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第220話 休日

 ポンコツンデレのアケファロスの事が大体片付いてから数日、未だに光魔法のレベルが足りずに縦穴の底を進めていなかった。

 全員、光魔法のレベルは少しずつ上がっているのだが、それでもまだ足りなかった。


 そんな中で、最近は冒険者の街フィドルマイアの話題をよく聞く。 なんでも、魔物の襲撃を耐えきれず壊滅状態にあるとか。


 大丈夫かな。あの宿屋の女将さん。また来るって約束したが……

 あぁ、そうだ。今の心配で思い出したが、この話を聞いたラモンの顔が青褪めていた。……話を聞くと、どうやらラモンの出身はフィドルマイアだったらしい。そしてフェルナリス魔法学校に通う為にわざわざ王都まで来たんだとか。そりゃあ青褪めるよな。身内を壊滅した街に残してるんだから。




 ラモンには悪いが、フィドルマイアの壊滅はもうどうしようもない話だから置いといて、今日は停滞しているダンジョン攻略が休みだ。 いつまでも進めず燻っているのは意外とストレスが溜まるからな。 たまにはこうして心を休ませられる日が必要だろう。


 だが、そんな日でも誰も鍛練は怠っていなかった。


 その証拠に、今は王都の外にある草原──ティアネーの森の向かい側の草原でみんながアケファロスに戦闘技術を学んでいた。


 近接組──フレイア、マーガレット、ラモン、アデル、ラウラ、セレネで剣術を、アケファロスの専門外である遠距離組──クルト、エリーゼで魔力を高める為の瞑想をしていた。

 俺はクルトとエリーゼの瞑想に邪魔な考えや思考が浮かんだら木の板で肩を叩く役をしている。【思考読み】が使える俺にとっての天職だろう。


 そんなわけで今は騒がしく静かな草原にいる。 街道を通る人達には何をやってるんだ? みたいな感じで見られているかも知れない。


 そうして暫くしていると、だんだん邪念が浮かばなくなってきたクルトとエリーゼ。 暇になった俺は街道を行く人々を眺める。 何もない草原なのだからこれしかする事がないのだ。


 行商人だったり、一般人や冒険者。 珍しいものでは貴族なんかも通る。 更に珍しかったのは、大勢の子供達を引き連れて歩く大人の集団だったな。 ……あの様子からして、フィドルマイアから逃げて来たと思われる孤児院の職員とそこの子供達だろう。それと、あの中に【鑑定】が効かない奴が一人いたので尚更面白そうな事になっている。

 この一団の他にもフィドルマイアから来たと思われる人間は大勢いたが、どれもが一般人程度だったので興味の対象にはならなかった。


 ……これ、更に学校の改修が長引くんじゃ……?


「アデルさん。 もっと素早く斬り下ろしてください。 それだと簡単に受けられてしまいますよ」

「は、はい!」


 アケファロスによる剣術の指南。


 人間の頃なら最強の戦士だったであろうアケファロスからのありがたい指南。 それを余すことなく身に付けようとみんな頑張っている。

 近接戦闘をしないクルトとエリーゼが可哀想な気もするが、魔法使いはこうして魔力の質を高めるのが大事なのであまり可哀想でもない。そしてそれに俺が加わり、二人の集中力を保たせることをしているので遥かに瞑想の質は多角なっているだろう。



 そんな特訓も太陽が真上に昇ったら中断され、みんなで昼食を摂る。事前に朝からここで特訓する旨を伝えていたからか、しっかり全員お弁当を持ってきていた。 ちなみに俺、フレイア、セレネ、アケファロスのは屋敷の使用人が作ったやつだ。

 ここが草原だと言うのも相まってピクニックのような気分だ。 いや、ピクニックしたことないけど。


「…アキのそれ美味そうだな……もーらい!」

「おい」

「クドウの代わりに私がラモンのおかずを貰っておこう」

「…おい」


 それから始まる弁当の中身の奪い合い。それがヒートアップし、最終的に全員が縺れ合って弁当がパーになった事で終わり迎えた。


 この戦いの勝者は腕を変形させて、地面ごと弁当の中身だけを喰った俺だろう。


「あー! クドウさんズルーい!」

「……これはアキの勝ち」

「食べ物を粗末にしないその精神は見習うべきだろうが、流石に地面に落ちた物は止めておいた方がいいと思うぞ」


 三秒ルールだ。 まぁ今回のこれは確実に三秒を過ぎていたが。


「俺は【悪食】と言うなんでも問題なく食べられるスキルを持っている。 安心しろ」

「…かぁー! 全く……いいなーその体ぁ……俺も欲しいぜぇ……」


 ラモンがそう言うので冗談めかして答える。


「俺が喰った生物は、俺が強力なスキルを与えて蘇生させられるんだ。 だからラモンも俺に喰われてみるか?」

「…なんだそりゃ。 それは本当なら神様みたいなもんじゃねぇかよぉ……あ、ちなみにそれは遠慮しておくぜ」


 蘇生の事は信じて貰えなかったが、それでも冗談としてはウケたようだ。

 


 その後、王都に戻って軽く食べなおしてから再び草原で特訓を始めた。


 その特訓は夕方までみっちり休みなく続いた。 そのせいか、近接組は力が入らなくなり、クルトとエリーゼは足が痺れて立てなくなっていた。

 この場で立っているのは俺とアケファロスだけだ。


 アケファロスもかなりの時間動いていた筈だが、息切れ一つしていないし、汗の一滴も垂れていない。

 流石、『死線を越える者』だ。


 結局、クルトとエリーゼ以外の誰も力が入らず立てなかったようなので俺とアケファロスがそれぞれの家まで運んで行った。

 最後に残ったフレイアとセレネは俺が両脇に抱えて運んでいる。 後ろからはアケファロスが付いてきている。


「私が持ちましょうか?」

「いや、いい。 今日はあまり動いていないからこれぐらいは俺がする。 それより、お前も抱えてやろうか?」


 俺は汗の一滴も垂らしていないアケファロスをそうからかう。 ここにいる三人は全員揶揄ったら面白いやつらだ。フレイアもセレネもアケファロスも全員が愉快な反応をしてくれる。


「な、なぜ私があなたに抱えられないといけないのですか! それどころか触れられたくもありません!」

「……そこまで言わなくてもいいだろう……」


 と、あからさまに落ち込んでみる。

 それを見たフレイアとセレネがそれに乗っかって来た。


「アキ、大丈夫?」

「アケファロス酷い。 アキが泣いてる」

「え!? な、泣いて……!? そんなつもりじゃ……」


 俺の顔色を窺えないアケファロスは動揺している。全く……そうやって動揺するぐらいなら言わなければいいのに。 これだから素直じゃないポンコツンデレは……いじめるのをやめられない。


「残念。 嘘泣きだ」

「~~~っ! あ……あなたは……っ!」

「逃げるわよ!」

「ん。 逃げる。 悪魔の猫仮面が追いかけてくる」

「誰が悪魔ですかっ!」


 鬼と化した猫仮面が襲い掛かってくる。

 昨日と全く同じ帰り道。

 夕焼けを背景に、様々な種族が行き交う大通りを騒がしく走る。






 夕飯を済ませた俺は人が集まる自室で母さんに貰ったボードゲームをする。


 それは将棋だ。 だが将棋と言っても四人将棋だ。

 歩が三枚、金銀が二枚ずつ、飛車が一枚、王が一枚の計九枚で行われる将棋だ。


 今それで遊んでいるのが俺を除く、クロカ、シロカ、セレネ、アケファロスの四人だ。


 この中ではアケファロスが一番弱い。 駒の動かし方はいいのだが、やはりポンコツなのでしょうもないミスをして最初に詰んでいる。


 後の三人は同じぐらいなので勝敗は結構変わっている。


「やはりお前はポンコツなんだな」

「う、うるさいです! ちょ、ちょっと手加減してただけですから!」

「そう言うことにしておいてやる」

「なんですか……! ……そこまで私をバカにするのなら私と一対一で勝負してください!」

「いいぞ」


 俺も将棋は苦手で凄い弱いが、それでもこいつには負ける気がしない。








「な、なぜですか……! なぜ私が負けるのですか! もう一回、もう一回です!」

「諦めろよ。 将棋が弱い俺にさえ勝てないんだから」


 ここまでで、五戦して俺が五連勝中だ。

 正直、ポンコツ相手に勝っても全然嬉しくないのでもう止めたい。


 なのでここで罰ゲームを設ける。 これに竦んで引いてくれればいいが。


「……次で最後だ。風呂入りたいしな。 ……これでお前が俺に勝てなければ罰ゲームをしてもらう」

「罰ゲーム……ですか……」

「そうだ」


 キョトンとした顔で首を傾げるアケファロス。


「止めておくのだアケファロス。 どうせろくでもない事をさせられるのだ。 全裸で街中を歩かされたりするのだ」

「おい、あれはわざじゃないって言ってるだろ」


 まだこいつはスナッチの屋敷を襲撃した時の事を言っているのか。 揶揄ってるだけなのだろうが、申し訳ない気持ちになるので止めて欲しい。


「……え? 本当に全裸で外を歩かせたのですか……?」

「そうなのじゃ。童もニグレドと同じ目にあったのじゃ。 大人しく諦めておくといいのじゃ」

「……鬼畜ですね……ですが私は屈しませんよ。 騎士としてあなたのような鬼畜に立ち向かいます!」


 クロカとシロカの発言を真に受けて敵意満々なアケファロス。 それを見てクロカシロカは「アホなのだ」「阿呆じゃな」などとクスクス笑いあっている。

 どうやらアケファロスの扱い方を覚えてきているようだ。




 その後、結局度重なるミスで負けてしまったアケファロスはモジモジしながら自分の腕を抱え込んでいる。


「な、何をさせるつもりですか……!」

「そうだな…………じゃあ……今度俺にも剣術を教えてくれ」


 この間アケファロスと戦っていて技術の大切さを知った。 なのでこれを機に教えを乞う。

 さっきのでアケファロス俺への好感度は著しく低下しただろうからアケファロスからすればこれは罰ゲームとも言えるだろう。


「…………はい?」

「今度俺にも剣術を教えてくれ」

「……そんな事でいいんですか?」

「あぁ。 お前と戦って技術の大切さを知ったからな」


 そう言うと、アケファロスは渋々言った様子で受け入れてくれた。


 丁度明日がダンジョン攻略もフレイア達の特訓もなかったので明日にしよう。





 翌日


 朝起きた俺は朝食を済ませて早速アケファロスを連れ出し、王都の外にある草原へとやってきた。


 そして早速特訓を始める。


 と言っても、アケファロスは感覚派なので戦闘の大体を勘で行い、それで相手の動き見ながら戦っているらしかった。


 なのであまり具体的な説明はない。 が、それでもたまに指摘してくるのでそれを受けつつ、そしてそれ以外の大半は自分で見て技術を盗むしかなかった。 ここで使うのが【高速学習】だ。

 これを使ってアケファロスと斬り結びながら自分で学習していく。


 アケファロスはいくらポンコツと言っても、戦闘中や特訓中はそんな様子はなく、あの時と同様の研ぎ澄まされ、洗練され、精練された……まるで芸術品のような美しい戦い方をしている。




 昼食前ぐらいには割りとアケファロスの剣を受けられるようになってきた。


 まだ常時発動能力で強化されたアケファロスの剣技を完全に受けられるようにはなっていないが、それでも俺が前に進んでいるのはよく分かる。……と言っても【次元斬】などの任意発動能力を使われたら対処するのは難しいだろうな。


「あなたはただの鬼畜ではないようですね。 あの上達速度は異常です。 生前の私が一生を懸けて磨いた剣術をどんどん吸収していっています」


 昼食前の小休憩。珍しくアケファロスが褒めてくれている。 デレか?


「まぁそれはスキルのおかげだからな。 別に嬉しくはない」

「……褒めてるのではないです。 これは人の一生を嘲笑うような上達速度への嫌味ですよ」


 あぁ……そうか……それはすまない事したな……

 ……確かにそうだよな。 少し考えれば分かった事だ。 間抜けだ。


「すまない」

「い、いえ……! 今のは……じょ、冗談ですから……!」

「……なんだ冗談か。 全く……冗談すらもポンコツとはな」

「な……! 今のはあなたが悲観的に受け止めただけじゃないですか!」


 さて、この辺りでアケファロスへの俺の気持ち伝えておこうか。

 さっきの研ぎ澄まされたアケファロス見ていると不安になってきたからな。


「まぁ……俺はそう言うのも含めてこそアケファロスだと思っている。 ポンコツなのもツンデレなのも優れた戦士なのも、それら全てを含めてアケファロスだ。 俺はそんなアケファロスが気に入っている」

「………………」

「だからこれからも、そのままのポンコツンデレで、そして強く洗練された戦士でいてくれ。 そして精々俺を楽しませてくれよ」


 やはりギャップと言うのは素晴らしい。 なのでこれからもそのギャップを失くさずにポンコツンデレな戦士であって欲しい。 そう思ったのでそう伝える。


「…………いい事を言うと見せかけて、最後の最後でそれをぶち壊さないでください。 それを素でやっているのならあなたはポンコツですよ」

「なるほど。お前とお揃いか。 ……だが、残念ながら俺はポンコツではなく間抜けだ」

「どっちも同じようなものでしょう?」




 その後二人でやいやいと昼食を摂り、そして夕日に照らされる頃には特訓を終えた。


 この短時間でアケファロスとまともに斬り結べるようになった。【高速学習】による学習能力の向上は凄まじいものだった。冒険者ギルドで言語を学べた時点で異常なものだとは分かっていたが、それでもやはり異常だ。


 流石にこうなってくると、アケファロスに申し訳なくなってくる。

 アケファロスは冗談だと言っていたが、これが生物の積み重ねられた研鑽の履歴を掠め盗っているのは間違いない。


 これは罰ゲームとは言え、幾らなんでも無情すぎる。

 今度アケファロスに謝罪と感謝のお詫びとお礼をしよう。

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