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第216話 首無しの騎士

 扉の先はとても広かった。

 どこかの城の謁見の間のように豪華で荘厳な造りのとても広い部屋が広がっていた。


 そしてそこにいたのはボロボロになった服を着ている不死者(アンデッド)だけだった。


 肉体は少し腐敗している、と言った程度で、そしてボロボロのマントを羽織っている。

 ボロボロになった服は体のラインが分かり辛い程に体から浮いているが決してブカブカと言った印象は無かった。 うーん……風が吹いたら格好よく棚引きそうだな。


 そんな砂漠を歩く旅人のようなアンデッドは、その手にする剣すらもボロボロだったが、その剣を握っているだけなのに非常に絵になっている。

 それはあのアンデッドがそれだけの時間、剣を握る姿が定着するまで剣を握り、振るってきたと言う事なのだろう。


 まぁ……簡単に言うと、数々の修羅場を体験した歴戦の戦士だな。

 そして扉の外からでは分からなかったが、すごい重圧感だ。あいつから遠く離れていると言うのに、今にも押し潰されそうだ。


 これは間違いなくフレイア達では敵わない。それどころか一瞬で殺されて終わりだろう。


 なので俺はフレイア達の前に出た。


「こいつは強いから俺がやる」

「…………分かった。 …………頼んだぞクドウ……」


 あの魔物から漂う異様な強者の雰囲気を察したのか、少し悩んでマーガレットがそう言った。


 俺達よりすこし上──扉の縁辺りをボーッと眺めていたアンデッドが、ここで初めてこちらへ視線を向けた。


「…………」

「…………」


 静寂が場を呑む。


 ……言葉がないので分からないが、何となく分かる。

 あのアンデッドは俺が武器を構えるのを待っている。


 なので俺はそれに甘えてアイテムボックスから蛇腹剣を取り出し、それから構えた。


 それを見て、アンデッドは雰囲気をほんの僅かに尖らせ、剣を握る手に力を入れた。


 そして半身を前にだして、片手で持った剣をこちらに向けて構えをとった。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

名前:無頭の騎士 アケファロス

種族:不死者(アンデッド)

Lv534

MP :340,610

物攻 :340,639

物防 :340,623

魔攻 :340,630

魔防 :340,631

敏捷 :340,636


固有能力

【断頭】【奈落】【不滅の騎士】【武器使い】【】【】


常時発動能力

片手剣術Lv10 両手剣術Lv10 刀剣術Lv10 双剣術Lv10 槍術Lv10 弓術Lv10 短剣術Lv10 杖術Lv10 斧術Lv10 槌術Lv10 体術Lv10 拳闘術Lv10 蹴脚術Lv10 歩法Lv10 魔法Lv8 魔力操作Lv8 体力自然回復速度上昇Lv9 魔力自然回復速度上昇Lv9 斬撃耐性Lv6 打撃耐性Lv6 火耐性Lv4 水耐性Lv4 土耐性Lv4 風耐性Lv4 氷耐性Lv4 雷耐性Lv4 光耐性Lv4 闇耐性Lv4 状態異常耐性Lv4


任意発動能力

鑑定Lv4 遠視Lv7 身体強化Lv8 気配遮断Lv7 無音行動Lv5 連撃Lv8 受け身Lv8 衝撃吸収Lv3 見切りLv7 反撃Lv7 受け流しLv7 集中Lv6 思考加速Lv4 威圧Lv8 空歩Lv3 縮地Lv10 転移Lv8 心頭滅却Lv5 明鏡止水Lv5 起死回生Lv1 急所狙いLv3 切断Lv6 鎌鼬Lv4 電光石火Lv6 紫電一閃Lv5 神速剣Lv2 次元斬Lv4


魔法

火魔法Lv8

水魔法Lv8

土魔法Lv8

風魔法Lv8

氷魔法Lv8

雷魔法Lv8

光魔法Lv8

闇魔法Lv8

無魔法Lv8

聖魔法Lv8

時空間魔法Lv8


称号

ダンジョンマスター 特殊個体 名前持ち 不死の王 剣聖 死線を越える者

__________________________




 …………凄いな。


 遺跡世界の魔物や、ボスラッシュの魔物で本当に時々現れる強者と同じぐらいの強さだ。


 ダンジョンマスターなのだから当然なのだろうが、それでも別格だ。

 ……と言うかダンジョンから動けない筈のダンジョンマスターなのにどうやって『死線を越える者』の称号を得られる程に研鑽を積んだのだろうか。


 もしかしてダンジョンマスターとして生まれる個体と、何かの果てにダンジョンマスターに至れる要因があるのだろうか。


 ……考えても答えはでないか。


 ……正直、これ程の強者と戦う機会は全く無かったので楽しみでもあるし、そしてこんな希少で面白い存在は手元に置いておきたい。


 なのでこのアケファロスと言う魔物は殺さずに和解し、クロカやシロカのように服従させたい。

 ……だがそれはかなり難しいだろう。 俺やクロカ、シロカと違って幾つもの死線を越えて来たらしい本物の強者だ。 その場の判断や技術などの格が違いすぎる。

 だが、【超再生】と膨大なMP、【魔力自然回復速度上昇】などで不死へと近付いているので死ぬことはまずないだろう。 なのでアケファロスに稽古をつけて貰っていると思いながら、それでアケファロスを服従させられるよう頑張ってみよう。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「……俺からいくぞ」

「…………」


 秋がそう言うと、アケファロスは「来い」とでも言うように小さく頷いた。


 それを確認した秋は蛇腹剣を手にして、真っ直ぐにアケファロスへと走り出した。

 その初撃を受け、様子見をする為か、アケファロスは剣の切っ先を秋に向けながら秋の到達をただそこで隙なく悠然と佇み、待つ。


 そしてそれから一瞬の間も無く、秋の蛇腹剣とアケファロスの使い古された剣が衝突する。

 それにより生じた衝撃は、背後にいるフレイア達に踏ん張らなければ吹き飛ばされる程の暴風を与えた。 秋とアケファロスが衝突している場所からかなり距離が空いているのにもだ。


 吹き荒れる暴風は金属が何度も激しくぶつかる音を伴って暫く止むことは無かった。 受け、躱し、弾き、流し、反撃し……


 衝突するアケファロスの研鑽され研ぎ澄まされた芸術品のように美しく優雅で的確な斬撃と、秋の拙い力任せでお粗末な斬撃。



 すると、風が止んだ。


 先にその場から離れたのはアケファロスだった。

 秋の常識はずれな膂力から一旦逃れる為に、そして秋へ次の攻撃を仕掛ける為に。


「【次元斬】」


 アケファロスがせせらぎのように澄み渡る声で……鐘のように響き渡る声でそう言い、正面にいる秋に向かって剣を振るうと、突然秋の背中に大きな裂傷ができた。


 ……だが、その裂傷はあっという間に治る。


 秋は距離が空いたアケファロスへ攻撃をする為に、魔力を纏った蛇腹剣を伸ばして巧みに操り、的確に攻撃していく。


「【鎌鼬】」


 アケファロスの周囲に空を裂く鋭い音を立てて高速で斬撃が放たれている。 その高速の斬撃は視認するのが難しく、そんな斬撃は秋の蛇腹剣を悉く弾いている。


 アケファロスは秋がいる場所へと、容易く剣を弾きながらゆっくりと味わうように歩みを進める。 そんな威風堂々たる歩みは偉大な王の威厳を感じさせた。


 技術で勝っているアケファロスに接近を許したくない秋はアケファロスを遠ざけようと……その歩みを妨害をしようと、空いている手で魔法も放つ。


 ……だが、アケファロスの【鎌鼬】はその魔法すらも、ついでにと言った様子で容易く斬り裂いてしまう。


(予想以上に手強い。 やっぱり力任せな攻撃は通用しないか……)


 かと言っても、秋が持つ攻撃の手段は大体が技術や技量も何もなく、その殆どが力任せに繰り出される単純なものだ。

 そんな様で、技術に於いて圧倒的に勝っているアケファロスに対抗するのは難しい。

 その上、知性がある魔物であるアケファロスはその技術を存分に活かす事ができる。 その技術は秋とアケファロスのステータスの差を縮めるまでに洗練されていた。

 ……そんな格差がある中どう立ち回るか。



 ……と、そこで空間に歪みが発生した。

 徐にそこに手を入れたアケファロスはそこから槍を取り出し、今手にしている剣を、腰に提げている鞘にしまった。


 そこで【鎌鼬】は止んでしまったが、アケファロスは遠くから襲い来る蛇腹剣も魔法も変わらず簡単に処理している。


 特に驚いたような表情はしていないが、秋はそれでも少しだけ苦笑気味だ。


 すると、アケファロスは高く跳躍し、槍を振り上げた。


 上から槍が振るわれると思った秋は蛇腹剣を縮め、普通の剣のようにしてアケファロスの攻撃を受けようと、剣を上に向けて横に向きに構えるが、秋の蛇腹剣に衝撃は訪れなかった。


 代わりに訪れたのは横腹への熱い衝撃。


「……っ! クドウ!」


 秋がマーガレットの絶叫に釣られて自分の体を見れば横腹に深々と槍が突き刺さり、そこからは止めどなく血が溢れていた。


 アケファロスはその傷口を槍で抉るように深々と……グリグリと刺し込むが、それを払う為に秋が腕を振るうと以外にもアケファロスはあっさり槍から手を離して距離をとった。


「……あぁ……なるほど……俺の再生を妨げる為に……」


 痛みを堪えながら槍を掴んで引き抜こうとする秋から距離をとったアケファロスは、空間の歪みから身の丈程もある両手剣を取り出した。


 横腹に槍が深々と刺さって動きが緩慢になった秋へと、一撃が重い攻撃を加えるチャンスだからだろう。


「【電光石火】」


 両手剣を手にしたアケファロスの動きが、急激に加速した。

 そして一瞬の後に、秋の目の前で両手剣を握っていた。


「【神速剣】【断頭】」


 神速の速さで繰り出される横薙ぎの一閃は、対応が遅れた秋の首を簡単に……息をするかのように自然に刎ねた。






「アキっ!!」


 それを見たフレイアがそう叫ぶと同時に、目の前の秋は消滅した。 その場に残るのは蛇腹剣のみ。


 頭上に疑問符が浮かぶフレイア達を余所に、【断頭】の使用後の硬直に襲われているアケファロスへと蹴りが放たれた。


 両手剣を振り切った体勢のアケファロスは簡単に吹っ飛び、地面を転がる。 それから何でもないように立ち上がったアケファロスへと次に放たれたのは言葉だった。


「偽者だって分かっていたんだろう?」

「…………」


 部屋の中心でやる気なさそうに何も持たず言うのは、先程首を刎ねられて消滅した筈の秋だ。


 アケファロスは答えない。


「真面目にやれよ。 そしたら俺も少しは真面目にやってやる」


 そんな事を宣う秋の眼前に一瞬で移動し、刀を持ったアケファロスが、鋭く綺麗で精巧な一撃を放つ。 長い時を経て積み重ねられた極みの剣技。 それを躱しきれなかった秋は、今日初めての傷を与えられた。


「【紫電一閃】」


 更に加えられる、粛然たる清く澄んだ一閃は……だが落雷の如く激しく相手を斬り殺さんと襲い掛かる。


 それを素手で……鋼鉄と化した腕で受ける秋は、そのまま片方の手でアケファロスを殴りつける。

 それは今日初めてアケファロスへ敵意をもってまともに与えられた攻撃だった。



 それを皮切りに始まる一進一退の不変の攻防。


 秋が攻撃し、アケファロスが避け、秋が下がる。

 アケファロスが攻撃し、秋が避け、アケファロスが下がる。



 幾度となく繰り返される退屈で変わらない日常のような戦いは、この広い部屋を存分に活かして続いた。


 アケファロスの体にはどんどん傷が増えていく。秋の体にも増えていくが、それはで一瞬で無傷の状態に戻る。


 そんなアケファロスのみが劣勢な状態。


 困ったアケファロスは一瞬で秋から距離をとり、一進一退のゆっくり少しずつ進行する戦況を崩した。



 そしてここでアケファロスは、本気を出す。



「【集中】【思考加速】【明鏡止水】【心頭滅却】」


 脳の処理速度を飛躍的に向上させ、心を、精神を、無風の湖のような静寂に浸して自分の全神経を嘗て無いほどに研ぎ澄ます。


 アケファロスの雰囲気が一変する。


 静謐な振る舞いが更に静謐に、清廉に……清く清く清く……澄んで澄んで澄んで……それでいて、視線で竜を、龍を、射殺せるような圧縮された濃密な殺意を……殺気を纏う。


「【鎌鼬】【次元斬】」


 繰り出される無数の次元をも斬り裂く斬撃は、瞬く間に秋を深く斬り付け、残虐な傷まみれにした。 ……だがそれも一瞬だ。


 膨大な魔力量によりほぼ無尽蔵に行われる【超再生】で一瞬で再生されている。


 地面を縮めたかのように一瞬で移動するアケファロスは秋へと剣を振るう。 整い的確な足捌き。 秋の殴打を片手で受ける優れた体術。


 戦闘の極みを知るアケファロスは綺麗な戦い方をする。秋とは真反対の澄んだ戦い方。


 だが、それも圧倒的な力の差には敵わなかった。


 秋が変形する。 肩の辺りから無数に生え、伸びる様々な形状の腕。

 それらはアケファロスの片手剣と体術、足捌きなどでは防げなかった。


 やがてどれか一本の腕の攻撃を受けて地面と平行に飛ぶアケファロスは、空中でその勢いを殺し、地面に足をつけた。




 秋とアケファロスが睨みあう。


 二人の視線の交差は、「もうこの戦いを終わりにしよう」と、言葉を交わすよりもハッキリ伝えていた。


 秋を撹乱する為にあちこちに出鱈目に転移するアケファロスは、更新された理を二つ知っている。


 一つ目はステータスの表記の更新。 二つ目は……………………



「【神速剣】【断頭】」



 最終的に秋の目の前に転移したアケファロスは暴風を発生させる程の一撃を以て秋の首を斬り落とさんと腕を横に薙いだ──


 ……のだが、動いていない秋の首を落とす事はできなかった。


 アケファロスの腕が弾け飛ぶ……ボロボロになるまで使い古した剣を力強く握りながら……宙を舞う。

 それは体から斬り離されても依然として、研鑽の履歴を感じさせた。


 そしてアケファロスの胴体にポッカリと風穴が空いた。 ……見れば秋が腕を突き出していた。


 自分の胴体から血がダラダラと、決壊したダムから濁流のように溢れているような……アケファロスはそんな光景を最後に、意識を手放した。

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