第202話 理解者
どう言う状況なんだ……?
精神的な疲労から、ベッドに寝転がって…そしていつの間にか寝てしまっていたのは分かる。
だが……なぜ俺の目の前で、俺のベッドの上で……フレイアも一緒になって寝ているんだ……?
あれか? クロカが俺のベッドでジタバタしてたのと、シロカが掛け布団にくるまっていたあれと同じような感じなのか?
いや、フレイアはそう言ったペットの類いではないのであり得ないだろう。
……ならなぜ……?
…………取り敢えず起こすか。
「おいフレイア」
「……んー……すぅ……すぅ……」
「おい起きろ」
「……ん……ふ……ぅん…? …………ふぇぇ!?」
俺が声をかけながら揺すると、次第に目が覚めていったフレイアは、寝起きだと言うのに思い切り飛び退いて、ベッドに面した壁まで後退り、そして僅かに呼吸を荒げていた。
夕焼けに照らされているからか、顔も紅潮しているように見える。
「な、な、なななっ!! あ、あああっ、アキぃっ!?」
目に見えて分かる程に狼狽するフレイア。 どんどん赤くなっていく。
「ど、どうしてここに!?」
「こっちのセリフなんだが…」
「え!? え!?」
「ここ、俺の部屋だぞ」
「ぅえ、うえええええぇぇぇぇ!?」
おや……? フレイアの頭から煙が……? まだ現実世界と精神世界が乖離し切っていないのだろうか?
俺は意識して区別を付けようとするが、何も変わらなかった。 と言うか、今のこの部屋には精神世界の痕跡が見当たらない。
「……で、なんで俺のベッドに?」
「……え、えっと……」
言い淀んでいるフレイアの表情から、こうなった経緯は把握出来ているように見えるが、口にしない以上、言い難い事なのだろう。
「まぁいいか。 ……そうだフレイア。 変わった事はなかったか?」
もしかしたらあの現象が誰かに影響を与えているかも知れない。 そう思った俺はフレイアに聞いた。
「え……? 変わった事……? ……そう言えばさっきまで視界が歪んでいたわね」
「……あぁ……すまない。 それ俺のせいだ。 ……他の人はどんな感じだった?」
「えっと……私の側に居たメイドなら特に変わった様子はなかったわよ」
ふむ。 フレイアだけに影響が出たのか、そのメイドさんだけ影響を受けなかったのかは分からないが、それでもあの現象が誰かに影響を与えたのは確実だろうな。
何か変な事が起こってないといいけど……いや、起こっていて欲しい。 面白そうだし。
「あと、アキがベッドに横になったあたりで声が聞こえたわね」
「……? ……あぁ……えっと、『異常事態が発生したため、世界の理が更新されます』だったっけ?」
「そうそれ。 更新って、どう更新されたのかしら?」
「……あぁ……ステータスの表記が新しくなっていたな」
「………………は…………え…………ぅぇええええええええぇぇぇぇぇええええ!?」
目を見開いてフレイアは驚愕を露にする。
「す、ステータスが!? …………ほ、本当だ!?!?」
ステータスを確認したのかフレイアがそんな反応をする。
それから暫く、フレイアが落ち着くのを待っていた。
「ごめんなさい。 びっくりしすぎて取り乱したわ……」
「別にいい」
そう。これが更新された世界の理だ。
この世界に於いてステータスは理のようなものだ。と言うか理だ。
それがこうもあっさり変化してしまったらフレイアが驚くのも無理はないだろう。
「…………ねぇアキ」
「どうした?」
「私がこの部屋──アキのベッドに居た理由だけど」
「……話したくないならいいんだぞ」
「いえ、話すわ。 えっとね──」
そう言うフレイアが語った事を簡単に纏めると、勉強していたら視界が歪んだ。 不思議に思ったので周囲を見渡したら、俺の部屋から魔力だかなんだか分からないものが漂ってきていた。 気になったので扉の隙間から見てみたら視界の歪みが酷くなって、吐きそうになった。 ……俺が俺じゃなくなる気がしたから俺の名前を呼んだ。 すると視界の歪みが収まり、その代わりに広がった言い得ぬ光景に目を奪われて……そしてベッドに寝転がって眠った俺に続いてフレイアも──
と言う感じだった。
…………そうか。 あの時俺の名前を呼んでいたのはフレイアだったのか。 正直、あの呼び掛けが無ければ……俺は自我を保てずに魂が消滅して死んでいただろう。
「そうか。 ありがとうなフレイア。 お前のおかげで俺は生きている。 ありがとう」
「……? よく分からないけど、どういたしまして」
そう言うフレイアの笑顔は夕日に照らされてとても綺麗だった。
こんな光景は前にも見た。
……だと言うのに、飽きが無いのには驚きを禁じ得ない。
そして気付いた時には、フレイアの頭に手が伸びていた。
「……えぇ!? ……ぅ……えぇ……? な、な、なに!?」
「いや、すまん。 ……思わずやってしまった」
「……い、いや……別にいいけど…………………………いつまで撫でてるのよ……?」
「もうちょっとだけ」
なぜかは分からないが、こうしていると、落ち着く……癒される。
なぜこんな衝動に駆られてこんな奇行に走り、落ち着いているのかは分からないが、恐らくまだ精神が安定していないから無意識にしてしまい、感情も不安感なのだろう。
そんな俺の様子を察したのか、フレイアが首を傾げた。
「…………ねぇアキ…………どうしたの?」
「いや、何でもない」
それからそのまま頭を撫でていた。
暫くすると、クロカとシロカが帰って来たので、それからは四人で母さんから貰った物─黒◯げ危機一髪を筆頭としたその他の物で遊んでいた。
そう言えば、遊びの最中にこんな会話をしたな。
「そう言えば、前と比べれば随分丸くなったわよね。 アキって」
「そうか?」
フレイア、お前も丸くなっただろう。最初の頃に比べればどれだけ棘が削ぎ落とされた事か。
「分かるのだ。 前までも十分優しかったのだが、今はもっと優しくなったのだ」
「童はお主ら程アキと長くはないが、それでも雰囲気が柔らかくなった気はするのぅ」
俺は以前と振る舞いを変えたつもりはないが、こいつらにはそう映っているらしい。
自分の事は自分が一番分かっている……と思うが、全くそうでもない。
自分では気付けない事に、自分以外の他人は良く気付いているからな。
だから三人の言う事は正しいのだろう。
俺がそうなった原因が何なのかは分からないが、これでもし俺の力が─心が鈍ってしまうのなら、本格的に原因を究明しないといけないだろう。
……だが、今のところそう言ったものは実感できないので、まぁ大丈夫だろう。