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第221話 何もない一日

 翌日


 ダンジョン攻略を進める為に分岐の通路で自分自身のレベルと光魔法のレベルを上げる。


 自分のレベルと魔法のレベルを比べると、圧倒的に魔法のレベルの方が上がり辛いので、一向に光魔法のレベルが上がらない。

 つまりずっと縦穴の底を進めない。



 結局、今日は一日をレベル上げに費やして終わった。



 そんな一日を無駄にした日の帰り、俺、フレイア、セレネ、アケファロスの四人で屋敷へ向かっていると、声をかけられた。


「あ、クドウ君じゃないですか」

「……? あ、先生」


 声をかけてきたのはナタリア……と、どっかで見た事がある人だ。

 ……どこだったっけな。 この世界に来てあまり日が経っていなかった時だと思うが……


「久し振り……だよね? ……あたしの事覚えてるかな?」

「……いや、思い出せないな」

「そうだよねぇ。 えっと、始業式の時に寝ていたクドウ君を起こした人……で分かるかな?」


 ……あぁ! あの時の!


「あー思い出した」

「そう? ……その調子じゃ名前も覚えていないだろうし、そっちの人達の為にも自己紹介するね。 あたしはモニカ。 ナタリアお姉ちゃんの妹だよ」

「どうりで似ていると思った」

「私はフレイア。 よろしくね。」

「……セレネ」

「私の名前はアケファロスです」


 モニカはナタリアと同じ、青みがかった黒髪で、青い目をしている。


「私はナタリアです。よろしくね。 セレネちゃん、アケファロスちゃん」

「ん。 よろしく」

「よろしくお願いします」


 そんな感じで自己紹介を終える。


「クドウ君達は何をしていたんですか? ……まさか危ない事じゃないですよね?」


 ジト目で睨んでくるナタリア。


「危ない事と言えば危ない事だな」

「な、何をしていたんですか?」

「ダンジョン攻略」

「ダンジョン……そう言えばクドウ君は冒険者をやっているんでしたね。 ……それはいいんですけど……怪我だけはしないでくださいね? クドウ君が怪我をしたら先生悲しいですから」

「気を付ける」


 意外だ。 ナタリアなら危ないから止めなさいとでも言うのかと思えばそうでもなかった。

 流石に生徒のプライベートまで口出しするのは憚られるからだろうか?


 その後、ナタリアとモニカの姉妹と別れた俺達は屋敷に帰った。


 ……日が落ちるまでまだ時間があって暇だし、王都をフラフラ歩こうかな。


 そう思った俺は四人将棋をするクロカ、シロカ、セレネ、アケファロスをおいて屋敷を出た。


 さて、何か面白い事はないだろうか………………そうだ、マテウスの様子を見に行こう。ドロシーは目覚めてないだろうが、マテウスは目覚めている筈だ。


 思い立った俺はマテウスを置いていった病院に向かった。





「よぉ。 元気か? マテウス」


【認識阻害】を解除しながら俺はマテウスにそう声をかける。 受け付けでマテウスと面会がしたいと伝えたが、断られたのでこうして忍び込んだのだ。

 王都内で有名だったらしい、不死身のマテウスがここに入院していると知り、マテウスに会う為に知人を装ってやってくる一般人が多かったそうだ。なのでこうして誰であっても面会を断ると言う事態になっている。

 つまり、マテウスもそれなりの地位に就いている有名人なので俺みたいな一般人をそう簡単に会わせるわけにはいかないと言うことだ。


 ……噂ではマテウスとドロシーのファンクラブ、『マテ×ドロ』なる組織が結成されているとか。


「あ、アキ!? どうして……」

「それはいいんだ。 どうだ、元気か?」

「あ、あぁ……元気だが、元気には動けないな」

「だろうな。 ドロシーがいないと欠損は治せないもんな。 つまりドロシーが目覚めるまでお前はこのままなわけだ」


 もしかするとドロシーじゃなくても欠損が治せるかも知れないが、少なくとも俺はドロシー以上の聖魔法の使い手を知らない。


「そうなるね。 まぁ気長に待つよ。 ドロシーの容態は安定しているらしいし」

「それはよかった。 俺はドロシーとは面識がないが、知り合いの想い人ならできるだけ助けてやりたいからな」

「あぁ……それなんだけど……すまなかったアキ」


 いきなりなんだ?


「あの時は冷静じゃなかったんだ。 ドロシーに縋り付いて足を引っ張ってすまなかった」

「あぁ、あれか。 別にいい。 元々あんな状態で役に立つとは思ってないからな」

「……そうだよね。 地面を這うのですら精一杯だったからね……」


 自嘲を交えた冗談でマテウスがそう答える。


「だろうな。 ……さて、じゃあそろそろ帰るよ」

「もう帰るのか?」

「あぁ。お前の様子も見れたし、これが職員にバレたら面倒だからな」

「はは、確かにそうだね。 いやぁこうして知り合いと話せてよかったよ」

「おう。 じゃあな」


 それだけ言って【認識阻害】を使い、病室を出る。


 どうするか……まだ日が落ちるまでは時間がある。何をして暇を潰そうか。


 ……じゃあ今度は行った事がない場所に行ってみるか。

 今までは屋敷の近所をずっと彷徨いているだけだったからな。 ……これは俺が若干方向音痴なので仕方ないのだ。

 だが最近、迷っても転移で簡単に帰って来れる事に気付いたので遠出してみようと思う。






 結構屋敷から離れたが、街中の様子は少し落ち着いている。 人通りも人と人の会話も……全体的に活気が落ちてとても住みやすい雰囲気だ。

 街を走る子供達も、それを微笑ましそうに眺める大人達も、全てが穏やかに調和している。


 はぁ……ダメだな。 こんな平穏な場所に面白い事は転がっているわけないじゃないか。


 俺は若干歩幅を広くして更に遠くへと向かおうと……すると後ろから俺の後頭部をめがけてボールが飛んで来た。


「ご、ごめんなさい!」


 数人の子供がそう言って謝ってくる。……1、2、3、4……4人だ。

 これが大人なら無視してどっかへ行くところだが、どうしても子供相手にはそう言った行動ができなかった。なぜかは分からないが。


「気を付けて遊びなよ」


 風魔法でどこかへ飛んで行ったボールを運び、近くにいた子供に渡す。


「すごーい! 風魔法だー! 僕も使えるけどそんなに上手く使えないんだー」

「じゃあ頑張って練習しないとな」


 無邪気にそう言ってくるが、俺は練習も何もしていないので少し後ろめたい。


「うん! あ、そうだ! お兄ちゃんが教えてよ!」

「俺が?」

「うん。 やっぱり上手な人に教わった方が上手くなれると思うんだ!」


 ……面倒臭いが、まぁいいか。 特にする事もないしな。 こうして子供の扱いを覚えるのも、冬音と春暁と更に仲良くなる為に必要だろうし。


「よぉし分かった。 俺が教えてやる。 他の奴らも教えて欲しかったら言えよ」

『はーい!』




 そうしてやってきたのはここからそう遠くない孤児院。 どこか懐かしい気がするが俺がいたのは孤児院じゃないので完全な勘違いだ。


 この場に集まるのはさっきの数人の他にも、孤児院の付近で遊んでいた子供達を加えて7人だ。


 男の子が、4人。 これがさっきの子供達だ。

 そして女の子が残りの3人だ。こいつらは孤児院の敷地内でおままごとをしていたところを男の子達に誘われてこっちへ来た。


 今更ながらこの子達は警戒心が薄いと思う。見ず知らずの男を自分が住む孤児院へ案内して一緒に──なんて。俺が不審者だったらどうするんだ。





 それから暫く子供達に囲まれながらわいわいと魔法を教えていると、孤児院から職員が出てきた。男性だ。


「あ、こんばんは。 すみませんね子供達の相手をさせてしまって」

「別にいいですよ。おr……僕も暇だからこうしているんですし」


 取り敢えず初対面なので敬語だ。


「あはは……普段は別の子が子供達と遊んでくれているんですけどね、今は買い出しに出掛けているので子供達も退屈だったんでしょうね」

「そうなんですね」


 なるほど。 じゃあ丁度そんな時に俺はこの子供達に絡まれてしまったと。 正直もう疲れたから早く帰ってきて欲しいんだよな。 自分からもう帰るね、とは言い辛いし。


 それからはその男性職員も一緒に子供達の相手をしてくれたので俺の負担は劇的に減った。


 それから数分後、向こうから銀髪の少女が荷物を抱えて歩いて来るのが見えた。


「あ、ソフィアお姉ちゃんだ!」


 子供達の中からそう声が上がった。

 遠くで銀髪の少女が右手を振っている。 人差し指にはどこか見覚えのある指輪が嵌められている。


 ……あれが普段この子供達の相手をしている奴っぽいな。

 じゃあこれで俺は解放されるわけだ。


「あ、帰って来たみたいですね」

「じゃあ僕はもう帰りますね」

「あ、はい。 ありがとうございました! ほら、みんなもお兄さんに、ありがとうって」

『ありがとう!』

「おう。 じゃあな」


 子守り役から解放された俺は転移で屋敷の前まで転移した。

 二人の門番が一瞬身構えるが、俺だと分かるとすぐに構えを解いた。


『おかえりアキー!』

「おう。ただいま」


 子守りから解放された筈の俺は再び子供に絡まれたのだった。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 ゲヴァルティア帝国



 綺麗になった謁見の間の最奥にある玉座に腰掛けるアルタ。


 その正面に跪くのは暗殺部隊の隊長だ。 その横に血を流しながら倒れているのは諜報部隊の隊長だった。


「そこの奴と同じようになりたくないなら大人しくしててね?」

「は、はい……」

「分かってくれて何よりだよ。 僕は今お腹一杯だからね。あまり動きたくなかったんだ」

「…………」


 暗殺部隊の隊長がチラリと見るアルタの口まわりには血液が付着していた。 それも少しではなく、ベットリと。 血溜まりに顔を突っ込んだとしか思えない様に暗殺部隊の隊長は更に竦んでしまう。


「それで? 君の名前は何かな?」

「わ、私の名前はフォニアです……」

「そうかそうか。 で、そっちのは?」

「……ぐく…ぅぅ……っ……」


 アルタが見やるのは血を流す諜報部隊の隊長だ。 そんな彼は痛みで悶えて答えられない。 そんな姿を鬱陶しく思ったアルタは、はぁ……とため息を吐いた。


「もういいやお前。 邪魔だよ」


 アルタがそう言い、ナイフを投擲して諜報部隊の隊長を殺す。 そんな様子を見せつけられたフォニアは、ますますアルタへの恐れの感情を増加させるばかりだ。


「あぁお腹が痛いよ。 …………さて、どうしようか。 君は僕を暗殺しようと企んでいた敵なんだけど……」

「っ!」

「一生僕に従うと言うのなら生かしておいてあげてもいいんだけど……どうする?」

「……し、従い……ます……」

「うんうん。 ならいいんだ。 ……でも、僕としても敵だった人を口約束で従えたくはないから……これ、着けてね」


 アルタが取り出すのは、隷属の首輪だ。 それは一つだけではなく、幾つもあった。 これはアルタが城の倉庫から引っ張り出してきた物だ。


「………………はい……」


 アルタを裏切るつもりだったフォニアはそれを差し出され、遂に瞳から反抗の意思がなくなっていった。

 今のフォニアの心には何も残っていなかった。狂人であるアルタに仕える事はそれほどに未来が暗いものだった。


 そんなフォニアの様子を見てアルタは満足そうに微笑んだ。


 いつアルタの逆鱗に触れるか。いつアルタの機嫌を損ねるか。

 実際に目の前で理不尽に殺されてしまった同僚を見れば、そんな不安はより執拗にフォニアの心にこびりついていった。


 ……だが、フォニアはまだ完全には屈していなかった。


(どうせこれから死んだような生活を送るんだ。 なら最後の自由を……最後に抵抗をしよう)


 アルタが隷属の首輪を手にしてフォニアへ近付く。


 フォニアの首へ隷属の首輪が──



 そこでフォニアは素早く立ち上がり、アルタへと暗器を投擲した。

 その手捌きは見事なもので、実際にアルタは反応できずにそんな攻撃を頭部と胸部にもろに食らってしまっていた。


 だが、フォニアはアルタが一人で謁見の間に集められた精鋭の騎士を皆殺ししたのを知っている。 だからこの程度で油断せず、ジリジリと後退りをしてアルタから距離をとる。


「…………ねぇ……僕……お腹一杯だから動きたくないって言ったよね……?」

「……ふぅーっ……ふぅーっ……ふぅーっ……!」


 アルタの威圧感に呼吸が乱れるフォニア。

 暗殺者であるフォニアはこうして殺意を向けられるのに慣れていなかった。 いつもは標的を一瞬で仕留めてそこから去ると言う、相手に気付かれすらしない仕事をしていたからだ。

 なので、さっきの不意討ちが失敗した時点でフォニアは焦っていた。

 例えアルタがこの程度で死なないと予想できていたとしても。


「殺してやる……と言いたいところだけど、君は従うと言った。 だからきちんと僕が教育して、僕の手足になって貰うよ」


 殺されない。


 それを聞いたフォニアは明らかに安堵を見せた。

 だが不安は、恐怖は拭えない。 アルタから教育と言う単語が出てきたからだ。


 狂人の言う教育が拷問である事をフォニアは知っていた。 今は亡きとある騎士がそうだったからだ。


 フォニアはある意味『死』より恐ろしい目にあう可能性を目にしてしまい、もうアルタと戦おうと言う意思をなくしていた。


「これ以上僕の機嫌を損ねないでね。 大人しく首輪を受け入れて欲しいな」

「……くっ……!」


 フォニアは再び後ろに跳んで暗器を投擲する。だが、アルタはそれを躱す事もせず、黙って受けた。さっきから言っている通りあまり動きたくないからだろう。


「……分からない奴だね。 だんだんイライラしてきたよ」


 フォニアは再び後ろに跳んで……煙玉を自分とアルタの間の地面に叩き付ける。 そしてフォニアは自分の持つスキルを存分に活かして城からの逃亡を実行した。


 そしてその逃亡はあっさり完遂され、あっという間にゲヴァルティア帝国を出たフォニアは街道を歩いていた。 その先にあるのはミレナリア王国だ。今は亡き、自身が仕えていた皇帝の標的を始末する為に。








 一方、フォニアにまんまと逃げられたアルタは謁見の間で、一人呟いていた。




「……あぁ……吐きそう」

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