第190話 アビス
『……こうだったか? ……あー……おーい。 聞こえるか?』
念話を使ってアビスへと話しかける。
『-(--/(.9-9.3'(□ /(43/(?』
『……は?』
アビスが発した謎の言語に困惑する。
……そうか、冷静に考えればそうだよな。 例え念話で接する事ができても言語が違えば話にならないもんな。 肝心な事が頭から抜け落ちていた。
『.9-9-8--"3--.(?』
何だ? 何かを尋ねてきている?
『.9-9.3'(8 _(!_()(.(!?』
全く何を言っているのか分からないが、何かに驚いている様子だ。
『)97.(.9-9-8--"3--"(2(53)8-9…7--)8--/3(47(47~8)729』
何かを認識して受け入れるような仕草をしながら念話でそう伝えてくる。
……無駄だと思うが一応もう一度話しかけてみるか。
『おい、俺の言葉は分かるか? 分かるなら……咆哮をしてくれ』
『7_7? (()97.(□ .9-9"3--"9/3'(577,8-(8-9.(□』
一瞬疑問に思った様子だったが、すぐにハッとした様子になり、申し訳なさそうに小さく咆哮した。
『おぉ、通じるのか。 じゃあ俺が今使っている言語で話せるか?』
『5()8.(.9---(.(--,8/(55(.(? ……聞こえるか? 複製を殺した者』
おぉ……! なんて言っているか分かるぞ!
『複製ってのはアルヴィスの事でいいんだよな?』
『そうだ。 そして知っていると思うが私がアルヴィスの原型である、アビスだ』
『あぁ知っている。 ……ところでさっきの言語は何語だ?』
全く関係ない事だが気になったので仕方ない。
『う、うむ……? 私も何と言う言語なのかは知らないが、人間が普段使う通常言語の下に位置する言語だとは記憶されている』
『下?』
『私の知識は唐突に乱雑に詰め込まれたものだ。 なので知ってはいるが理解はできていないと言う意味不明な状態でな、だから申し訳ないが私からは下としか言えない』
……全く分からない。 まぁ、よく分かっていない奴に説明されて分かる筈がないよな。
それにしても、さっきまでの威圧感はどこに行ったのだろうか。
アビスの三つ目の発言辺りから威圧感が急激に薄れたような気がする。
『……で、私に話しかけたと言う事は何か用があるんだろう? まさか、私が使う言語を聞きたかっただけではないだろう?』
『あぁ、それは──』
俺がそう言いかけたところでマテウスが、アビスへと紫に発光する剣で斬りかかっていた。
ドロシーが叫んで止めているが、マテウスは聞き入れなかったようだ。
当たり前と言うか、アビスには全く傷が付いていない。 辛うじて一瞬切り傷のようになっただけだろうか。
まぁ、それもアビスの持つ【超再生】で幻覚だったかのようになくなっていた。
『待て』
全く傷を負わせられなかったマテウスは、一瞬で再生した傷に目を見開いていた。
そこにアビスが、尻尾のように生えている百足の胴体を向かわせたので止める。
『どうしたんだ?』
『そいつは結構お気に入りの人間なんだ。 しかも今は一応だが仲間と言う事になっているんでな、だから今お前がそいつを攻撃すれば俺はお前を敵と見なす事になる。 いいのか?』
そう。 俺はマテウスやドロシー、ネッドも多少は面白要素として見なしているのだ。
それを攻撃するならいくら他の面白要素と言えど敵と判断しないといけなくなる。
……勿論あんな奴らよりアビスのが面白いが、これからの関係などを考えるとマテウス達の方が優先するべきだとも思うからな。
『……それは困るから仕方ない。 それで、今なんと言いかけたんだ?』
アビスの攻撃に備えていたマテウスを風魔法でドロシーの元へ吹き飛ばし、俺は言いかけていた言葉を再び紡ぐ。
『このまま帰ってくれないか?』
『……分かった。 だが、なぜ私を殺さないんだ?』
『お前にはまだ成長の余地があるからだ』
未成熟な木の実より成熟した木の実の方が美味しいので、俺はアビスの成長を待つ。
……と言うか案外素直に受け入れるんだな。
『成長……? よく分からないが生かしておいてくれるのなら黙って従おう』
アビスはそう言ってさっさと穴へ戻り、来た道を辿って去っていった。
……そう言えばあいつがなぜここに来たのかを聞くのを忘れたな。
異種族同士の複雑に混ざった魔力の波長が目障りだったなどと言うわけではないのは、こうしてすんなり帰って行ったので明らかだ。
……ならなぜ来たのだろうか。
「か、帰って行ったのか……?」
「…正直安心したぜ……さっきまでは返り討ちにするつもりだったが、あいつは無理だったろうからな。 それでも最低限の抵抗はするつもりだったがよ」
「そうですね……俺達が見た、クドウさん以外の生物で一番強い、さっきの裂く魔物より遥かに強そうでしたから……」
恐る恐る穴を覗くマーガレットに、胸を撫で下ろしながらラモンとクルトが言葉を交わす。
「皆さん安心するのはまだ早いですわよ。 穴に呑み込まれなかった魔物がまだ居ますわ」
「そうでした! でも、さっきの魔物を見た後だと弱そうに見えちゃいますね……」
「見えるだけでどれも気を抜けばあっという間に強敵に変わるから油断はできないね」
エリーゼの注意を聞き、穴に近付いていたマーガレットもこっちへ戻ってきて、他のメンバーも素早く戦闘態勢に移った。
そんな中、フレイアがそっと耳打ちしてきた。
「あの魔物が帰っていったのってアキが何かしたからよね?」
「帰れとは言ったな。 あんなに素直に帰るとは思わなかったが」
「棒立ちであの魔物と見つめあってるから何かあると思ったけど、やっぱり何かしてたのね」
……アビスとのやり取りに夢中でそこまで気が回らなかった。 こう言う些細な仕草で嘘はバレるのだから気を付けないといけないと思っていたのに……
まだまだ言動を改める必要がありそうだ。
(なんだこのこえは。だれだ?)
(このにんげんか?)
(このけはいま!まさか!?)
(そうかこのにんげんがわたしのぶんしんであるあるヴぃすを)
(うむ?ああそうか。 このげんごではつうじないのか。)
(たしかこんなかんじだったか?) ……聞こえるか? 複製を殺した者。』




