第180話 異変の原因
「あれ……どうしたんですか?」
使用人に呼んで来させるのではなくオリヴィア自らが直接呼びにきた事が気になった。
「クドウ様にお話がありまして…大事な事ですからこうして直接、と思いまして」
「なるほど……」
「えっと……ここでは不味いので私の執務室へ」
俺は真剣な表情で言うオリヴィアに大人しく付いていく。 大事な話か。思い当たる節はないのだが、なんだろうか。
「今から言うことは誰にも言わないでくださいね?」
執務室までオリヴィアに連れられてやってきた俺はオリヴィアにそう言われた。
「分かりました」
「……嘘では無さそうですね。 ……それで大事な話と言うのはですね」
普段そうそう【看破】スキルを使わないオリヴィアが【看破】スキルを使ってまでの徹底っぷりだ。 相当大事な事なのだろう。
「クドウ様も知っていると思いますが、異種族の方々と王都に向かってきた魔物の大群についての事です」
なるほどそれか。 これってそんな大事だったのか。 いや、魔物の大群は大事だろうが、異種族の方も結構な大事だったようだ。
「実はこの件の始まりはゲヴァルティア帝国なのです」
「……えっと、確かそれってオリヴィアさん達を狙ってる奴らでしたっけ?」
「そうです。 ……そのゲヴァルティア帝国が、異種族の方々が暮らす国へ侵略をした事が原因なのです。 そしてその侵略から逃れる為に多くの異種族の方達が自国の近隣の国へ避難したと言うのが現状です」
「……なるほど」
ゲヴァルティア帝国がなぜ異種族が暮らす土地へ侵攻したのかは分からないが……一つ言える事は目障りだと言うことだな。
その内、異種族の街を観光しに行きたかったんだけどな。
「それで、魔物の大群の方はその異種族の大移動が原因ですね」
「それだけで……?」
「……種族によって魔力の質は異なるようです。 これは人間には分からないぐらい細かい物なので、私は詳しくは分かりませんが魔人の方や魔物はそう言う事に敏感なようです」
「…………魔力の質……」
俺はそう言うのが分からないな。 ……意識した事がないからかも知れない。 今度意識してみるか。
ちなみに【魔力操作】は大気中に存在する魔力を操作するだけのスキルなので、個人が持つ魔力─MPは知覚できない。
これで俺が人間なのか魔物なのかがハッキリするだろう。
まぁ、人間を喰って『同族喰らい』の称号を手に入れたのでどっちなのかハッキリしているが一応だ。
「それで、その異種族同士の異なる魔力の波長が合わさって丁度魔物が不快に感じる波長になってしまったのでしょうね。 そして魔物達はその不快感を払拭する為に不快感の塊である王都を襲撃したのでしょう」
「…………ん? なら、異種族が王都に居る限り、魔物の襲撃は止まないんじゃないですか?」
「そうなりますね」
ふむ。 ……それでオリヴィアは何を考えて俺にこの話を……?
まさか邪魔な異種族を皆殺しにしろとか言うんじゃないだろうな? ……まぁ頼まれればこれまでの恩返しも兼ねて実行するだろうが、オリヴィアが俺にそんな事をさせるなんて考えたくはないな。
「それで本題なのですが……その魔物の襲撃から王都を守るために……」
「…………」
俺は少し身を固くしながら次の言葉を待つ。
「王都に結界を張るための協力をお願いしたいのです。 ………異種族の方々の複雑な魔力の波長を隠し、魔物の接近を防げる結界です」
オリヴィアから告げられたのは俺の考えていた暴力的で危険な予想ではなく、実に平和的なお願いだった。
……ちなみに魔物の接近を妨げる─と言っても、誰かに使役されたりしている魔物は対象外なのだとか。
「……そんな事ですか。 勿論いいですけど、具体的に何をすれば……?」
……俺が何故、オリヴィアから異種族を皆殺しにしろと告げられるかも知れない事に怯えていたのか。
答えは簡単だ。 俺はオリヴィアの優しさを信じているからだ。 だからそれが裏切られるのが怖かったのだ。
こう言うところが俺の甘さなのだろう。 こんなのだから自己中になれないのだ。
だが、気付かない事に気付き、改める事は不可能だ。
だからこうして少しづつ、自分の欠点に目を向けないといけないな。
「結界に魔力を注ぐだけです」
「それだけですか?」
「それだけって……王都全域を覆う程の巨大な結界ですよ? 本当にいいのですか? 魔力が尽きたら倒れてしまうのですよ?」
「大丈夫ですよ。 ついこの間、魔力を回復できるスキルを手に入れたばかりですから」
このスキルは【魔力自然回復速度上昇】と言って、常に徐々にMPが回復していくスキルだ。
MP自体が常に回復するものだが、このスキルはその回復力を更に向上させられるのだ。
入手源はこの間の魔物の大群に居たなんらかの魔物だ。 適当に、大雑把に喰っていたので、どんな魔物だったかは知らない。
「……………………最近手に入れた…………魔物のスキルですか?」
「ん? はい。 そうです」
「…………そうですか。 ……なら……お願いしますね」
「はい」
それから暫くオリヴィアと話して、結界に魔力を注ぐのは俺の次の休日と言う事になった。
ちなみに魔力の波長を隠し、魔物の接近を防げるような便利な結界を今まで張らなかったのは、単純に王都を覆い尽くせるほど巨大な結界に魔力を注げる人物が居なかったからだ。
結界と言うのは、基本は一人で張らないといけないと言われている。
何故なら他者の魔力を混ぜて、魔力が継ぎ接ぎになってしまった結界では効果が半分程度しか出ないかららしい。
なので当日は俺が一人で結界に魔力を注がないといけないようだ。
その後は夕飯を食って風呂に入って……と普通に過ごした。




