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第214話 蒐集家襲撃

 その後はいつもの調子でサクサク他の通路も探索していったが、どれも一本道ですぐに行き止まりになっていた。


 そして、残るのは一番左の通路だ。


 ……今まで、この沢山ある通路の場所を踏破したと言う話は聞かなかったし、まさか他の一本道すら攻略できなかったと言う事もあるまい。

 恐らくこの通路が冒険者達の悩みの種なのだろう。



 俺は弱い魔物ばかり相手にしていて飽きてきていたこの気持ちに鞭を打って、この先の通路に期待を膨らませた。


 その先は更に多く増えた分岐が並んでいた。 その数、十六。


 ……なるほど、そう来たか。


 今の俺はこめかみに青筋を立ててイライラを露にしている事だろう。


 この通路はあれだ。 どれか一つだけが次に繋がっていて、それ以外は全く意味のないフェイクで、そうして無駄に無駄を重ねて進んでいく非常に面倒臭い場所なのだろう。


「これは酷いな……」

「そうね。 一気にやる気を削がれたわ」

「…なぁアキ。 正解を見極めるスキルとかないのか?」

「あるけど、使うか?」


 最近はまるで出番が無かった【遠視】だ。

 このスキルは視線の先を遠くまで見れるスキルなので、一つ一つの通路の前に立って使用すれば簡単に正解を見つけ出せるだろう。


「……クドウ頼りは嫌だが、今回は別だ。 これが長く続けばモチベーションも下がってくるし、やむを得ない。 頼んだぞクドウ」

「あぁ」


 名目上のリーダーは俺とされているが、実質的なこのパーティのリーダーであるマーガレットがそう言って許可を出したので俺は一つ一つの通路に【遠視】を使っていく。


 結果は右から四番目の通路が正解だった。

 そしてその先の 通路は三十二だった。


 ……と、この様に倍になっていく通路を【遠視】を使って進む。

 その途中でボス部屋もあったが、この浅い場所のボスはコボルトキング程度なので瞬殺されていた。




 そんなこんなで眼前の通路は遂に万に達するぐらいになっていた。

 道理で踏破の報告聞かないわけだ。 ……これは【遠視】を使わなければ一生かかっても攻略できないかも知れないな。


 ちなみにここの通路自体は全然長くないので、すぐに次の頭が痛くなる光景に辿り着けた。


「うへぇ……なんだか頭が痛くなってきますわ……」

「全くだな。 それで、今度はどの通路なんだ?」

「えっと…………あそこだな」


 ちなみにこのぐらいになると、横並びだけでなく、縦にも通路ができるようになっていた。 見た目的に分かりやすいのは蜂の巣だな。


「…全く……こんなのアキがいなかったらどうなっていたか……」

「恐らく、もうどこも攻略されなかったでしょうね……」


 一番簡単な通路は既に俺達が攻略し、縦穴は普通に考えて無理だし、氷付けになっている通路もあるし、終いにはこの蜂の巣だ。

 俺達があそこを最初に攻略できたのは幸運だっただろうな。



 そう考えて先に進もうとしたらどこからか突然声が聞こえてきた。


「この辺りまで来れば逃げられる心配も、人目にも付かないか」


 そんな言葉は俺達の後ろから、そして大勢の足音と共に聞こえてきた。

 セレネが身を固くしている事からこいつらがどう言う奴らなのかが大体察しが付く。


 そうか。 ダンジョンに入る瞬間……と言うかこの分岐の通路に入る瞬間を見られたのか。 多分、ダンジョンを捜索していた奴に見付かって仲間を呼ばれて……って感じだろうな。



「すまないみんな。 早速巻き込んでしまった」

「……ごめんなさい。私のせいで……」


 涙目になっているセレネ。


「…焼きそばパン3つでチャラにしてやるぜ?」

「安いな」

「…はっ! この程度の事ならそれで十分だっての!」


 ラモンからすればこの大人数に囲まれる事が焼きそばパン三つで帳消しになってしまう程度の事らしい。


「この人数が相手だけど、不思議と怖くないね」

「最近これ以上の数の魔物を相手にしたからですかね?」

「……ですけど油断は禁物ですわよ」

「そうだよね。ごめんねエリーゼさん」

「気を付けます!」


 アデルとラウラがそう言うが、それを窘めるエリーゼ。


 凄いなエリーゼは。 ……もうこのレベルまで来ると並みの騎士や冒険者ですら目じゃないと言うのに未だに警戒や注意を怠っていない。



 そこで相手のリーダーらしき人物が俺達に話しかけてきた。


「俺らはお前らではなく、そこの吸血鬼人に用があるんだ。 だから大人しく差し出せば他の人間に危害を加えるつもりはない。 ……さぁ、分かったら早くそいつを差し出せ」

「嫌だけど」


 保護対象をそう簡単に渡すわけないだろう。


「……ふん、バカが。大人しく差し出せば見逃してやると言っているのに……俺の善意を無駄にするのか?」

「あぁ……そうなのか。善意で警告してくれていたのか。 ……なら俺もお前の善意に報いないといけないな」

「あ?」

「お前達の拠点を全て教えろ。 そうすれば見逃してやる」

「……ちっ……やれ!」


 リーダーらしき人物は舌打ちをすると、部下に指示をだして俺達を攻撃しようとやってきた。


「できるだけ殺さずに無力化してくれると助かる」


 拠点を聞き出す為にはこいつらをある程度生かしておく必要がある。

 だがまぁ、一番生かすべきはリーダーらしき人物だろう。あいつがもし本当にリーダーなら、したっぱより上質な情報を持っているだろうからな。


 そして俺に向かって来るのはリーダーらしき人物だけだ。

 他のしたっぱは、一直線にフレイア達へと向かっていった。こいつ一人で俺の相手が務まると判断したのだろう。


「手加減してやろうか?」

「てめぇ……!」


 こんな挑発に乗っている程度のレベルなのにリーダーとして指示を出していたのか。 もしかしてこのコレクター達組織って小賢しいだけの小物の集まりだったりするのか? もう少し実力のある者が出張ってくるものだと思っていたが……





 そんな感じで凄く弱かったコレクター達を、誰一人殺すことなく全員簡単に捕縛する事ができた。


「そんな弱いのによく喧嘩売って来れたよな、お前ら」

「ちげぇよ! お前らが強すぎるんだよ!」

「でも俺のあんな陳腐な挑発に乗ってたじゃないか」

「それは挑発に乗ったフリをしてただけだ。 そうすれば相手は俺を弱いと思い込み、隙ができるからな」


 なるほど。そう言う戦術もあるんだな。 ……一生使う事はないだろうが、一応覚えておこう。


「まぁいい。 ……さて、じゃあお前達の拠点を教えろ。そうすれば命だけは助けてやる。 俺はお前達と違って、一旦見逃したあとで襲うなどはしないから安心しろ」

「な、なぜその事を?」

「犯罪を目撃されたのに目撃者を始末しないバカがどこにいるんだ?」


 最初からそう思ってはいたが、念のために【思考読み】を使ったら本当に考えていた事に、驚きはなかった。

 

「……改めて言うぞ。 言えば命だけは助けてやる。だが、言わないのなら体の欠損ぐらいは覚悟しておけよ」

「……っ!」

「…………よし、じゃあまずは指先から落としていこうか」

「まま、ま、まて! や、やめてくれ!」


 氷でノコギリのような形の刃物を作ると、リーダーらしき人物はあっさり話始めた。 ……やっぱり弱いだろお前。リィダもそうだったが、この世界は口の軽い悪人が多いな。曲がりなりにもこのような悪事を働く組織のそれなりの地位に就いている人間なのだから、もう少し我慢をしないといけないだろう。


「言う気になったか?」

「ああ……言う……言うさ……」


 息を切らしながら暴露される拠点の場所を、マーガレットが持っていた地図にメモしていく。マーガレットから許可はされている。




「これだけか?」

「ああ……他にもあるのかも知れないが、もう俺は知らない……!」


 らしいので、用済みになったコレクター達を土の縄で引き摺って移動する。


「な、何を……?」

「俺はお前達を殺さないから安心しろ」

「お、俺は……?」


 そう。『俺は』だ。 今からこいつらを始末するのはここの魔物達だ。


「よ、よせ! やめてくれ! 言われた通りに話しただろう!?」

「あぁ。 だから命だけは見逃しやるよ。俺達はな」


 そう言って俺は魔物達で溢れる通路の奥へと土の縄で拘束したままのコレクター達を次々と放り込んでいく。


 俺の言動の方がこいつらよりよっぽど悪人らしいな。


 通路の奥から聞こえてくる断末魔を背にしてフレイア達の場所へと帰る。

 全員引いたような顔をしている。 当然だろう。目の前で知り合いが犯罪者対して非道な行いしていたのだからな。


「アルベドがよくアキの事を鬼畜と言っている理由が分かったわ……」

「あの人達より圧倒的に悪者っぽかったよ。クドウさん」

「……そんな事より早く次行こう」



 …………


 ………………




 その後は今日の攻略を終えてギルドで魔物を売ってから解散した。


 今はフレイアとセレネと帰宅途中だ。


「大丈夫? 怖くなかった?」

「……私はこれでも16歳。 並大抵の事では動じない」

「「え?」」


 俺とフレイアの声が重なる。


 16歳……? いや、見えない……事もないか……? セレネはフレイアより少しほんの少し小さい程度で、クロカとシロカよりほんの少し僅かに大きい程度だし……


「……どうしたの? 二人とも……」

「い、いえ、何でもないわよ……?」

「いや、悪いな。お前の事を13歳ぐらいかと思ってた」

「ちょっとアキ……!」

「アキ、酷い」

「お前が小さいから仕方ない」

「むぅ……」


 そんなやり取りをしながら帰路に着いた。





 リブさんと、クロカ、シロカに出迎えられ、クロカとシロカを伴って自室へと帰る。


 ちなみにオリヴィアは文句を言わずにセレネの事を受け入れてくれた。

 役割は特に定まっていないが、人手が足りなかったり回らなかったりした時に役割が適宜与えられるそんな補欠的な感じらしい。


「なぁ。 クロカ、シロカ」

「どうしたのだ?」

「今から出掛けないか?」

「これまたどうしたのじゃ?」

「ここにいるセレネを狙っている悪人がいるんだよ」

「あぁ、なるほどなのだ……」

「……巻き込んでごめんなさい」

「気にせんでよい。 アキと一緒におればこんな事はしょっちゅう起こるのじゃからのぅ」


 流石クロカとシロカ。 よく分かっているじゃないか。 だが、しょっちゅうは起こっていない。 ……もしそんな頻繁に起こっているのなら今日の午前中に王都を彷徨いたりしないからな。


「アキはそう言う事に我やアルベドを連れて行きたがるよな。 ……なぜなのだ?」

「ん? ……そりゃあ、お前達はなんだかんだ言っていつも俺に付き合ってくれるし、それに俺はお前達を信頼してるからな」


 スナッチの屋敷の襲撃や魔物の大群処理など、いつもこう言った事に付き合わせているし、この世界最強とされる龍種でもあるからそう簡単に死ぬこともない。 だから俺はそれらを受けて安全なこいつらを連れて行きたがるのだろう。


「そ、そそ、そうか……わわ、我を信頼しくれているのか……」

「……全く……アキはそう言う事を無意識で言うから女誑しなのじゃ……」

「は?」

「分かる。アキは女誑し。出会って早々に私に餌付けしたりしてた」

「餌付けって……言い方悪すぎるだろ。 それにあれはお前が……」

「私は腹ペコじゃない」


 意地でも大食いなのは認めないようだ。


「で、どうすんだ? 来るのか?」

「もちろん我は行くぞ」

「ん? あぁ、童も行くのじゃ」

「なら決まりだな。 …………あぁ、そうだ。この間のあの着物の事だが、足の辺りがスースーするって言ってたからこんなのを作ったんだけど……」


 そう言って俺は取り出すのは、黒ニーソに黒タイツと、白ニーソに白タイツだ。 二人のイメージカラーにあわせて作った。


「どっちでも自分の好きな方を履いておけ」

「着物をやめると言う選択肢はないのかぇ?」

「あるわけないだろう」

「その拘りは何なのじゃ……」


 呆れたようにシロカが言うが、クロカはそうでもなかった。


 嬉々としてニーソとタイツの履き心地を確認している。 そんなクロカは興奮した様子で、シロカにも確認するよう言っていた。


 そんなシロカは渋々ニーソとタイツ履くが、途端にピンと来たような表情になってクロカと共にニーソとタイツの履き比べを始めた。









 そんなクロカとシロカはニーソかタイツかを悩みに悩み抜いた挙げ句、クロカがニーソ、シロカがタイツを履く事にしたようだ。


「どうだアキ! 似合っておるか?」

「あ、アキ! わわ、童も似合っておるじゃろ……?」

「おう。 二人とも似合ってるぞ」


 ニーソをパツパツ引っ張ってクロカが自信満々でそう聞いてきて、そしてシロカは俺に悪感情を抱いているはずだが、たまになぜかこうして俺からの評価を得ようとしてくる。

 だが、まぁ正直二人とも似合っているので素直にそう言っておく。


「そうだ! アキ、クラエルも連れていってはどうだ?」

「……そうしたいが、あいつは門番の仕事があるから無理だろ」

「彼奴も一応はアキの従者と言う事になっておるから、オリヴィアから許可を得れば問題ないはずじゃぞ」

「へぇ、そうだったのか。 じゃあオリヴィアに聞いてみるか」


 そう言って俺はオリヴィアの部屋まで向かい、扉をノックして許可が出たので入る。


「クラエルを少し借りてもいいですか?」

「えぇ構いませんよ。ですが、一応どこに連れて行かれるのかを聞いてもよろしいですか?」

「セレネを狙ってるコレクターの拠点ですね」

「……襲撃されるのですか?」


 またですか? みたいな目で見てくるオリヴィア。 この前の王都にあるテイネブリス教団の拠点を襲撃したときの事だろうな。 スナッチの方ではないと思う。オリヴィアは知らない筈だし。


「そうですね」

「無いとは思いますけど、怪我などには気を付けてくださいね?」

「はい、気を付けます」






 と言う事でクラエルを連れて行くのを許可されたので早速クラエルを呼んで来た。




『やったー! やっとアキがボクも仲間に入れてくれたー!』


 門番の鎧を着ているクラエルが、ガシャガシャと音を立てながら全身で喜びを表現している。


「別に仲間外れにしてたわけじゃないぞ」

『え?』

「門番であるお前をこう言う事に誘っていいのかが分からなかっただけだ。 ほら、これ着ろ」


 そう言って俺がクラエルに差し出すのはこの前作ってやったピエロ服だ。


『わぁーい! やっとこの服を着れるー!』


 クラエルは外出時以外は部屋着だったので、今までこの服を着る機会がなかった。

 だからやっと着れて嬉しそうだ。




 ささっとピエロ服に着替えたクラエルは、クルクル回って喜んでいる。


「じゃあ行こうか。 そうだセレネも来るか?」

「え?」

「お前を苦しめたクズ共が死ぬ瞬間とかみたくないのか?」

「別に見たくない。 ……けど、これは私の問題だからちゃんと付いていく」


 らしいのでセレネも連れていく事になった。

 俺、クロカ、シロカ、クラエル、セレネの、五人だ。


 見事に俺以外が女だ。 ……クラエルの見た目は女性的だけど、実際どっちなのか分からないので、取り敢えず女としておく。……いや、一人称ボクだし男か……?

 まぁ……だが、こうなると全員女で襲撃してコレクター達に舐められた状態で始末していくのがよさそうだ。


 よしじゃあ早速変形しよう。


 灰龍か、金髪赤目のどっちかと言われれば金髪赤目の方だろう。 無闇に灰龍が出張ってくると龍種の品位と言うか……なんかそんな感じのが貶められるだろうしな。

 クロカとシロカは俺の指示に従って行動しているので別だ。


『アキが女の子になっちゃった!』

「どう言う事……?」

「よしじゃあ行くぞ」

「説明して」

「面倒臭いから無理」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 秋達一行がやってきたのは、王都の城壁沿いに建てられた豪邸の前だ。

 空は遠くにまだ僅かに赤色を残している。


「じゃあ正面突破で」


 金髪赤目の美少女となった秋がそう言って駆け足で走っていく。それにはニグレドとアルベドも呆れたような表情で追随している。相変わらずの無計画さに呆れているのだろう。


「なんだお前ら」

「はっはっはー! 襲撃者なのだ!」

「な──」


 ニグレドがそう言って腕を振るうと、飛ぶ斬撃が門番の胴体を二つに裂いた。

 もう片方の門番もアルベドに同じようにして殺されていた。


「二人とも凄い……」

「当然なのだ」


 秋が蹴破った玄関の扉は、廊下を歩いていたコレクターに命中し、扉ごと吹き飛び、やがて壁に叩き付けられた。


 そんな大きな物音を耳にしたコレクター達が次々と集まってきた。


「敵だ! 纏めてかかれ!」

「殺すな! どうやってここを突き止めたのか聞き出さなくちゃいけない!」

「大人しくしてろ! ガキ共!」


 様々な怒号が飛び交い、静かだった夜が瞬く間に喧騒に包まれていく。


「さっさと皆殺しにして次行くぞ」

「分かっておるのじゃ」

『ね! ね! 見ててねアキ! ボク頑張るから!』

「おう。 ……セレネも混ざってみるか?」

「……コレクターの数が減ったらやる」

「じゃあそれまで一緒に見ておこう」


 セレネはニグレド、アルベド、クラエルに比べてステータス面で劣っているので、足を引っ張らないようにと考えれば賢い判断だと言えるだろう。


 ニグレドやアルベドの爪で裂かれたり、拳で殴り殺されたり、出し入れ可能な尻尾で薙ぎ払われたりしてコレクター達はみるみる内に数を減らしていく。



 そしてクラエルはどこから取り出したのか、片手で振るえる槍や、投げナイフ、燃える輪、などを使って手早く軽快に的確にコレクターを殺していく。


 そんな感じでコレクター達は一人、二人と秒刻みで死体へと姿を変えていく。


「そろそろいいんじゃないか?」

「ん。 私もやる」


 セレネの額から伸びる角が輝くように煌々と赤く染まっていき、それから肌も一部が赤銅色に変貌した。


 そしてセレネは霧へと姿を変えて数人のコレクター達の周囲をグルグル漂う。

 ……だが、それだけでコレクター達には確実に着々と裂傷が与えられていく。


 それをよくみれば一瞬だけ、鋭く伸びたセレネの爪が実体を持ち、コレクターを裂いている。


「一体なんなんだこいつらは…っ! くそぉっ!」

「ぐああああ!」


 やがて完全に姿を現したセレネは、すぐに近くにいたコレクターを殴り付ける。

 セレネのその華奢な見た目とは裏腹に、吸血鬼と鬼人の膂力を伴った鉄をも容易く砕ける一撃を受けたコレクターは血を吐き散らして壁にめり込んだ。腹部が凹んでしまっている。


 そんな仲間のやられ様を目にしてしまった残りのコレクターは、セレネ……一人の少女へと化け物を見るような怯えた視線を向け、みっともなくガタガタ震えている。


「もうそんな視線は慣れっこ」


 そう言うセレネは一撃二撃と繰り出して残りのコレクターも殴り飛ばした。


「やるじゃないかセレネ」

「少人数だったから」

「そうだけど、面白い戦い方だったぞ」

「……ありがとう」


 一瞬驚いたような顔をしたセレネは、小さく微笑んで礼を言う。 それが照れ臭かったのか、秋は話を変えた。


「それにしてもよくないな。 ……短パンの方はマジックテープ的な奴をはずさないとダメだな……」

「うぬ? 我とアルベドの服装のことか?」

「あぁ。 着物の方はともかく、短パンのマジックテープを外す為にスカートの中に手を入れるのは流石にダメだ」


 例え下に短パンを履いていてもダメだと秋は付け足す。


「すまないな、気付かなかった」

「童はてっきり、恥辱を与えるための鬼畜の所業だと思っておったぞ」

「そんな訳ないだろ。ただ単に考えが及ばなかっただけだ」


 そんな緊張感のない会話を繰り広げる秋、ニグレド、アルベドに若干引き攣った表情のセレネ。 クラエルは死体の観察をしている。もし自分が勝てないと悟った相手への対処法である死んだフリを上手く行う為の観察だ。


「さて、じゃあ次行こうか」






 その後、王都の至る所から火の手が上がり、詰所に行方不明となっていた人間や異種族が大勢帰って来た。と、王都の住人の間で暫く話題になっていた。


 ちなみに秋達はギリギリで夕飯には間に合ったのでオリヴィアにもリブにも怒られなかった。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






「犯人が誰か分かっているのか?」

「いえ……生存者が誰一人としていなく、完全に情報がないので犯人の目星すら付いていません……」


 暗い一室で偉そうにふんぞり返っている男と、それに膝を付く男。


「無能が……」

「申しわ──ぐぅっ…!」


 謝罪をしようとした男の肩へ風の刃が放たれる。 腕の切断までには至らなかったが、それでも深々と斬り裂かれていた。


「どうにかして突き止めろ。いいな?」

「……は……ぃ……」


 顔面蒼白で痛みを堪えて返事をした男は血を流しながら退室していった。


「やはり無能ばかりではこうなってしまうか。 折角コツコツ蒐集した希少品が殆ど失われてしまった。 ……これだから普通はダメなんだ」


 一人でそう愚痴るふんぞり返っている男の言葉は、側に控えている執事のような老人にしか届かなかった。

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