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第187話 開戦の余興

「では、これより魔物の殲滅作戦を始める!」


 唐突にそう告げる大きな貝殻を吹くマテウスに慌てて武器を構える騎士、や冒険者達。


「マテウスさん。 いきなり言うから皆戸惑っていますよ」

「えぇ……? でも、そろそろ始めないと……」

「もう少し前置きを──」

「──っ! ドロシー! 危ない!」


 マテウスに向かって説教を始めるドロシーは、背後に転移し、鋭利な爪で突き刺そうと腰だめに構える魔物に気付かなかった。


 そんなドロシーを見たマテウスはドロシーを突き飛ばした。

 余裕を持たず咄嗟に行動したからか、マテウスは攻撃を防ぐ事も出来ず呆気なく貫かれてしまった。


 地面に手を付きながら自分を突き飛ばしたマテウスを睨もうとしたドロシーは、血を吐いて腹から鋭利な爪を生やすマテウスを見て、そこで初めて魔物の攻撃に気付いた。


 だが、ドロシーはそんな事は知ったことじゃないとばかりに、乱暴に爪が引き抜かれて地面を跳ねるマテウスに駆け寄る。


「一旦離れろ……! ドロシー……! 僕は不死身なんだから心配しないで……っ!」


 だが頑なに離れようとしないドロシーはそのままマテウスの治療を始めた。


 そんな二人を見下ろすのは、マテウスの腹を貫いた魔物だ。 当然、敵が回復するなど許す筈もなく再び鋭利な爪を振り上げる。


「ドロ、シー……! あ、ぶな、い……!」


 絶え絶えに言葉を紡ぐマテウスは、再びドロシーを突き飛ばす。 その力は最初にドロシーを突き飛ばした時よりも強く見えた。 寝転がっている状態じゃ、満足に人を突き飛ばすなんてできないからだろう。


 そしてマテウスは再び鋭く尖り、血が滴り落ちる爪に貫かれた。

 その魔物は、ドロシーに見せつけるように何度も何度もマテウスを突き刺した。


「ひっ……!」


 口から血を吹き出し、腹からも足からも突き刺された場所から血を吹き出すマテウスだが、一向に死ぬ様子はなかった。


 そんなショッキングな光景にハッとしたのか、突然の奇襲に呆然としていた騎士や冒険者が、動き始める。


「おっらあああああああ!」

「くそ野郎がぁぁぁああ!」


 だが、そんな直情的な攻撃は、いくら大した知能や知性を持たない魔物でさえ防ぐ事は容易だった。


 向かってくる人々を後ろに下がり一旦距離をとるのではなく、前に出ながら鎌鼬のような見えない速度の斬撃で切り裂き続ける。


 全体的にスマートだかシャープだかの鋭利なイメージが漂うその二足歩行の魔物は、殺戮の為に生まれてきたのかと思わせる程に好戦的で残虐だった。


「それ以上やらせるかよ……っ!」


 さっきまでマテウスと少し揉めていた大盾の男が前にでる。

 風を撫でるかのように長く鋭い爪を振るうその魔物は大盾へと我武者羅に爪を振るう。


「! んなっ! 地竜の素材で出来たこの盾を削っているだと!?」


 大盾の男は、ガリガリと言う嫌な音と共に木屑ように舞う大盾の屑を見て驚愕の声を上げる。





 独断専行で突っ込んできたたかが一匹の魔物など簡単に捌けるだろうと静観していた俺は、地竜の素材で出来た大盾が削られている、と言う言葉を聞き、認識を改めた。


 この世界での龍種、竜種は最強の生物と言う扱いになっている。 そんな最強である生物の素材で出来た大盾を傷付ける魔物なんて普通の奴じゃない。


 勿論龍種、竜種の中でも強弱はあるが、それでも他の生物の追随を許さないほど隔絶した差がある。


 俺はあの魔物の正体を知るために鑑定を発動させた。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

名前:ザリッセン

種族:ウィーゼル

Lv102

MP :23,103

物攻 :26,631

物防 :24,854

魔攻 :25,301

魔防 :22,930

敏捷 :26,762


固有能力

【閃裂】


能力

爪撃Lv9 縮地Lv4 歩法Lv2 転移 斬撃耐性Lv3 衝撃耐性Lv3 苦痛耐性Lv5 火耐性Lv2 麻痺耐性Lv3


魔法

風魔法Lv7

雷魔法Lv2

無魔法Lv4

聖魔法Lv4

時空間魔法Lv5


称号

名前持ち

__________________________



 名前持ちか。 しかもステータスの数値を見る限りクラエルよりも強いか同じかそれぐらいだ。

 クロカとシロカのステータスにすら追い付いていないフレイア達ではキツイだろうな。


 そう思い、俺が歩き出すといつの間にかドロシーに治療されていたマテウスが立ち上がっていた。


「時間稼ぎありがとう! 大盾の人!」

「俺はネッドだ! 頼んだぜ不死身の!」

「任せてくれ!」


 マテウスは刀身が薄く紫色に発光している剣を片手にザリッセンへと走っていった。


 その闘士の宿った目に気圧されたザリッセンは一瞬たじろぐものの、すぐに持ち直してマテウスの剣と爪をぶつけ合う。

 ザリッセンは空いている左腕を振るおうとするが、俺はその腕を掴んで攻撃を止める。


「! 助かった!」


 そう言うマテウスは、ザリッセンの爪を弾いて一気に懐へ潜り込む。


「さっきはよくもやってくれたな! お返しだ!」


 そう叫んでからザリッセンには劣るものの、大きな風切り音が発生する程の速さでザリッセンを何度も何度も斬りつける。


「チジャアアアアアアア!!」


 分厚い紙を裂く音を物凄く大きくしたような絶叫が響いた。

 すると突然、ザリッセンの素早さを求めた結果のような細い体から数本の刃のようなものが生えてきた。


 それは鞭のように撓り、一番近くに居たマテウスを斬りつけ、弾き飛ばす。

 マテウスよりその刃から距離があった俺はギリギリで躱して距離を取った。


 そしてザリッセンは徐にその刃を自分の体から引き抜いて自分の掌へと突き刺した。 新しい爪を増やすかのように。

 ザリッセンは、新しい爪の感覚を確かめるかのように新しい爪を動かしていた。

 これでさっきまで両手に三本ずつだった爪が、五本ずついて付いている事になる。


 腹部を深く切り裂かれたマテウスはそれでも死なず、相変わらずドロシーの聖魔法で回復していた。


「なんなんだ……あいつ……」

「マテウス。 あいつは任せてくれ。 お前は他の奴と一緒にあっちを頼む」


 このままでは不味いと思った俺は魔物群を指差してマテウスに指示する。


「いやしかし、こいつは恐ろしく強いぞ? 君に対処出来るのか?」

「この程度は散々殺してきたから大丈夫だ」


 この程度はあの遺跡では普通に居たからな。


「……本当か? 信じていいんだな?」

「任せろ」

「分かった。 こいつは君に任せよう。 死ぬなよ」


 マテウスはそう言って走っていった。

 後ろでマテウスが指示をしているのが聞こえる。


 ……フレイア達のサポートに入らないといけないし早く終わらせよう。



 俺は【威圧】スキルを使う。


 すると、ザリッセンは後退りするものの、俺が馬鹿にしたような笑み浮かべると「チジャアアア!!」と叫んでから、また爪を振り回し始める。


 俺がそれを避けつつ合間合間に反撃すると、ザリッセンは一度【転移】を使って飛び退いたので、俺も転移を使って追いかける。


 焦ったザリッセンは何度も【転移】で逃げるが、俺も追いかけて攻撃を加える。


 やがて、それが無駄だと悟ったザリッセンは意を決したかのように視線を鋭く、立ち振舞いも鋭く研ぎ澄まされたかのように変化した。


 大きく息を吸ったザリッセンは小さく構えてから、一気に俺の前に転移して腹を抉るように爪を付き出した。


 もちろん当たってやるわけもなく、余裕を持って左に避けたが、そこにはもう既に引き戻された右腕が俺を狙って付き出されていた。


 咄嗟の判断でジャンプして躱すが、次は左腕が付き出されていた。


 速い


 今までとはまるで違うザリッセンに驚いた俺は転移して距離を取るが、その先には既にザリッセンが待ち構えていた。 さっきまでとは真逆の構図だ。


 ……なるほど。 これが【閃裂】か。


 このまま避け続けていても劣勢になるだけだと思った俺は、その高い物防を活かして腕でその斬撃を受けた。


 こんな人前で【鋼鉄化】をする訳にもいかないので、こうしたのだ。


 ちなみに普段はステータスを制限して生活している。 理由は、ステータスが高いとそれに頼りっきりになって、物事を正しく学んだり体感できなくなるからだ。


 

 目的だった【閃裂】も見れたし、もうザリッセンには用がなくなった。


 なので俺はそのままもう片方の腕でザリッセンの顔面を殴りつけた。 ステータスの制限は無くなったが、それでもザリッセンを一撃で殺すのに必要最低限の力しか使わない。


 俺は素早くザリッセンをアイテムボックスにしまってから、ザリッセンに八つ裂きにされた騎士と冒険者の死体の山から一番高品質そうな剣を拾い、既に始まっている魔物と人間の衝突──正確にはフレイア達の居る場所へ走り出した。

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