第203話 類似
あの吸血鬼の登場と蘇生を学んだ日から数日が経ったが、いつもと変わらず、じっくりとレベル上げをしながらダンジョン攻略を進めていた。 今はボス部屋の前だ。
ちなみに『常時発動能力』と言うのはその名の通り、基本的に常に発動しているが、【傲慢】などの大罪スキルと同様にオンとオフを切り替える事ができるし、なんならスキルの加減もできる。 このスキルは【片手剣術】などの自分の身に付く技術系のスキルが該当する。
そして『任意発動能力』もその名の通り、自分の意思で発動できて、加減もできる。このスキルは【探知】や【認識阻害】などの自分の意思で使用しなければならないスキルが該当する。
どうでもいいが、この間出会った【冒険王】と左目が金色になっていた男に、昨日ダンジョン外で出会ったが今は休暇中らしい。
「マーガレットさん! 今回のボスはどんなのか知ってます?」
「それが、前回のボスが最後に確認されていた奴だったようでな、つまりこの先に居るのはまだ誰も知らない未知のボスなんだ」
「……ってことはこの間まであのおっさん達が一番だったわけか」
「そうなるな」
ちなみに冒険者達の間では、ディアブロシワームが強すぎて突破出来ない!と言う事で、この通路の攻略は難航しているようだ。
「それじゃあ警戒していかないといけませんね」
「そうですわね」
警戒しながらゆっくりと扉を開くと、そこには俺達の予想を越える光景が広がっていた。
「これは……溶岩ですね……」
「そうね……溶岩ね」
眼前に広がるのは真っ赤な溶岩。
まだ部屋に足を踏み入れていないと言うのに熱気が半端ない。
「一応、足場はあるみたいですわね。 どうしますの?」
「進むしかないだろ」
「ふぇぇ……落ちたら終わりですよぉ……?」
「落ちなきゃいい」
「そ、そんなぁ……」
溶岩に尻込みするラウラを無理やり引っ張って進む。ボスの位置は【探知】で掴んでいるので、足を踏み外さなければ大丈夫だ。
と言っても物凄いスピードで、溶岩の飛沫を散らしながらこっちに向かってきているが。
「あれがここのボスのようだな」
「…あちぃからとっとと終わらせちまおうぜ」
「えぇ。焼けてしまいそうですわ」
マグマの中から飛び出して来たのは、魚に足をつけたような見た目をした魔物だった。
そいつは地上に着地すると、ヒレをしまって、代わりにそこから棘を生やした。 先端からはマグマが垂れていたが、もうそれは溶岩に変わっていた
その魔物は嘶くように頭を持ち上げてから、その足でこっちへ走ってきた。
その際に棘を振り回して溶岩を放散させている。
だが、そのような攻撃はディアブロシワームとの戦闘である程度対処出来るようになっている。
だから、自然と全員が魔法で遠くから攻撃をし始めるようになった。 今、ディアブロシワームの時と違うのはこの地形と、ラウラの植物がない事だけだろう。
そんな一方的な攻撃から逃れる為に溶岩魚は再びマグマへと飛び込んだ。 この溶岩魚はディアブロシワームと違い、他の戦法があるのだろう。
「厄介ですね……」
溶岩魚が顔だけを出してそこから熱の光線を放つ。 そしてその熱の光線は、ここにある数少ない足場を破壊していく。
それに焦るフレイア達を嘲笑うように溶岩魚は熱の光線を放ち続ける。
ちなみに俺はいつも通り、初見のボスなので見学している。
「俺があそこの溶岩を吹き飛ばします!」
クルトがそう言って両手に魔力を集束させていく。 その集束はこの間の吸血鬼の時と違って、甘くない。
「いきます!」
そう言って放たれる極太の光線は、影を消滅させてしまえるかも知れないと思わせる程に眩い光を放ちながら、溶岩魚の周囲の溶岩を吹き飛ばした。
その光に目がやられたのか、溶岩魚はジタバタと暴れ始める。 そこに既に溶岩は存在しておらず、溶岩魚は、溶岩が溜まっていた穴で暴れている。
そんな隙まみれの溶岩魚に殺到する数多の魔法達。 フレイア達、近接組が近寄らないのは僅かにマグマの残滓を残した溶岩魚に近付くのは危険だと判断したからだろう。
ディアブロシワームの時のように特に緊張感がなく終わったボス討伐。
フレイア達も満足いかなそうな顔をしている。
だが、フレイア達も暑さには勝てず、早々に気持ちを切り替え、溶岩魚の回収をしてからとっとと次の場所へ向かう。
ボス部屋の先は見慣れたダンジョンの中だった。
安心した。 もしかしたらあのボス部屋を皮切りにずっと溶岩地帯が続くのではないかと心配したが無駄だったようだ。
それはいいんだが、問題はすぐ目の前にある、もう一つの大きな扉だろう。
「…連続でボス部屋かよ」
「もう帰りたいです……」
「少し休憩してから挑もうか」
そう言うマーガレットが俺に申し訳なさそうな視線を向けてくる。 多分、連続で暇にさせてしまってごめん、と言う事なのだろう。
俺は頷いて気にするなとだけ伝えおく。
暫くの休憩を終えてから扉を開けた先は、全てが凍てついた吹雪が吹き荒れる極寒の地だった。
そこに佇んでいるのは人の形をとった全身がガリガリの男のようなものだった。 雪男だろうか?
そいつは俺達を見つけるなり、すぐに吹雪の中に消えていった。
「寒いです……」
「不味いな。あの魔物を早々に討伐しなければ私達がどんどん不利になっていくぞ」
「でもあの魔物は吹雪の中に消えて行っちゃったよ……」
「…姑息な手段でちまちま消耗させるつもりなんだろうな」
扉を開けた状態で外から室内を覗くラウラ達が言う。
ダンジョンはボス部屋に入れば勝手に扉が閉じられてそのまま閉じられてしまうのでこうして外から覗くのが初見の手順だ。
「火魔法を灯しながら進みましょう」
その提案を受けた俺達は、自分の側に一人一つ体温を保つための炎兼、光源を侍らせてボス部屋へ足を踏み入れた。
すると視界を埋め尽くす吹雪により、一瞬で視界が、体温が奪われる。 火を灯しているがそれだけではこの吹雪を相殺できないようだ。
雪男の攻撃の備えて周囲を警戒しながら進む。 あの雪男は不意討ちを主な攻撃手段としているっぽいので、戦いに参加しないとは言え俺も【探知】などを使わず単純な気配を察知する勘を活かす事にした。
……と、そこで俺の背中に衝撃が走った。
思わず振り返ると、そこには吹雪に紛れていく雪男がいた。
そこからの戦いは特に面白くなかったので省くが、簡単に説明すると、後ろにしか回り込まない雪男はすぐにフレイア達に対処されてボコボコにされていた。
一番苦労したのは、出口を探す事だ。 吹雪自体は魔物じゃないから消えないのだ。
そしてその先では、また扉が道を塞いでいた。
「またボス部屋か。 今回も少し休んでから行こう」
俺はその見覚えのある通路に嫌な予感を覚えた。
あの転生の神の代理は、シュウの創った遺跡世界の魔物はこの世界の魔物をベースに創られたと言っていたが、もしかして遺跡世界のあの構造もこの世界のダンジョンをベースに創っていたのだろうか。
……いや、それはないか。 俺が最初にカイネフール洞窟に入った時には分岐はなく、一本道だった。 つまりその時点ではその分岐の先にあるこの場所は存在していなかった。 ……なら、これはただの偶然なのか?
……まぁ何にせよ嫌な予感がするのでより一層、警戒して行こう。
それから暫く進み続けたが、やはりずっと一本道が続いていた。
そしてそれに合わせて魔物も強くなっていく。 これは今までのダンジョンでもそうだったが、何か様子が違った。
今までの俺達人間を拒み排除すると言う意思が感じられず、それどころか早く強くなって会いに来いと言われているような感じだった。
「はぁ……はぁ……何とか勝てたね……」
「すまないクルト、治療を頼む……」
「はい!」
そしてその頃にはどんどん負う傷も増えていき、何度も危ない場面が見受けられるようになっていた。
だが、そこは流石と言うべきか、俺の手助けなく自分達で対処し合っていた。
「…次が13番目の部屋か…今日は時間的にここを突破して終わりか……キリがわりぃなぁ……」
ラモンがそう言うが、俺にとってはキリが悪い数字ではない。 むしろ不吉だがキリが良い数字だ。
13の部屋は遺跡世界ではアルヴィスが居た部屋だ。俺はここでアルヴィスに殺されて、シュウに化けの皮を剥がされて、アルヴィスを殺して……色々な思い出がある。
それに、恐らくここで決まる。 このボスラッシュが偶然か、それとも人為的なものかが。
「それに不吉ですわ」
「不吉、ですか……?」
ラウラがエリーゼに聞く。
「えぇ。 いつの話かは分かりませんが、昔12人の貴族がパーティをしていたんですの。 そしてそこに招かれざる13人目の貴族やってきて、その13人目の貴族が他の貴族を唆して、他の貴族を殺害させたのですわ」
「酷い話ですね……」
「そう。 そしてそれが原因となって、各所を巻き込む戦争となったと言われていますわ」
人を使って人を殺させる、か……シュウがアルヴィスを使って俺と戦わせた状況と良く似ているな。
「さて、みんなそろそろ大丈夫そうか?」
全員の息が整い、余裕が出てきたころ見計らってマーガレットがそう言う。
「えぇ。もちろんよ」
「…おう。 もう全快だぜ」
「わたくしも大丈夫ですわよ」
「私もいけそうです!」
「ボクも」
「俺の魔力も回復しましたので大丈夫です」
フレイア達が立ち上がりながらそう答える。
それを聞いたマーガレットは、頷いてから13番目の扉を開けた。




