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第186話 良好な関係へ?

「何かしら? ちょっと騒がしいわね」

「ちょっと見てくる」

「え? ちょっとアキ!? 待ちなさい、私も行くわ!」


 子供の声が気になった俺はその場を離れ、戦いの準備をしている人の間を進んで城壁の方へ向かって歩いていく。

 後ろからはフレイアも付いてきた。


「いきなりどうしたのよ…………って…………この声は……ま、まさか!? 急ぎましょう!」

「あ、おい!」


 後ろからは付いてきていたフレイアは走って俺を追い越してさっさと行ってしまった。


 俺もフレイアを追いかけて走る。


 人にぶつかりそうになるのをギリギリで避けながら走っていると、騒ぎの中心に近付いてきた。

 半円になって門の付近を囲っているようだ。外に出られては困る人物が居るのだろうか。


「お願いします。 私達にも戦わせてください!」

「おじちゃん! 僕も戦えるんだよ!」

「ダメだ。 いくら戦えると言っても子供にそんな事はさせられない」


 その半円の人混みを掻き分けて進むと、その先にはアレクシスと、小さな子供──冬音と春暁が居た。


「冬音、春暁」

「……あ、え、お、お兄ちゃん……」

「……ぅえ……? ……にいちゃん…」

「……もしかしてこの子はクドウ殿の弟殿なのか?」

「そうですね。 ……で、二人ともどうしたんだ? こんなところで」


 二人がなぜここに居るのか。 俺はそれを聞くために二人と目線を合わせる。 どっかで小さい子供と接する時は視線を合わせるといいと聞いたからだ。


 すると、二人は少し俯いた後にそのまま小さく喋りだした。


「…………ため……」

「ん?」

「僕達のお店を守るため!」


 そう叫んだ春暁から事情を詳しく話を聞くと、どうやら魔物の大襲撃があると聞き、それで『移ろい喫茶ミキ』が魔物に潰されるかも知れないと思った二人は、避難しようと父さんと母さんが慌ただしくしているのを見て、二人でここまで来て自分達で魔物を殲滅しようと思ったらしい。


「なるほどな。 二人にとってあの店が大事なのは分かるが、自分の命を賭けてまで守る必要があるのか?」

「…………ある」


 そう小さく言うのは春暁だ。


「どうして?」

「……あのお店は私達、家族の証。 だから……せめてお店の名前を変えるまでは絶対に捨てたり、潰れたりしたらダメなの!」


 良く分からないが物凄く大事なのだろう。 俺と話すのが嫌そうだった冬音と春暁がここまで言うんだからな。


 そこまで話したところで父さんと母さんが息を切らしてやってきた。


「冬音ちゃーん! 春暁ちゃーん!」

「あ、いた! 冬音! 春暁!」


 上から母さん、父さんだ。

 母さんはそのまま減速せずに二人へと飛びかかった。

 俺はともかく、二人にそれは流石に危ないので風魔法でクッションを作って阻止した。


「冬音、春暁……どうしてこんなところに……」

「「お店を守るため!」」


 そこからは概ね、俺が二人とした問答が繰り広げられた。

 ときどき俺はちらりと魔物群を見るが、ここに到達するまではまだ余裕がありそうだ。


 そして二人の話を聞いた母さんは真剣な……でも泣きそうで悲しそうな、悲痛な顔をして冬音と春暁に言う。


「二人とも、あのお店の事を思ってくれるのは嬉しいけど、お母さん達は二人に怪我はしてほしくないの。 だからもうこんな事はやめて」

「でも……!」

「ごめんなさい……」

「……っ!」


 でも、と言い返そうとする春暁は、素直に謝る冬音を見て口を噤む。


「冬音ちゃん、春暁ちゃん。 お願い。 これからはもう無茶な事はしようとしないって約束して」


 そう言う母さんは今にも泣き出しそうだ。

 そんな表情の母さんを見て、家族想いな二人が拒否できるわけは無かった。


「「はい……」」


 母さんは素直に約束をした二人を抱き締めた。

 二人の名前を呼びながら、二人の存在を五感全てを使って実感するように。


 その光景はこの世界で俺が最初に母さんと出会った時のようだった。


 ……そうか。 これは端から見ればこんなにも頬が緩むものだったのか。

 実際にフレイアも目を潤ませて頬を緩めている。


 ちなみに完全に空気と化している父さんは物凄く寂しそうだった。

 あれに混ざろうと手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込めを繰り返していた。





 それから暫くして、この周辺が魔物群の接近により騒がしくなる頃には母さんや冬音、春暁いつもの調子に戻っていた。


 冬音と春暁は母さんとああは約束したものの、それでも移ろい喫茶ミキが心配そうだった。


 ………………仕方ないか。 一日に二度も人を安心させられるように気を遣う事になるとは思わなかったな。


 まぁ、心配になって飛び出して来られても困るからな。 仕方ない。仕方ないのだ。


「…………心配するな冬音、春暁。 …………俺がお前らも、お前らの店も守ってやる」


 そう言いながら二人の頭を撫でる。


 ……人と言うのは不安な時に頭を撫でられると安心するものだ。

 だって俺も昔はよく母さんや父さんに頭を撫でられていたからよく知っている。そしてその時には凄く安心できたのを覚えている。


「…………っ! ……お……お兄ちゃん…………あ、ありがとう…………」

「…………へへっ……ありがとう…………にいちゃん」

「あぁ」



 それだけ言って俺はラモン達のところへ戻った。

 いや、凄いな。 こう言う複雑な状況は。


 だってあんなに俺を嫌っていた……と言うか苦手そうだった冬音と春暁が俺にお礼を言うまでになったんだからな。


「あら、アキ……嬉しそうね? やっぱり冬音ちゃんと春暁君と会話できて嬉しかったの?」

「あぁ。 嬉しいな」

「……ふふっ、そう。 よかったわね」


 フレイアがなぜだか自分の事のように喜んでいる。


 ……そう言えばフレイアにも兄弟がいるのだろうか? 今は魔物の大襲撃で忙しいし、今度聞いてみよう。

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