第184話 屋敷からの脱出
扉が開かれた事に反応したクロカとシロカと視線が交差する。
まぁ、クロカとシロカなら無理やり黙らせられるから問題はないだろう。
ただ、問題ないなのが……
「……お前ら何してんだよ」
「あ、アキぃ!? ち、違うのだ! こ、これは!」
「のじゃああああああああああ!!」
俺のベッドの上で大の字になってスノーエンジェルを作るが如くバタバタしていたクロカと、俺の掛け布団にくるまって幸せそうに頬を緩めていたシロカ。
「まぁいいか。 それより、今から着替えるからこっち見るなよ」
一瞬驚きはしたが、どうせ後で洗われるのだし、ペット──犬は飼い主の匂いが好きって聞いた事があるし別にいいかと思い直して言う。
クロカとシロカは犬ではないが、今のを見る限りあまり変わらないのだろう。
「あ、アキ……お、怒らないのか?」
「あぁ。 お前らがそれで幸福感に浸れるなら別にそれでいいしな」
「アキは優しいのだ」
「アキが優しいのじゃ……」
嬉しそうに言うクロカと、奇妙なものを見たかのように言うシロカ。
似たような字面でも、一部が変わり、言い方も変わるだけでこんなにも感じが変わってしまうのか。
複製制服に着替えた俺は【探知】を使って屋敷にいる人間の位置を把握する。
フレイアは部屋を出てこっそりと廊下を歩いている。 向かっている先は、多分俺の部屋だ。
「じゃあ行ってくる」
「うむ。 行ってらっしゃいなのだ」
「アキが何をするのか知らぬが、気を付けるのじゃぞ」
「あぁ。じゃあな」
そう言って部屋を出た俺は、使用人に出会さないように廊下を進んでフレイアの居る場所へ向かう。
と言ってもフレイアの部屋は隣なのですぐに出会えた。
「さて、どうしようか。 やっぱり警戒されて【認識阻害】は意味がないだろうし……」
「なら正面突破しかないわよ」
「だよな……」
と言う事で正面突破だ。
使用人にバレないように屈めていた体を起こしてフレイアと走り出す。
その途中、もちろん使用人には遭遇したがダンジョンでレベルを上げまくったフレイアには追い付けないだろう。
だんだんと、最初からこれで良かったかも知れないと思えてきた。
しかし、後ろに使用人を引き連れて屋敷を飛び出した俺とフレイアは、二人の門番による、二本の槍をクロスして道を塞ぐと言う行為に足を止めざるを得なかった。
前には門番、後ろには屋敷の使用人。
そんな状況に陥った俺はフレイアに耳打ちをされた。
「これ、どうするのよ……」
「正面突破だろ」
俺は声を潜めてそう返す。
「はぁ?」
「槍の間を通り抜けるんだよ。 下が一番開いてるからお前はそこをスライディングして行け」
「アキは……あぁ……そうだったわね。 なら大丈夫ね」
「あぁ。 ……よし行け!」
「えぇ!」
突然走り出したフレイアに困惑する門番は、フレイアへの対処が遅れた。
恐らく、ダンジョンで鍛えて以前より強かになっているフレイアを見くびっていたのだろう。
所詮お嬢様だから強引に突破したりしないだろう、と。
だから簡単に通り抜けられたのだ。
フレイアを目で追った門番に向かって俺も走り出す。 こんな隙を狙う意味などないだろうが、なんとなく狙って見たかったのだ。
ハッとした門番二人は槍のクロスに綻びを無くすように構え直すが、【威圧】スキルを使った俺に怯んで、再び綻びを生んでしまった。
すると槍が少し下げられた。 それにより出来た綻びは上だ。 これで結界に頭をぶつけずに飛び越えられる可能性が上がったと思った俺はジャンプして槍を飛び越える。
その時、見えないが上にあるであろう、結界に頭をぶつけないように身を竦める事も忘れない。
もしそれをしなければ、ガラスの扉にぶつかる間抜けな人のようになってしまっていただろう。
無事に正面突破を成し遂げた俺とフレイアは、背中に門番や使用人の声を受けながら王都の外へ向かって走り出した。
「す、すごいわね……」
俺が使う【認識阻害】の効果を受けながら、冒険者と騎士の入り交じった最前線に立つフレイアは言う。
冒険者もこれだけ徴集されているのなら、あいつらもこの中にいたりするんだろうか。
あ、ルイスも居るし、マーガレットの父親─レイモンド居る。確か第三騎士団長だったな。 …………あぁ、第二騎士団の団長兼、体育教師のライリーも居るな。 その三人の側には爽やかさと凛々しさを兼ねた金髪の美男子がいる。多分第一騎士団の団長だろうか。
「上から見たらもっと凄いんだよな。 あれ」
「……なんで知ってる風なのよ……」
「……知ってる…ってか考えれば分かるだろ……?」
「まぁ……そうね……」
何とか自分の失言を誤魔化せた。 フレイアにはまだ疑いの目を向けられているが、動じない俺を見て『まぁいいわ』と呟いてから再び王都に迫る魔物の大群に目をやった。
だんだん大きくなっていく地面の振動とその振動の音を感じているフレイアは少し顔を青褪めて冷や汗をかいている。
まぁそうだよな。あんな威圧感を放つ光景を見て怯まない方がおかしいのだろうからな。
だとしてもこのままでは話にならないので、どうにか安心させないといけないな。
「やっぱり緊張するか?」
「……うん……」
「……まぁ……ちゃんと護衛としての役割は果たしてやるから」
「……え? ……何て?」
「なんでもない」
こう言うのは恥ずかしいからあまり言いたく無いんだが、足手まといを連れて戦うなんて御免なので仕方ない。
……と思って言ったのに聞こえてなかったようだ。
「…………ふふっ……元気付けてくれてるのよね?」
「……聞こえてたのかよ」
「以外だったから聞き返しただけよ」
「…………」
「励ましてくれてありがとう、アキ。 安心できたわ」
「あぁ」




