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第199話 吸血鬼

 俺達は帝国からの追っ手に出会っても返り討ちに出来るような強さを得るために逃亡先のミレナリア王国に突如出現したダンジョンでレベル上げをしていた。


 ダンジョンが出現する前は普通に、クエストを受けてその報酬などで生計を立てている冒険者をしていた。 今も一応は冒険者だが、今はダンジョン探索にかかりっきりなので、冒険者を名乗るのは憚られるかも知れない。


 かなりレベルが上がって強くなった俺と【神眼】──ティオ=マーティ。

 こいつとは別の世界に住んでいたんだが、以外と気が合うって言うか接しやすかった。 だから『ゲヴァルティア帝国を出たら各自好きに生活する』と言う約束を果たした後も一緒に行動していた。


 【不死身】と【聖者】はその強力なスキルを買われてミレナリア王国の騎士団に入団し、【魔剣】は露店で魔剣を売ったりしていると噂で聞いた。

 後の一人、【城塞】に関しては全く話を聞かないのでどこかで野垂れ死んでいるのかも知れない。あいつはできる女のような雰囲気を漂わせているが、どこか抜けているのを俺達、逃亡者は知っているからな。


 それは兎も角、暫くダンジョンでレベル上げをしている内に俺とティオ=マーティでいつの間にか、一つの通路の先頭を攻略するまでになっていた。


 そうして()に頼り、何の情報もないダンジョンを二人で探索しておると、いきなり変化が訪れた。


 明らかに場違いな化け物が現れてやがった。

 俺がそいつに攻撃され、意識を失う前に見たそいつは顔が異常に白かったが、それ以外は人間と同じ姿をしていた。


 目を覚まし、その後は弱気になっていると年下のクソガキに根性を入れられ、その勢いのまま場違いな化け物の手先? との戦いが始まった。


 俺はそこで大体()づいていた。 真っ白な肌で蝙蝠を使役する人型の生物は吸血鬼しかいない。


 吸血鬼は人間と遜色ない知能と、その優れた身体能力など持っているのに人間を嫌っている厄介な存在だ。

 そんな奴らの弱点は、日光や銀…ミスリルなどの、とある教会が神聖視する物だ。



 恐らくこの吸血鬼は、蝙蝠の大群を相手にして疲労している俺達に自分が楽に止めを刺す為に、こうして小賢しい手下をけしかけているのだろう。


 まぁ、だがそんな浅知恵はあそこで俺と同じように武器に魔力を纏わせて、あのロマン武器──蛇腹剣を伸ばしたり縮めたり、見事に使いこなして蝙蝠をズバズバ斬り裂いている男のせいで無意味になるだろうな。


 と、若干の哀れみを抱きながら俺はもうそろそろ姿を現す事になるであろう吸血鬼を待ちながら蝙蝠を捌いていた。



「……なんなんだお前達は」


 数分後、予想通り姿を現した吸血鬼に驚きもせず近くにいる最後の蝙蝠を斬り捨てながら視線を移す。


「なぜ余の下部達を相手にして息切れ一つしていない? ……それになんなのだ。そこの者が手にしている奇怪な伸縮する剣は……?」

「こいつが吸血鬼とか言うやつか」


 蛇腹剣を手にしている男は吸血鬼の疑問を無視して、初めて見る吸血鬼を興味深そうにじっくり観察している。


「如何にも。余は吸血鬼だ。 貴様ら下等生物共は大人しく恐れ戦きひれ伏して、余の糧となれ」

「糧……?」

「クドウ。 吸血鬼は人間や亜人の血を食糧にしているんだ。 あいつは抵抗せず血を吸い尽くさせろと言っているんだ」

「なるほど」

「うむ。 ……だが、貴様は今知っても今から死ぬのだから意味はないがな」


 クドウと呼ばれた蛇腹剣の男は、頷いてそのまま無警戒に吸血鬼へと歩いていく。


「クドウさん! 危ないよ!」


 黒髪黒目のぺったん娘がそう叫ぶが、クドウは振り向きもせずただ歩き続ける。


「なんのつもりだ? 下等生物よ」

「血を吸い尽くすされると死んでしまうだろうからな。 だからお前を先に殺そうと思っただけだ」


 そう言ってクドウが吸血鬼から少し離れたところで立ち止まり、腕を─蛇腹剣を振るった。


「なにを──」


 その行動が咄嗟に理解出来なかった吸血鬼がそう言うが、それ以上言葉は続かず吸血鬼の頭は斜め下から斜め上へ切断され、吸血鬼の体が後ろに倒れていった。


 ……呆気ない。 あまりにも呆気なさすぎる。

 俺が気を失うほどの強さを誇る吸血鬼をこんないとも容易く殺してしまうなんて……



 そんな、何とも言えない気分に浸っていると──


「不意討ちとはやってくれるな。 はぁ……これだから下等生物は……」


 顔の辺りから白い煙を吹き出しながら何もなかったかのように吸血鬼は立ち上がった。

 そして白い煙が収まるとそこには元に再生した吸血鬼の頭部があった。


「【再生】持ちだったか」

「如何にも。 故に絶対に余を殺し切るのは不可能だ。 さぁ諦めて──」

「不可能? 魔力が切れたら【再生】は発動できなくなるだろ」

「なぁっ!? き、貴様……なぜそれを知っていぃぃっ!?」


 吸血鬼が言い切る前に蛇腹剣で攻撃を始めるクドウ。 それに続いてクドウの仲間からも援護が入る。

 ……そしていつの間にか他の剣士達が前に出て、クドウは後ろから蛇腹剣で攻撃したり、魔法で援護したりしていた。 後もう一人、クドウと同じ感じの立ち回りで奇妙なスキルを使っている少女もいる。


「みんな、【再生】のスキルは致命傷を負うと勝手に発動する。 だから何も考えず攻撃し続けろ」

「分かったわ!」

「だからっ……! なぁ……ぜ! 貴様はそこ……ぉ!? ……まで知っているのだ!?」


 四人の剣士達の猛攻に、二人の魔法使いの攻撃魔法に、よく分からない二人の援護。

 そんな厄介な、あの布陣を吸血鬼は打破できずに、ただただ凌ぐだけの防戦一方になっていた。


 そして同時に割り込む隙がない俺とティオ=マーティはただその戦闘を眺める事しかなかった。

 思えばクドウが吸血鬼に向かって悠然と歩き出した時から俺達は蚊帳の外だったのだろうな。


「教えない。 だってお前、今から死ぬんだから知る意味ないだろ?」

「き、貴様! この余を愚弄するのかっ!」

「そこ!」

「くっ……!?」


 カッとなって言い返した吸血鬼にできた隙を金髪の女騎士と言った風貌の女が突く。 見事に隙を突かれた吸血鬼は一気に体勢を崩して瞬く間に攻撃を防ぐ事すらできない程に連撃を加えられていった。


「あああぁぁぁぁ! 人間風情が調子に乗るなぁぁぁぁぁあああ!」

「下がるわよ!」


 発狂し、体中から黒い煙を噴出し始めた吸血鬼から距離を取るように促す赤髪の女。

 その判断は正しかった。


 その黒い煙に触れたダンジョンの壁や床、天井などは灰色の石へと形を変えたからだ。

 闇魔法の一つである【石化】だ。

 石化は、呪いの一種とされていて、解呪するには『エリクサー』と言う高級な薬を使用するか、とある教会にお布施を施して、教会が秘匿している特殊な聖魔法で解呪して貰うしかない。


「おのれ人間共ぉぉ……皆殺しにしてやる……絶対にだっ!」

「…………」

「まずは余を舐め腐っている貴様からだっ!」


 吸血鬼は自身の体を、石化の黒い煙に変化させて目にも止まらない速さでクドウに接近し、そのまま通り過ぎた。


「ふん。 あんなに余裕ぶっていた人間でも──」

「残念だったな。 俺には効いてないぞ」

「んなっ!? なな、なぜだ!?」

「教えない。 だってお前、今から死ぬ──」

「しつこいわ! くたばれぇ! 人間っ!」


 吸血鬼は実体のある体に戻って両手を翳してそこに魔力を集束させていく。

 その集束された魔力は、恐らくここに居る全員をあっという間に呑み込んでしまうだろう。


「これで終わらせてやる!」

「この程度なら……クルト、迎え撃ってみてくれ」

「え、あ、はい。 分かりました」

「貴様ぁっ……! まだ余を舐めているのか……っ! 良かろう、ならば貴様の仲間と共に消し炭になれっ!」


 そう言って十分に魔力を集束した吸血鬼は、その魔力を闇の魔力に変質させて闇魔法を放つ。 俺の知っている限り見たことのない魔法だ。


「そうはさせません!」


 そう言って大して集束もされず光の魔力に変質された、クルトと呼ばれる男の光魔法と吸血鬼の闇魔法が衝突する。


 衝突したのだ。 集束の甘い光魔法が押し負けるのではなく衝突しているのだ。拮抗しているのだ。

 集束の甘い魔法なのにも関わらず、明らかに上級魔法に匹敵する魔法とだ。


 一体なんなんだ。 この人達は……


 

 光魔法は闇魔法をその影すらも残さず呑み込んで、そしてそのまま──吸血鬼の断末魔までもを呑み込んだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 クルトの魔法で塵も残さず、まさに無に還った吸血鬼のいた場所を眺める。

 吸血鬼は死んだら灰になるらしいが、それを確認する事も叶わなかった。

 ちなみにその灰──吸血鬼の遺灰と呼ばれる灰は錬金術に使われたり、呪いを込めた薬などの作成によく使われているらしい。 ……そして、そんな用途がろくでもない危険物を所持するのは法律で禁止されている。



 あいつの持っていたスキル──【呪いの歩み】が気になったのであいつが使う気になれるよう、わざと時間をかけて甚振ってみたが、結局吸血鬼が見せたそのスキルは 、体を煙に変化させてそれに触れた生物を石化させると言うつまらないスキルだったので、特に欲しくもなかったし、いくら【悪食】があろうとも、ザリッセン程度のステータスしか持たない灰をわざわざ噎せてまで喰う気にはならなかった。


 ……まぁ、そもそも吸血鬼の遺灰の所持は法律で禁止されているので、人の目があるここでは収集する事すら出来ないわけだけど。





「よし、じゃあレベル上げ再開するぞ」

「ちょっと待てクドウ。 ……吸血鬼と言うのは大昔に絶滅した生き物なんだ。それがこうしてまだ生存していたなんて──」

「あぁ……ギルドに報告しないといけないのか……」

「そう言う事になるな」


 と言うわけで俺達は第一発見者である、自分を【冒険王】と言うおっさんと、左目が金色に光る男も連れて地上へゲートを使って転移して、ギルドに吸血鬼の事を報告した。

 すると、すぐにギルドマスターのルイスがやってきて、執務室へ案内された。 机に積み上げられている書類はこの間来たときより増えているように思える。 魔物の大襲撃があったばかりだしな。 それ関連の書類が増えているのだろう。



「……んで、今度は吸血鬼だって?」

「あぁ」

「遺灰はあるのか?」

「塵も残さず消し飛んだ」

「……なら俺達では対処が難しいな。 ……一応話を聞かせてくれ」


 そう言って頭を抱えるルイスから詳しい事情を問いただされた。


「……やはり遺灰がないから真実だと判断が出来ないな。 ……この件を公表する事はできないが、職員には警戒するように伝えておく」

「分かった。 済まねぇなルイスさん。 ただでさえ多忙なあんたの仕事を増やすようで」

「いや、別にいいさ。 これが俺の仕事だしな」


 なにやら【冒険王】のおっさんとルイスは仲が良さそうだな。




 その後冒険者ギルドから出た俺達は、時間も中途半端で今からダンジョンに潜っても大して何も出来ないだろうと言う事でまだ明るいが解散する事にした。 幸い学校は休みで時間はたっぷりあるしな。



 さて、じゃあ俺は精神世界を扱う練習をしよう。

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