表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/365

第201話 遠い響き

 その頃、フレイアは自室で側にメイドを侍らせて学校の課題に取り組んでいた。


 だが、異変は……変化は唐突に訪れた。


 部屋の風景が歪んでいるのだ。 机や、机に広げる教材やペン、窓の外やベッド、側に居るメイドまで。


 フレイアは自分の目がおかしくなったのかと思い目を擦るがそれでも執拗な歪みは拭えない。


「どうなされましたか?」

「なんか……視界がブレるのよね……疲れてるのかしら。 まぁその内治るだろうから大丈夫よ」

「なな、何かのご病気なのでは……!?」

「大丈夫だって。 相変わらずあんたは心配性よねぇ」


 フレイアはそう言って笑って見せるが、内心はどんどん酷くなっていく歪みに怯えるばかりだった。


(ん……? 隣の部屋──アキの部屋から……これは……魔力かしら? ……が漏れて来ている……?)


 それに気付いたフレイアは、お花を摘みに言ってくる、と言って部屋を出た。

 向かう先はもちろん隣の秋の部屋だが、視界の歪みによってヨタヨタとした歩みだ。


(何してるのかしら……またとんでもない事をやってるんじゃないでしょうね……まさかこの歪みもアキの……?)


 フレイアはそう考えて軽い気持ちでほんの少しだけ…………異空間への扉を開けた。






 その先には、異常な光景が広がっていた。


 まず、そこに在るのは当たり前だが秋だった。しかしそこには全身が真っ黒な人型をしたナニカと、どこか見覚えのある後ろ姿もあった。

 ニグレドとアルベドはいない。


 そんな事より、秋の様子がおかしい。



(あの時と同じ……)



 人型の黒い闇と、見覚えのある後ろ姿には目もくれず、フレイアが思い出すのはラモンとマーガレットが喧嘩した時の秋だ。


(……また……また……何かに呑まれかけている……ん……いや、今回は少し違う……? ……アキの中心が……壊れかけている……?)



 そして次に意識が向いたのは、この屋敷の部屋と白い空間だ。


 それが二重に重なり合って歪んでいる。 その歪みはフレイアが自室と廊下で見たものより圧倒的に複雑に歪んでいた。


 その異様な光景に、頭痛と眩暈を覚えたフレイアの視界は、二重に重なる景色を……更に複雑に何重にも重ならせて歪ませていた。


……やがてそんな状態だったからか、吐き気を催したフレイアは必死に吐くまいと吐き気を堪える。



 何重にも……幾重にも重なる景色と激しい頭痛、吐き気。


 夜明けが……暁が齎されない永遠の歪みの響き。

 永遠に音が反響しているかのように続く歪みの響き。

 やまないエコーは世界の崩壊を──自分の世界を──自我の崩壊を思わせた。



 そんな最悪な気分に……感覚に溺れるフレイアは助けを求めるように──



────救済の手を差し伸べた








「────アキっ!──」








 すると次第に歪みが収まり、歪んだ景色は統一され、残ったのはいつもの見慣れた部屋だった。


 フレイアはすぐに秋に視線をやるとそこにはいつも通りの秋がいた。



 そして徐に秋が掌を胸の辺りに当てると、筆舌に尽くし難い……形容し難い光が室内を埋め尽くし、再び白い世界が出現した。


 思わず口に手を当ててこれから襲い来るであろう吐き気に備えたフレイアは思わずその手を口から離した。



 相変わらず部屋と白い世界は一つに重なり合っていた。




 だけれどその光景は──








────夢のように幻想的で








────死んだように神秘的で








 そんな超常の光景は、世の理のようにフレイアの視線を奪っていた────











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~











 アデルは緊張した面持ちで声に耳を傾ける……が、突然の事で最初のいくつかは聞き逃してしまっていた。


『──と言う事なのでこれからはより一層努力して強くなってください』

「え、あのすみません。 最初の部分を聞き逃してしまって……」


 そう言うが、声の言葉は帰ってこない。

 これは今に限らず、最初に声が話しかけてきた時からそうだった。 一方的に告げ、そして居なくなる。


「あああああぁぁぁ……不味い不味い、不味いよこれぇ……」


大事な話の重要な部分を聞き逃したアデルは自宅の庭で木刀を片手に頭を抱えて踞る。


「……あ! そうか、クルトに聞きに行こう!」


 思い立ったアデルは木刀を置いて素振りを止め、クルトの家へと走り出した。




「聞き逃したから俺に聞きに来たって……仕方ないなぁ……えっとね──」


 焦るアデルに仕方なさそうに頭を掻きながらクルトはそう言って話し始めるが、その内心は頼られて嬉しいと思っている。 クルトは妹のような存在のアデルの世話をするのが好きなのだ。

 そしてアデルはクルトを兄のように慕っているので、二人の友人としての相性は最高だと言えるだろう。


「そっかぁ……なら今まで以上に頑張らないとね」

「うん。 あと、そろそろ他の皆と別れる準備もしないといけない」

「…………そうだね……ボク達、勇者と賢者の事情に付き合わせる訳にもいかないしね……」


 沈黙が場を満たす。


「あ、アデル。 今から二人でティアネーの森でレベル上げしない?」

「あ、良いねそれ。 早速強くなるために二人で頑張ろう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ