第200話 蘇生
屋敷へ帰って自室のベッドの上で精神世界を出入りする感覚を記憶するために出入りを繰り返していた。
天井を眺めていれば現実の風景を記憶する必要もないし、現実世界と精神世界を出入りする感覚も覚えられるしまさに一石二鳥だ。
俺は淡々と機械的にその作業を繰り返した。
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だんだんと蝕むように現実世界と精神世界の境界が曖昧になってきた。
精神崩壊の一歩手前のような感覚がしてきたが、しかしそれと同時に徐々に正解へと近付いているのが、これもまた感覚で分かる。
…………何度…………現実世界と精神世界の出入りを繰り返したか分からないが、もう数えきれない程には繰り返しただろう。 軽く千は越えているのではないだろうか。 だと言うのに未だにこの感覚は記憶できない。
そして天井はまだ太陽の光で照らされている。
今の時間が気になった俺は次に入った時に精神世界でシュウに聞いてみる事にした。
「俺がこれを始めてからどれくらい経った?」
「10分くらいじゃない?」
「そうか」
その驚愕の事実に全く動じる事なく再び現実世界へと帰ってきた。
そして再び現実世界と精神世界を出入りしてどんどんその境界を曖昧にしていく───
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心の──魂の底から俺を喰い殺すかのように襲い来る──愉悦──哀情──安心──焦燥──憎悪──幸福──愛情──不安──感謝──殺意──…………などの様々な感情の嵐。
それらは現実世界、精神世界を問わずに絶えず俺を襲う。
そんな感情に喰われる俺はだんだん精神が──自我が崩壊していってるのか、なぜかそんな感情の渦に呑まれながらも冷静でいられた。
……
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…………とうとう完全に現実世界と精神世界の境界がぶっ壊れたようだ。
意識を自分の外側と内側のどちらに向けても、もう何も変わらなくなっていた。
ベッドから体を起こすと、現実世界と精神精神が二重に重なって俺の視界に映った。 酷く歪んだ光景だ。
僅かに、だが確かに。 ……それでいて気付かれぬように俺の魂がギシギシ、ギチギチと、ゆっくりと軋んでいる。
「秋君、もう少しだよ。 今見ているその景色にある、現実世界と精神世界を別々に、そして明確に認識して自我を保って、そして二つの世界を同時に認識するんだ」
「これができなければお前の──秋の自我が崩壊し、魂も消滅して、お前は生まれ変わる事もできずに永遠に死ぬ」
なぜか室内に佇むシュウと邪神がそう言う。
現実世界と精神世界を同時に認識する……そして自我を保つ。
そんな難しい事をこんな………………精神を……心を──魂を喰われている状態でできるわけないだろう。
俺は自我が薄れ行く中、あるモノを最後に欲した。
────自我の形を──自我の型を崩壊させない為に────
──せめて──何か──
────決意が───
「────アキっ!──」
────誰かが俺を呼んでいる────
────俺を喰い殺そうと襲い来る感情は瞬く間に抑制されていく────
…………俺は死ぬのか。
…………俺は何回死ねばいいんだ。
トラックに轢かれて死んで、アルヴィスに頭を喰い千切られて死んで──
その他にも【超再生】で再生はしているがそれでも……何度も……何度も……何度も……死んだ。
──頭を潰され、心臓を貫かれ、全身をズタズタに引き裂かれ、肉片を飛び散らせて全身を粉々に粉砕され──
──俺はその度に自分が人間ではなくなったのだと自覚させられた
もう、これ以上は赦さない。
俺が人間だか魔物だかなんて、もうどっちでもいいが、それでも俺は今まで人間として生きてきたんだ。
その履歴を俺を殺す事で否定するのは絶対に赦さない。
だから──
────俺は死なない────
現実世界が歪んだのか、それとも精神世界が歪んだのかは分からないが、俺が視界いっぱいに映している重なりあった二つの世界がピッタリと重なりあった。それは一瞬だった。
そして二つの世界は再び歪んで、そして乖離していった。
やがて残ったのは、見慣れた自分の部屋と、見知らぬ……覚えのない感覚だけだった。
…………新しい臓器が増えた…………?
そう錯覚させられる程に、俺の中には新しい感覚が存在していた。
そして心臓が脈動するかのように、現象のように自然に在る新しい感覚は俺に変化を齎して……そして俺の身を以て強制的に実感させた。
再び現実世界と精神世界が再び重なりあう。
だが、今度はハッキリとその区別ができる。
──精神と心は安定している
──魂は軋んでいない
──自我は元の形を……型を保っている
これが……そうか。
俺は精神世界でするのと同じように、殺して喰った魔物の再現──蘇生を始めた。
眩い虹色の光を放ち、やがてそこに現れたのは遺跡世界で初めて出会ったスライムだった。
「おめでとう、秋君。 これで君が殺して喰った生物の蘇生ができるようなったね。 …………だけど今のその蘇生はまだ完全じゃないよ」
「あ?」
当たり前のようにここに現れたシュウの最後の一言に戸惑う。
「魂の与奪がまだだ」
「魂……?」
「そうだ。 ……魂とは世に存在する個人の履歴だ。 魂には記憶や精神、人格に自我──ヒトを、自分を構成するためのあらゆる要素が全て詰め込まれている。これがなければ『完全蘇生』ができたとは言えず、ただの人形を創り出しているだけになる」
「人形……」
「そしてお前が今まで喰った生物の魂は自然に還って初期化されて生まれ変わる事ができずに、永遠にお前に奪われたままだ」
「………………」
「お前がしているのは身体の与奪、ステータスの与奪、スキルの与奪、魔法の与奪だけだからな」
「魂の与奪はどうやって──あぁ……そうか。強奪のレベルが足りないのか」
やはり強くなる必要がある。
改めてそう認識した俺はスライムを消してから、あの時手繰り寄せた現実世界と精神世界を繋ぐ糸を切って、精神と肉体的な疲労を癒す為に再びベッドに横になった。
"異常事態が発生したため世界の理が更新されます"
ノイズがかかっている久し振りに耳にしたあの声が聞こえてくるが、俺は俺を押さえ付ける疲労に耐えられず、意識を手放した。
だが、その刹那の間に俺は最後に自分のステータスを見た。
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名前:久遠秋
種族:異質同体人間
Lv2418
MP :16,591,874
物攻 :16,592,001
物防 :16,591,987
魔攻 :16,591,993
魔防 :16,591,983
敏捷 :16,592,000
固有能力
【強奪Lv4】【生存本能】 【悪食】 【化け者×2910】 【傲慢】 【強欲】 【暴食】 【憤怒】 【怠惰】 【嫉妬】 【色欲】
常時発動能力
無し
任意発動能力
無し
魔法
火魔法Lv6
水魔法Lv6
土魔法Lv7
風魔法Lv6
氷魔法Lv7
雷魔法Lv7
光魔法Lv7
闇魔法Lv5
無魔法Lv7
聖魔法Lv5
時空間魔法Lv6
称号
異質同体人間 人外 理殺し 神殺し 神喰らい 同族喰らい
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祝・200話!




