第193話 破茶滅茶な交流
【思考加速】を自力で発動し、加減ができるようになってからは頭痛の痛みも軽くなり、余裕を持って立ち回れるようになったのでフレイア達以外のサポートにも入るようにしてみた。
よくよく考えてみると12歳の冬音や8歳の春暁の前で人死になんて悪影響しか与えないものを見せるのはよくないだろうからな。
……この戦いにも飽きてきたのでさっさと終わらせたかったと言う理由もある。
「ふぅ……なんとか片付いたわね……」
「大変でしたわ……」
「…おぅ、あの量を俺達だけで相手してたら死ぬまではいかないまでも、誰か一人は大怪我を負うやつがいただろうからなぁ……あ、なんならアキが全部片付けてくれても良かったかも知れねぇな」
「おいこら、クドウに頼りすぎるのは……」
「…分かってる分かってる、冗談だって」
「ふむ。 ならいいが」
そんなほのぼのしたいつものようなやり取りを聞いていると、向こうからマテウスが歩いて来るのが見えた。
「お疲れ様。 えっと……名前は?」
「アキ」
ここには冒険者として来ているので、ギルドカードに登録されているBランク冒険者アキとして名乗る。
「アキか。 私はこの戦いで人間が勝てたのは君の働きが大きいと思っている。 恐らく君の手助けがなければ私達は確実に劣勢になっていただろう。 ……ありがとう」
マテウスは真面目な表情でそう言う。
さっきまでのバカ丸出しの言動からは想像がつかなかったので一瞬だけ呆気に取られてしまったが、最後の「ドロシーに僕の良いとこは見せられなかったけどね……」と言う呟きで、改めかけていた認識を改める必要がないと思った。
「別にいい。 あれはフレイア達のついでだからな」
「つ、ついでか……まぁ……そう言ってくれるとありがたい。 冒険者はがめつい人が多いから……『大金を寄越せ!』『~まで昇格させろ!』なんて言う人を嫌になる程見て来たから、君みたいな人は好きだよ」
あははと笑いながらマテウスがそう言うが、男に「好きだよ」なんて言われた俺は凄く気分が悪かった。 そう言う意味じゃないと分かっていてもゾッとする。
「マテウスさーん! ちょっと来てくださーい!」
遠くでドロシーがマテウスを呼んでいる。
マテウスが頬を緩めてドロシーのところへ向かっていくが、始まったのは説教だった。
ルイス、レイモンド、ライリーもそれを側で苦笑いしながら眺めている。そう言えばお前ら居たな。 忘れてた。
「あの方だけ労ってどうするんですか! 頑張ったのは他の人も同じなんですから……」
意気揚々と走っていったマテウスは、赤べこのように一定のリズムを刻んで頭を振っている。
恐らくと言うか確実に聞いていない。 しかもどことなく嬉しそうにも見える。
あいつはダメだ。 そんなマテウスとドロシーを見ていると、今度は母さん達がやってきた。
案の定母さんは飛び付いて来たので、黙って受け止めておく。
「秋ちゃあああああん! 心配したわよおおおお!」
「お前なら出来ると信じていたよ」
大声で喚く母さんと、平然と……本当に信じていたとしか思えないトーンで父さんが言う。
……あぁ……外で母さんに出会さないように気を付けようとは思っていたが、ここでこの状況では回避のしようがないだろう。 あぁ……恥ずかしい。
「そろそろ離れてくれ……」
「い~や~」
「カレンさん……周りの人も見てますから……」
「……むぅ……しょうがないわね……」
「助かった」
「別にいいわよ。 今までアキには散々助けられてるんだから、これぐらいは当然よ」
中々離れない母さんをフレイアが注意すると、なんと母さんはすんなり…とはいかないが、渋々と言った様子で離れてくれた。
なぜ息子である俺の言うことよりフレイアの言うことが優勢なのか分からないが、最初に出会った時のガールズトークのお陰だろうか。
「あの……ありがとう……お兄ちゃん……」
「ありがと兄ちゃん!」
「おう」
照れ臭そうに言う冬音と、心を許してくれたのか満面の笑みで言う春暁。
よかった。 ……状況を利用したに過ぎないが取り敢えずは、これで俺達の関係はとても良い方向に進んだのだろう。
「ん? クドウ、そちらの方々は……?」
「あぁ……そう言えば話してなかったか。 俺の家族だ」
「家族……ですの?」
「あれ……でもクドウさんって異世界人なんじゃなかったっけ……?」
困惑するのも無理はないだろう。 異世界人が転移、転生してくるのは稀にある事だとして、それがまさか家族揃って転移、転生しているとはまず考えないだろう。
これ以上無駄に困惑させない為に俺は事情を話した。 でも、シュウの事は話さずに本当に奇跡的に再会したと改変して伝えた。
まず神が居るなんて言っても信じ難いだろうし、俺達家族とシュウの関係を説明するのが面倒臭かったからだ。
「凄いですね……どれだけあるか分からない無数の世界の中で、それが家族全員揃って同じ世界に、それも同じ容姿でこんなすぐ近くに居るなんて……」
「そうですね凄すぎます……どんな確率ですか……それ」
改めて考えるとこれって途轍もない確率なんだろうな。
でもそれってこれを偶然だと説明されて、そう受け取っているからの話で、本当はシュウによる気遣いで起こされた必然なんだよな。
そう考えるとクルトとラウラの驚き様を見ていると申し訳なくなってくるな。
と、そこでラモンが声を上げた。
「…って信じられるかああああああああい!」
「確かに信じ難い話ですけども、これ以外説明のしようがありませんわよ」
「…だけどよぉ……なぁんか腑に落ちないってか違和感があるってかよぉ……」
勘のいいラモンは俺の嘘に違和感を覚えているが、エリーゼの言う通りそう納得するしかないのだ。
……その後はお互いに自己紹介をしあって一通りのコミュニケーションを交わした。
そして談笑も落ち着いたので帰ろうと言う事になったので王都へ入ろうとするが、城壁付近で国王アレクシスとオリヴィアが何かやり取りしていたのでそれに関係がありそうな俺はそれに混ざった。 結界を張る仕事もほっぽりだしてるしな。
「今回は何事もなく済んでよかったですけど、もし国王様の身に何かあれば─」
「済まない、オリヴィア殿。 しかし我が国を救ってくださった英雄の娘を危険に晒すような行為は死んでも許せなかったのでな」
「ですが……!」
「あの」
「「クドウ様(殿)とフレイア(殿)」!」
「ぶ、無事なんか!? 二人共、怪我してへんんか!?」
もしかしてこいつ……この国王……
「その口調……もしかして国王様は関西人なんですか?」
「え……? クドウ様は国王様の独特な訛りがわかるんですか?」
「おぉ!? なんやクドウ殿は日本人なんか!? ……ってそっちにおるんは季弥さんと夏蓮さんやんけ!」
……? 父さんと母さんと知り合いなのか?
「……あ! よう考えてみたら君、季弥さんと夏蓮さんと名字一緒やないか!? ……! え、親子なんか!? ……あ、じゃあそっちの無茶しよった子供らもかいな!?」
「こ、国王様……?」
一人ではしゃぐアレクシスに困惑するオリヴィア。 多分状況が理解できているのはアレクシスと父さん母さんだけじゃないだろうか。
取り敢えず分かったのがアレクシスは日本人なのだろうと言うことと、恐らく関西人だろうと言うことか。
「……父さん、これどういう事?」
「あー……実はね……」
父さんの話によると、この国王──アレクシスは日本人で、関東産まれ関東育ちだが親が関西弁を使うので関西弁を使うようになったらしい。
……と言うのはどうでもよくて、父さん母さんとアレクシスの関係などは、お忍びで王都を彷徨いていたアレクシスが、たまたま『ミキ』にアレクシスが来た事から始まったらしい。
……たまたまと言っても、日本語とこの世界の文字の二種類で書かれた『ミキ』と言う文字にアレクシスが釣られた形だ。
そこで興奮したアレクシスが父さんに詰めより、互いに日本人だと言う事を知り、仲良くなりそしてそこに母さんも加わって、そこから交流ができた。
その頃にはアレクシスが自分の立場を打ち明けたが、それでも父さん、母さん、アレクシスの交流は変わりなく続いた。
そして身内贔屓なアレクシスは、父さんと母さんの夢である『各地を転々とする喫茶店』と言う夢を叶えるべく、国王の権利を使って無理矢理、空き地を用意したりなどと、好き勝手やっていた。
……と、そんな滅茶苦茶な関係だったらしい。
……だがそれだけでは、この店が店ごとあっという間に出現する謎は解けない。 恐らく父さんか母さんのスキルなのだろうな。
……ちなみにアレクシスが冬音と春暁を知らなかったのは、今まで奇跡的なすれ違いを起こしていたので今の今まで二人が父さんと母さんの子供だと気付く事はなかったからだ。
「いやぁーほんまびっくりしたわぁ……まさか季弥さんとクドウ殿──秋君と無茶しよったあの子供ら──冬音ちゃんと春暁君が親子だったなんてなぁ」
「僕もびっくりだよ。 秋とアレクシス──陽吾が知り合いだったなんて」
会社の同僚と接するかのような親しい雰囲気で、今にも肩を組みそうな程の距離感の二人。
このままでは雑談が始まりそうだったので、俺は話を切り出す。
「あの国王様。 結界の事なんですけど」
「ん? あぁ、そう言えばそんなんもあったなぁ……それと秋君もアレクシスか陽吾って呼んでええで。 ……そっちのお友達さんらも気軽に呼んでな。 あのー……親戚のおっちゃんに接するみたいにな! あっはっはっはっは!!」
結界の事を忘れていた上に親戚おっちゃんの立場につこうとする陽吾おじさん。
この国王……色々大丈夫かよ……と言うのが素直な感想だった。 権力を振り翳したり、このフランクさと言うか適当さ。
『え……?』
見事にマーガレットもラモンも全員が目を真ん丸にして驚いている。
「お言葉ですが国王様。 私達の立場──」
「そう言うのええって。 俺がゆーてんねんからな? あ、でも流石に貴族の集まり……何て言ったっけな……まぁそう言う集まりではちゃんとした方がええで?」
「「「……は、はぁ……」」」
マーガレット、ラウラなどの貴族、商人の地位がある者が困惑したような諦めにも似た雰囲気でそう返事をした。
この国王はあらゆる面でダメだが、場を支配すると言う面では最強なのかも知れない。
混沌と化してきたこの場を去るために結界の話を再び持ち出すと、『じゃあ今からもう一度しよう!』と言う事になり、今は俺が要石に魔力を注いでいる。
本当になぜか父さん母さん、冬音、春暁、ラモン達もここに居る。
「これは……! 凄い……途轍もない魔力の流れです……!」
クルトがそう言う。
心なしか他のメンバーも要石に注目している。
「魔力の流れって言うのは、まだボクには分からないけど、とにかく綺麗だね……」
どうやら魔力の流れを観察しているのではなく、発光する要石に見とれていたようだ。
今回の結界を張る作業は邪魔が入ることなく安全に行えた。
そしてなぜかその後は『移ろい喫茶ミキ』でオリヴィアも陽吾おじさんも……全員で集まって、母さんお手製のボードゲームをして過ごした。
どうなってんだこれ……




