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第223話 暇潰しと動乱の兆し

 今日も分岐のダンジョンでレベル上げだ。 俺の光魔法のレベルが7なので、それを越えなければ先へは進めない。

 それと、魔法のレベル7はかなりの熟練者でなければ到達できないレベルらしく、そう簡単にレベルが上がらない。 なので暫くはこれ以上先に進めない事になる。


 どこかアデルとクルト、ラウラの様子が変わっていた。 気のせいかも知れないが、昨日より格段と仲良くなった? そんな感じがする。



 そう言えば、最近は【砕頭】と言う固有能力を持つ冒険者の話をよく聞く。 凄腕の冒険者らしく、なんでも【砕頭】と言うスキルは頭を鈍器などで攻撃すればどんなに物防や魔防が高くても一撃で頭を砕けるのだとか。


 俺の物防と魔防を存分に活かせば防げるのか気になるところだ。




 まぁ、そんな感じで今日も一日をダンジョンで潰してから屋敷に帰るが、やはり夕飯まで時間が余ってしまう。暇だ。


 そうだな……今日もどこか遠くへ行くか。


 そう思った俺は昨日と同じように王都を歩き回る事にした。 スタート地点は昨日到達した孤児院の側の路地裏だ。


 路地裏に転移した俺は通り向かって歩き出す。


 が、路地裏と言うのは人目につかないからか、犯罪の温床のようだ。


 通りに出ようと振り向いた俺の視界には、子供を袋に詰め込んでいる奴がいた。

 俺が潰し損ねたコレクターの残党か何かだろうか。 と言ってもこの辺りに拠点があるとは聞いていなかったが……まぁそれは単純に、魔物の餌になったあいつが知らなかっただけだろう。


「な、なんだお前! どっから湧いて来やがった!」

「お前はコレクターか?」

「あぁ!? んな事どうでもいいだろうが!」

「よくないな。 俺が潰し損なった組織だ。だから責任を持って最後まで面倒を見なければいけないからな」


 そんな事少ししか思っていないが、いい暇潰しになるだろうから聞き出しておく。 前回と違って今度は俺一人で潰しに行くつもりだ。 今日はしないが。


「潰し損なった……? はっ! まさかお前が俺達の組織を襲った例の襲撃者か!?」

「なるほどな。 お前はコレクターなわけだ。 ならお前が知っている拠点を全て教えて貰う」

「は? 誰がお前なんかに──」


 そう言うコレクターの言葉は途切れた。 その代わりに溺れるようなごぼごぼと言う音が聞こえてくる。

 頭に水の球体を被ったコレクターは、足も腕も土の縄で拘束されて身を捩る事しかできない。


 コレクターが失神しそうになると水の球体を少し浮かせて呼吸ができるようにしてやる。


「話すまで今のをずっと続ける。 ……正直に話せば俺はお前を殺さないでおいてやる」

「………………分かった。 死ぬこともできず苦しむぐらいなら話すよ……」


 こいつは今のだけで諦めてしまったようだ。 こう言った組織に所属している割には口が軽いが、賢い判断だと言えるが、同時にバカだなとも思う。


 そして俺はいつも通り、話を聞き出してからあいつをダンジョンの深部に転移させて魔物に始末させた。

 俺は殺していないからセーフだ。


「あ、あの……ありがとう……お兄さん」


 そこで袋に詰め込まれかけていた10歳ぐらいの少年が声をかけてきた。

 この子には犬ような耳が生えている。所謂、犬獣人と言う奴だろう。最近はよく見かけるが、こんなに近くで見る事はなかったので少し新鮮だ。


「どういたしまして。 怪我はないか?」

「えと……えと……大丈夫です!」

「ならよかった。 ……一人で帰れるか?」

「……分からないです」

「じゃあ俺が送って行ってやる」

「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!」


 と言う事で犬獣人の少年を家まで送り届ける事になった。

 少年に案内されてやってきた場所はさっきの場所から十分ぐらい歩いた場所にある、普通より少し貧相な一軒家だった。少年から話を聞くに、この辺りにはあまり空き家がなかったので仕方なく余っていたここに住んでいるそうだ。


 そりゃそうだよな。あんなに多くの種族が一遍に王都に移住してきたんだから。家選びや職選びなども早い者勝ちだったのだろう。


 あと、重大な問題があった。

 少年がどうしてコレクターに誘拐されかけていた経緯だが、どうやらいじめが関係しているらしい。

 何でも、家が貧相だから自分より立場が下だと決めつけた他の子供達が、この少年に目を付けて少年をいじめていたが、その内飽きてきたからコレクター達に売って金を稼ごうと。

 ……なぜこれがいじめっこの仕業だと分かったかと言うと、いじめっこに指定された場所──さっきの路地裏に行くと、コレクターといじめっこが待ち構えていてなにやら取引をしていたかららしい。


 まぁ……俺が思うに少年が嫌われる理由は他にもあると思う。


 頭部に生えている犬耳は勿論、その他にも人間の耳が生えている位置からも尖った耳が生えている。

 通常の犬、猫獣人などは人間の耳が生えている位置には何もない。 だがこの少年にはそこに尖った長い耳が生えている。

 これがいじめを加速させているのだろうし、これならコレクターからしてもコレクションにしておきたくなるだろう。


 人間を始めとした知性のある生物は大体が、自分とは違うものを拒む。これもそんな感じなのだろう。


 ……流石に可哀想だと思う。 が、俺には何もできないのでこの少年の先の事は知らない。 逃げ道を示してやる、と言う意味で屋敷の住所を伝えてもいいが、フレイアの護衛と言う立場の俺がフレイアを危険に晒す事はできないのでなしだ。


 こう言う時に自分の家が欲しいなと思うな。



 その後、少年を少年の家まで送り届けると母親らしき人物も出て来て、少年と共にお礼を言われた。ちなみに母親っぽい人物は犬耳しかなかった。



 そこから離れ、再び王都を彷徨くが暫くは特に目立ったものはなかった。 強いていてば、黒い服に身を包んだ女性? が挙動不審な状態で路地裏に入って行ったのを見た事ぐらいだろうか。



 日も暮れて来たので屋敷へと歩いて帰る。 その時、昨日の孤児院が見えたが、相変わらず子供達は元気に遊んでいた。

 銀髪の少女の姿はまだ見えなかったので買い出しにでも行っているのだろうな。



 屋敷に帰り、クロカ、シロカ、リブに出迎えられそのまま部屋に向かう。


「最近は暇なのだ……」

「仕事があるだろ?」

「慣れてきたからすぐに終わって暇なのだ」

「なるほどな」


 床の上をゴロゴロ転がりながらクロカがそう言う。


「ニグレド。 服がしわしわになる」

「んぉ……そうなのだ……」


 セレネに注意されて立ち上がり、皺を伸ばすようにメイド服を伸ばす。


「お前を見ていると本当に龍種が世界最強の種族なのか疑いたくなるな」

「む。失礼なのだ」


 ……と言うか、黒龍と白龍の姫がいなくなったと言うのに他の黒龍や白龍達は何をしているんだ? まさか放置してのうのうと暮らしているのだろうか?


「なぁ……クロカとシロカって姫なんだろ?」

「そうなのだ」

「そう言えばそうじゃったな」


 おい。 そう言えばそうじゃったな、ってなんだ。 そんな大層な地位に就いているのを忘れるなよ。


「それがいなくなったのに他の龍は動かないのか?」

「ふむ……? 家臣達は既に人間の街で童達を探しておるぞ。 人化しているから気付かんだけで相当数紛れ込んでおるのじゃ」

「マジかよ」

「……もっと言えば屋敷の窓から見えた事もあるのだ!」


 そうなのか……気付かなかったな。 もう大して異種族に興味を持っていないからそんなに見てなかった。

 今度はもっとよく街を見てみよう。


 いや、しかし姫がこんな屋敷でメイドとしてこき使われている知ったらこいつらの家臣はどうするんだろうか。もしかして人間と全面的に敵対したりするのだろうか。


 まぁいいか。


「そう言えば屋敷の窓から私をいじめてた鬼人も見えた」

「マジかよ。色んなものが見えるな。この屋敷の窓」


 特別眺めがいいわけではないが、人の通りが王都で一番盛んな大通りがよく見えるのでそのせいだろうか。


「アケファロスはなんかあったか?」

「別に何もありませんでした。 私の知り合いなどはとっくに亡くなっていますので」

「……あぁ……そうか。なんかすまん」


 これは間抜け過ぎたか。


「いえ。私を裏切ったような人達ですから気にしていません」

「裏切った……?」

「えぇ。 裏切りです」


 おぉ……裏切り……もしかしてアケファロスがアンデッドになった原因だったりするのだろうか?


「面白そう。話を聞かせてくれ」

「……面白そうって……まぁいいです。 丁度、私も誰かと不幸話を共有して同情されたい気分でしたので話しましょう」








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 ゲヴァルティア帝国


 フォニアに逃げられたアルタはお腹を擦りながら玉座へ移動し、玉座に座った。


 そしてパンパンと手を叩いた。


 それからすぐに音もなく諜報部隊が謁見の間にやってきた。


「暗殺部隊の隊長──フォニアが逃げちゃった。 行き先はミレナリア王国だと思うから、ミレナリア王国でフォニアを探してくれるかな?」

『了解』


 声を揃えてそう言うと、諜報部隊は全員が颯爽と謁見の間から去っていった。


「くくく……ふふ……丁度いい暇潰しが見つかったよ。 ミレナリア王国に戦争を仕掛けよう。 特に理由はないけど元からこの国はこんな感じだったらしいし、問題はないよね? ふふふ……あは……あはは……あははははははは! ……うっぷ……」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 ラモンがフィドルマイアで家族への手がかりを得た日の夜、ラウラは再び、辺り一面が光を反射する鏡のように眩く光っている世界に来ていた。


 それだけで寒気がしてしまうが、今回は前回と様子が違った。


「あれ……アデルさん?」

「え? ……あ、ラウラ。 ……って、えぇ!? なんで裸なのぉ!? ラウラ!?」


 ラウラの声に振り向いたアデルはすぐにラウラが裸なのに気付いて目を逸らす。 いくら女性同士とは言え、心の準備ができていなかったのでアデルは目を逸らしたのだ。


「アデルさんもですよ?」

「……ふぇ……? わぁ!? ほ、ほほほ、ほんとだぁぁああ!!」


 ラウラに言われて気付いたアデルは顔を真っ赤にして地面に座り込んで隠す。 そんな見覚えのある光景にラウラは苦笑いを浮かべた。


「こ、これは夢……なのかなぁ……?」

「違いますよ。 ちゃんと私にも自我がありますから。 それにこの世界は前にも来たことがあるんです。 だからこれは夢なんかじゃないです」


 だんだん苦々しい顔になるラウラを呆然と見上げるアデル。 すると、そこにまた一人、人間がやってきた。


「うわぁ! うわわわわ! く、くく、クルト!?」

「え……? アデル……?」


 不可解な世界に連れてこられて辺りを見回しているクルトは、アデルの声に振り向こうとするが、すんでのところでアデルとラウラに後ろから頭を押さえつけられた。


「「振り向かないで!」ください!」

「え? え? え?」


 突然の出来事の連続にクルトは困惑に困惑を重ねていく。


「い、今! ボク達はみんな……は、は、裸だからぁ! ぜっっっっったいに振り向かないで!」

「は? 裸?」


 そこでクルトは視線を下に向ける。

 ない。 服がないけど、ある。 何がとは言わないが、ある。


「え……? ……えぇ!? どど、どういう状況なんですかこれぇ!?」

「知らないよ!」

「説明しますから二人とも落ち着いてください!」





 その後、ラウラによるおおまかな説明を受けたアデルとクルト。


「なるほど……なら、勇者と賢者である俺達と……神徒? のラウラさんを引き合わせようと、女神様が……」


 地面に座って、光る世界を眺めながらクルトがそう言う。


「今日はその女神様はここにいないの?」


 地面に座って、クルトの背中をジーっと見つめながらアデルがそう言う。


「分かりません……私も女神様の姿を見たわけではないですから……もしかしたら黙ってこの光景を眺めているのかも知れませんし、本当にここにはいないのかも知れません」


 地面に座って、クルトの背中をジーっと見つめながらラウラがアデルの質問に答える。



 なぜこんな状況になっているのか。

 それは簡単で、クルトがアデルとラウラの裸体を見てしまわないように二人が監視しているのだ。

 だがそれでも一応、手で隠しているのは流石の警戒の強さだ。



 と、そこでどこからか声が響いた。


「すみません。 急遽予定が入ってしまったので遅れました」

「わ……えと……あなたが運命の女神ベール様ですか?」

「そうです。 大体の事情はラウラさんからお聞きになられたと思いますので省きますが、簡潔に言うと今回は顔合わせ……と言ったところでしょうか」


 顔合わせ……とラウラ達は困惑する。

 そんな事の為にわざわざ呼び出したのかと。 勇者、賢者、神徒が魔王討伐を行うのならいずれそんな機会は訪れただろうと。


「丁度、勇者と賢者、それに神徒が近くで揃っていましたからね。 会わせて、お互いがどんな人物なのかを理解させあおうと思いましてね」

「はぁ……」

「それだけです」

「ぅぇ……?」


 それを最後にラウラは目覚めた。 窓からは太陽の光が差している。


「なんだか急いでいるみたいでしたけど……」







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







 運命の女神ベールは嫌いだった。


 自分の定めた運命が変化してしまう事が。

 自分が、刹那が永遠に感じられる程の短い時間で綿密に、緻密に一人一人、無宗教の者と自分の信者の運命を、そして一匹一匹どんな魔物でも丁寧に定めた運命─明確な努力の結晶があっさり変えられてしまう事が。


 だからどうしても排除したかった……魔王と言う存在を。


 魔王の存在により常に変化させられる運命を野放しにするぐらいなら……それを防ぐためなら……多少の運命の変化を甘んじて受け入れ、魔王と同じく運命を変化させられる勇者や賢者などと言う存在を導いてしまう程に。

 他の神を崇拝していて、自分の運命の力が届かない……その身に備わった素の運命─『天然の運命』を─『天命』を享受し、全うしている者と協力してしまう程に──嫌いだった。



「女神様。 勇者達との接触はもうよろしいので?」

「はい。 元よりあの方達が、歴代最強として君臨するであろう魔王を倒せるとは考えていませんので。 ですから()()を崇拝していて、()()をこの世に降臨させようとしているあなた方の方が優先です。 そちらの方が魔王を倒せる可能性が高いでしょうから」

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