第195話 高望み
「あ、クドウさんじゃないですか!」
「おお。スカーラじゃないか」
そう言って少し言葉を交わすがスカーラはすぐに営業モードに入った。
「えっと……クドウさんは武器を買いに来たんですよね……どんな武器を?」
「特に決めてないんだけど、剣でオススメとかあるか?」
「それだったらいくつかオススメがあるので案内しますね」
そう言ってスカーラは、俺がゆっくり商品を眺められるぐらいの速度で歩き出した。
剣や弓などは当たり前のようにあるが、クロスボウ、カットラス、ヌンチャクやモーニングスター、チャクラムなどの特徴的な武器も多くあった。
と言っても今回はフレイアへのプレゼント選びなのでスルーだ。
……だが俺は蛇腹剣のような感じの面白そうな武器を手に取ってそれを手にしたままスカーラに案内される。
これはプレゼントではなく、ただ単に興味が湧いたから買うと言うだけだ。
「この辺りがオススメですね。 他のよりも高いですけどその分、品質は最高レベルです」
そこには緑がかった銀色の剣や、赤色の剣、紫色の剣など色とりどりで、形状も異なる剣など様々な剣があった。
「この緑っぽいのは何だ?」
「これはミスリルと言う鉱物から作られた剣ですね。 ミスリルの剣は軽くて切れ味も抜群と言った、素早さ重視の騎士や冒険者の人に好まれています」
どうやらこの緑がかった銀色の剣はミスリルと言う鉱物から作られた剣らしい。
スカーラに許可を得て持ってみたが、昼間に拾ったやたら品質が高い剣より確実に軽かった。 ……流石に商品を買わずに試し斬りは無理だったので切れ味は分からない。
その後もスカーラに質問して聞いたが、赤色の剣がヒヒイロカネと言う真っ赤な鉱物から作られた剣で、紫色の剣が、魔鉄と呼ばれる魔力が染み込んだ鉄で作られた剣らしい。
他にも薄い金色の剣がオリハルコンの剣、濃い紅色の剣がアダマンタイトの剣、などの色々な剣があった。
だが、俺はそんな剣を見てもそこにはいまいちピンとくる物がなかった。
……謝罪の誠意を表す品物にはとびきり品質の高いものを贈るべきだろう。
と、そこで誰かがやってきた。
「おー、お客さんかい。いらっしゃいませー」
「あ、店長」
スカーラが店長と呼んだのは、どこにでも居るような普通の男だった。
「……その様子を見るに、気に入ったものが無かったみたいだけど……うん、じゃあウチの店のとっておきの魔剣を見てみるかい?」
「……魔剣か。 見てみたい」
魔剣って言えばあれだよな。 マテウスが使っていた淡い紫色に発光してた奴だよな。
ちなみに魔鉄の剣に、とある特殊な器具で適当な効果を仕込んで出来たものが魔剣だ。
「いいんですか? 店長。 魔剣は売りたくないんじゃ……」
「実力が足りない人にはね。 だから実力が足りてるこの人はいいんだよ。 さ、こっちへ」
恐らくこの男がアルロだろうな。
今度は店長と呼ばれる男にスカーラと一緒に付いてき、そして店の奥にある倉庫へと案内された。
「この倉庫にある剣は全部魔剣だよ」
全部普通の剣のように見えるが、魔剣は魔力を注がないと発光しないし、効果を発揮しないので見た目はあてにならないから確かめるには魔力を流すしかない。
この間ラモンが見たと言っていた魔剣は、ショーウィンドウに飾られていた奴だろうが、それは継続的に魔力を注ぎ続ける魔道具により発光していたのだろう。
「とは言ってもどれがどんな効果を持っているかなんて、もう覚えてないから取り敢えず全部試してみてよ」
「分かった」
それから適当に魔力を注いでいく。
そこにあった魔剣は、火を纏うものがあったり、水を放ったり、自在に形を変えたりなど様々な効果を持つものがあった。
……と言うか自在に形を変える剣って……俺が今手に取っている購入予定の蛇腹剣の上位互換じゃないか
ちなみに魔剣は魔力を注いだだけでは紫色に発光するだけで効果を発揮しないので、魔法を使う時のように魔力を変質させる必要がある。 つまりマテウスはただ光らせていただけだ。
一通り魔剣の効果を試したが、だがそれでも納得できる物は無かった。 アルロやスカーラからすればとても厄介な客に映っているだろうな。
我ながらとても高望みが過ぎるとは思うが、気に入らないものは仕方ない。
「……流石クドウさん……戦闘関連には真剣ですね……!」
「うーん。 じゃあ自分で作ってみる? ……なんてね」
「あ、それいいな。 やってみたい」
「……え……冗談のつもりだったんだけど……まぁいいや……取り敢えず一緒にやってみようか」
自作か。 いいな。 自分で作った奴なら納得できる仕上がりになるかも知れないしな。
大分前に盗賊やテイネブリス教団から奪った【鍛冶】のスキルを活かす事も出来そうだ。
あ……だけど素材とかどうしようか。 手持ちで一番強いのはザリッセンの素材だ。 だが【閃裂】の固有能力が欲しいから使えない……
と、そこでアルロが声をあげた。
「よーし! こうなったら将来有望な冒険者さんの為に素材を奮発しよう! ……じゃあ、炎竜の素材だぁ!」
「またですか……店長……」
「それと魔剣にもしてしまおうか!」
唐突に頭のネジが外れてしまったアルロは、狂ったように悪のりに悪のりを重ねていく。
俺としては素材などが豪華になって困りはしないので何も言わない。
「ごめんなさいクドウさん。 店長は人に鍛冶を教える時に、いつもこのように悪のりしてしまうんです。 それのせいで今までいた弟子の人達も高級な素材で行われる練習に耐えられなくなって全員逃げていってしまったんですよ……」
「そ、そうなのか……」
愚痴のようにそう説明するスカーラに微妙な笑いを浮かべて答えた。
鍛冶場へ移動し、アルロに教えられながら作る。
服なら家庭科の授業で少し齧っていたが、鍛冶はやったことがなかったので助かった。
それにしても暑いってか熱いって言うか……兎に角、熱気が半端ない。
……鍛冶は大変だ。 こんなあつい中ずっと集中して手を動かし続けるなんて。 それをずっと続けていたアルロのなどの鍛冶師の熱意や忍耐力などはもっと世に知れ渡り称賛されるべきだと思う。
そんな感じで出来た炎竜の素材と魔鉄を使って出来た剣は赤い刀身が仄かに、本当に仄かに紫色に光っている。そしてその光は徐々に消えていった。
「おぉ、できましたね……」
「うん……初めての割には凄く出来がいいね。 じゃあ次はこれを魔剣にしないとね」
次にやってきたのは錬金術に関する薬草や本などがたくさん配置された部屋だ。
「凄い整った環境だな」
「これが揃うまで結構苦労したよ。 よしじゃあ、魔結晶をその剣と合成させようかー」
「分かった」
錬金台に両手を置き、錬金台に置いた炎竜の剣と魔結晶と呼ばれている良く分からないものに【錬金術】のスキルを使い合成をする。 錬金術の具体的な仕組みなどは何も分からないが、そこはスキルの補助があるので問題ない。
このスキルも環境が整っていない為に死にスキルかと思っていたが、使う機会が出来て良かった。
「僕がやろうと思ったんだけど、当たり前のように【錬金術】スキルも持ってるんだね……」
炎竜の剣と魔結晶は強い光を発し始めた。 そして錬金台の上を滑るように移動して重なり合った。
やがて光が収まると炎竜の剣の柄に空いた穴に、透き通った魔結晶が嵌まっていた。
「それじゃあ次は中身が空いてる魔結晶に効果を付けるだけだね。 どんな効果を付けるの?」
「そうだな……あいつは炎ってイメージがあるから火魔法だな」
「じゃあ魔結晶に触れながら魔力を流して」
俺は言われた通りに、透き通って透明な魔結晶に魔力を注ぐ。
「そのまま少しずつ火魔法を放つ時みたいに変質させて、魔結晶の色が変わったら完成だよ」
そのまま言われた通りにしていくと、魔結晶が少しずつ赤色になっていった。 そしてその赤色が光に変わったところで魔力を注ぐのをやめた。
するとその光は収まり、そこには太陽のように煌々と輝く赤色の魔結晶があった。
「完成したんですか? 店長」
「うん。完成だよ。 試しに使ってみてよ」
「分かった」
俺は炎竜の剣を構えて火の魔力に変質した魔力を流す。そうすると、炎竜の剣が炎を纏った。
おぉ、よかった。 ちゃんとできたみたいだ。
さっき倉庫で使った火の魔剣よりも火力が高い気がする。
「魔剣って言うのは魔力を注いだ人の魔攻で効果の高さが変わるからね。 つまり僕の魔攻より君の魔攻の方が高いって言う事だね」
魔攻で効果の高さが変わるって……ステータスに制限をかけててよかった……
「この魔剣いくらだ?」
「え? 君が作ったんだから無料じゃないの?」
「でも素材を提供したのはお前だ。 だから素材の代金だけでも払うぞ」
「いやいらないって。 僕が作ってみる? って提案して作らせたんだから取るに取れないよ」
頑なに無料にしようとするアルロ。
「クドウさん。 こういう時の店長は言い出したら聞かないですよ」
「……そうなのか。 あ、そうだ。 じゃあこれ買いたいんだけど」
と言って蛇腹剣を差し出した。 ちなみにこちらはしっかり会計をした。
結構な金額だったが、まだまだ財布に余裕はある。 昔は結構金に困っていたが、今はそんな事なく寧ろ余っているぐらいだ。 仕方ないだろう。この世界には娯楽などの類いがないのだから、使い道がないのだ。
俺は蛇腹剣と作った炎竜の剣をアイテムボックスにしまって、アルロ武器商店を後にした。




