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第176話 今日は本当に色々あったなぁ……

 その後、俺は魔物達の逃げ道を塞ぐような位置取りを意識しながら、クロカとシロカがこの大群を殲滅しきるのを見守っていた。


 二人の動きを見ている限り俺のこの手助けは不要だろうがそれでも一応だ。





 ……そして今は、魔物の大群を殲滅してからゲートを使って、以前ティアネーの森でクロカが寝床にしていた場所までやってきた


「久し振りに暴れられてスッキリしたのだ」

「ふむ。 童もほんの少しだけ楽しかったのじゃ」

「そうか」


 俺は元の姿に戻りながら言う。

 ああ言う大きな変形をしてしまうと、変身ヒーローのように人目がないところまで移動しないといけないのが面倒臭い。


 二人の様子はさっきまでと比べてかなりスッキリしたような感じになっている。 やはり龍種にとって人間の生活はストレスが溜まるのだろうか。


「そう言えば……アキ、なぜ途中から戦うのを止めたのだ?」

「ん? ……あぁ、飽きたからだ。」

「飽きたって、お主……はぁ……」


 面白そうに笑うクロカと呆れたように深い溜め息を吐くシロカ。

 そりゃそうだ。 あんな大群を前にして『飽きたから』と言う理由で戦いを放棄するなどアホにも程があるしな。


 ……まぁでも、飽きたなら仕方ないよな? 嫌々やってても何も意味はないし。


「ところでどうだった? その服は動き易かったか?」

「うむ。 良かったぞ。 メイド服と比べれば雲泥の差だったのだ」

「なら良かった」


 基本的には暇だから服作りをするのは構わないが、だとしても面倒臭い。

 スキルのお陰でスムーズに行えるが、それでもそもそも手先が器用でない俺には、数時間完全に拘束され身動ぎ一つ出来ない程度の苦行に感じられた。

 なので服を修正する必要が無いのはありがたかった。



「そろそろ帰るか」

「うむ」

「そうじゃな」

「…………あ、ちょっと確認したい事があるんだが良いか?」


 ゲートを出現させようと手を突き出した俺は手を下げてクロカとシロカに声をかける。


「我は良いぞ」

「童も別に良いが、どうしたのじゃ? 忘れ物でもしたのかぇ?」

「…………ん……まぁそんな感じだ」


 今まで存在を忘れていたのだから、忘れ物……いや、忘れ者と言っても良いだろう。



 俺はティアネーの森を歩く。 クロカとシロカと共に。

 あの魔物の大群に踏み荒らされ、木々は薙ぎ倒されていて、鉤爪か何かで抉られ所々から土が覗いている禿げた植物の絨毯を進む。



 ──あいつの安否を確認する為に。



 やってきたのはあの黒い瘴気から浄化され、俺が沼だと思っていた場所だ。 今、そこは水が透明に透き通った綺麗な湖になっていた。


「……む……ここはあの小娘の……」


 その湖の中心にあった小屋はバラバラになっていた。

 魔物の大群の行進に飲み込まれたのだろう。


 俺はそこの住人が避難してくれている事を祈って、ズボンを濡らしながら湖の中をただ真っ直ぐ進む。



 小屋の前にたどり着いた俺は瓦礫を投げ捨て、湖へと投げ捨てる。

 砂場を掘り起こす犬のように、両手を使い必死に。


 するとクロカも手伝い始めたのでその作業は楽に進んだ。 シロカは事態が把握出来ないのか腕を組んで首を傾げながら俺達を眺めている。


 やがて、湖の上に建てられていた高床式の小屋の床だったであろう部分が露になってきた。


 床の上に未だに敷かれている絨毯は湖の水に浸され重くなっていた。

 その緑色を基調とした地味な雰囲気を漂わせる絨毯には、湖の水以外にも他の液体が染み込んでいた。

 





──赤色の液体が





 俺は暫くその赤い液体を見つめる。


「…………一体……二人ともどうしたのじゃ……?」


 シロカの心配そうな声が、湖が風で揺られる水音よりも大きく耳に入る。



「……そうか。 ……アキもあの小娘と面識があったのだな」

「……あぁ。 ティアネーを見逃しただけのお前と違って浅いながらも関係はあったな」

「ふん。それだけではないわ。小娘が雑魚共に襲われぬよう我の寝床からここまで護衛もしてやったわ」


 些細な思い出の競い合い。

 それには意味は無いのだろうが、自然とそんな会話をしてしまう。


 肉体がない。 それどころか肉片の欠片もないことから、全て喰い尽くされたのだろう。

 これじゃあ埋葬も出来ないな。


「…………ふぅ……さて、このままじゃあいつが可哀想だし建て直しておいてやるか」

「うむ。 そうだな。 ほれ、アルベドも手伝うのだ」

「……んぇ……待つのじゃ……童はまだ話に付いていけてないのじゃが……」


 困惑しながらも躊躇いがちに手伝うアルベドと、さっさと建て直すニグレドを尻目に俺は思う。





───他者に殺されるぐらいなら、俺が殺したかった。









 その後王都の路地裏にゲートで移動した俺達は平然と通りに出て何事もなかったかのように数多の種族が入り交じった人の波に流されながら屋敷まで帰った。


 いつものメイドさんに出迎えられてそのまま二人と部屋に向かう。

 ……そろそろあの人を鑑定か何かして名前ぐらい知っておかないといけないような気がしてきた。

 今更『貴女のお名前は何ですか?』等とはとても聞けないしな。


 ちなみに二人に与えられていた仕事は俺が連れ出した事により他の比較的仕事が簡単な使用人の方が代わりにやってくれていたらしい。

 謝りに行ったところ、全員が『気にしないでください。これが我々の仕事ですから』と言うような感じで流していた。 ありがとうございます。


 そんな俺はいつもより少なめの忌々しい課題共を机に広げながら、今日一日の出来事を振り返る。


 まず死んだ筈の家族との再会。

 これだけで普通なら一生分の驚きの出来事なんだが、今日はそれ以外にも色んな事があった。

 人里どころか滅多に人前に姿を現さない大勢の他種族が王都に出現したり、魔物の大群の襲撃とか言う大事件。


 こんなの今日は本当に色々あったなぁ……で済まされるレベルを完全にぶっちぎってる。


 思い返すだけでも呆れた苦笑いが浮かんでしまいそうだ。


「お、アキが最近のシロカのような表情をしておる」

「……なぬ……? ……この童があんな苦労人のような顔を……?」


 そう言えば『移ろい喫茶ミキ』の名前の由来って何だろうな。 ……人名のようにも聞こえるが……うーん……何一つ想像がつかないな。


 ……まぁいいか。 多分大した事じゃないだろうし。


 さてそれよりも課題だ。 少ないとは言え、油断は出来ない。 そう言った油断が失敗を産む事を俺は知っているからな。




 次の日


 俺は自力で起床して早々に課題をしていた。

 油断はいけないと分かっていても、それでも少ないからすぐ終わる、すぐ終わると先延ばしにしていたらいつの間にか寝てしまっていたからだ。


 これだから俺はいつまでも間抜けなんだ、と犇々と実感しながら重い瞼を持ち上げ、惚ける脳を必死に働かせて俺は文字を書いていた。

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