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第178話 ラウラ、活動再開

 冒険者ギルドへやってきた俺達は適当にクエストを選んで受け付けへ持っていく。

 聞こえてくる話は昨日の魔物の襲撃の事ばかり聞こえてくる。 あの場にいた兵士が冒険者にこの事を話したのだろう。


「あの……さっきは大声を出してすみませんでした……」

「いやいや、あれは仕方ないですよ。 俺も最初知ったときは気絶しそうなぐらい驚きましたし」


 謝るラウラを励ますクルト。


 そんな事より、ギルド内は外の通りと大して変わらない状況だ。

 つまり、異種族達がギルド内でクエストを選んでいたり談笑している。


 そうこうしている間にクエスト受注が完了したので、俺達はギルドから出てダンジョンへ向かう。


「ここがカイネフール洞窟なんですね」


 ちなみにラウラの冒険者ランクは前までのままだ。

 数日の間、ラウラの上げた功績を踏まえて俺達に合わせるかどうかを判断する事になっている。


 普通はこんなに都合よくいかないのだが、ラウラの復帰の知らせを耳にしたルイスが直々に下したのだ。 職員は文句を言わなかった。 ルイスがここまでよくしてくれるのは、俺達があげた功績が関係しているだろうか。

 ……だとしても物凄い贔屓だ。 その内反感を買ってしまうだろうな。


「皆さんに追い付く為にも頑張ります!」


 意気込むラウラは先陣をきってダンジョンを進む。

 進む通路は変わらず、右から二番目の上下に入り組んでいる通路だ。



 この通路は無駄な労力を割くことが大体だ。

 通路が途絶えたと思ったら、上の方に通路が続いていたり、下に崖のように深い穴が続いていたりと地味に体力を削ってくる鬱陶しい仕様だ。


 出てくる魔物は一本道の通路と全く同じだった。

 そう言った魔物は全てラウラが倒している。 俺達にレベルを追い付かせる為でもあり、ランクを追い付かせる為に。

 ラウラの魔物の処理速度は迅速で、普通に歩いているだけでも問題ない程だ。


「…なぁラウラ。 ……お前……すげぇな。 とても病み上がりで足を負傷しているとは思えねぇよ……」

「えへへ……私も調子良すぎて驚いてます」


 どうやらラウラ本人もこの身体能力と戦闘センスの上昇の原因は分からないらしい。

 足に巻き付いている奇妙な器具? もそうだが一体どうしたんだろうか。


 まぁいいか。



 そうしてあっという間にたどり着いた最初ボス部屋。


「これが噂に聞くボス部屋……! 緊張しますね……」


 ここのボスは、水の魔物──水の精霊だ。恐らく今のラウラ一人でも楽勝とまではいかないまでも勝てるだろう。


「ラウラ。 一人で戦ってみるか?」

「ちょっ! アキ!? いくらなんでもそれは──!?」

「大丈夫だ。 ヤバそうなら助けるし、もう突破されているここのボスはコボルトキング程度らしいからいけるだろ。 ……どうだ? ラウラ」

「……うーん……じゃあ…やってみます!」


 少し悩んだ後に、ラウラは意を決したように言う。


 本当に変わったなラウラは。 だって、前まではあんなに吃っていて自信なさげだったのに、今はこんな提案を受けるなんて。

 何が切っ掛けかと言われたら……まぁ、確実と言って良い程にあの時のティアネーの森での出来事だろう。

 大方、自分の弱さを悔いて強くなる為に殻を破ったって感じか。


「じゃあ……行きます……!」


 ラウラは巨大な鉄扉を開いた。


 ボス部屋の中に居たのは、馬の溺死体のような見た目をしたケルピーと言う魔物の上位種──ルーカケルピーだ。

 ルーカケルピーは、ケルピーに角が生え、薄い水のベールに包まれたような見た目をしている。


「ピヒィィィィイイイイィィン!!」


 甲高い馬の鳴き声を上げてルーカケルピーは首を振り、角の先端から横薙ぎに水のレーザーを放つ。


 その攻撃を俺達は跳ぶか、しゃがむかして躱す。


「水属性が主体の魔物ですか……! なら、このいつの間にか手に入れていた新しいスキルを試すには丁度いいですね!」

「新しいスキル……? ……! まさか!」


 ラウラの呟きにマーガレットが反応する。


 あれ……ラウラって寝たきりでそんなスキルを覚える暇なんかなかった筈だが……


 俺が首を捻って疑問に思っていると、マーガレットが教えてくれる。


「生死の境を彷徨う程の重体に陥ったり、苦境に陥った生物は人間、魔物を問わず本当に極稀に希少で強力なスキルが目覚める事があるんだ」

「へぇ。 そうなのか……知らなかったな」


 なるほど。 それならラウラが新しいスキルを得たって言うのも納得できるな。



 ラウラに目をやると、ラウラはポケットから何かを取り出していた。

 黒や茶色の粒々だ。


 なんだあれは……飴玉か……?


 すると、突然ラウラはその殆どが暗い色合いの粒々を地面にばら蒔いた。


「発芽! 超成長!」


 ラウラがそう言うと、地面に散乱する粒々─種から芽が出た。 そしてそれがみるみる内に成長して行く。

 だが、その植物は成長の途中で形を変え、槍の先端に盾が付いたような奇妙な形へと姿を変えた。

 例えるなら映画などでよく見る、防護盾のような感じだ。


「あのスキルはなんでしょうか……」

「…俺も見たことねぇなぁ」

「あの特異性からして……恐らく固有能力の類いではないか?」


 まぁ鑑定すれば分かるか。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

名前:ラウラ・ベール

種族:人間

Lv39

MP :393

物攻 :383

物防 :396

魔攻 :402

魔防 :397

敏捷 :390


固有能力

【植物操作】


能力

片手剣術Lv2 短剣術Lv5 拳闘術Lv1 魔法Lv4 魔力操作Lv3 投擲Lv2 家事Lv1 作法Lv2 逃走Lv2 速読Lv1 苦痛耐性Lv2


魔法

火魔法Lv2

水魔法Lv2

土魔法Lv4

風魔法Lv3

氷魔法Lv1

雷魔法Lv1

光魔法Lv2

闇魔法Lv1

無魔法Lv2

聖魔法Lv3

時空魔法Lv1


称号

聖女(■命の女■の加護)

__________________________




 ふむ……【植物操作】か。 なるほどな。

 今見た感じ、植物を自在に扱うスキルなのだろう。 ある程度制限はあるのだろうが、それでも結構便利そうなスキルだ。


 んで、なんだこ称号は…? 聖女(■命の女■の加護) ?

 ……なんだ? あの黒いの……見覚えがあるぞ…………


 …………


 …………あぁ! そうだ邪神のステータスだ。 確かあいつの名前がこんな表記になっていた。


 ……この加護を授けている奴は邪神と同レベルの力を持っている奴なのだろうか。



「行きます!」


 俺はラウラの声で思考を止めて目の前の戦いに視線を向ける。


 急成長した植物が、ルーカケルピーへと一斉に突撃する。 防護盾のような形状の植物達がルーカケルピーを覆う水のベールを取っ払う。


 が、その水のベールはすぐに元に戻ってしまった。

 それを見たラウラは素早く再び覆われる前にその隙を狙って、ルーカケルピーの体表へと刃に変形させた植物を突き刺す。


「ピイイイイイイイヒヒィィィイイイイン!!」


 つんざくようなルーカケルピーの絶叫がボス部屋全域に響き渡る。


 ルーカケルピーは怒り狂ったようにその場でドタバタと暴れてからラウラへと角を突き出して突進する。


 しかしその突進は一直線だったのでラウラに軽々と躱された。


 だがルーカケルピーの本当の狙いは突進ではなく、すれ違いざまの攻撃だったようだ。

 ルーカケルピーは自分の纏っている水ベールを鋭い水の刃へと変形させ、ラウラの腕を深く切り裂いた。


「ぐぅっ……!」

「ピィヒヒィィイイイイン!」


 腕を押さえて呻きながら聖魔法を使うラウラを嘲るような鳴き声をあげるルーカケルピー。

 どうやらさっきのドタバタはラウラを油断させる為の罠だったようだ。


 ルーカケルピーは割りと狡猾な部類の魔物のようだ。



「くぅ……やってくれましたね……」


 ある程度塞がった傷口を押さえながら忌々しそうにラウラが呟く。 どうやらそれ程深く切り裂かれていなかったようだ。


 ラウラは自分の元へさっき生やした植物を伸ばし、ルーカケルピーと改めて対峙する。


 そして再びラウラはルーカケルピーへと防護盾ような植物と、その後ろに剣のような植物を控えさせて攻める。


 ルーカケルピーは難なくそれを避けて徐々にラウラへと接近する。


「今!」


──バリバリバリバリッ!


「ピャイイイイイィヒヒィィイイイイン!!?」


  ラウラは勢い良く両手を突き出し、ルーカケルピーへと雷魔法を放った。 水のベールに覆われているルーカケルピーはあっという間に感電し、絶叫する。


 命の危機を感じたルーカケルピーは水のベールから抜け出しラウラから距離を取ろうとするが、ラウラは無防備になったルーカケルピーへ植物の剣を突き刺す。


「──ッィイイイイヒィイイイィン!?」


 嘶き、よろめく。 そこに容赦のない追撃が加えられる。

 なんと、ラウラはルーカケルピーに突き刺さっている植物、火魔法で火を着けた。

 やがて、その炎はルーカケルピーへ到達した。

 そこで防護盾のような形状の植物は鞭のような形に変形し、ルーカケルピーへと絡み付く。


 ……奇妙な事に、燃えた側から植物は再生していく。 これも【植物操作】による効果なのだろうか。


 炎に包まれ文字通り焼けるような痛みを味わい、真っ赤に染まった視界に混乱しているルーカケルピーには対処する術はなさそうだ。





 やがてルーカケルピーは真っ黒に焦げて絶命していた。


「やりましたよ皆さん! 私一人で!」

『おぉー!』


 振り返って嬉しそうに微笑むラウラ。

 そして感嘆の声と拍手が生まれた。

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