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第209話 戦闘!大司教!

 インサニエルが秋に向かって繰り出した初撃は、ローブの袖口から滑らせるように取り出した暗器の投擲だった。

 それは一直線に秋を目掛けて飛来するが、その動きは魔法と大して変わらず、躱すのは容易だった。


 が、その回避により生じた僅かな隙を突く為にインサニエルは、ローブの袖口から覗かせた鉤爪のような刃物で秋を斬り裂こうと振るう。


 それを無理な体勢で少し後方に飛んで回避した秋はそのままインサニエルの頭を目掛けて蹴りを放つが、鉤爪と言う軽い武器を携えているインサニエルはそれを軽々と回避して再び鉤爪を振るうが、そこにはもう秋はいなかった。


 インサニエルの背中に走る鈍い衝撃。 地面を転がるインサニエルは前転をするかのように衝撃を支配して立ち上がる。


「……【縮地】ですか?」

「そんなスキルがあるんだな」


 インサニエルは今の消えたとしか思えない移動に疑問を抱いた。


(【縮地】か?)


 まず一番最初に浮かんだのは【縮地】と言うスキルの使用だ。 これはMPの消費なく、特定の距離を一瞬で移動する事ができる便利なスキルだ。

 だが、当の秋は【縮地】の存在を初めて知った様子だった。 単に惚けているだけかも知れないが、何処か愉悦を求めている様子の秋がこんなくだらない事で惚けるとは思えないと考えたインサニエルは、再び考える。


 (ならば【転移】か?)


 そう考えるが、MP消費があるスキルをこんな簡単に使用する者はいない。 幾らMPが多い者でも、そう簡単にこのスキルを使う事はしないだろうと、そう常識的に考えてこの考えを振り払う。


 と、そこで秋が目の前まで迫ってきている事に気付いたインサニエルは咄嗟に腕をクロスして攻撃を防ぐが、完全に威力を殺しきれずに、吹っ飛ばされ地面から足が離れてしまった。


 不味い……! と思ったインサニエルは、秋の追撃に備えるが、追撃は来なかった。


 空中でクルリと回転したインサニエルは、足音を立てずに地面へと着地した。

 そこでインサニエルはある事を思い出した。

 今自分が戦っている相手の名前を知らなかったのだ。


「……ふむ……そう言えば自己紹介がまだでしたね。 自分はテイネブリス教の大司教、インサニエルと言います。 宜しければあなたのお名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「……」

「なるほど、教えていただけないと。 ならば仮に性悪と呼ばせていただきます」

「嫌な呼び名だな」

「でしょう? あなたにピッタリですよ……ねっ!」


 そう言いながら一歩を踏み出したインサニエルは一瞬で秋との距離をゼロにして、右下から左上に鉤爪を振るう。


 それを躱しきれなかった秋の服にはくっきりと爪痕が残った。


「あら、おしい」

「あぁ……新品の服が…………それよりそれが【縮地】か?」

「えぇ。 ……どうです? 魔力の消費が無いのにも関わらずこの性能ですよ? いいスキルだとは思いませんか?」

「確かにいいスキルだ。 欲しいな。 くれないか?」

「ふふ、スキルの譲渡はできませんよ?」

「…………」


 答えない秋はインサニエルへと次々拳撃を繰り出す。焦ったインサニエルはギリギリでそれらを躱していた。受け止めない理由は単純に受けられないからだ。


 そんな防戦一方が暫く続いたが、その均衡は秋の背後から飛来した暗器により崩れる事になった。


 そんな暗器を間一髪のところで察知して回避した秋は、暗器が飛来してきた方向を見据える。

 その方向には、秋が下りてきた階段があった。


(マテウスか……? いや、あり得ない。 ならば土の槍で仕留め損なった白ローブが潜んでいた?)


 考えるが、一向に答えは見えない。


 そこで視界の端に僅かに蠢く影があった。 ただ、それは影と呼ぶには少々白過ぎた。


「ほぅ……再び俺に気付くか。 奇襲しか出来ない卑怯者かと思ったが、そうでは無かったようだ」


 天井を忍者のように這う白ローブは秋に向かってそう言った。


「頭を撃ち抜いた筈だが、生きていたか……」

「死体の確認もせずに去るなど甘いわ。 目がある貴公ならあれをよく観察すればあれが幻像だと気付けただろうに……実に勿体無い」

「幻像……そうかお前があのこの家に……」


 なるほど……と、うんうんと頷く秋は、変形を見られたのだろうな、と考える。


 そこで秋の首筋に当てられたのは短剣だ。 そしてそれを秋の背後から首筋に当てている者はインサニエルだ。


「これで終わりです」

「お前はアホなのか」

「なん──ッ!」


 インサニエルの足元から飛び出すのは土の槍だ。 視界の外にある場所で魔法を行使したため、狙いが上手く定まらなかったのでインサニエルの足下とはならなかったが、だがそれでも土の槍は回避しようとしたインサニエルの脹ら脛から太腿にかけて大きな傷を与えた。


 首筋から短剣が離された秋は、忍者のような者とインサニエルのどちらにも背後を取られないような位置に移動した。

 それにより、ドロシー、秋、忍者のような者、インサニエルの四人の位置を繋ぐと四角形が形成される。


「……悔しいですが、引き上げますよ。 カエクス司教」

「了解。 ……だが、【聖者】はどうされるのだ?」

「残念ながらこのまま置いて行きましょう。 また拐えばいいのですから」

「了解」


 そう言ってカエクスと呼ばれた天井を這う男は一瞬の内に姿を消した。 まるで最初からいなかったかのように。


「そう言う訳ですからそこの聖者様は解放して差し上げます」

「おい待てまだ─」

「宜しいのですか? そろそろ聖者様の体力が尽きてしまうかも知れませんよ?」

「……チッ……とっとと失せろ」

「舌打ちですか? おぉ、怖い怖い」


 そう言いながらどこかへ転移していったインサニエルを見送ってから秋は、そう言えばザリッセンが縮地を持っていたな、と思いながらドロシーへと歩み寄った。


 







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








ゲヴァルティア帝国


 秋から逃れたカエクスは、今回の計画の失敗をアルタに伝えるためにアルタのいる場所に足を運んだ。

 インサニエルはこう言った報告事に関わらないので今は自分にあてられた城の一室で秋との戦いで負った傷を癒している。


 そのアルタは謁見の間で死体の山を見つめていた。


 その異常な光景と、噎せ返るような血の臭いに顔を顰めるカエクスはそれでも天井を這ってアルタへと近付き失敗を伝えた。


「……と言うわけで計画は失敗に終わった」

「なるほどね。 【不死身】……よりもそいつと一緒にいた橙色の髪をした紫色の目の男ねぇ……面白そうじゃないか」


 カエクスから話を聞いたアルタは楽しげな笑みを浮かべたが、その頭では面倒だからもう少し城でのんびりしようと考えていた。


 アルタは殺戮を繰り広げようと決め、謁見の間を出た時に、カエクスに協力を申し出られて殺戮への意欲がやる気が削がれていた。

 そう言った意味ではカエクスは救世主とでも呼べる存在だろう。勿論その功績は誰にも見られず評価もされない。


「我々はどうすれば?」

「じゃあ今度は逃亡中の異世界人全員を狙おう。 ……君達にとって【聖者】は邪魔だから優先的に排除するのは確定として、それと常に一緒に行動している【不死身】も邪魔だろうから、四肢を切断してからそれぞれ別々に監禁でもして実質死んだような状態にするだろう? ……と、ならここまで来たら全員殺したくなるよね?」

「……? よくわからんが、逃亡中の異世界人──【冒険王】【神眼】【城塞】【魔剣】【不死身】【聖者】の六人を殺害すればよいのだな?」

「そう」


 それを聞き、カエクスは了解と言って幻影のように姿を消した。


「はぁ……退屈だなぁ……だけど動く気力もないんだよなぁ……」


 死体の山を見つめ、アルタは一人でそう呟いていた。

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