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第198話 自分で二つ名を名乗る痛い奴

「誰か来ますわ」


 エリーゼがそう言って警戒を促す。

 それにあわせて他の皆も武器を構える。


 ダンジョン内での冒険者同士の略奪などはよく聞く話だからだ。

 人の目と言う監視の目が少なくなり、みんな自分の事で手一杯になるダンジョンはそう言った犯罪行為などにもってこいなのだ。


「ま、待ってくれ! 僕達は略奪者なんかじゃない!」


 血塗れの男を背負った左目が金色から、右目と同じ青色に変色していく男がそう叫ぶ。


 ……怪しすぎるだろ。


 実際手負いを装って背後から殺害…なんて犯行も度々話に聞くし、今回のこいつも同じような感じなのではないだろうか。


「お願いだ! 助けてくれ! 仲間が重傷を負っているんだ!」

「まずは武器を全て地面に捨てろ」


 そう言う男にマーガレットが剣を構えながら言う。


「!? わ、わかった……わかったから助けてくれよ……!?」


 相手はこちらが略奪者だと思い始めたのか若干命乞いのように怯えた感じでそう言いながら自分と血塗れの男が腰にさげている剣や、隠し持っている暗器などを地面を滑らせてこちらに渡してきた。


「……ポケットに忍ばせているそれもだ」


 俺はポケットに残っている暗器を指摘する。【透視】で分かったものだ。


「……いや……! ……いや……分かった……」


 渋々と言った様子でポケットから取り出して地面を滑らせる。


「……クドウ。 あれで全てか?」

「あぁ」

「分かった。 ……なら、なぜそうなったか話を聞かせてくれないか?」


 男がクルトの治療を受けている血塗れの男を心配そうに語った。


「見れば分かると思うけど、僕とこいつでダンジョン探索をしていたんだ。 そしたら周りのコボルトキングとかとは、全く格が違う異常な強さの何かがいきなり現れて、そいつに攻撃されて大怪我を負ったこいつを抱えて必死に逃げていたところ、君達に出会ったんだ」

「そうだったんですね……てっきり手負いを装った略奪者かと思いましたよ。 ……しかし、何かですか。 姿は把握出来てないんですよね?」

「……いきなりの襲撃に驚いてそれどころじゃなかったからね。 脇目も振らず逃げてきたよ」




 しかし惜しいな。 こいつらがもし本当にここまで辿り着ける程の略奪者なら、心置きなく殺して喰ってたのになぁ……勿論フレイア達が見ていないところで。


「……く……っ……ぅぅ……」


 そんな時、血塗れの男が身動ぎをした。そしてゆっくりと目を開けた。


「……うっ……こ、ここは……?」


 瞳だけを動かして状況を確認する血塗れの男。

 ……そう言えばこいつの外套には見覚えがあるな。


「……っ! そうだ! あいつは!?」

「大丈夫だよ。 ダンジョン内に変わりはないけど、それでも結構逃げてきたから」

「そうか……ならよかった……」


 勢い良く起き上がった血塗れの男は、先程左目が発光していた男に掴みかかったが、動じる事なく宥める男に安心したのか、痛む傷痕を押さえながらホッとしている。


「ん? ……あぁ、そうか。あんた達が俺らを助けてくれたのか。 ありがとう助かった」


 そう頭を下げる血塗れの男はチラリとフレイアを見た。特に邪念は感じられなかったので放置だ。 それにしても大丈夫か? お腹周りは勿論、首周りも結構傷が酷かった筈だけど。そのせいか、顔中が血塗れでどんな顔なのかよく分からない。血が乾いて黒ずんでいるのも尚更分からなくしている原因だろう。



 ……そんな事より、こいつらは逃げ切れていない。

 クルトの治癒を眺めるのも暇なので【探知】を使っていたが、血塗れの男が目覚めた辺りでこいつらが来た方向から何かが来ている。 

 人の形を象ってはいるが、それは無数の小さな生物の集合体が集まってそう見えている。


「気を付けろ。 何か来てる」


 そう忠告をして一応だが、蛇腹剣を手に取っておく。


「……ははっ……俺の勘がさっきのあいつだと告げてらぁ……こりゃぁマジで終わったなぁ……あんたらもさっさと逃げな」

「…諦めてんじゃねぇぞおっさん!」


 完全に諦めている血塗れ男の頭を思い切りひっぱたくラモン。


「いってぇぇぇぇええ! 怪我人になにしやがんだ!」

「…死んじまったらそんなのよりもいてぇんだよ! 諦めて死ぬ覚悟決めてた癖にこの程度で文句言ってんじゃねぇ!」

「……くっ……」

「…悔しかったら諦めんの止めてから文句言え!」


 やたら挑発的なラモン。

 多分あいつなりの励ましなんだろう。


「はんっ! いい度胸だクソガキぃ! この【冒険王】様の戦い方みせてやらぁ! それと俺はおっさんじゃねぇ! まだ24だ!」

「あ、ちょっと! まだ治ってないですよ!?」

「冒険者たる者このぐらいでへばってられねぇよ! おらガキ共ぉ! ついてこい!」


 こっちへ向かって来ている無数の何かに向かって、普通の剣を構えて走っていく、自らを【冒険王】と名乗る血塗れのおっさん。


 さっきまで重傷を負っていたのにも関わらずあんなに元気が良いからか、それとも良い歳したおっさんが自分で自分の二つ名を名乗ったからか、どちらかは分からないが、一瞬呆気に取られていた俺達はすぐにおっさんについていく。



 やがて俺達が出たのは無駄に障害物があり、戦い辛いだろう場所だ。


 氷柱のように沢山下向きに伸びているダンジョンの天井に、規模が異なる地面の凹凸。 そのおうとつは、爪先が引っ掛かるくらいの小さなものもあれば、結構な範囲が大きくへこんだものまで様々だ。


「最悪な地形だが、俺には関係ねぇんだよな」


 おっさんがそう言う。


 俺達の接近を察知したのか、無数の何かはここら一帯に散らばって俺達を取り囲んでいる。



「キー!キー!」


 何かが甲高い耳障りな鳴き声でやってきた。

 そこにいたのは蝙蝠の群れだった。


 最悪だ。 ただでさえ蛇腹剣の扱いに四苦八苦していると言うのに更に攻撃が当て難い蝙蝠が相手なんて。


 周りを見ると、普通の一般的な剣を使うフレイア、マーガレット、ラモン、アデルは次々と蝙蝠を斬り裂いていっている。

 魔法を使うエリーゼ、クルトは味方に魔法をあてないように、それで蝙蝠から逃げながら攻撃している。


 その他のラウラは、多彩な植物で蝙蝠を的確に処理している。


 対する俺は蝙蝠の群れに囲まれながら一生懸命に、蛇腹剣を振るっていた。

 蝙蝠達も、動きが読めないのか迂闊に攻撃してこないので完全に膠着状態だ。


 もう面倒臭いからいつも通り素手で戦おうかなと思ったが、なぜか意地でも蛇腹剣で戦いたくなってきていた。


 なので解決策を考えるが、特に何も思い浮かばない。


「キー!キー!」「キー!キー!キー!」「キー!」「キー!キー!」


 すごく耳障りだ。 腹が立ってきた。

 落ち着け……焦っては何も手に付かないからな。 こう言う場合は周りを見てヒントを得るんだ。


 俺を取り囲む黒い蝙蝠の群れから僅かに見える周りの景色。

 そこでは自らを【冒険王】と名乗る痛いおっさんが、ごく普通の一般的な剣で蝙蝠と戦っていた。


 え? あの普通の剣でこの階層で生き残っていたのか? ……まぁさっきは死にかけてたけど。


 あの程度じゃ雑魚に成り下がったとは言え、コボルトキングの肉すら裂くのは難しいと思うんだが……


 ……あ? よく見れば剣から魔力が……?


 いや、剣からと言うよりあいつの掌から魔力が出ている。 ……つまりあいつの掌から漏れ出る魔力が普通の剣を覆っているのだ。


 …………なるほど。 無魔法の身体強化の要領で剣を強化しているのか。

 …………ふむ。あれなら蛇腹剣の剣状態でも普通に戦えそうだ。


 俺は早速おっさんの真似をして掌から魔力を放出し、蛇腹剣を覆う。


 そして試しに蝙蝠を斬り付けると、今までと違い、普通の剣のように斬り裂けた。

 今までは蛇腹剣の構造上、何をするにも芯がしっかりしていなかったので、斬り付けると少し撓っていて強度も攻撃力もクソだったが、これでやっとまともに使えるようになったな。


 ならば……

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