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第219話 ポンコツンデレ

 縦穴の底から地上まで帰って来た俺達はいつものようにクエストの達成報告と、素材の買い取りをしてもらっていた。


 そこでチラリと聞いた話だが、どうやら数日前にマテウスが病院に運びこまれたと言う話だ。


 どうやらあいつは意識を取り戻して今は入院しているらしい。 ドロシーが目覚めるまでは切断された手足が戻らないだろうし、この入院はドロシーが目覚めるのを待っている感じだろう。


 ドロシーがラウラと同じでショックで目覚めないのだとしたら暫くは目覚めないだろうな。


 そこをテイネブリス教団に襲撃されない事を祈っていてやろう。




 買い取りを済ませ、ギルドを出た俺達はそれぞれ帰路に着いた。 俺、フレイア、セレネ、アケファロスだ。


 そこで俺はアケファロスに前から気になっていた事を訪ねた。


「アケファロスは何で喋らないんだ?」


 すると、アケファロスは少しだけ仮面フードを捲り、首を指差した。

 そこには首を切断したような後が残っていた。

 こいつのスキル【断頭】はこれから来ているものだろうか。


「声帯が切れているからか?」


 アケファロスは頷く。

 だとしてもアケファロスはスキル名を口にしていたのでこれは関係ないだろう。

 なので俺はそこを指摘する。


「でもスキル名を発声できていただろ?」


 するとアケファロスは喉に魔力を薄く纏わせた。目を凝らさなければ見えないほど薄く。


「あ、あー……」


 アケファロスの声が聞こえる。

 なるほど、これを声帯の代わりに使って発声しているのか。


「こうすれば発声できますが、魔力消費が少なからずあるので普段は使いません。 戦闘に支障がでるといけませんので」

「なるほど……でも、お前程になればその程度の魔力消費は全然痛くも痒くもないだろ?」

「そうですが、あなたのような強者と突然出会した時に対処できないと困りますからあまりこれはしたくないです」


 そうやって備えていてもこいつは俺に負けているけどな。 と思っても口にはしない。もう心を折って調きょ……躾するのは加減が分からないのでやめたのだ。


「お前は死なないんだから備えても意味ないだろ」

「……そうですが、できるだけ敗北はしたくないですので、これを変えるつもりはないです」

「頑固な奴だな。 ……俺はお前の声が結構好きだからできるだけ喋って欲しかったんだけどな……まぁいいか」

「もう……アキはまたそうやって……」


 なんと言うかこいつの声は落ち着くんだ。 こいつの戦いの技術のように澄んでいて気持ちいいし、癒されるのだ。その上口調が少々ドライなのも、この心地良い声色に拍車をかけている。

 しかも発音もハキハキしていて聞き取り易いし、もしこいつが地球にいたなら声優やニュースキャスター……に及ぶかは分からないが、でもそう言った職業には就けていただろうな。


「…………仕方ありませんね。 魔物の世界では強さが正義ですからね。 あなたがどうしてもと言うのなら、仕方なく妥協してあげます」

「お前がしたくないならしなくていいからな」


 俺がそう言うと、突然後ろからアケファロスに殴られた。 突然の事だったので防御もできずに街中を無様に転がる。


「大丈夫? アキ?」

「あ、あぁ……大丈夫だ」


 見ればアケファロスはこちらを見つめてただ立っている。 普段なら可愛らしく感じる猫の布仮面が、今はどうしてか無性にむかつく。


「おい、またやるか? アケファロス」

「あなたがどうしてもと言うのなら」

「こいつ……」


 表情は窺い知れないが、多分バカにしたような笑みを浮かべているのだろう。

 こいつとは仲良くなれそうだ。


「アキ、アケファロスは素直じゃない。 だから今のは照れ隠しのようなもの」

「……照れ隠し?」

「なっ……! ち、違います!」


 セレネが言う、よく分からない発言に困惑する。

 ついでにアケファロスも戸惑っている


「アケファロスは声が好きって言われて嬉しがってた。 でも素直じゃないから仕方ないと前置きした。 でもアキが積極的に受け入れなかったから拗ねた」

「なるほど。 ……要するにアケファロスはツンデr──」


 一瞬で俺の目の前に移動したアケファロスは、地面に座り込んでいた俺の顎を思い切り蹴り上げた。


 幸い頭が吹っ飛ぶ事はなかったが、体は宙を舞っている。 ついでに意識も一瞬飛んだが、そこは【超再生】のおかげですぐに意識を取り戻した。


 なるほど。 意識が飛ぶのは致命傷を負ったのと同じ扱いと言う事になるのか。


「だ、誰がツンデレですか……!」

「…………あ?」

「……どうしたんですか」


 …………? ツンデレって地球産の言葉だったと記憶しているが、なぜアケファロスはこの言葉を?


「お前、どこでツンデレと言う言葉を知ったんだ?」

「……? 生前、私の同僚が私に向かってよく言っていましたので自然と覚えました」


 なんだ……こいつ自身が地球出身とかじゃないのか。


「それっていつの話だ?」

「五百年ぐらい前ですかね?」

「……は?」


 流石に五百年も前の地球でツンデレは存在していないだろう。 ……だとしたら、白の世界とこの世界の時間の流れが違うように、この世界と地球の時間の流れも違うのか。


 この世界か地球のどっちの時間が早いか遅いかは分からないが、かなり差がひらいている。 ツンデレが生まれたのが二、三十年前だとして、こっちでは五百年も経っているしな。


 …………まぁいいか。もう色々面倒臭いし。


「……と言うか普通に話してんじゃねぇかお前」

「あ!」

「訂正しよう。お前はツンデレではない」


 今の「あ!」で色々察した。


「そ、そうです。 私はツンデレなんかじゃありませんから」

「ポンコツンデレだ」

「…………なんですかそれ……」

「ポンコツなツンデレ。 だからポンコツンデレだ」

「~~~~~っ!」


 肩を震わせたアケファロスが可愛い猫仮面で襲い掛かってくるが、流石に三度目は回避できた。


 それから猫仮面との鬼ごっこが始まった。本物の鬼であるセレネは置いてきぼり。鬼嫁スキル(看破)を持つオリヴィアの娘であるフレイアもだ。



 それにしてもこの短時間でアケファロスのイメージがかなりぶっ壊れた。


 寡黙な戦闘の達人かと思えばこんなだし、万能秘書系美女かと思えばポンコツだし、ツンデレだし。

 もう最初のイメージと殆ど真逆だ。しかもその仮面が全て剥がれるまでがこの短時間だ。


 少し残念でもあり、それ以上に面白い存在だとも思う。

 例えポンコツンデレだとしても戦いの腕前は確かだしな。そう言うギャップは結構面白いと思う。

 男じゃなかったのは残念だが、それでもこいつはこれでよかったのだと思えた。






 その後、なんとか荒れ狂うアケファロスを宥めて屋敷に帰って来れた。


 そんな事はどうでもいいとして、遺跡世界の模倣ダンジョンの攻略進めよう。


 時間はあまりないが、10部屋ぐらいは進めるだろう。


 そう思ってダンジョンに転移して、夕飯まで時間を潰した。 ちなみにちゃんと鑑定してスキルを覚えてから喰ったのでちゃんとスキルを身に付けられただろう。

 たった10部屋だけだが、魔物の質が高いので結構な数のスキルを得た。


 ちなみにアケファロスほどの強者とはあまり戦った事がない。つまりこの辺りの魔物でもアケファロスにはまだ及ばなかった。 そう言うと、アケファロスがかなり強い魔物……ってか魔人なのがよく分かるだろう。





 そして夕飯を済ませて俺の部屋に帰る。

 そこにはクロカとシロカに加えて、セレネとアケファロスもついてくる。

 ちなみにこの四人とここにはいないがクラエルにもちゃんと一人一部屋、部屋が与えられている。


 なのになぜか俺の部屋に来る。


 アケファロスに至ってはずっとスポーツウェア姿だ。


「いつまでそれ着てるんだ。 部屋着あるだろ?」

「……私はアンデッドですので見た目が不快でしょうからね。 これは私なりの気遣いです」

「……その癖に昨日は俺の前で着替えようとしてたよな?」

「……っ……それは、あなたには気を遣う必要がないと判断したからです。 …………なんですかその目は」

「いやぁ? なんでも?」


 最初の驚いたような顔は何だったんだろうな? 問い詰めたいけど、屋敷が崩壊しそうなのでこの辺にしておく。


 まぁ、こいつもあれだ。 フレイアとセレネ同様にいじめれば面白い奴だ。

 いやぁ……いいなぁ。 こんなすぐ近くに面白いものが沢山あると言うのは。


「なんかむかつきますね」

「そんな事よりそれ脱げ。 家の中でまでそんなに気を張らなくていい。それにこの屋敷の人間は見た目が多少腐敗していたとしても不快に思ったりしない。 安心しろ」

「……ですが……やはりこんな見た目では……」

「自分で脱がないなら俺が剥ぎ取るぞ」


 つい最近口にしたセリフをもう一度言う。

 こんなクズの発言を一生の内に二度も言う事になるなんてな。


「あ、アケファロス! 自分で脱いだ方がいいのだ! アキは本当に剥ぎ取るのだぞ!」

「そうじゃぞ! お主は知らぬだろうがアキは行き過ぎた鬼畜なのじゃ! だから自分で脱いだ方がいいのじゃ!」


 剥ぎ取り被害者二人が必死の形相でアケファロスにそうすすめる。

 顔色は窺えないが、アケファロスはマジかよこいつ、みたいな表情をしているのだろう。


 それからクロカとシロカの剣幕に渋々と言った様子で服を脱ぎ始める。 俺はそれをジッと見つめる。 邪な気持ちは少ししかない。


「そ、そんなに見られると……は、恥ずかしいのですが……」

「俺がこの身をもってお前の肌を不快に思ったりしないってのを証明してやってるんだから黙って着替えろ」

「…………」


 どうだ。この場面の絵面は最悪最低だが、やっている事は人の為だ。 それだけでこの行いは正当化されたりしないだろうか?



 やがて、部屋着に着替え終わったアケファロスは、若干モジモジしながらチラチラこっちを見てくる。


「ど、どうですか……? 不快だったり不愉快だったり、気持ち悪かったりしませんか……?」


 なんだ。 あまり気にしていないように見えていたが、やはり気にしているんじゃないか。

 素直じゃないなぁ。流石ツンデレと言ったところだ。


「おう。 腐敗が気にならないぐらい可愛いぞ。 もっと自信を持てよ。 ……あ、でも外出時はさっきの服を着ろよ。 異種族を毛嫌いしてる奴らもいるからな」

「…………はい……」


 おや、こいつが喋るようになって初めて素直に俺の言う事を聞いたんじゃないか? お? 早速デレか?


 ……と言う煽りを入れたいが、流石にそんな空気じゃないのは俺でも分かるのでしない。


「よし。 分かればいいんだ。 これから屋敷内ではああ言ったような思い切り肌を隠す服を着ないように」

「……なっ! なぜですかっ!? 今だけでいいじゃないですか!」

「だから自分の容姿に自信を持てって。 嫌悪感なんて吹き飛ぶくらいには可愛いんだから。 隠すなんて勿体ないだろ?」


 はい、って言って理解していたんじゃないのか?

 ……まぁ生物である以上、そんな簡単には変われないよな。


「またなのだ……」

「……なにが?」

「アキの天然女誑しじゃよ。 お主もあるんじゃったよな? ……えぇと……」

「餌付けされた」

「そうじゃそうじゃ、そんな感じでアキはいつもアレなのじゃよ」

「なるほど。 それは……大変」


 不名誉な会話が繰り広げられるが、まずはアケファロスをどうにかしてから訂正しよう。

 俺はただ元気付けているだけなのに酷いよな。


 ……いや、流石にここまで言われると本当に俺が女誑しなのではないかと思い始めてしまう。 仕方ないだろう。あまり人と触れ合って来なかったのだから。 そう言う感性がズレているのかも知れない。


「はぁ……まぁとにかく、アケファロスは自分に自信を持て。 ……どうしてもそれが厳しいのなら俺がその腐敗を治す方法を探してやる。 ……それでいいか?」

「…………いえ、頑張ってみます。 ……あ、あなたに恩を重ねるのは癪ですから」

「……相変わらず酷いなお前は。 人が元気付けてやっているのに」


 まぁ何にせよよかった。 屋敷内であんな不審者なんか見たくないからな。

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