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第218話 縦穴の底

 その後、昼飯ができたと起こしに来たクロカとシロカに付いていき、屋敷で昼食を済ませる。


 それにしても随分と賑やかな食卓だ。

 私語は一切ないがそれでも前までは俺、フレイア、オリヴィアの三人しか食卓を囲んでいなかったからな。そこにセレネとアケファロスが加わるだけで大分違う。

 ちなみにセレネとアケファロスは使用人だが使用人ではない、と言った曖昧な立ち位置なので取り敢えず一緒に食べている。


 昼食を終えて直ぐにフレイア、セレネ、アケファロスと一緒に噴水広場へ向かい、それからダンジョンへ。


「…今日はあの縦穴の底を進むんだよな?」

「あぁ。 この通路が今も氷で塞がれている限り、ここしか進めないからな」

「どうしてか、あの縦穴の底は嫌な感じがしますわ」

「奇遇だねエリーゼさん。 ボクもあそこは嫌な感じがするんだ」


 氷の壁を前にしてそう会話が繰り広げられる。

 一応氷が溶けきっていないか確認しようと言う事だったのでこうなっている。

 肝心の氷は少しだけ地面を濡らす程度に溶けていた。


「あまり気は進みませんが縦穴の底に行きましょうか……」

「ふぇぇ……怖いですぅ……」

「大丈夫よラウラ。 今度は私がちゃんと守ってあげるからね!」

「アキ……あの二人どうしたの?」

「フレイアとラウラの事か……あれはちょっと色々あってな……帰ってから話すよ」

「分かった」


 最近、フレイアは怯えているラウラを見るといつもあの調子だ。

 ……お前がラウラを守る為に危険に向かって飛び出したりしたら俺の仕事が大変になるからやめて欲しいんだけどな……




 なんだかんだで縦穴の底にゲートでやって来た俺達はまず、各自光魔法で周囲を照らして光源を確保する。

 それからメインの光源を基本的に戦闘に参加しない俺に切り替えて進む。


 アケファロスがいた部屋から丁度真っ直ぐ行ったところに扉があった。これはボス部屋への扉ではなくダンジョンが切り替わるのを分かりやすく伝える為の扉だろう。


 実際にその先にボスはおらず、薄暗い通路が続いていた。その通路は曲がり角などがあるが、それは二つや三つと、適度に分かれているので不愉快ではない。

 寧ろ本物のダンジョンだと言う感じで楽しい。


 出てくる魔物も漂ってくる異様な気配と違って、まともなものばかりなのでストレスもあまり溜まらない。



 唯一懸念するべき事は、ここの普通さと違和感だろう。


 ダンジョンは進めば進むほど強い魔物が出てくるようになる。

 ならばアケファロスがいた分岐のダンジョンの続きのようになっているこのダンジョンにはもっと強い魔物がいるべきだ。 だと言うのに出てくるのは分岐のダンジョンの最深部辺りより弱い魔物ばかり。


 それならここを分岐のダンジョンの続きと言う判定にせず、『縦穴の底』と言う一つのダンジョンとして存在していた事にすると、このダンジョンは最初の魔物が強すぎる事になる。

 一本道もボスラッシュも分岐も、それらは全て最初辺りの魔物の強さは最弱で固定されている。 なのにここは最初から中ぐらいの強さだ。


 どっち付かずで中途半端と言う印象を受ける。



 まぁ……考えてもここのダンジョンマスターが考えている事なんて分からないし、もうやめよう。

 今は純粋にここを攻略していこう。



 暫くすると、魔物は普通のダンジョンのようにだんだん強くなってきた。 それに若干苦戦しながらフレイア達は進む。

 ……アケファロスは俺と同じ枠組みで扱われているらしく、後方で俺と一緒にフレイア達を見守っている。

 あと、フレイア達に、一部の『任意発動能力』は声に出せば強化されるらしいと言う事を話しているので、フレイア達がスキル名を言葉にしているのが聞こえてくる。


 実際に効果の違いを体験して貰って『言霊(ことだま)』が存在するのかを確認する為でもあり、単純にフレイア達の強化に繋がればいいなと言う普通の善意から教えた。


 結果としては『言霊(ことだま)』は存在した。 これはスキル名の発声を行った全員が効果の違いを実感していた。

 先程、一部の『任意発動能力』は声に出せば強化されるらしいと言ったが『言霊(ことだま)』の効果があるのは、アケファロスの持っていた【次元斬】【鎌鼬】……と言った技として効果が現れるものだけだった。


 なのでいよいよ不味いだろう。前も言ったが、俺は自分が所有するスキルを殆ど把握していない。


 それに加えて更に問題が……

 それは、実践した全員が言霊による変化を実感できる程には、言霊によるスキルの強化が顕著に表れ、影響を齎していると言う事だ。


 こんな事はそうそうないだろうが、それでもこのままでは俺と同格かそれより少し弱いぐらいの敵が現れればかなりの苦戦を強いられるだろう。

 なので早急にこの問題を解決……俺が得たスキル思い出すか、新しい強力なスキル覚えるかしないといけない。


 と言っても、きっかけがないと思い出せないしどうしようもないんだが…………でもまぁ、遺跡世界を模倣したダンジョンがあるし、この事態は少しだけマシだと言える。 まぁだからと言って思い出すのを放棄した訳ではないので、諦めずに思い出せるよう頑張るしかないだろう。




 そんな事を考えながら歩いていると、どうやら縦穴の底で最初のボス部屋に着いたようだった。


 だが、フレイア達に緊張感はなく、寧ろ余裕そうだった。 それもそうだろう。フレイア達が何度ボスを倒してきたかを考えればこんな浅い場所いるボスに気負う事などないのだ。


 だとしても、このような余裕から来る油断はいつも最悪を引き連れてやってくるのを俺は知っているので、警告しておいたが全員が油断はしていなかったようだ。


 ……賢いな。 俺はすぐに油断して痛い目を見ていたと言うのに……


 やはり、日本と言う地球全体で見れば比較的平和な国と、世界全体としても割りと殺伐としている世界ではそういったところの感覚が違うのだろうか?



「よし、じゃあ縦穴の底最初のボス部屋、行くぞ!」


 マーガレットに続いてそれぞれの口調で「おー!」と気合いを入れ、扉を開く。



 扉の先にいたのは、オーガキングだった。


 ちらりとセレネを見るが、特に忌避したり、何かを思っている様子はなかった。いつも通りだ。




 言うまでもないがフレイア達はオーガキング如きは腐る程倒してきたので、オーガキングはあっという間にフレイア達による魔法の猛攻に耐えられずに死んでしまった。 道中に出てきた弱い魔物と同じような感じですぐに倒された。



 そんな感じで大して強くもない魔物やボスやらを倒しながら下に続く道を進む。

 そしてそれに伴って、ダンジョンはどんどん暗くなってきている。それこそ俺の光魔法の出力を少しづつ上げないといけなくなる程に。


 時間経過で仕組みが変化するタイプのダンジョンなら、一旦帰ってからもう一度来れば元の明るさに戻っているのだろうが、恐らくこのダンジョンはどんどん、どんどん、暗くなっていくダンジョンだろう。

 この調子でいけば、いずれどこかで俺の光魔法が無意味になるだろうな。




 それから数時間すると、案の定俺の光魔法は無意味になってしまった。

 まだほんの僅かに明るさを保っているが、これはもう無意味の域に達している。


 なので相談する。


「これは一旦帰るしかないですわね」

「そうだな。 光魔法のレベルを上げつつ、他の場所でレベル上げをしよう」


 そんな訳でフレイア達は分岐の通路、アケファロスの部屋の手前辺りでレベル上げを始める。 全員が光魔法で魔物を倒している。


 それにしてもあんな少し進んだだけでLv7の光魔法が無意味になってしまうなんて、これから先どうするんだろうか?

 ……クルトの【魔法効率倍加】などの魔法の強化ができるスキルや道具がないとダメな感じだろうか。


 だとすればこのダンジョンではいつも通り、基本的に後ろに立っているだけになりそうだな。クルトの光魔法のレベルが上がる事を待ち祈るばかりだ。 あぁ、いや、クルトは魔法レベルが成長しないんだったか。 ……だと言うのに魔法の威力などはエリーゼと同じって……一体……?










~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










 冒険者の街フィドルマイア


 ミレナリア王国のこじんまりした孤児院でソフィアは子供達と遊んでいた。


「いつも子供達の相手をさせてごめんね。ソフィアちゃん。 ……ほらみんなもお姉ちゃん怪我してるんだから」


 一人の女性がそこにやってきて子供達を追い払う。それをキャッキャキャッキャとはしゃいで去っていく子供達。


「あ、エマさん。 私の方こそお世話になっているのにこれぐらいしかできなくてすみません……」


 走り去っていく子供達を眺めるソフィアに声をかけたのは、子供達を優しく追い払った、暖かい色の茶髪を腰まで伸ばし紫色の目をした女性だ。


「子供達はどうだった?」

「いつも通り元気でしたよ。 寧ろ元気過ぎるぐらいです」

「それはよかった。 ……それで……怪我の具合はどう?」


 エマと呼ばれた女性が指差すのはソフィアの体だ。 ソフィアの体は至る所に白い包帯が巻かれていた。

 それに右手の人差し指には指輪がされている。ソフィアはこんな物を持っていなかった筈だが、これはソフィアがミスラの森で偶然拾った物だ。この指輪は『鑑定妨害の指輪』と言って、他人からの鑑定を妨害できる指輪だ。

 聖女であるソフィアにとってはとても助かるアイテムだった。


「お陰様で、もう大分よくなりました」

「そう? ……でも気を付けてね? ソフィアちゃん折角可愛いんだから、傷なんかつくっちゃ勿体ないよ?」

「あはは……気を付けます……」


 

 今、ソフィアはアブレンクング王国を越えて、ミレナリア王国の冒険者の街フィドルマイアにある孤児院に滞在している。


 ミスラの森で力尽きていたソフィアを、偶然薬草採取に来ていたエマが発見し、孤児院に連れ帰って治療した。

 だが、目が覚めたソフィアはすぐに出ていこうとしたがそれを見付けたエマが、怪我が治るまでここにいなさい、とソフィアを説得し、ソフィアは暫くここに滞在する事になっていた。


 ソフィアはすぐにでも出ていきたい気持ちでいっぱいだったが、せめ何かて恩返しがしたいと思い、こうして子供達と遊んだり少しばかりの家事も手伝ったりしている。


 そんな平穏な生活を暫く送っていたが、最近はある問題が発生していた。


──カンカンカンカンカンカン


 けたたましく警鐘が何度も響く。


「魔物だー! また魔物の大襲撃だー!」


 聞き慣れた怒号がソフィアとエマ、そして離れて遊んでいた子供達の耳に入る


「また……魔物が……」

「さ、避難しましょソフィアちゃん。 はーい! みんなもこっちへおいでー! 一緒に避難するわよー!」

『はーい!』


 ソフィア以外のエマ、子供達はこの事態に大して危機感を抱いていなかった。 と言うのも、この魔物の襲撃は何度も発生しているが、その全てがフィドルマイアに到達する前に撃退されているからだ。

 そんな冒険者への信用があるからこそ落ち着いていられるのだ。


 ソフィアはそんな明らかな油断に危機感を抱くが、力のないソフィアには何もできない。 かと言っても、冒険者や騎士に守って貰っている立場なのに、油断しないように、などと上からものを言う事はできなかった。

 ソフィアにできるのは、最悪が笑いながらやって来ないように流れに任せて逃げる事だけだった。


 住み慣れた避難所の端でエマ、子供達、その他従業員と吉報が届くのを待つ。その避難所には不安などの重い空気は漂っておらず、寧ろみんなここを交流の場のように思い、他人同士でお喋りなどをしている。


 やがてそんな和気藹々とした避難所に一人の騎士がやってきた。


 それを見た避難所の人々は「お、終わったか」と言った軽い雰囲気で騎士を見るが、騎士の様子はいつもと違った。


 そんな騎士を見て突如不安に駆られる避難所の人々。 それはエマや子供達も例外ではなかった。


「お、おい……? 魔物は退けられたんだよな……?」


 息を切らしている騎士に不安に耐えられなくなった誰かがそう尋ねる。

 未だに息が整わない騎士は喉を押さえて首を振る。 そして身振り手振りで何かを表すがそんな動きは誰の目にも入らなかった。

 誰も彼もが視界が真っ暗になっていたからだろう。


 数瞬後、突如狂騒にも似た喧騒に包まれる避難所。 ある者は荷物を整えて避難所から逃げ、ある者は悔しさや、自棄になったり、生を実感するために取り敢えず誰かに暴力を振るう。 ソフィア達は荷物を整えてここから逃げる方だった。


 だが、そんな従業員と子供達の集まる大所帯は自棄になった人間達の目に運悪く留まってしまった。


「おい! あいつらこの街を捨てて逃げるつもりだぞ!」

「プライドはねぇのか!? 恥知らずめ!」

「逃がすな! 女子供でも囮にはなるんだ!」


 そんな滅茶苦茶な怒号を受けた従業員子供達は危機感を覚え、荷物を置いて出口へ走り出した。


 だが、そんな大所帯動くより、自棄になった少数の動きは圧倒的に速かった。


「逃がさないからな……お前達には俺達は逃げるまでの囮になって貰う」

「はぁ!? 囮ってなんだよ! 戦うんじゃないのか!? 恥じも外聞も捨てて逃げんのかよ!」

「当たり前だろ! 現実的に考えろよ!」


 出口の側で喧嘩を始めた男達の横を通ってソフィア達は外に出た。


 酷い有り様だった。

 あちこちから火の手が上がり、建物を焼き落とす。魔物の咆哮が木霊する。空は翼を持つ魔物が飛び回る。


 そんな光景に泣き出す子供もいた。 従業員はそれをあやしながら手を引いて、魔物が少ない方へと小走りで駆ける。


 街中では至る所で冒険者が魔物と戦っていたが、魔物の数が大きく冒険者の数を上回っており、もう何をしても無理なのは明白だった。



 やがて、入念に辺りを見回すソフィアと、それに追随する従業員と子供達は、魔物がいない道を選んで進み、そして戦闘を行う冒険者の側を通り、魔物の危険が少ない道をずっと進む。 そうしていると、一度も魔物と遭遇することなく高い壁にある大きな門が見えて来た。

 この先は王都へと続いていて、フィドルマイアで最も人の行き来が盛んだった門だ。 だが今は誰もいない。 ここの門番も戦闘に参加しているのだろう。


 ソフィア達はその門を抜けて街道へと出た。

 そこで安堵の溜め息がどこかからか漏れるが、安心するのはまだ早い。魔物は去った訳ではなくまだ近くにいるのだ。


 ソフィア達は子供達が付いてこれる程の速さで走り、一刻も早くフィドルマイアから逃げる。 その間ソフィアはチラチラとフィドルマイアを視る。


 従業員や子供達からすればフィドルマイアに未練があるのだな、と思うだろうが、それは間違いだ。

 ソフィアはフィドルマイアの事など考えずに自分とここにいる人間の事しか考えていなかった。


(……よし、今のところ何も来ていないし、来る事もないですね)


 ソフィアは嫌悪感を堪えながら今までずっと使用を控えていたスキルを使っていた。






【運命視】


 このスキルは、このスキルを使用しながら自分が見たものの未来を……運命を視る事ができる破格のスキルだ。だが、小さな運命は管理が甘く、常に変わりつつあるので今のソフィアのようにこうして何度も振り返って確認する必要があった。



 運命には大小と強弱が存在する。



 どこにでもいる人間、亜人、魔物程度の矮小な存在ならその生物の運命は常に変化し続け、魔王や勇者などの大きな存在になればなる程運命は不変に近くなっていく。


 ……だが、大きな存在同士が近くに集まればその限りではない。


 例えば、勇者に選ばれた者は魔王を倒すと言う運命が少しでもその者の未来の履歴に存在したから勇者として選ばれた。

 反対に、魔王に選ばれた者は勇者に倒されないと言う運命が少しでもその者の未来の履歴に存在したから魔王として選ばれた。


 ……そのような『倒せる、倒されない』と言う明確な矛盾が生じるので、大きな存在同士が近くに集まれば運命は大きく変化する。それは誰にも──運命の女神でさえも予想ができないし、関与もできない。


 そんな不確定な運命の大きさは『称号』が大体の目印になっている。称号が多ければ多いほどその生物の存在も大きくなり、運命はどんどん確定へと近付いていく。


 だが、運命に確定は存在しないので称号が十個も百個も千個もあっても、運命は少なからず常に変化し続けている。




 ……先程、どこにでも存在する矮小な存在の運命は常に変化し続けていると言ったが、正確には矮小な存在が大勢一ヶ所に集まればそこでの運命は限りなく確定に近付く。


 例えば、大きな街には大勢の生物が存在している。

 そこで地震、津波、台風などの大きな被害を齎す現象が訪れたらどうなるだろうか? ……当然そこにいる大勢の人間が死んでしまう事になるだろう。


 これは個々が持つ常に変化し続ける運命が互いに惹かれ合い、影響を与え合い、変化し、複雑に結び付いて、そして必然となるまで一点に集約されて訪れた『惨劇の運命』だ。


 ……もちろんその街に地震、津波、台風などにより大きな被害が齎されないのも、個々の運命が一点に集約されて訪れた『平穏の運命』だ。


 つまりは、矮小な存在の運命は常に変化し続けるが、しかしそれが束になってしまえばそれはあまり意味を成さないのだ。


 だが、先程言った通り運命に確定は存在しないので、惨劇が訪れるか訪れないかは誰にも分からない。それは運命の女神にも予想ができないし、関与もできない。





 そして運命の強弱。



 これは簡単だ。『称号』を持つ『運命の強者』は『称号』を持たない『運命の弱者』には負けない。それどころか運命の弱者になんらかの影響を与えてしまう事だってある。

 だが、運命は確定ではないので『運命の強者』が『運命の弱者』に勝利するのは絶対ではない。ただ、限りなくそうであるというだけだ。


 例えばじゃんけんでパー()グー()に勝利するが、負けるはずの石が勝つはずの紙を突き破れば勝敗が逆転するのと同じで、運命の強者の勝利は絶対ではない。


 更に例えれば、基本的に魔王は勇者に倒されるものとされているが、勇者との戦いで疲弊している魔王に奇襲をしかけるなりなんなりすれば、騎士でも冒険者でも一般人でも魔王を倒し得る可能性があるのだ。

 それは『称号』の有無や数で生じる強弱を覆す事だって可能だ。


 纏めると……運命に大小や強弱は存在するが、あくまでもそうなる可能性が高いと言うだけで、確定的に確定ではないので何が起こるか分からない。

 ……と言うことだ。




 ちなみに、教皇はソフィアに【運命視】を使い、ソフィアが逃げ出す事や、ソフィアを守る事になるであろう存在を知っていた。




 フィドルマイアからの魔物の追跡がないことをチラチラ確認しながらソフィアは従業員と子供達と共に街道を走る。



 やがてフィドルマイアが見えなくなるまで逃げてきたソフィア達は街道から少し離れた草原に一時的に腰を落ち着ける。


「……院長……これからどうしましょう……」


 一人の男性従業員が院長にそう尋ねる。


「そうですね……ここから一番近い大きな街は王都しかないですからね。一先ずは王都に向かいましょう」



 そう取り敢えずの方針を立てる院長。


 そこでエマがソフィアに話しかける。


「怪我は大丈夫? ソフィアちゃん」

「あ、はい。大丈夫です。 治りかけだったので」

「それならよかった。けど無理しないでね? 痛かったら私が肩でも貸すし、なんならおんぶもしてあげるからね!」


 そう言って笑うエマはソフィアを元気付けようとしているのが感じられた。

 なのでソフィアはありがとうございます、と言って微笑む。


 だがソフィアは分からなかった。 つい最近知り合ったエマがなぜここまで親身になってくれるのか。

 なのでソフィアは尋ねてみる事にした。


「大変な事になっちゃったね……」

「あの……エマさんはどうして私に優しくしてくれるんですか……?」


 そう言うと、エマは考える素振りを見せた。


「なんでだろうね……ソフィアちゃんぐらいの子に思い入れがあるからかなぁ……?」

「私ぐらいの?」

「そう。 ちょっと私の話を聞いてくれるかな?」

「分かりました」

「えっとね……あれは私が──」

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