」

「…………」

「……なんでお前らはいつもいるんだ?」

「仕方ないよ。 僕らはこの能力とセットで付いてくるんだから」


 シュウがそう言うが、しかし相変わらず邪神は無言だ。


 ……こうずっと無言だと、何かを企んでいるかも知れないと言う不安に駆られるが、なぜか邪神とシュウには【思考読み】が使えないので俺にはどうしようもない。


「秋君。 僕達に【思考読み】が使えない理由だけど、それは僕達がここで生きていないからだよ」


 なるほど。 ここにいるとは言っても所詮は肉体のない……精神体? だもんな。

 ……だからと言って思考が読めない理由には繋がらないと思うが、兎に角、精神体の思考は読めない、と。 そう言う事なのだろう。


「……と言うか何で俺の考えてる事が分かったんだよ」

「僕達がどれだけ秋君の精神世界で暮らしていると思っているの?」

「……俺の精神世界にいると俺の思考が読めるのか?」

「読めるとまではいかないけど、まぁ大体そんな感じだね」


 マジかよ。 そう考えると急に不快になってきたな。

 一番理解されたくない奴らに自分の事が理解される事ほど不愉快な事はないぞ。


「あと、これも気になったんだが何でお前らだけが精神世界に存在しているんだ?」

「秋君が僕達の事を大切な存在だと認めているからだね」

「は?」


 なんだそれ。 不快過ぎて吐き気がしてきたぞ。


 俺がこいつらを大切な存在だと認めている……?


 確かにいつかボコボコにする予定だから、ここにいてもらわないと困るが大切だとは思っていない。


 …………まぁいい。


「これって、この世界が重なった状態を解いたら蘇生させた奴って消えるのか?」

「消えないよ」

「よし」

「あっ! ちょ──」


 シュウと、何もしていないが邪神も不愉快だったので世界を乖離させて消した。




 さて、扉に張り付いて耳を当てている奴らにどこまで聞いたか聞き出さないとな。


「入ってきていいぞ」

「うむ。 アキもそう言う年頃じゃからな。一人でやりたい事があるのは分かるぞ。 まぁ今みたいにちゃんと換気しくれるならいつでも童達は部屋を出ておるからのぅ」

「殺すぞお前」

「じょ、冗談なのじゃ! ゆるしてなのじゃ!」


 入室一番にふざけた事を抜かすシロカに【威圧】を使い捨てながらそう脅す。


「で、お前らどこまで聞いてたんだ?」

「……! な、なんの事か分からぬのだ~」

「ニグレド嘘下手くそ」

「なんだとぉ!?」


 やはりクロカ、シロカよりセレネの方がまともなようだ。 年齢に幾つ差があるのかは分からないが、それでいいのか、龍種の姫。



「……えっと……全部聞こえていました。 お前らとか、精神世界とかなんとか言っているのが」

「まぁ扉に耳を当ててればそうだろうな」


 これがスキル関連ならここまで気にしなかったが、あれは……『蘇生』だけは、あの領域に片足を……と言うか全身入り込んでいるようなものなのでそう簡単に知られる訳にはいかない。

 スキルなら、魔人だから、で済むが……これは、魔人だから、で済ませられる問題ではないのだ。


 ……だが、こいつらならいいかも知れない。 セレネはクロカ、シロカ、アケファロスと違って所有物ではないので危険があるが、セレネは賢いので俺を敵に回す事が悪手だと気付いているだろうから大丈夫だろう。


 そう考えれば最初から部屋に居させてもよかったか、と思ってしまう。


「もちろん言いませんが……」

「なんだ? 気になるか?」

「あ、え……い、いえ……」


 とは言うが、視線などが明らかに知りたいと言っている。 ……こいつはツンデレと言うか、ただ単に素直になれないだけなのではないだろうか?


「嘘吐け。 気になるんだろ? 教えてやるよ」

「いいのか? 秘密にしておきたい事だったのではないのか?」

「そうだが、お前らなら誰にも言わないだろうからな」

「あのアキが童達を信頼しているような素振りを見せているのじゃ……」


 シロカが驚いたように言うが、他の三人も同じような反応だ。 こいつらからすれば俺が誰かを信頼するのがそんなに奇怪な事なのだろうか。


 まぁいいか


「まず、俺は俺が殺して喰った生物の身体、ステータスの数値、スキル、魔法を奪える、【強奪】と言う固有能力を持っている」


 そう言って分かりやすく腕を刃に変形させる。


「やっぱりアキは異常」

「そうですね。 ……やはりこれは人の一生を嘲笑うような逸脱した力です」


 最近はこれが普通になってきていたが、こう見直してみると改めて異常だと、ぶっ壊れ性能だと認識させられるな。


「そして最近、それらの喰った生物を、見た目やステータスも全て俺の匙加減で変えて生き返らせる事ができる『蘇生』と言うスキルや魔法とはまた違う能力を得た」


 そこで世界を重ねて『蘇生』を行う。


 虹色の光から出てくるのはスライムだ。 こいつはこの能力を試したりするのにはちょうどいい。 蘇生が完了すると、すぐに世界を切り離す。

 ちなみにシュウや邪神の姿はこいつらに見えていなかったようだ。と言うより、スライムに気を取られて気付かなかったと言うべきか。


「さっきはこれをしていたのだな?」

「そうだ」

「ふむ。スキルや魔法とは違う……か。 化け物への変貌と言い、この蘇生と言い、アキは本格的に人間を辞めて来ているのじゃ」

「俺もそう思う。 あ、あと蘇生には色々あった気がしたが面倒臭いから省く」

「……異常な力を持っているのに本人がこれでは脅威に思えないのだ」


 スライムはポヨンポヨン跳ねている。 が、説明が終わったので消えてもらった。


「まぁこんな感じかな。『蘇生』や『蘇生』を可能にする【強奪】は理外の力のような感じなので黙っていてくれ」


 まぁ大元は精神世界だが、それでも【強奪】の存在が無ければ世界の理に変化を齎す『蘇生』は実行できなかった。 ……つまり【強奪】と『蘇生』はどちらも理外の力だと言えるだろう。


「分かったのだ」

「分かったのじゃ」

「うん」

「はい」


 俺はそれぞれの返事を聞いてからこの話を終わらせた。

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