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第185話 問題ある奴ばっかり

 迫り来る魔物の大群に緊張感が増していくこの周辺。

 世話しなく自分武器何度も取り出し研いだり、地面に座り込んで精神統一している者もいる。



「…うぉぉ……緊張するぜ……」


 そう言うのはラモンだ。

 他にもマーガレット、ラウラ、エリーゼ、アデル、クルトのいつものメンバーが揃っている。


 さっき偶然遭遇したのだ。


「ラモンさん落ち着きなさいな。いざとなればクドウさんが守ってくれますわ」

「端からクドウ頼みは感心しないが、まぁ……エリーゼが言う事も分かるな」


 手が回らない事もあるんだから程々にしておいて欲しいな。



 一方、ラウラは植物を素早く展開できるように、騎士や冒険者から少し離れたところに種を蒔いている。

 そのラウラの頭には草の冠が、腕にも草が、首にも足にも……

 これらは全て武器として手軽に使う為なのだろうが、メルヘンと言うか……そこはかとなく変人のような雰囲気が漂っている。



「……怖い……いや、ダメだ。 こんなんじゃ。 ボクはもっと強くならないとダメなんだ」


 鞘から剣を抜いた状態でボソボソ一人で喋っているアデルは、自分の頬を叩いて気合いを入れていた。

 勇者としてこんな事では怯んでいられないから。


「……ふぅ。 うん! よぉし! ボクならいける! ダンジョンであんなに鍛えたんだ、こんな魔物の大群ぐらい簡単に退けられないとね!」


 そう自分に言い聞かせるように、その認識を押し込むようにパンパンと自分の頬を叩きながら言っている。



 賢者であるクルトは一人で落ち着いて集中している。


 クルトは強い。 強くなった。 最初に出会った頃の愚かな影は見られない。


 ……だが、問題があるとすれば、クルトにかかっている呪いだろう。

【魔法Lv成長不可の呪い】……俺にはこの呪いの解き方も分からなければ、解く為のアテも無い。

 つまり賢者の長所である魔法が弱い。


 これの裏付けとして、一つ例をあげると……それは連携だ。


 連携をとる言うのは片方が劣っていたり、優っていたらそれだけでアンバランスになってしまうものだ。 つまり連携をとるには同レベル同士と言う条件が付く。

 なら、とても努力した一般人程度のエリーゼと連携がとれている時点でクルトが賢者として劣っているのが分かるだろう。 腕が悪いわけではないが。

 

 これじゃあ魔王討伐には支障が出てしまうだろうな。

 魔王がどの程度の強さなのかは分からないが、勇者や賢者なんて大層なものを嗾けなければ対処出来ない程度には強いのだろう。

 ……だと言うのに勇者の『勇』が欠けている勇者に、賢者の『賢』が封じられている賢者。


 こんな様じゃあ魔王討伐なんて夢のまた夢だろう。


 ……まぁいいか。


 勇者と賢者と魔王で思い出したが『魔王』とは、魔族や魔人の王だから『魔王』と呼ばれたり、魔物を束ねる王だから『魔王』と呼ばれたり、魔物を束ねる魔物の王だから『魔王』と呼ばれたり……と様々な魔王がいる。


 一般的にどんな形であれ『魔王』と呼ばれるものは勇者と賢者の敵として扱われている。

 なので『魔物使い』と呼ばれる者や『精霊使い』と呼ばれる者だったり『召喚術師』と呼ばれる者などの、人間以外の生物を使役する者達は『魔王』になる可能性があるとして、忌み嫌われているらしい。 場所によっては即処刑もあるとか。


 ……まぁどうでもいい話だが。







 さて、そんなこんなしている内に魔物の大群は大分近付いてきた。 そこで、一人の男が魔物の大群に背を向けて……俺達の前に立った。


 恐らく第一騎士団の団長であろう金髪の美男子だ。


 その姿を見た誰かが、あっ! と言う驚いたような声をあげているのがところどころから聞こえる。

 有名な人なのか?


「諸君! ここに集められた理由もう察しているだろうが、一応説明させて頂く。 ……たった今、この王都ソルスミードに魔物の大群が迫ってきている。 ……魔物の大群では長いので、そうだな……安直に魔物群としよう」


 演劇にように身振り手振りを使って話す金髪。


「そこで私、ミレナリア王国第一騎士団団長、不死身のマテウスが指揮をとらせてもらう事になった。 よろしく。 ……と言っても、私はこう言う事に疎いので簡単な事しか言えないがな! あっはっはっはー!」


 爽やかで凛々しいその優秀さを感じる雰囲気とは全く異なるバカ丸出しの最後の一言。 しかも自分で二つ名を名乗ってしまうと言う自信過剰っぷり。


 その一言で一気に周囲にざわめきが起こる。


「ふ、不死身の……」「マテウス……」「指揮ができないのにどうして……」


 等と震えが混ざったような声が聞こえてくる。

 この震え声は不安や怯えからか、それともマテウスの自信過剰っぷりへの嘲りか。


 ……何にせよあいつは頼れなさそうだから俺は俺で行動しよう。

 元々人の指図を受けるのが嫌いだったからこう言うバカが居てくれると周りに便乗できるから良いな。


「じゃあ作戦っぽい何かを伝える。 それは…………各自考えて行動しろ! それだけだ!」


 そう言い放ったマテウスは満足気な様子で、ふぅ…、と息を吐く。


 そこで、そんな様子マテウス頭をペシッと叩いたのは真っ白なローブを纏った女性だ。

 白いローブ言えばテイネブリス教団を思い出すが、施されている意匠が全く別物でどことなく神聖さを感じるものなので、違う宗教の人間なのだろう。


「マテウスさん、それは指揮と言いません。 ちゃんとして下さい」

「ぉぉ、聖者だ……」

「ドロシー様!」

「結婚してくれー!」


 真っ白いローブの女性──ドロシーと言うらしい、はその声を聞くと振り返って控えめに手を振った。


 すると、それだけで歓声があがった。

 と言うのも、ドロシーと言う人物は綺麗な人だ。 薄明るい色が沢山混ざった派手でカラフルな髪色だが、下品さは全くない。

 そして整った顔にはどこかの部族のような刺青のようなものが入っているが、それがさらに美しさを引き立てている。

 こんなおっかないギャルのような見た目で聖者とは程遠い見た目だが、やはり下品さはない。それどころか上品で違和感もないのだから凄い。


「えぇぇぇー……んー……ドロシーが言うなら仕方ないかぁ。 じゃあ……えぇっと……魔法使いや弓術師などの遠距離メインは王都を覆うこの城壁の上から攻撃。 剣士とかの近接メインは言わずもがな、前衛に出て戦って貰う。 ……どう? ドロシー。 僕にしては考えた方だと思うんだけど」

「とてもシンプルで誰でも思い付くようなものですが、まぁいいでしょう」


 なんだこの情けない生き物は。 この…マテウスのドロシーに依存しきっているかのような甘え方。 何があればこんなみっともなくなれるのか。

 しかも一人称は私から僕に変わってるし。


 本格的にダメだな。 こいつは。



「あぁ、で、攻撃開始の合図はこの貝殻の笛の音だ。 くれぐれも聞き逃さないように。 ……それでは遠距離担当は城壁の上へ。 近接担当はこのまま待機してくれ」


 思い出したかのように言うマテウス。


 あんな情けない姿を晒していたマテウスには疑念の籠った視線がチラホラ向けられているが、当のマテウスはドロシーに夢中で気付いていない。

 だが、ドロシーはその視線に気付いているようなので顔が引き攣っている。



「…さっきまであんな醜態を晒していた俺が言えた事じゃねぇと思うんだけど、あのマテウスとか言う奴大丈夫かよ?」


 そう呟くラモンに返事をする者はいなかった。 マーガレットもエリーゼも、誰もが気まずそうに顔を逸らすか苦笑いをするだけだ。



 と、そこで魔物群から炎の玉が飛んできた。 結構な威力のように見える。ギリギリ、一般家屋の半分を吹き飛ばせるぐらいの威力はありそうだ。


 この集団の先頭に居た自分の体を覆い隠すほどの大盾を構えたガタイの良い男が前に出るが、更にその男の前にマテウスが立ちはだかった。


「おいっ! バカ野郎! 何考えてんだっ!?」

「この程度私の体で十分だ!」


 大盾の男がマテウスに怒鳴りつけるが、マテウスは意に介さずその場を退こうとしない。


 やがてマテウスに着弾し爆発した炎球はあっという間にマテウスを飲み込み、黒い煙に覆われた。


「あの馬鹿マテウス……無闇に飛び出すなとあれ程言っておいたのに……」


 ドロシーが頭を抱えて呆れたように言う。

 だが、不思議とそれなりに親しい間柄であろうマテウスの心配はしていない。 マテウスに大した怪我はない事を確信しているのだろうか。


 あちゃーと言った表情で煙を見つめる大盾の男。

 ……ん……? あの男……


 大盾の印象で気付かなかったが、あの男、リィダとか言う奴が頭領だった闇組織の掃除に居た奴じゃないか。腕に刺さった刃物を投げ返した人だ。


 

 やがて煙が晴れると無傷とはいかないが、軽度の火傷を負っただけのマテウスが仁王立ちで現れた。


 流石だ。 不死身の二つ名は伊達じゃないようだ。

 ただ、これでダメ男じゃなかったら今ので格好よく見えていたんだろうか。


「おい、お前マテウス! 何で前にでた!」

「そんなの決まっているだろう? 大盾は集団戦おいて重要だから早々に失うわけにはいかないんだ。 ……もし今の一撃で罅でも入ったらそれだけでかなりの痛手だったぞ」

「確かにそうかも知れないが、俺の大盾はあの程度で罅が入る程柔じゃない! それにお前はドロシーさんの手間も考えろよ」


 マテウスの冷静な反論に一瞬たじろぐ大盾の男だが、それでも大盾使いとしての防御力を見くびられたのが許せないのか言い返す。


「手間……?」

「あ、あぁ、そうだ」

「ま、まさか……ど、ドロシー! き、君は僕の治療を手間だと思っているのかぁ!?」

「え? えぇ。 毎度毎度大怪我を負って来られるとさすがに鬱陶しいですかね……」

「そ、そうだったのか……」


 崩れ落ちて地面に両手を付くマテウスは、目を泳がせてボソボソと何かを言っている。 どうせ『そんな馬鹿な……!?』とか『ドロシー……!』とかそんな事だろうな。


 そうしている間にも魔物群からは雷や炎、風の塊などが飛んできているがマテウスは地面を這いながらそれらを全て自分の体で受けている。


 器用な事をするな、と思いながら見ていると後ろの城壁の方が騒がしくなった。


 それに、聞き覚えのある子供の声も聞こえてきた。

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