第194話 浅はか過ぎた質問
今は『移ろい喫茶ミキ』でのボードゲームを終えてフレイアとオリヴィアと屋敷へ帰っている途中だ。
空は赤くなってきている。
そこで俺は気になっていた事を尋ねる事にした。
フレイアの父──オリヴィアの夫がどこにいるのか、後はフレイアに兄弟がいるのかどうかと言う事だ。
「なぁ、フレイア。 お前には兄弟とかいないのか?」
「いるわよ、兄と姉が。 ……でも、この国に逃げて来るまでに二人してどこかへ行っちゃったのよ」
「へぇ……じゃあお前の父さんもそんな感じなのか? 俺はまだ会った事ないんだけど」
「……お父様は……」
俯いて言い淀むフレイアは、それから淀んだ先の言葉を発する事はなかった。
そしてその代わりにオリヴィアが口を開いた。
「私の夫……フレイアの父は、ゲヴァルティア帝国に拐われて捕らわれた私達家族と使用人を解放する為に、その命をゲヴァルティア帝国に差し出して亡くなりました」
「…………そうだったんですね。 ……すみません……」
「あら……別にいいんですよ。 家族の為とは言え、肝心のその家族を置いて逝ったような人ですから」
明らかにオリヴィアは無理して取り繕っているような雰囲気だった。
そんなオリヴィアは言った後に空を仰ぎ、小さく「ごめんなさい」と呟いていた。
……そう、まさに悲劇だ。
自分達の祖国であり母国である、アイドラーク公国は滅び、自分達のせいで父は死に、兄と姉は失踪、そして今では父の命を奪ったゲヴァルティア帝国に狙われる始末。
こんなの流石に可哀想としか思えない。
……考えが足りなかった。 これなら先に陽吾おじさんに聞いておけばよかったかも知れない。
そんな後悔を胸に重い空気を作り出した……辛い記憶を思い出させた罪を背負いながら、俺は屋敷へと歩いた。
出迎えのメイドさん──リブさんとクロカとシロカに出迎えられた俺はいつも通りにそのまま自室へと戻る。
そしてベッドに飛び込みながら考える。
確実にさっきの話を切り出しておいていつも通りには接する事は出来ないだろう。
……オリヴィアは兎も角、フレイアはこう言うのを結構引き摺るタイプだと記憶しているし、どこかで謝って仲直りしないといけない。
そう言えばこの前フレイアが機嫌を損ねた時にネックレスを買ってあげたら機嫌を直していた。
今回もプレゼントをして謝れば許して貰えるだろうか。
……あまりこう言う……物で釣るような事はしたくないが、普通に謝るだけでは足りなさそうなので仕方ない。
そう考えた俺はアイテムボックスを開いて何かいいものが無いかを探す。
すると、大分前に買った衣服が見付かった。
これは俺が着せ替え人形のように玩具にされていた時のフレイアへの仕返しに買った衣服だ。
そう言えばまだプレゼントしてなかったな、と思いすぐにしまってから再びアイテムボックスを漁るが、特にプレゼントに相応しい物は無かった。
……仕方ないな……今から買いに行くか。
俺はベッドから起き上がって扉へ向かう。
「どこへ行くのだ? トイレか?」
「ちょっと出掛ける」
「遅くならぬようにのぅ~」
「おう」
クロカとシロカとそう会話してから屋敷を出る。
……さて、外に出たのはいいがどうしようか。
人に贈るプレゼントなど選んだ事のない俺は、何を買えばいいのか分からなかった。
じゃあ取り敢えず適当にフレイアが喜びそうな物を……って……そう言えばフレイアが何かを欲しがっているのはあまり見た事がない。
……本当に何を買えばいいんだろうか。
そこで俺は日頃のフレイアの言動を振り返って手掛かりを探す。
「……あっ! そうだ!」
そう言えば極最近……と言うより今日だ。 魔物群と戦っている時に剣を買い換えるべきかどうかを悩んでいたではないか。
手掛かりどころか答えに辿り着いてしまった俺は早速武器屋へ向かった。
せっかくだから、最近知った『アルロ武器商店』へ向かう事にした。
道中、道を尋ねながらながらやってきたアルロ武器商店は、とても広くところ狭しと剣や槍、弓や斧などの武器を売っていた。
ここは高級な武器屋なのかも知れない。
「いらっしゃいませー!」
そう声をかけてきた店員に視線をやる。
そこにはスカーラがいた。




