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第197話 精神世界初心者

 帰宅後、大量に出された課題を今日中に終わらせてやろうと、思考加速を使いながら机と向かい合っていると、クロカが服の裾を引っ張ってきた。


「アキよ、我はまた黒○げ危機一髪がやりたいのだ」

「今課題してるんだけど」

「そんなのいつだってできるであろう! 我は今やりたいのだ!」

「それこそいつでもできるだろ」

「ぐっ……! ならば我は一人で小娘の部屋へ行くのだ」


 部屋を出ていったクロカを尻目に俺は課題を進める。シロカは仕事があるらしいのでここには居ない。


 ……久し振りに部屋で一人で寛げる環境ができた。

 いつもは常にと言っても良いほどにクロカかシロカが居るのでそう感じる。





 大量にある課題を終わらせたが、暇になってしまった。 こうなるぐらいならクロカの提案に乗っておけばよかったか? と思ってしまう。


 俺はもう少し余裕を持って行動した方が良いのかも知れない。



 ……そうだ。 精神世界に遊びに行こう。


 と思い立った俺は、意識を自分の内側へ向けた。




 一面真っ白の世界で唯一普通の色がある、俺とシュウと邪神。


「やぁ。久し振りだね秋君」

「おう。暇だから遊びに来たぞ」

「それで、どうだった? 家族との再会は? 僕なりのお詫びのつもりだったんだけど」


 なるほど。 やっぱりあれはシュウが仕込んだ事だったようだ。


「……と言うかどこまでがお前がやった事なんだ?」


 大体は予想がついているが、一応聞いておく。


「全部だよ。 強盗の事も、トラックも、飛び出した子供も──全部僕が送り込んだ天使さ」

「……そうか。 ……やっぱりお前は気に食わないな」


 予想は殆ど的中していたが、それはそれで腹が立つ。

 だって、それって最初からこいつの掌の上で踊らされていたと言う事なんだからな。

 俺はそれが気に食わなかった。


 だが、無理矢理思考を切り替えて前々から気になっていた事を尋ねる。


「なぁ、殺して喰った生前の再現──蘇生ができると言う話だったが、どうやってするんだ?」


 ちなみにここには邪神も居るが、地面に胡座をかいて座り込んでいるだけで全く会話には入ってこない。


「うーん……この世界に来るときや去るときに、意識を外側や内側に向けるでしょ? その要領で、この精神世界でするように生物を外に創り出すような感じだね」

「……よく分からないな」

「うん。 だろうね。 僕も大体は感覚でやってたから説明するのは難しいんだよ。 ……まぁ、精神世界と現実世界を出入りする感覚と、精神世界に来る前の現実世界の風景を記憶して、生物の完全再現に慣れるしかないね」

「なるほど。 面倒臭そうだな」


 らしいので俺は生物の完全再現に慣れる事にした。



 ……が、そこで俺の体が消えかかっているのに気が付いた。

 明らかな異常事態だが、なんとなく分かった。

 起こされているのだ。 恐らく夕飯だと呼びに来たクロカかシロカが俺を起こそうとしているのだろう。


「終わりか。 ……またな」

「うん。じゃあね」

「じゃあな」


 今日は初めて言葉を発した邪神に最後に視線をやってから俺は意識を外側に向ける。


 この感覚か……どこか掴み所がない物凄く朧気な感覚だ。


 机から顔を上げながら、夢のように徐々にボロボロと消えていくこの感覚を味わう。


 ……あぁ、これは本当に何度も体感して体で覚え、感覚を掴むしかなさそうだ。


 現実世界の風景を覚える意味は恐らく、完全蘇生させた生物の再誕生地点を決める為に必要なのだろうな。


 なるほどな。これは精神世界初心者じゃ難しいな。



「起きるのじゃ、アキ。 夕飯が出来ておるぞ」

「……ん……分かった。 今行く」


 よっこいしょと立ち上がり、寝起きのような足取りで俺はシロカに続いて夕飯を食べに向かう。

 体は完全に寝起きだが、意識は思い切り覚醒しているような……不思議な感覚だ。


 その後、夕飯の後に風呂などを澄ませてから暫く精神世界を出入りして、その感覚を記憶しようと奮闘していた。

 意識の急速な覚醒とその対極にある昏睡の、激しい移り変わりに精神が消耗していっていたからか、俺はあっという間に眠りについていた。





 翌日、地球の時間で11時頃に家を出て噴水広場に向かう。 どうせ集まるなら皆で昼食を摂ってからダンジョン攻略をしようと言う話になったからだ。


 ちなみにその店と言うのは『移ろい喫茶ミキ』だ。

 この間の繋がりで噴水広場に次ぐ、俺達の溜まり場のようになっている。


「このピザ、凄い美味しいね!」

「このパスタの美味しいですよ!」

「母さんは料理が上手いからな」

「それもあると思いますけど、本物のピザがある世界の人が作ったものですからね」


 アデルがピザを、ラウラがパスタを食べて言う。 それに対して俺は地味な母親自慢をかました。 クルトの言う事もよくよく考えればそうだ。人に伝えられて作られたたものと、実際の味を知ってる人間が作るものでは差が出るだろうからな。


 そんな感じで舌鼓を打ちながら平和に昼食をとった。 ちなみに俺は今日はオムライスではなく、ミートソースパスタを頼んだ。


 会計を済ませてそのまま冒険者ギルドに行った俺達は、ダンジョンが出現してから増えたダンジョン内で達成できる依頼を受けてからダンジョンに向かう。

 カイネフール洞窟の依頼には本格的に価値がなくなってきた。 哀れな、カイネフール洞窟。


 王都を出てティアネーの森の適当なところで昨日進んだところまで転移して、じっくりレベル上げをしながら進む。


 結構ダンジョンの深いところまで来たのだろう。 一本道のダンジョンの後半辺りに出てきた魔物がチラホラ見受けられるようになってきた。

 馬に人間の上半身が生えた魔物─ケンタウロスや、ボスとして現れた事もある、コボルトキングや、オークキングなどが普通に蔓延っている。


 そんなのが現れれば、じっくりレベル上げとか関係なく、ゆっくり進む事になってしまう。


 そんな風に燻るかのような速度で進んでいると、前方から二人の人間が近付いて来るのが見えた。

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