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第181話 仲良くなるために

 次の日


 俺はダンジョン探索を終えてフレイアと共に『移ろい喫茶ミキ』へとやってきていた。

 冬音や春暁と仲良くなる為だ。 この時間帯なら店仕舞いしている頃だろうし、安心してコミュニケーションを取れるだろう。



 ちなみに今日のダンジョン探索で、二つ目のボス部屋を突破した。

 流石にラウラだけでは無理そうな相手─ワイバーンだったので、いつも通り俺以外の全員で倒した。



「すみません。 もう店仕舞いなんで──あ…………」


 俺を見るなり言葉を途切れさせたのは、冬音だ。 うげっ! みたいな表情をしている。


「よぉ」

「……み……店仕舞い……です……」

「……あはは……」


 微笑みながら手を上げて挨拶した俺は微笑みを引き攣った苦笑変えて硬直する。

 フレイアも苦笑いだ。


「いや、お前らに会いに来たんだよ」

「…………えっと……」


 机を拭いていた布巾に隠れるようにして狼狽する冬音。 この間会ったとき分かっていた事だが、やっぱり俺に対して苦手意識があるようだ。


 そこで父さんが上の階から下りてきた。


「ん? あ。 秋じゃないか」

「父さん」


 父さんは俺を見るなりこっちへ一直線やってきた。 あまり表情を変えないように努めているのだろうが、微妙にニヤニヤしているのがわかる。


「そうかそうか。 おーい夏蓮! 秋が来たよ!」


 父さんがカウンターの奥に向かって叫ぶと、ガッシャーンと大きな物音を立てて足音が聞こえてきた。 たまに何かにぶつかるような物音も聞こえてくる。


「秋ちゃぁぁぁん!」


 カウンターを飛び越えて俺に飛び掛かる母さん。

 その勢いに耐えられなくて後ろ吹っ飛ぶ。 机も椅子も薙ぎ倒しながら。


「夏蓮は相変わらずだね……」

「大丈夫!? アキ!? …………危ないですよ! カレンさん!」


 母さん頬擦りされながら顔を上げると、父さんが散らかった机と椅子を片付けていた。

 ついでにフレイアも駆け寄ってきていた。


「ごめんなさいフレイアちゃん。 分かっててもこうしないと気が済まかったのよ~えへ、秋ちゃぁん……」


 完全に親バカだ。 道端では遭遇しないように気を付けないとな。 この調子で絡まれては俺が恥をかく事になるだろうからな。


 まぁ、母さんがこうなっているのは恐らく、今まで愛情を注げなかった分、今たっぷり愛そうと言う理由からきているのだろう。 多分。



「どうしたの!?」


 今度は春暁が階段からドタドタ下りてきた。


「あ…………に、にいちゃん……?」


 春暁も冬音と同じような顔をしている。 まぁ兄ちゃんと呼んでくれた分、冬音よりは良いだろう。

 だが、呼び方に戸惑いがあったので、俺の事はまだ本当に兄とは認められていないようだ。


「そろそろ退いてくれ」

「ぁぁ……もう少しだけぇ……」


 母さんを無理矢理引き剥がし、服についた埃を払いながら立ち上がる。


「大丈夫? アキ……」

「大丈夫だ」

「それで秋、今日はどうしたの?」

「ん? あぁ、冬音と春暁と仲良くなりに来たんだ」

「…………」

「…………」


 相変わらず警戒心丸出しな冬音と春暁。


 ……実は、仲良くなるために来た、と言っても特に何も考えていない。 完全な無計画だ。


「……取り敢えず今から遊びに行かないか?」

「アキ、もう夕方よ。 今からじゃ遅いわ」

「あぁ……そうか……じゃあ……どうしようか」


 やはり無計画は不味かったか。 早くも手詰まりだ。


「じゃあみんなでボードゲームなんてどうかしら?」

「……え? あるのか?」

「あるわよ。 さぁさぁみんなおいで」



 母さんに背中を押されてやってきたのは、店の奥にある居住スペースだ。


 今は母さんが棚の上から取り出したボードゲームの準備をしている最中だ。今はコマが無くなったとかであちこち探し回っている。


「ねぇアキ。 ……これ何?」

「これは……人生ゲームだな。 ……ルールはこれに書いてるぞ」

「ん。ありがとう」


 フレイアに説明書を渡す。

 ……なんだ。 この世界にもこんな娯楽があったのか。


「なぁ父さん。 これどこで売ってるんだ?」

「これは母さんの自作だよ」

「……え? このクオリティなのに自作なのか?」

「母さんは器用なんだよ」


 ……器用って……あんなどんくさい母さんが……?


 まぁ、器用なのなら納得だ。 普通にこれでも金稼げるんじゃないだろうか。


「よぉし、みんな準備はいい? 始めるわよ~!」


 フレイアが説明書を読み終わるタイミングで丁度人生ゲームの準備が整ったので母さんがそう言った。







 今は人生ゲームを数回終えて、机を囲んで談笑しているところだ。

 人生ゲームを通してコミュニケーションを取ろうと奮闘したのだが、二人は人生ゲームにおける必要最低限の会話しかしてくれなかった。

 それでも、会話をしてくれると言う事自体が進歩なのだから嘆くべきではなく、嬉しく思うべきだろう。


「じゃあ、そろそろ帰るか」

「そうね。 遅すぎるとお母様に怒られちゃうもの」


 冗談混じりに言うフレイアだが、オリヴィアに怒られる事自体は冗談じゃなく本当の事なのであまり笑えない。 苦笑いしか出来ない。


「おう。 じゃあな冬音、春暁」

「…………」

「…………」


 なるほど。 まだ挨拶を返す程親しくはなれていないようだ。


 近所の人からの挨拶は返す、と、父さんは言っていたので近所の人への好感度を0とすると、俺への好感度は0以下なのかも知れない。


 特に何をしたわけでもないのにマイナスだ。 理不尽な話だな。


 ………それとも俺が何をしたとかではなく、突然現れた『兄』と言う存在への対応が分からずこうなっているのだろうか。



 まぁ何にせよこれから少しずつ親睦を深めていくしかないだろうな。

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