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第211話 心配なくほのぼの

 自らをインサニエルと名乗る白ローブと、カエクスと呼ばれる天井を這う男が去り、土の槍に貫かれた死体が残る広い地下室。


 俺はドロシーの正面にしゃがみ込み、聖魔法で応急措置を施しながら話しかける。


「おい、ドロシー。 おーい大丈夫か?」


 さっきと変わらず反応はない。


 …………もしかして死んでたりするのか……? いや、死者には効かない聖魔法が効いていると言う事は生きていると言う事だ。


 じゃあやはり気絶していたり、話す気力もないか、心を閉ざしているか。 分からないが、取り敢えず記憶でも覗いて何をされたか、どうしてこうなったかを…………無理か。 幾ら何でも思考停止している人間の思考は読めない。


 さて、じゃあラウラの時と同様に病院に……


「アキ……! なぜ僕を攻撃した……っ!」

「ん? あぁ、マテウスか」


 右腕と左足を必死に動かして這ってきたマテウスが、忌々しげに俺を睨み付ける。 が、次第にその視線が訝しげなものに変わる。


「……この姿が気になるか?」

「あ、あぁ……」

「俺のスキルだ。 【幻術】と言うスキルだ。 効果は名前の通り幻を使う術だ」


 嘘だ。 俺がしているのは変形だ。 あまり自分の事を知られるのもよくないのでこうして嘘をついた。 現に今マテウスは俺に疑念を抱いているだろうから間違ってはない。


「闇魔法とは違うのか?」

「……と言うかそんな事はどうでもいいだろ?」

「……! そうだドロシー!」


 一生懸命に焦った表情でこっちに這ってくるマテウス。


 それを改めて見ると、本当に不死身だったんだなと思わされる。非常に強力なスキルだが、カエクスも言っていたように癒し手がいないと四肢をバラバラにされるなどして無力化されてしまうのが欠点だ。

 ……頭を粉砕しても、心臓を破壊しても生きていられるのか試してみたいが、流石に不味いだろう。


「ど、ドロシーは生きているのか!?」

「あぁ。だが意識がない」

「そんな……っ! ドロシー! ドロシー!」


 ドロシーの足元まで這い、必死にドロシーの足を揺するマテウス。


 痛々しい光景だ。


 だが無情にもドロシーの答えはない。依然として沈黙を貫いたままだ。


「無駄だ。 こうなっている人間には何を言ってもとどかない。 だから病院につれていくぞ」

「ドロシー! ドロシー!」


 ダメだ。 こいつにも言葉がとどいていない。 仕方ない。もう一度気絶させてドロシーと一緒に病院まで運ぼう。


 俺は必死にドロシーの足にしがみつくマテウスに再び魔力弾を放つ。 何の抵抗もなくあっさり気絶したマテウスを担ぎ上げ、その上にドロシーも重ねる。


 ……あ、そうだ。 マテウスの左腕と右足も拾っていかなければ、と考え階段を登って手足を拾う。

 廃屋と化したこの家屋の壁に空いた穴から見える外は真っ暗だった。まだ歩いている人間はいるが、どれも酔っぱらいなどだ。


 これなら暗さと酔いも合わさってこいつらの記憶には朧気にしか残らないだろう。


 そう考え、俺はそのまま廃屋を出てこの間ラウラが入院していた病院へと向かった。






 すり硝子でできた病院の扉からは、僅かに光が漏れている。


 俺は扉を開けて「すみません」と声をかけた。 すると、「はーい」と帰って来たので俺はそこにマテウスとドロシーを横たえて病院を出た。


 もうこんな遅い時間なのでそろそろ帰らないとリブやオリヴィアに怒られかねない。 もう手遅れな気もするが、まだ間に合うかも知れないのでこんな雑な対処をした。


 マテウスとドロシーを置いてきた俺は人がいないのを確認してから元の姿に戻り、屋敷の門前に転移した。

 それにいち早く反応したのはクラエルだった。


『あ、おかえりーアキー』

「ただいま。 オリヴィア達は怒ってたか?」

『うん!』

「手遅れだったか……」


 落胆しながらとぼとぼと門を潜って玄関の扉を開ける。


 そこでは鬼の形相したオリヴィアが腕を組んで仁王立ちで立っていた。 その側にはリブが控え目に怒った様子でオリヴィアに追随していた。


「クドウ様、お話があります。 よろしいですか?」

「……」

「クドウ様。 私はあれほど遅くならないように、って言いましたよね? 万が一遅くなるとしても事前に連絡を入れてくださいと──」


 それから長時間続いたオリヴィアの説教から解放された俺は、若干冷たくなっていた夕飯を早々に食い終わらせ、風呂に入って歯を磨いてから自室に帰った。 そしてなぜか室内に居たフレイアが何をしていたのかと詰め寄ってきたが、無視してそのまま寝た。


 














 翌朝、窮屈な感じで目が覚めた俺は、既視感のある光景を目にした。 ……今回はそれにあるものがプラスされているが。


 横向きで寝ていた俺の眼前にはすやすやと静かに寝息を立てているフレイアのあどけない寝顔があった。

 そして俺の上にはクロカが覆い被さるように間抜け面で涎を垂らしながら寝ていた。

 最後に俺の後ろには、抱き枕を抱くように俺に張り付いているシロカが寝ていた。


 このベッドはあまり広くない。 と言うか一般的な大きさだ。 そんなベッドにこれだけ人が固まっているから流石に暑苦しい。


 と言うかクロカのその寝方は寝難くないのだろうか。 だって、横向きで寝ている俺の上にいるんだ。 それは平均台にぶら下がりながら寝ているようなものなのではないだろうか?



 俺は上に乗っているクロカを床に退けてから、後ろから回されているシロカの手を退けて、起き上がろうとするがよくみればフレイアも俺に抱き付くように手を回しているのでそれも退ける。


 せっかくだし、たっぷり遊ん…………三人から事情を聞く為に三人が起床するのを足を組みながら椅子に座って待つ。

 そこで俺は怒っているように見せかける為に気味の悪い笑みを浮かべて威圧感を出しておく。 こいつらを相手に話を聞き出すには怒った様子を見せるといいだろうからな。




 最初に目を覚ましたのはクロカだった。


「……んむぅ……ぬぅ…………ぅぬ? ……床……? ……はっ……!」

「おはよう。クロカ。よく眠れたか?」


 目覚めたクロカにそう声をかける。


「あ、アキ……!? こ、これは違うのだ……!」


 土下座をするような勢いでペコペコと頭を下げているクロカ。


「事情は後で三人揃ってから聞く」

「分かったのだ……」


 俯いて青褪めるクロカをニヤニヤしながら眺めていると、次にシロカが目を覚ました。


「……んん……うぬぅぅぅっ……! ……!?」


 起床して直ぐに起き上がり、伸びをしたシロカは唐突に何かを思い出したようにキョロキョロしだして……やがて、俺と目が合った。


 そんなシロカはダラダラと汗を流し、あわあわと動揺していた。


「おはよう。シロカ。よく眠れたか?」

「ぁぁ、ぁぁ、アキ……」


 シロカは動揺しながらもよたよたとクロカの隣に移動し、そのまま正座をしてガタガタと震えている。そんな怯え方は俺の嗜虐心をとても擽った。こいつらをいじめるのはとても楽しい。


 そして、最後に目を覚ましたのは言うまでもないだろうが、フレイアだった。


「……ふわぁぁ…………んーーーっ! ぷはぁっ……! ……ぇっ!?」


 ゆっくりと起き上がり、欠伸をしてからグーっと伸びをしたフレイアは、目の前で椅子に座っている俺を見るなり、伸びをした体勢のまま硬直していたが、次第に動き始めた。


「おはよう。フレイア。よく眠れたか?」

「あ、あ、ぁぁぁぁ、アキ!? え、えと、えと……!」


 さて、そろそろ終わりにするか。

 ……ふふふ……この間買ってそのままだったものをついに使う時が来たのだ。


「さて、どうしてこうなっていたのかを聞かせてくれ」


 起床してからそこそこ時間が経って思考も纏まり落ち着いているクロカとシロカと違って、起床して直ぐのフレイアはまだあわあわしている。


「じゃあ、まずはフレイアから聞かせてくれ」

「……ぅえ!? え、えと……えぇと……ぅぅぅ……」

「早く言わないと【思考読み】を使うぞ」

「えぇぇぇええぇぇぇええ!? や、やめて……! 自分で言う! 言う! 言うからぁ!!」


 人をこうしてツンツンいじめるのは元から割りと好きだったが……やはりフレイアは格別だな。フレイアはいじめると最高の反応をしてくれる。俺はそれを知っている。


 ちなみにフレイアには【思考読み】の事を話してある。 すると「私の頭は無闇に覗かないでよね!?」と言っていた。

 なのでフレイアは【思考読み】の恐怖を知っている事になる。


「え、えと、えっとね……! き、昨日アキが私を無視してあっさり寝たじゃない? ……えと……そ、それに腹が立ったからその仕返しとしてやったのよ……!」


 ……確実に嘘だろうな。物凄い視線が泳いでいるし、絶対喋り始めに吃っている。 この吃りは何も考えてなかった人間の吃りだ。 だがあえて指摘しない。


「次はシロカだ」

「えぇとぉ……そう! わ、童も仕返しじゃ! アキに受けた酷い仕打ちへの仕返しじゃ!」

「酷い仕打ち?」

「そうじゃ、童を何度も殺したり、外で全裸にさせたりしたじゃろう?」

「調きょ……躾とスナッチの時か」


 これも嘘だな。 最初は俯いて視線を彷徨わせていたのに、何かを思い付いた素振りを見せた途端に饒舌になった。 だがあえて指摘しない。


「最後はクロカだ」

「我はノリなのだ。 フレイアとアルベドがしていたので、我も便乗しただけなのだ」

「なるほど……」


 一番ダメダメなクロカの予想外の返答に少々動揺してしまう。ノリか……考えもしなかったな。

 まぁ……これは嘘ではなさそうだ。



「なるほどな。 で? お前達は俺に言わないといけない事があるんじゃないか?」

「ごめんなさいなのだ……」

「すまなかったのじゃ……」

「勝手にベッドに入ってごめんなさい……」


 別に怒ってないが、あれの為にはこうしないといけない。


「まぁ、俺は謝っただけでは赦してやらないからな。 赦して欲しかったら俺の言うことを聞け。 いいな?」


 ……完全に悪人が言うようなことだ。 だが仕方ない。悪いのはこいつらなのだから。


「分かったのだ。 それでアキに赦してもらえるなら何でもするのだ!」


 お前はもう少し俺を疑う事を覚えた方がいい。信頼しているアピールも大概にしないといけないぞ。


「……童は一応、一応じゃぞ? ……アキを信頼しておるから構わぬが、でも……くれぐれも失望させないで欲しいのじゃ」


 そうだ。 この反応が普通なんだ。 何をされるのかを警戒しているこの反応が。


「え、ぇえっ……え、えっちなのはダメよ……? ま、まだ……そそ、そう言う関係じゃないんだからっ……!」


 お前は俺をどんな目で見ているんだ。

 …………いや……そう思われても仕方ない事を過去にしたな……わざとではないにしろ、風呂に忍び込んだ事とか…………ならおかしい事ではないか。


「よし。 ならば今からお前達には俺の着せ替え人形になって貰う!」


 そう言って俺がアイテムボックスから取り出したのは、以前、俺が着せ替え人形にされた仕返しとして、フレイアに向けてプレゼントする為に買った様々な服だ。

 だが、存在を忘れていたのでアイテムボックスにしまわれていた。 このままでは死蔵する事になると思ったので、じゃあ今回の件を利用してこいつらに着させようと思ったのだ。せっかく買ったんだし誰かが着ないと勿体ないもんな。



『……え?』


 三人の声が綺麗に揃う。


「え? じゃない。俺はこれを着ろと言っているんだ。 さぁ早く」





 その後、暫く繰り広げられたファッションショー的なやつにより、単独ダンジョン攻略やマテウスとドロシーの事で若干荒んでいた俺の心はとても癒されたし、とても満足だ。


「ねぇ……アキ。 ……もう怒ってない……?」

「ん? あぁ、俺は元から怒ってないぞ」

『……は?』

「俺は別に怒ってない。 お前達がどこで寝てても気にしないしな。 ……と言うかフレイアなら分かっただろ? お前がこの間俺のベッドで寝てても、俺は怒ってなかっただろう?」


 いやぁ……寝起きのフレイアに一方的に責め立てられてよかったな。 もし思考が纏まっていたらこの事に気付かれていただろうから。


「…………あ……言われてみれば確かにそうね……」

「なら、アキはどうして怒ったフリなどしたのだ?」

「お前達にこの服を着せたかったからだな」

「なんじゃそんな事か……なら最初からそう言えばよかろう? 童とニグレドはアキに従うメイドなのじゃから」

「そうなのだ。……まったく……アキに嫌われたと思ってヒヤヒヤしたのだ……」

「わ、私も……! ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、こんな事ならいつでもやってあげるわよ!」


 なるほど。 下手な小細工をしなくても死蔵は免れたわけか。

 ……と言うか『こんな事』か。 もしこれを着せ替え人形にされた仕返しにやらせてたとしても、フレイアには大して屈辱を与えられなかったのかも知れない。……くそぅ。


 まぁでもクロカもシロカも嫌がってないし、フレイアに関しては『いつでもやってあげる』らしいので暇な時には新しい服を仕入れてこいつらに着させて暇潰しをしよう。

 目の保養にもなるし、暇潰しにもなるし、使い道のない金の使い道にもなるしで、まさに一石三鳥だしな。

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